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28.お門違い
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「趣味は趣味です。
嗜好品に媚薬成分が含まれておりましたので仕方なく慣らしたとも申しますね。
諸事情までは教えて差し上げません」
チョコレートの主原料である加加阿には媚薬成分が含まれているのは太夫だった初代でも娼妓だった2代目でも常識です。
もちろん高貴な身分の方々は詳しくないかもしれませんが。
チョコレートは甘くて美味しいので初代の頃から今代までずっと好きでい続けております。
幼少期は夜中にこっそり食べて翌朝顔面血塗れとなって侍女を絶叫させたものです。
「……まったく、あの腹黒は何という貴妃を……そなた本当に胡家の娘なのだろうな?
替え玉ではないのか?」
「できる事ならそうしたかったのは本心ですが、れっきとした本物です。
このような場に替え玉を送って何かしらのしくじりが起きれば、結局は生家共々沙汰を受けてしまいますから。
つまらぬ疑いをかけるくらいならとっとと追い出して下さって結構ですよ。
できれば今すぐに実行を希望しております」
「……本当に望まずに入宮したのか」
今更です。
ちょっとムカッとしてしまいます。
もちろん微笑んで胸にしまっておきますが。
「皆が皆皇帝の妻の座を望むと思いこまないでいただきたいものです。
だから色々見落とすのですよ」
「見落とす?」
少なくともそれを逆手に取れば有用な手段が1つ増えるというのに。
思いこみとは怖いですね。
「時にご自身の妻についてはいかがなのです?
恐らく此度の件を仕組まれたのは皇貴妃でございましょう」
「やっぱりお見通しか。
お前は皇貴妃をどうするつもりだ」
ピリ、とした空気が醸し出されます。
迷惑です。
威圧程にもありませんが、魔力の無駄使いです。
「陛下にどのように仰られたかによって行使する何がしかは変わります。
当然の事では?」
「これは皇貴妃からだ」
ジャラリと音を立てて延べ棒が3本。
あら、素敵。
「包み隠さずお話し下さるなら不問と致しましょう」
「どれだけゲンキンな性格を……」
再びにっこり微笑んで懐へ仕舞えば、随分と呆れたお顔をされてしまいました。
ふふふ、懐の重りに癒やされますね。
「拝金主義と仰って下さい」
「大して変わらん」
「全く違います。
それにそちらの方がこの謀りばかりの後宮においては信頼できるのでは?
金さえ払えば裏切らない者は貴重ですよ」
ハッキリ、キッパリ言い切って、ついでにエッヘンと胸を張ります。
「自分で言うでない。
それにしてもそなたは本当に14なのか」
「産まれて14年も女子として生きればこうなります」
中身はかなり年季が入っておりますが、そこは乙女の秘密です。
「流石にそなたは行き過ぎだ」
失礼な。
そのように麗しいお顔を顰められると乙女心が多少は傷つくのですよ?
「そもそもここでこのように私に会いに来ずとも、皇貴妃との間にお子を作ればひとまず安泰では?
皇貴妃の生家は公の爵位を賜ったこの国の由緒正しい古き名家。
加えてお父君は立法を司る長である司空。
林傑明様ご本人も公を賜ってございましょう」
初代では西洋にあったという騎士爵のようなものですね。
個人が賜る爵位であり、任を解かれるまで与えられた爵位で、生家に爵位が無くとも名乗る事が可能です。
この国では丞相と司空の他に軍事を司る2つ、大尉と大将軍を含めた4つの長が個人へ公を賜るのです。
「チッ、それができていれば苦労はせぬ。
皇妃も此度のようにそなたを警戒し、立場を示そうなどとはせなんだ」
ふむ、と考えて首を捻ってしまいます。
「それは随分とお門違いでは?」
「そなたは……はぁ。
その通りだ。
だがなかなか子が出来ず、3度も子が流れる経験をしてもおらぬ幼子に皇妃の苦悩を言うても想像もできぬだろうよ」
陛下は一瞬怒りを滲ませましたが、結局ため息を吐いてしまわれました。
ご自身も皇貴妃とのお子を心待ちになさってきたからでしょうか。
しかし、わからないなどとは一言も申しておりません。
勝手に自己完結なさらないで欲しいものです。
ならば子を作る事すら許されず、時に堕胎薬を飲まされ、身請けされてもそのせいで子ができなかった身の上の女子の気持ちなど…………いえ、それこそ言っても仕方ありませんね。
初代の人生は既に終わったのですから。
気持ちを切り替えます。
嗜好品に媚薬成分が含まれておりましたので仕方なく慣らしたとも申しますね。
諸事情までは教えて差し上げません」
チョコレートの主原料である加加阿には媚薬成分が含まれているのは太夫だった初代でも娼妓だった2代目でも常識です。
もちろん高貴な身分の方々は詳しくないかもしれませんが。
チョコレートは甘くて美味しいので初代の頃から今代までずっと好きでい続けております。
幼少期は夜中にこっそり食べて翌朝顔面血塗れとなって侍女を絶叫させたものです。
「……まったく、あの腹黒は何という貴妃を……そなた本当に胡家の娘なのだろうな?
