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3 バス停にて
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俺たちは、佐川老人のもとを後にした。
帰りのバスを待つバス停でベンチに腰かけて、老人から渡された黒いノートを見つめていた俺に、夏目が言った。
「それは、たぶん、佳人の日記だ。俺も、佳人が持っているのを見たことがある。いつも、肌身離さず、それを持ち歩いていた。俺は、てっきり、犯人が持ち去ったんだとばかり思っていた。まさか、佐川さんに預けていたとはな」
佐川さん。
俺は、さっき会った、あの老人のことを思い出していた。
佐川さんは、かつては、大会社の社長をしていた人だったのだと夏目は言った。
妻子もいたその人が、なぜ、年老いて一人打ち捨てられたような屋敷に住んでいるのかというと、それは、ある事件が原因だったのだという。
彼が、40代の頃、付き合っていた男が死んだ。
自殺だった。
佐川さんの恋人は、自分の両親から疎まれ、世間から蔑まれ、自死をするまでに追い詰められてしまったのだった。
最後に、追い詰められた彼は、恋人である佐川さんにすがった。
だが、妻子のあった佐川さんは、彼を突き放した。
その数ヵ月後、彼の人は、海に身を投げた。
彼の死後、佐川さんは、妻子と別れ、会社も辞めた。
そして、会員制のクラブを始めた。
そこは、ウリセンとは、比べ物にならないほど、高級で安全で、匿名性の高い男たちのためのクラブだった。
『性に悩み、苦しむ人々を救うために』
創設されたそのクラブに兄も所属していたのだという。
俺は、ノートの一枚目をめくった。
『これをお前が読むときには』
そこには、兄の美しく、整った文字が並んでいた。
『僕は、この世には、いないだろう』
「兄さん」
俺は、その文字を目で追った。
『トモへ』
これをお前が読むときには、僕は、この世にはいないだろう。
自殺にしろ、他殺にしろ、もう、僕は、生きてはいないだろう。
僕が、これを残すのは、汚れのない、美しいお前を妬んでのことだから、お前が、これを読みたくなければ、お前は、読まなくてもいい。
だけど、この僕の手記にまでたどり着いたのなら、きっと、お前は、これを読まずにはいられないだろう。
僕の愛する美しい弟よ。
お前に、僕の中の闇は、見えるだろうか。
僕の中の闇は、深くて、暗い。
お前が迷うことなく、この闇の外へと戻れることを、僕は、祈っている。
ああ。
僕は、俯いて、目頭を押さえた。
本当に。
兄の闇は、まったく深く、暗い。
ほんの少し、触れただけで、俺は、もう、しり込みしてしまうほどに。
「大丈夫か?南原」
俺の横に座って、夏目が俺を覗き込んだ。
「佐川さんが、きっと、なにか、佳人から預かっているだろうとは、思っていたんだが。あの人は、ガードが固いからな。もしかしたら、双生児の弟のお前なら、預かっているものを渡してもらえるんじゃないかと思ったんだが、まさか、あんな条件を出してくるとは思わなかった」
俺は、さっきのことを思い出してまた、赤面してしまった。夏目は、俺から視線を外すと言った。
「まさか、お前が、佐川さんの条件を飲むとは思わなかった」
「あれは・・」
俺は、口ごもった。
「兄さんの死の真相に、少しでも、近づきたくて、必死だったから」
「俺は、お前を見直したよ、南原」
「えっ?」
俺は、夏目を見た。夏目は、まっすぐに俺を見て言った。
「ずっと、お前は、佳人のことを、無視してるんだと思っていたんだ。佳人がどうなっても、お前は知らん顔だったから。正直、俺は、お前たち家族のことは、最低の奴等だと思っていた。一緒に暮らしてて、佳人のことに、気づかないなんて、変だと思っていた。でも、今度のことで、お前が本当に佳人のことに気づいてなかったんだってわかった。もし、知ってたら、お前なら、あいつを止めただろうからな」
「あなたは、夏目さんは」
「椎奈でいいよ、俺も、お前のこと、トモって呼ぶから」
「椎奈は」
俺はきいた。
「兄さんとは、どういう関係だったんですか?」
