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440.本当に望んだ方は〜ティキーside
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『けれど聖女としてではなく、ただの人として、今後も俺との婚約継続を望むなら、今更だけど、君を知っていきたい。
愛が生まれるのかは、わからない。
けど君という存在を婚約者として、婚姻すれば伴侶として、尊重し合う関係になっていきたい。
君という婚約者を、ずっと顧みなかった俺が言っても、説得力はないけど……』
『良い、のですか?
私は獣人で、聖女でなければ、平民です』
『留学して、他国の価値観に触れて、種属や身分の違いなんて些事だと、つくづく思った。
俺自身が、どれだけ甘えた子供だったのかも』
コッへ様はきっと何かを振り返っていたんだと思う。
自分を恥じているように、自嘲されていた。
『アドライド国のある貴族令嬢など、むしろ獣人の方に重きを置いていたくらいだったよ。
それに同じ人間だろう』
最後の言葉が、私にはとても嬉しく感じて。
コッへ様が眩しく見えた。
私と違って貴族令息の彼にとっては、婚約なんて単なる義務。
同じ人属であっても、政略結婚なら愛なんて無いのが当然。
お互い尊重し合える関係か、そうでないかの違い。
けれどそれこそが大きな違いだと、教会の懺悔室で心を吐露する、貴族の声を聞いていたわ。
獣人だからと蔑む事なく、1人の人として私に婚約の意志を確認してくれた。
こうして、私との未来に真摯に向き合ってくれた事で、これまで諦めていた私の心を温かくしてくれた。
『……私は婚約を継続したい。
許されるなら、私もコッヘル様の事を知っていきたいです』
『そうか。
なら、これから改めてよろしく頼む。
俺の事はコッへと呼んでくれ。
ティキーと呼んでもいいか?』
『はい……はい、コッへ様!』
『ティキー、俺はこれからエリュシウェル第3王子とアドライド国に赴く事になる。
帰ってきたら、必ず会いに来るよ。
その時には、留学中にあった事を、どうしてこんな風になれたのかを聞いてくれないか?』
『もちろん!
お待ちしていますから、どうかご無事でお帰り下さい!』
けれど、彼は来なかった。
いえ、来られなくなったと言うべきかしら。
「お願いします!
どうかコッへ様に……」
「ふうん、顧みられる事もなかった婚約者が、そんなに大事なの?」
もう1度、今度は土下座して頼みこむ。
大事に決まっているじゃない!
第3王子がアドライド国王太子の婚約式に赴くのに、彼はついて行った。
そして王位継承権の放棄を宣言した後、こうして私を見下ろしながら、柔らかに微笑みながらも、その瞳に蔑みの色を宿したこの王女に、婚約を申しこんだ。
王子が学園でこの人に惚れこんで、常につきまとっていたのは、かなり前から噂があった。
学業も疎かにしていて、光の精霊王の加護があっても、王として相応しいのは第1王子ではないかと、囁く声も大きくなっていた。
第3王子の支持を表明していた教会。
その教会が認めた聖女である私の耳にまで入ったのだから、噂はかなり大きかったのだと思う。
コッへ様も、主を正しく導けない情けない側近候補と囁かれていて、神官が止めなければ、きっと頑張って否定して回ったかもしれない。
いえ、聖女だからこそ、否定まではできなかったわね。
嘘は吐けない。
コッへ様もアドライド国から留学中止をずっと勧告されていたもの。
きっと2人してそんな状態だったと、確信している。
何があったのか、きっと彼の中の大きな出来事を話してもらえる。
それを知る事よりも、話してくれる事に、喜んでいたの。
なのに……獣人で、聖女としてもまだまだ未熟な私が多くを望みすぎた罰かもしれない。
婚約式から戻った第3王子は、コッへ様とも離されて軟禁状態。
だから私が王都のお城へ直々に呼び出される事になったの。
コッへ様には第3王子を唆した嫌疑がかかっていた。
「はい、私にはとても……とても大切な方なんです」
側妃様から第3王子と共に、隣国のアリアチェリーナ=グレインビル侯爵令嬢を教会へ連れて来れば、彼を自由にすると約束してくれた。
「なら、そうね……3日後。
3日後に逃げ続けているらしい、アリアチェリーナ=グレインビル嬢を、地下に連れて来なさい」
ずっと側妃様が望まれたのだと思っていたけれど……もしかしてあの方を本当に望んだ方は……。
愛が生まれるのかは、わからない。
けど君という存在を婚約者として、婚姻すれば伴侶として、尊重し合う関係になっていきたい。
君という婚約者を、ずっと顧みなかった俺が言っても、説得力はないけど……』
『良い、のですか?