替え玉ではないのか?」
「できる事ならそうしたかったのは本心ですが、れっきとした本物です。
このような場に替え玉を送って何かしらのしくじりが起きれば、結局は生家共々沙汰を受けてしまいますから。
つまらぬ疑いをかけるくらいならとっとと追い出して下さって結構ですよ。
できれば今すぐに実行を希望しております」
「……本当に望まずに入宮したのか」
今更です。
ちょっとムカッとしてしまいます。
もちろん微笑んで胸にしまっておきますが。
「皆が皆皇帝の妻の座を望むと思いこまないでいただきたいものです。
だから色々見落とすのですよ」
「見落とす?」
少なくともそれを逆手に取れば有用な手段が1つ増えるというのに。
思いこみとは怖いですね。
「時にご自身の妻についてはいかがなのです?
恐らく此度の件を仕組まれたのは皇貴妃でございましょう」
「やっぱりお見通しか。
お前は皇貴妃をどうするつもりだ」
ピリ、とした空気が醸し出されます。
迷惑です。
威圧程にもありませんが、魔力の無駄使いです。
「陛下にどのように仰られたかによって行使する何がしかは変わります。
当然の事では?」
「これは皇貴妃からだ」
ジャラリと音を立てて延べ棒が3本。
あら、素敵。
「包み隠さずお話し下さるなら不問と致しましょう」
「どれだけゲンキンな性格を……」
再びにっこり微笑んで懐へ仕舞えば、随分と呆れたお顔をされてしまいました。
ふふふ、懐の重りに癒やされますね。
「拝金主義と仰って下さい」
「大して変わらん」
「全く違います。
それにそちらの方がこの謀りばかりの後宮においては信頼できるのでは?
金さえ払えば裏切らない者は貴重ですよ」
ハッキリ、キッパリ言い切って、ついでにエッヘンと胸を張ります。
「自分で言うでない。
それにしてもそなたは本当に14なのか」
「産まれて14年も女子として生きればこうなります」
中身はかなり年季が入っておりますが、そこは乙女の秘密です。
「流石にそなたは行き過ぎだ」
失礼な。
そのように麗しいお顔を顰められると乙女心が多少は傷つくのですよ?
「そもそもここでこのように私に会いに来ずとも、皇貴妃との間にお子を作ればひとまず安泰では?
皇貴妃の生家は公の爵位を賜ったこの国の由緒正しい古き名家。
加えてお父君は立法を司る長である司空。
林傑明様ご本人も公を賜ってございましょう」
初代では西洋にあったという騎士爵のようなものですね。
個人が賜る爵位であり、任を解かれるまで与えられた爵位で、生家に爵位が無くとも名乗る事が可能です。
この国では丞相と司空の他に軍事を司る2つ、大尉と大将軍を含めた4つの長が個人へ公を賜るのです。
「チッ、それができていれば苦労はせぬ。
皇妃も此度のようにそなたを警戒し、立場を示そうなどとはせなんだ」
ふむ、と考えて首を捻ってしまいます。
「それは随分とお門違いでは?」
「そなたは……はぁ。
その通りだ。
だがなかなか子が出来ず、3度も子が流れる経験をしてもおらぬ幼子に皇妃の苦悩を言うても想像もできぬだろうよ」
陛下は一瞬怒りを滲ませましたが、結局ため息を吐いてしまわれました。
ご自身も皇貴妃とのお子を心待ちになさってきたからでしょうか。
しかし、わからないなどとは一言も申しておりません。
勝手に自己完結なさらないで欲しいものです。
ならば子を作る事すら許されず、時に堕胎薬を飲まされ、身請けされてもそのせいで子ができなかった身の上の女子の気持ちなど…………いえ、それこそ言っても仕方ありませんね。
初代の人生は既に終わったのですから。
気持ちを切り替えます。
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