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116.嬪の元乳母
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「彼らが落ち合ったのは宇家の侍女でした」
「宇家……」
秋花宮の主、宇夜綾の生家です。
確か伯爵位から陞爵して10年程度。
侯爵家の中では日が浅い部類で、燕家とは縁戚関係。
あの沙龙で大雪に度々青色を向けていたのは陛下の嬪でした。
ふと西方2つの宮の主達の青い、深い海のような瞳を思い出します。
全く同じ色でした。
貴妃の父親である燕峰雲大尉は紅色の瞳、母親である大尉の奥方は海の浅瀬のような澄んだ青。
血筋の為に縁戚間で婚姻を繰り返している燕《エン》家です。
あの2人の女子が顔つきだけでなく、瞳の色が全く同じでも不思議ではないのですが……気になりますね。
「その侍女は何者でしょう?」
私の問いに丞相はチラリと大雪に目線をやります。
「私の方から報告を」
丞相の隣にすっと立ち、そう告げる彼は丞相の側近として話すようです。
もちろん頷いておきます。
「あの侍女は、宇夜綾の乳母だった者です。
私に施してあった隷属の紋は、ご存知の通り内密に林司空が呉家へ手を回し、紋を施せる者を紛れこませ、燕大尉の主導の元に施されました。
実はあの時、その場に宇夜綾がいましたが、その乳母として側にいたのがその侍女です」
「何故嬪が?
息女である凜汐貴妃は?
嬪は入宮する時、その乳母は伴わなかったのですか?」
彼女は四公である燕家の後ろ盾がある、仮にも侯爵家です。
吹けば飛ぶような、伯家として日の浅い、高位貴族と何の縁もない私の生家である胡家と違い、乳母を筆頭女官にする事もできたでしょうに。
私はそもそも女官を用意するとして入宮したものの、結局使える……仕える者がおらず、平民である自らの侍女や護衛を胥吏として自費で雇い入れる形を取っております。
朝廷で雇われる官吏や女官とは違うので、彼らが何かしら粗相をすれば、その責任は全て私の責任となりますよ。
「はい。
恐らくですが、凜汐貴妃は燕家の表の顔を、宇夜綾は裏で燕家の為に動く役を担っているのかと。
隷属の紋を施した時、紋について手ほどきを受けていましたから。
乳母は足が悪いらしく、宇家に侍女として残っています」
「左様ですか。
その侍女は乳母としてその場にいた程ですから、宇家の縁戚の方でしょうか?」
「亡くなった当主夫人の従姉妹です」
「どのような外見ですか?」
何となく気になる事を尋ねてみます。
「灰赤色の髪に深い青の瞳ですね。
顔立ちは燕家と縁のある家門らしい、涼やかな目元と顔立ちをしています」
「なんと!
それは見目良いご婦人でしょうね。
おいくつの方ですか?」
燕家やその縁の方々は前世の初代の国、大和の国民に似た顔立ちです。
もちろん美人揃いでしょう。
西方の宮の主2人と燕家の奥様、そしてその乳母に囲まれてお茶でもご一緒したいやつです。
何なら渋めの大和民のような大尉が一緒でも構いません。
「……何故食い気味に……声が弾んでねえか……ゴホン。
年齢を尋ねた事はありませんが……そうですね、滴雫貴妃の母君と同い年くらいでは……」
今それとなく地の話し方になりましたね。
それにしても、私のお母様を引き合いに出しましたが、それはお母様の外見を知っての事でしょうか?
「うちの母は私の少し上の姉に見られますよ?」
「……30代に見えました」
「なるほど」
知らなかったようです。
という事は、燕大尉の奥方と同い年くらいですね。
何故辺境住まいだった私が、皇都住まいである四公の奥方の顔を詳しく知っているのか?