私は獣人で、聖女でなければ、平民です』
『留学して、他国の価値観に触れて、種属や身分の違いなんて些事だと、つくづく思った。
俺自身が、どれだけ甘えた子供だったのかも』
コッへ様はきっと何かを振り返っていたんだと思う。
自分を恥じているように、自嘲されていた。
『アドライド国のある貴族令嬢など、むしろ獣人の方に重きを置いていたくらいだったよ。
それに同じ人間だろう』
最後の言葉が、私にはとても嬉しく感じて。
コッへ様が眩しく見えた。
私と違って貴族令息の彼にとっては、婚約なんて単なる義務。
同じ人属であっても、政略結婚なら愛なんて無いのが当然。
お互い尊重し合える関係か、そうでないかの違い。
けれどそれこそが大きな違いだと、教会の懺悔室で心を吐露する、貴族の声を聞いていたわ。
獣人だからと蔑む事なく、1人の人として私に婚約の意志を確認してくれた。
こうして、私との未来に真摯に向き合ってくれた事で、これまで諦めていた私の心を温かくしてくれた。
『……私は婚約を継続したい。
許されるなら、私もコッヘル様の事を知っていきたいです』
『そうか。
なら、これから改めてよろしく頼む。
俺の事はコッへと呼んでくれ。
ティキーと呼んでもいいか?』
『はい……はい、コッへ様!』
『ティキー、俺はこれからエリュシウェル第3王子とアドライド国に赴く事になる。
帰ってきたら、必ず会いに来るよ。
その時には、留学中にあった事を、どうしてこんな風になれたのかを聞いてくれないか?』
『もちろん!
お待ちしていますから、どうかご無事でお帰り下さい!』
けれど、彼は来なかった。
いえ、来られなくなったと言うべきかしら。
「お願いします!
どうかコッへ様に……」
「ふうん、顧みられる事もなかった婚約者が、そんなに大事なの?」
もう1度、今度は土下座して頼みこむ。
大事に決まっているじゃない!
第3王子がアドライド国王太子の婚約式に赴くのに、彼はついて行った。
そして王位継承権の放棄を宣言した後、こうして私を見下ろしながら、柔らかに微笑みながらも、その瞳に蔑みの色を宿したこの王女に、婚約を申しこんだ。
王子が学園でこの人に惚れこんで、常につきまとっていたのは、かなり前から噂があった。
学業も疎かにしていて、光の精霊王の加護があっても、王として相応しいのは第1王子ではないかと、囁く声も大きくなっていた。
第3王子の支持を表明していた教会。
その教会が認めた聖女である私の耳にまで入ったのだから、噂はかなり大きかったのだと思う。
コッへ様も、主を正しく導けない情けない側近候補と囁かれていて、神官が止めなければ、きっと頑張って否定して回ったかもしれない。
いえ、聖女だからこそ、否定まではできなかったわね。
嘘は吐けない。
コッへ様もアドライド国から留学中止をずっと勧告されていたもの。
きっと2人してそんな状態だったと、確信している。
何があったのか、きっと彼の中の大きな出来事を話してもらえる。
それを知る事よりも、話してくれる事に、喜んでいたの。
なのに……獣人で、聖女としてもまだまだ未熟な私が多くを望みすぎた罰かもしれない。
婚約式から戻った第3王子は、コッへ様とも離されて軟禁状態。
だから私が王都のお城へ直々に呼び出される事になったの。
コッへ様には第3王子を唆した嫌疑がかかっていた。
「はい、私にはとても……とても大切な方なんです」
側妃様から第3王子と共に、隣国のアリアチェリーナ=グレインビル侯爵令嬢を教会へ連れて来れば、彼を自由にすると約束してくれた。
「なら、そうね……3日後。
3日後に逃げ続けているらしい、アリアチェリーナ=グレインビル嬢を、地下に連れて来なさい」
ずっと側妃様が望まれたのだと思っていたけれど……もしかしてあの方を本当に望んだ方は……。
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