太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する

嵐華子

文字の大きさ
116 / 124
4.

116.嬪の元乳母

しおりを挟む
「彼らが落ち合ったのはユー家の侍女でした」
ユー家……」

 秋花チュファ宮の主、宇夜綾ユー イーリンの生家です。
確か伯爵位から陞爵して10年程度。
侯爵家の中では日が浅い部類で、エン家とは縁戚関係。

 あの沙龙サロン大雪ダーシュエに度々青色を向けていたのは陛下の嬪でした。

 ふと西方2つの宮の主達の青い、深い海のような瞳を思い出します。
全く同じ色でした。
貴妃の父親である燕峰雲エン フォンウン大尉は紅色の瞳、母親である大尉の奥方は海の浅瀬のような澄んだ青。

 血筋の為に縁戚間で婚姻を繰り返している燕《エン》家です。
あの2人の女子おなごが顔つきだけでなく、瞳の色が全く同じでも不思議ではないのですが……気になりますね。

「その侍女は何者でしょう?」

 私の問いに丞相はチラリと大雪ダーシュエに目線をやります。

「私の方から報告を」

 丞相の隣にすっと立ち、そう告げる彼は丞相の側近として話すようです。
もちろん頷いておきます。

「あの侍女は、宇夜綾ユー イーリンの乳母だった者です。
私に施してあった隷属の紋は、ご存知の通り内密にリン司空がウー家へ手を回し、紋を施せる者を紛れこませ、エン大尉の主導の元に施されました。
実はあの時、その場に宇夜綾ユー イーリンがいましたが、その乳母として側にいたのがその侍女です」
「何故嬪が?
息女である凜汐リンシー貴妃は?
嬪は入宮する時、その乳母は伴わなかったのですか?」

 彼女は四公であるエン家の後ろ盾がある、仮にも侯爵家です。
吹けば飛ぶような、伯家として日の浅い、高位貴族と何の縁もないわたくしの生家であるフー家と違い、乳母を筆頭女官にする事もできたでしょうに。

 私はそもそも女官を用意するとして入宮したものの、結局使える……仕える者がおらず、平民である自らの侍女や護衛を胥吏しょりとして自費で雇い入れる形を取っております。

 朝廷で雇われる官吏や女官とは違うので、彼らが何かしら粗相をすれば、その責任は全て私の責任となりますよ。

「はい。
恐らくですが、凜汐リンシー貴妃はエン家の表の顔を、宇夜綾ユー イーリンは裏でエン家の為に動く役を担っているのかと。
隷属の紋を施した時、紋について手ほどきを受けていましたから。
乳母は足が悪いらしく、ユー家に侍女として残っています」
「左様ですか。
その侍女は乳母としてその場にいた程ですから、ユー家の縁戚の方でしょうか?」
「亡くなった当主夫人の従姉妹です」
「どのような外見ですか?」

 何となく気になる事を尋ねてみます。

「灰赤色の髪に深い青の瞳ですね。
顔立ちはエン家と縁のある家門らしい、涼やかな目元と顔立ちをしています」
「なんと!
それは見目良いご婦人でしょうね。
おいくつの方ですか?」

 エン家やそのゆかりの方々は前世の初代の国、大和の国民に似た顔立ちです。
もちろん美人揃いでしょう。
西方の宮の主2人とエン家の奥様、そしてその乳母に囲まれてお茶でもご一緒したいやつです。
何なら渋めの大和民のような大尉が一緒でも構いません。

「……何故食い気味に……声が弾んでねえか……ゴホン。
年齢を尋ねた事はありませんが……そうですね、滴雫ディーシャ貴妃の母君と同い年くらいでは……」

 今それとなく地の話し方になりましたね。
それにしても、私のお母様を引き合いに出しましたが、それはお母様の外見を知っての事でしょうか?

「うちの母は私の少し上の姉に見られますよ?」
「……30代に見えました」
「なるほど」

 知らなかったようです。
という事は、エン大尉の奥方と同い年くらいですね。

 何故なにゆえ辺境住まいだった私が、皇都住まいである四公の奥方の顔を詳しく知っているのか?
色々あるのですよ。

「嬪はその後も貴方と接触していたのでしょうか?」
「はい。
何度か紋を見せて欲しいと。
しかし紋を施せる程魔法を扱えず、何度も倒れてしまった為に諦めたようです」
「左様で……あの高僧達はその後どうなりましたか?」
「それは……」

 ふと良くない事に思い当たって尋ねてみれば、大雪ダーシュエは言い淀み、1度目を伏せてから、口を開きます。

「彼らは突然乳母に無体を働こうと飛びかかり、廃人となりました」

 やはりそうでしたか。

 予想通りの言葉に、紗で気づかれない程度に小さく息を吐きました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...