「俺と佳人の関係・・か」
椎奈は、遠い目をして言った。
「俺たちは、決して、結ばれることのない恋人同士のようなものだった」
「ええっ?」
俺は、椎奈の言葉に少し、狼狽えた。
「兄さんの恋人って、自殺した田原 直じゃないんですか?」
「田原 直、か」
椎奈は、言った。
「彼は、佐川さんの愛人だった。というか、佐川さんに飼われていたんだ。佳人も、似たようなものだったけどな」
「佐川さんに、飼われていた?」
「ああ」
椎奈は、頷いた。
「あの二人は、佐川さんのペットだった。特に、田原 直は、あの人に飼育されていた」
椎奈が言うには、田原 直の家は、少し、複雑な家庭だったのだという。田原 直が子供の頃、彼の弟が死んだ。交通事故だったらしい。以来、母親は、田原 直を弟殺しの兄として責め続けたのだという。15才の頃、母による虐待に耐えられなくなった田原は、家を出た。そして、歓楽街で男娼をしているところを佐川さんに拾われ、以来、彼に飼われていたのだという。
「基本、田原は、ノンケだった。田原が、本気で好意を持っていたのは、佳人だけだった」
田原は、自分と同じように佐川さんに飼われるようになった佳人を弟のように可愛がっていたのだという。
「二人は、本当の兄弟のように、お互いを愛していたんだ」
椎奈は、ため息をついた。
「佐川さんは、もう、長くない。あの人は、膵臓ガンで、もう、余命わずかだ。佳人も死んで、佐川さんまで失うとなると、田原は、行き場を失ってしまう。だから」
椎奈は、そこで言葉を切った。
だから、田原 直は、死を選んだのだろうか。
俺は、田原の孤独を思った。
大切な人を失ってしまう恐怖の中で、田原は、生きていた。
そして、再び、弟のように思っていた兄を失い、さらには、今、世話になっている人まで、失おうとしていたのだ。
だけど。
なぜ、田原は、俺のもとに、あの写真を送りつけたのか。
それは、椎奈にも、わからなかった。
ただ、あの写真の裏に書かれた言葉。
『語り得ぬことには、沈黙するしかない』
何を、田原 直は、語ることが、できなかったのか。
彼は、何を知っていたのだろうか。
ふと、俺が顔を上げると、椎奈と目があった。椎奈の整った顔を、俺は、じっと見つめた。俺は、ずっと、思っていたことをきいた。
「椎奈は、なぜ、兄さんを殺した犯人を探しているんだ?椎奈が、兄さんの恋人だったから、か?」
「そうじゃない」
椎奈は、微苦笑を浮かべて言った。
「確かに、俺は、佳人の恋人みたいなものだったが、恋人ではなかった。俺が、佳人を殺した犯人を探すのは、俺が、佳人を救うことができなかったからだ」
「えっ?」
俺は、椎奈にきいた。
「兄を救うことができなかった?」
「そうだ」
椎奈は、俺から視線を外して俯いた。
「俺は、さっき、苦しんでいる佳人を見捨てたといってお前の家族や、お前を最低の奴等だと思っていたといっただろう?そういう意味でいえば、俺は、もっと悪い。俺は、手を伸ばせば、すぐ届くところで苦しんでいる佳人を救わなかった」
「それは、救えなかったんじゃなくて?」
俺の言葉に、椎奈は、頷いた。
「俺は、佳人と同じ、だ。佐川さんのクラブで働いている。俺は、親がリストラされて、大学の学費が払えなくなったために、佐川さんのところで働くようになった。そこで、佳人と出会った。俺は、佳人と出会って、初めて、男を好きになった。だけど、佳人は、俺に言った。『自分は、どうでもいい相手としか、寝れない』って。佳人は、愛している者に抱かれることは、一度もなかった。なのに、どうでもいい相手には、誰でもいいから、抱かれていた。俺は、そんな佳人を救ってやることはなかった。俺は、ただ、苦しんで、もがいている佳人を見ていただけだった」
椎奈は、黙り込んでしまった。俺は、何となく、椎奈とその沈黙を共有していた。俺たちは、同じ男をそれぞれの方法で愛し、そして、救えなかったのだ。
「佳人は、愛している者を抱けないし、抱かれることもなかった。その苦しみにもだえる佳人を、俺は、愛していたんだ。俺は、酷い奴だ。ある意味、佳人を殺したのは、おれなのかもしれない。俺が、佳人を救わなかったから、佳人は、誰かに殺されたんだ」
