太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟（後宮）を謳歌する

嵐華子

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３.

41.手技と手記

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「それでは俸禄の７割を半年間滴雫ディーシャ貴妃へ渡るよう手続きしますので、そのつもりで」
「「はい。
お心を砕いて頂きありがとうございます」」

　破落戸達は随分と大人しくなりましたね。

　かなりの額ですが、慎ましやかに生活すれば問題ありません。
後宮の俸禄は庶民と比べれば額が多くはありますが、見栄を張る後宮仕えには足りぬ額です。

　その為仕える主や生家からの差し入れで賄っていますし、彼女達の生家はそれなりの家門だと先ほど宣っておりましたもの。

　何より……。

「言葉そのままの意味で首が繋がっている事に感謝なさいね」
「「…………はい」」

　命あっての物種でしょう？

「それから私にはとても重大な夫人としての責務があるし、そちらに専念したいの。
だってほら、新婚でしょう？
意味はわかるわよね？」
「…………はい」

　恥ずかしげに片手を頬にやり、ちょちょっと息を止めてやれば……ほんのり赤い頬の出来上がりです。
そのまま、ほぅっと色を醸し出して息をゆっくり吐き出します。

　これ、娼館でもなかなか好評な手技です。

　それにしても陛下の頬がピクピクし始めましたね。
自意識過剰過ぎませんか？
陛下への惚れ要素は私の中で皆無だと何度言えばわかるのでしょうね。
ただ黙って無表情でいるだけの演技しか必要なくてようございました。

　丞相、あちらを向いておりますが、肩の震えが隠せておりませんよ。

「こちらの状況が落ち着けば、同じ妻たる貴妃には私の方からお伺いするわ。
挨拶は１番年も若くて新たな者からするのが礼だもの。
妾は……また必要な時に連絡するから、それも含めて貴妃にはお互い妻として、嬪は妾として互いに頑張りましょうと言伝なさいな」

　ふふふ、破落戸達は睨もうとするのを物凄く我慢しているのが見て取れます。

「それではここより立ち去りなさい」
「…………はい」

　しかし震えを脱却した丞相がそう声をかければ、すごすごとこの場を去りました。

「小娘……確実に反感を買ったぞ」
「左様ですね。
陛下がこちらにいらした事実に重鎮の方も反応を示していただけると良いですね」
「はぁ……もっと自分を大事にすべきであろう」
「回収できる物は回収して然るべき時に出て行きたいのだから仕方ありません。
それとも今すぐ……」
「さあさ、同じ問答は置いておいて中に入りましょう」

　あら、氷の麗人はこのやり取りに飽きてしまわれたのでしょうか。

「それで、情念置き場とは何です？
あの金の延べ棒を何故あのように使ったのですか？」

　それともただそこに興味を持っただけでしょうか？

「ふむ、窮奇や四凶という言葉をお聞きになられた事は？」
「キュウキにシキョウ、ですか？」
「いや……そういえば……手記に……」
「手記？
そんなものどこに？」
「ああ。
何者かの手記らしい古い書を先の王から引き継いだ時に渡されていてな」

　訝しげな丞相ですが、幾ら彼が竹馬の友であったとしても、王の引き継ぎの内容まで把握できないのは当然です。

　だとすれば、恐らく２代目私のパトロン陛下の物でしょう。
碌な事は書いていないような……。

　そしてつまりは窮奇、もしくは四凶という存在がこれまで無かったか、今後認知されるかもしれない事態に私が出くわしたと考えておきましょう。

「それで、宿題の答えは出ましたか？」
「ああ、この宮の廃宮に至った経緯はな。
お前は何故それを知っている？
そして何を知っている？」

　どうやら子猫ちゃんは視えても、奥の先人は視えていないという事でしょうか。

「ふむ……肝心なのは私が知る内容やその理由ではなく、どこから歪んだか、誰が何の目的で歪ませたのか、なのですよ？」

　恐らく歪んだ原因はかつての後宮の責任者とこの宮の主が絡んだ愛憎。

「手の内は明かさぬと？」

　すっと殿方２人の目が細められます。

「明かそうと思うに足る事をなされまして？
この数日で元々無かった信頼は零ゼロどころか、更にその下までいったとお思いになりません？」
「分が悪いとは思いませんか？」

　丞相はそれとなく脅しているのでしょうか？
だとすれば今後のお付き合いの仕方を変えねばなりません。

　既に入宮前に手は打っているのでどうとでもなりますよ？

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