太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する

嵐華子

文字の大きさ
86 / 124
4.

86.絶世の美女、後、絶世の美少女〜暁嵐side

しおりを挟む
「梅の……」

 ユーがスン、と鼻を鳴らす。
そんな仕草がまた愛らしい。

 気づけば雨が止んでいた。

 小娘の舞には癒やし効果でもあるのだろうか?

 最近では疲労困憊だったからか、どこかくたびれ、眉根が気持ち寄っているのが常であった腹黒も、心なしか穏やかな顔つきになっている。

 くるりと回る拍子にこちらから垣間見る微笑みは、神を迎える天女の如き、気品さと慈愛のこもる微笑みを浮かべた小娘。
艶やかさも加わり、絶世の美女に……顔が変わっている?

 扇をヒラヒラと優美に舞い扇ぎ、長い袖をたなびかせる。

 すると、つられるように風もふわりと踊る。

 この宮の庭園からだろう。
数日前から満開を迎え始めた梅の花の香りが、紅白の花弁が、風に誘われるかのように少し離れたこの場所まで舞いこみ、小娘の舞に雅さを加える。

 香り立つ花々と風が共に踊る、自然すらも魅了したかのような舞。

 心は自然と高揚し、それまでに感じていた心の虚が、葛藤が、吹き払われたかのように、清々しい気持ちにさせる。

 ふと妻の顔を見れば、翡翠の瞳からは涙がほろほろと溢れている。

「ユー?」
「……ぁ……申し、訳……」

 止めようとしても止められ無いのか、被っていた長衣で顔を隠してしまう。
どうする事もできず、慰めになればと、そっと抱き寄せた。

 そして以前より痩せた体に気づき、どれ程この愛しい妻が心を痛めて過ごしていたのかを知る。

「愛している。
どうしようもなく、そなたが、そなただけが愛おしいのだ」

 想いを伝える。
どうか、離れて行かないでくれと乞い願いながら。

「……わかって、おります。
私も……シャオだけを愛して……。
だからこそ……離れるべきだと……けれど……」

__離れたくない……。

 囁くような布越しの声は、すぐ側の腹黒にすら聞こえぬ程に、小さく、か細いもの。

「ユー」

 抱きしめる腕に力をこめて抱きしめた。

 不意に、ビュウ、と風が大きく周囲から巻き起こる。

 小娘に目をやれば、屈んで伸び上がりながら、広げた扇を下から上へと、まるで集めた風を天に還すかのようにして掲げた。

 爽やかな神風が天へと吹き上がり、曲も舞いも終わりを迎えてピタリと止まる。

 少しして、春風が優しくそよぐ中、扇を左手の平にパシリと打ちつけて閉じ、こちらへ振り向く。

「終わりました。
良き風も吹き始めましたし、井戸に閉じこもってらした方々も……」

 微笑みながら、小娘は歩み寄る。

 何となく、気になる言葉を吐いたような気がするも、視覚的な部分である事が目について、言葉は耳を素通りした。

「小娘……そなた……」
「……顔が……」

 それは腹黒も同じだったらしい。
小娘の顔に目が釘づけになった俺と腹黒は驚きに声をもらす。

 そこには銀髪に赤桃色の瞳の……間違いなく絶世と称されるだろう少女がいた。
品の中に危うい艶やかさを纏う、麗しい美少女だ。

「顔?
はっ、まさか……」

 きょとりとした美少女の目元は、記憶がただしければ少し釣り上がっていたはずだ。
しかし今は相手の警戒心を緩ませる優しげな目元となっていた。

 俺達の驚愕した顔に何かを思い至ったのだろう。
ハッとした顔もまた、どこか庇護欲を掻き立てるものだった。

滴雫ディーシャ様!
化粧が!」
「ふぶっ」
「お嬢様!
これこれ!」

 真っ先に走ってきた筆頭侍女が、まずは頭1つ背の低い少女の頭をその胸に勢い良く押しつける。

 不意打ちに小娘が妙な声を出したが、その直後に全く意に介さず、物真似侍女がいつの間にか脱いだ自分の礼服を、小娘の背後から飛び上がり、バサッと頭から被せた。

「お嬢、抱えるぞ!」
「ヨー、そのまま連れて行け!」

 着地して、更に横へ飛び退いた物真似侍女の背後からは、前髪を右寄りに分けた片鬼がヌッと現れ、顔の隠れた小娘を横抱きにした。

 その場に留まって、恐らく3人が放り投げただろう楽器を受け止め、片づけながら指示を出した、左寄りの前髪鬼が言い終わらぬ内に走り去った。

 その間数秒。

「皆様、このまま私の宮までお越しになって~……」

 呆気に取られた俺達は、遠ざかりながら消えていく声を聞きつつ、ただ見送ってしまうしかなかった。

 その後どういう事か問うも、一貫して見間違いで通す青緑達。

 何も見ていなかったユーの訝しむ顔も可愛いなと思いつつ、埒が明かないため、皆でぞろぞろと小娘の小屋へと向かう事となったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...