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115.鬼ごっこの相手
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「はぁ、まったく……」
頭に被る薄い衣の紗越しに見る、氷の麗人と称される方の物憂げなため息は、随分と絵になるのですね。
彼の後ろには、大雪が護衛として立っています。
心に決めた主から正式に側近として取り立てられ、表に出るようになったからでしょうか。
恐らくは本来の、堂々とした気質に合った顔つきになりました。
どことなく私にドン引きした視線を投げているのは、何故かわかりませんが。
「はぁ……法印大僧正と大雪の文を受け取って飛んで来ましたが……」
そんな絵を鑑賞しつつ、紗を濡らさないように気をつけながら、茶杯に口をつけてコクリと喉を潤します。
この黒茶、香り高くて後味がすっきりしています。
美味しいですね。
「はぁ……何故か法印大僧正は当初と違い貴女に落ち度は無いと言い出す始末。
はぁ……一体何をすれば陵墓が沈下し、歴代法印大僧正の中でも冷静沈着と呼ばれた今代の怒りと嘆きを僅か数日で綺麗に流した上に、この寺の僧侶を誑しこむに飽き足らず、法印大僧正すらもまるで祖父と孫のような仲睦まじい関係を築くとは……」
言いながら脱力していく麗人は、ため息が多いですね。
__シューシューシュー。
おや、私の胸元が気に入った黒い小蛇__小蛇ちゃんがぴょこんと顔を出しましたね。
「ガウガウ」
膝の上でおくつろぎ中だった子猫ちゃんと顔を見合わせて会話したのでしょうか?
ちなみにあの夜、というか、もう明け方でしたが、部屋に戻る前に、懐から金のマトリョーシカを出しての子猫ちゃんの頭に置いてじゃぶじゃぶ洗いで元の大きさに戻しました。
流石に魔力を使い過ぎてしまい、熱を出して丸1日眠りました。
今は微熱です。
ここ数日、意味のない所用にかこつけて私の部屋を訪れる高僧達。
そして昼夜問わず忍びこもうとする立場様々な僧侶や下男達。
そんな不躾な男達から、内と外に立って扉を守る双子の鬼達からも、私を気遣う眼差しを後頭部に直撃させる筆頭侍女からも、魔法禁止を言い渡されてしまいました。
顔を隠しているのは、いつでも休めるようにと化粧をしていないからですよ。
「はぁ……しかも妖が増えたとは……」
麗人はそう言うと、ガクリと項垂れてしまいました。
「随分お疲れですね、丞相。
時に何をされにいらしたのです?」
お疲れのようなので、いい加減本題に入って退室頂こうと尋ねます。
恐らく片道3日の道のりを、馬を急がせたのか急2日に短縮していらしたようですからね。
気遣ったものの、しかしジトリとした目を向けられてしまいます。
はて?
「はぁ……もう、いいですよ」
と思えば、またため息を吐き、今度は机に突っ伏してしまいました。
情緒不安定ですか?
「取りあえず、貴女がこの寺に来て早々に追放となった、元高僧達ですが……」
そのまま話し始めましたね。
あの夜、私と合流するまで右鬼が鬼ごっこをしていた相手です。
小雪との入れ替わりが大僧正に早々に露呈したのも、彼らのせいでした。
あの2人の高僧はこの寺を出ていく前に、私を亡き者にしようと部屋に忍びこんだらしいです。
私は一応貴妃ですし、皇帝陛下に寵愛されたと情報操作したにも関わらず、まさかそこまでするとは驚きました。
左鬼は私と行動していましたし、右鬼はそんな高僧達を監視して尾行する役目だったので、ギリギリまで助ける事はしません。
とはいえ小雪は私の護衛も兼ねているくらいには強いので、ちゃんと手加減して殴りつけたようです。
デキた女です。
大僧正は元部下となる高僧達の不穏な気配を感じ取ったようです。
もしやと私の様子を窺いに来たところで、ちょうど殴りつけたうちの侍女と顔を突き合わせたと報告を受けています。
小雪は高僧達の私への不遜な態度に余程腹を据えかねていたのでしょう。
とんでもなく清々しい笑顔だったと右鬼が補足説明してくれました。