色々あるのですよ。
「嬪はその後も貴方と接触していたのでしょうか?」
「はい。
何度か紋を見せて欲しいと。
しかし紋を施せる程魔法を扱えず、何度も倒れてしまった為に諦めたようです」
「左様で……あの高僧達はその後どうなりましたか?」
「それは……」
ふと良くない事に思い当たって尋ねてみれば、大雪は言い淀み、1度目を伏せてから、口を開きます。
「彼らは突然乳母に無体を働こうと飛びかかり、廃人となりました」
やはりそうでしたか。
予想通りの言葉に、紗で気づかれない程度に小さく息を吐きました。
「宇家……」
秋花宮の主、宇夜綾の生家です。
確か伯爵位から陞爵して10年程度。
侯爵家の中では日が浅い部類で、燕家とは縁戚関係。
あの沙龙で大雪に度々青色を向けていたのは陛下の嬪でした。
ふと西方2つの宮の主達の青い、深い海のような瞳を思い出します。
全く同じ色でした。
貴妃の父親である燕峰雲大尉は紅色の瞳、母親である大尉の奥方は海の浅瀬のような澄んだ青。
血筋の為に縁戚間で婚姻を繰り返している燕《エン》家です。
あの2人の女子が顔つきだけでなく、瞳の色が全く同じでも不思議ではないのですが……気になりますね。
「その侍女は何者でしょう?」
私の問いに丞相はチラリと大雪に目線をやります。
「私の方から報告を」
丞相の隣にすっと立ち、そう告げる彼は丞相の側近として話すようです。
もちろん頷いておきます。
「あの侍女は、宇夜綾の乳母だった者です。
私に施してあった隷属の紋は、ご存知の通り内密に林司空が呉家へ手を回し、紋を施せる者を紛れこませ、燕大尉の主導の元に施されました。
実はあの時、その場に宇夜綾がいましたが、その乳母として側にいたのがその侍女です」
「何故嬪が?
息女である凜汐貴妃は?
嬪は入宮する時、その乳母は伴わなかったのですか?」
彼女は四公である燕家の後ろ盾がある、仮にも侯爵家です。
吹けば飛ぶような、伯家として日の浅い、高位貴族と何の縁もない私の生家である胡家と違い、乳母を筆頭女官にする事もできたでしょうに。
私はそもそも女官を用意するとして入宮したものの、結局使える……仕える者がおらず、平民である自らの侍女や護衛を胥吏として自費で雇い入れる形を取っております。
朝廷で雇われる官吏や女官とは違うので、彼らが何かしら粗相をすれば、その責任は全て私の責任となりますよ。
「はい。
恐らくですが、凜汐貴妃は燕家の表の顔を、宇夜綾は裏で燕家の為に動く役を担っているのかと。
隷属の紋を施した時、紋について手ほどきを受けていましたから。
乳母は足が悪いらしく、宇家に侍女として残っています」
「左様ですか。
その侍女は乳母としてその場にいた程ですから、宇家の縁戚の方でしょうか?」
「亡くなった当主夫人の従姉妹です」
「どのような外見ですか?」
何となく気になる事を尋ねてみます。
「灰赤色の髪に深い青の瞳ですね。
顔立ちは燕家と縁のある家門らしい、涼やかな目元と顔立ちをしています」
「なんと!
それは見目良いご婦人でしょうね。
おいくつの方ですか?」
燕家やその縁の方々は前世の初代の国、大和の国民に似た顔立ちです。
もちろん美人揃いでしょう。
西方の宮の主2人と燕家の奥様、そしてその乳母に囲まれてお茶でもご一緒したいやつです。
何なら渋めの大和民のような大尉が一緒でも構いません。
「……何故食い気味に……声が弾んでねえか……ゴホン。
年齢を尋ねた事はありませんが……そうですね、滴雫貴妃の母君と同い年くらいでは……」
今それとなく地の話し方になりましたね。
それにしても、私のお母様を引き合いに出しましたが、それはお母様の外見を知っての事でしょうか?
「うちの母は私の少し上の姉に見られますよ?」
「……30代に見えました」
「なるほど」
知らなかったようです。
という事は、燕大尉の奥方と同い年くらいですね。
何故辺境住まいだった私が、皇都住まいである四公の奥方の顔を詳しく知っているのか?
色々あるのですよ。
「嬪はその後も貴方と接触していたのでしょうか?」
「はい。
何度か紋を見せて欲しいと。
しかし紋を施せる程魔法を扱えず、何度も倒れてしまった為に諦めたようです」
「左様で……あの高僧達はその後どうなりましたか?」
「それは……」
ふと良くない事に思い当たって尋ねてみれば、大雪は言い淀み、1度目を伏せてから、口を開きます。
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やはりそうでしたか。
予想通りの言葉に、紗で気づかれない程度に小さく息を吐きました。
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