まあそんなこんなで一目散に逃げ出した高僧達は鬼ごっこしているとも思わず、途中から鬼を交代した大雪をくっつけてある人物と落ち合ったのです。
頭に被る薄い衣の紗越しに見る、氷の麗人と称される方の物憂げなため息は、随分と絵になるのですね。
彼の後ろには、大雪が護衛として立っています。
心に決めた主から正式に側近として取り立てられ、表に出るようになったからでしょうか。
恐らくは本来の、堂々とした気質に合った顔つきになりました。
どことなく私にドン引きした視線を投げているのは、何故かわかりませんが。
「はぁ……法印大僧正と大雪の文を受け取って飛んで来ましたが……」
そんな絵を鑑賞しつつ、紗を濡らさないように気をつけながら、茶杯に口をつけてコクリと喉を潤します。
この黒茶、香り高くて後味がすっきりしています。
美味しいですね。
「はぁ……何故か法印大僧正は当初と違い貴女に落ち度は無いと言い出す始末。
はぁ……一体何をすれば陵墓が沈下し、歴代法印大僧正の中でも冷静沈着と呼ばれた今代の怒りと嘆きを僅か数日で綺麗に流した上に、この寺の僧侶を誑しこむに飽き足らず、法印大僧正すらもまるで祖父と孫のような仲睦まじい関係を築くとは……」
言いながら脱力していく麗人は、ため息が多いですね。
__シューシューシュー。
おや、私の胸元が気に入った黒い小蛇__小蛇ちゃんがぴょこんと顔を出しましたね。
「ガウガウ」
膝の上でおくつろぎ中だった子猫ちゃんと顔を見合わせて会話したのでしょうか?
ちなみにあの夜、というか、もう明け方でしたが、部屋に戻る前に、懐から金のマトリョーシカを出しての子猫ちゃんの頭に置いてじゃぶじゃぶ洗いで元の大きさに戻しました。
流石に魔力を使い過ぎてしまい、熱を出して丸1日眠りました。
今は微熱です。
ここ数日、意味のない所用にかこつけて私の部屋を訪れる高僧達。
そして昼夜問わず忍びこもうとする立場様々な僧侶や下男達。
そんな不躾な男達から、内と外に立って扉を守る双子の鬼達からも、私を気遣う眼差しを後頭部に直撃させる筆頭侍女からも、魔法禁止を言い渡されてしまいました。
顔を隠しているのは、いつでも休めるようにと化粧をしていないからですよ。
「はぁ……しかも妖が増えたとは……」
麗人はそう言うと、ガクリと項垂れてしまいました。
「随分お疲れですね、丞相。
時に何をされにいらしたのです?」
お疲れのようなので、いい加減本題に入って退室頂こうと尋ねます。
恐らく片道3日の道のりを、馬を急がせたのか急2日に短縮していらしたようですからね。
気遣ったものの、しかしジトリとした目を向けられてしまいます。
はて?
「はぁ……もう、いいですよ」
と思えば、またため息を吐き、今度は机に突っ伏してしまいました。
情緒不安定ですか?
「取りあえず、貴女がこの寺に来て早々に追放となった、元高僧達ですが……」
そのまま話し始めましたね。
あの夜、私と合流するまで右鬼が鬼ごっこをしていた相手です。
小雪との入れ替わりが大僧正に早々に露呈したのも、彼らのせいでした。
あの2人の高僧はこの寺を出ていく前に、私を亡き者にしようと部屋に忍びこんだらしいです。
私は一応貴妃ですし、皇帝陛下に寵愛されたと情報操作したにも関わらず、まさかそこまでするとは驚きました。
左鬼は私と行動していましたし、右鬼はそんな高僧達を監視して尾行する役目だったので、ギリギリまで助ける事はしません。
とはいえ小雪は私の護衛も兼ねているくらいには強いので、ちゃんと手加減して殴りつけたようです。
デキた女です。
大僧正は元部下となる高僧達の不穏な気配を感じ取ったようです。
もしやと私の様子を窺いに来たところで、ちょうど殴りつけたうちの侍女と顔を突き合わせたと報告を受けています。
小雪は高僧達の私への不遜な態度に余程腹を据えかねていたのでしょう。
とんでもなく清々しい笑顔だったと右鬼が補足説明してくれました。
まあそんなこんなで一目散に逃げ出した高僧達は鬼ごっこしているとも思わず、途中から鬼を交代した大雪をくっつけてある人物と落ち合ったのです。
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