俺は、椎奈の告白に、何も返す言葉がなかった。兄は、椎奈を愛していた。田原も愛していた。だけど、兄は、愛する人々には、抱かれることはなかった。
なら、誰が、兄を愛さなかったのか。いや、兄は、誰を愛さなかったのだろうか。
俺は、知る必要があった。
誰が、兄を抱いていたのか。
俺は、椎奈に、言った。
「俺を、あんたたちのクラブに、佐川さんの店に紹介してほしい」
椎奈は、ぎょっとした表情で俺を見つめていたが、すぐに、俺にきいた。
「それが、どういうことを意味するのか、お前は、わかっているのか?」
俺は、頷いた。
「俺が、兄を殺したのが、誰かを知るためには、俺自身が兄が辿ったのと同じ道を辿るしかない」
兄が、辿った道をいけば、きっと、兄が見ていたものを見ることができるはずだ、と俺は、思った。
兄が愛し、そして、愛さなかった者たちを、俺は、知りたかった。
椎奈が、何か、言いたそうな顔をして、俺を見た。
そのとき、バスがバス停に停車した。
俺は、バスに乗り込むために立ち上がった。その俺の腕を椎奈が掴んだ。
「絶対に、後悔することになる」
「それでも」
俺は、椎奈の腕を振り払った。
「俺は、やらなきゃならない」
俺は、バスへと向かって歩き出した。
佳人の。兄のために、俺が出来ることなんて、もう、他に何もなかった。
椎奈は、バスに乗り込んだ俺の後をついてきた。
俺たちは、一番後ろの座席に並んで座った。
バスは、動きだし、俺たちは、乗客のまばらなバスの中で、黙って、前を見たまま、座っていた。
帰りのバスを待つバス停でベンチに腰かけて、老人から渡された黒いノートを見つめていた俺に、夏目が言った。
「それは、たぶん、佳人の日記だ。俺も、佳人が持っているのを見たことがある。いつも、肌身離さず、それを持ち歩いていた。俺は、てっきり、犯人が持ち去ったんだとばかり思っていた。まさか、佐川さんに預けていたとはな」
佐川さん。
俺は、さっき会った、あの老人のことを思い出していた。
佐川さんは、かつては、大会社の社長をしていた人だったのだと夏目は言った。
妻子もいたその人が、なぜ、年老いて一人打ち捨てられたような屋敷に住んでいるのかというと、それは、ある事件が原因だったのだという。
彼が、40代の頃、付き合っていた男が死んだ。
自殺だった。
佐川さんの恋人は、自分の両親から疎まれ、世間から蔑まれ、自死をするまでに追い詰められてしまったのだった。
最後に、追い詰められた彼は、恋人である佐川さんにすがった。
だが、妻子のあった佐川さんは、彼を突き放した。
その数ヵ月後、彼の人は、海に身を投げた。
彼の死後、佐川さんは、妻子と別れ、会社も辞めた。
そして、会員制のクラブを始めた。
そこは、ウリセンとは、比べ物にならないほど、高級で安全で、匿名性の高い男たちのためのクラブだった。
『性に悩み、苦しむ人々を救うために』
創設されたそのクラブに兄も所属していたのだという。
俺は、ノートの一枚目をめくった。
『これをお前が読むときには』
そこには、兄の美しく、整った文字が並んでいた。
『僕は、この世には、いないだろう』
「兄さん」
俺は、その文字を目で追った。
『トモへ』
これをお前が読むときには、僕は、この世にはいないだろう。
自殺にしろ、他殺にしろ、もう、僕は、生きてはいないだろう。
僕が、これを残すのは、汚れのない、美しいお前を妬んでのことだから、お前が、これを読みたくなければ、お前は、読まなくてもいい。
だけど、この僕の手記にまでたどり着いたのなら、きっと、お前は、これを読まずにはいられないだろう。
僕の愛する美しい弟よ。
お前に、僕の中の闇は、見えるだろうか。
僕の中の闇は、深くて、暗い。
お前が迷うことなく、この闇の外へと戻れることを、僕は、祈っている。
ああ。
僕は、俯いて、目頭を押さえた。
本当に。
兄の闇は、まったく深く、暗い。
ほんの少し、触れただけで、俺は、もう、しり込みしてしまうほどに。
「大丈夫か?南原」
俺の横に座って、夏目が俺を覗き込んだ。
「佐川さんが、きっと、なにか、佳人から預かっているだろうとは、思っていたんだが。あの人は、ガードが固いからな。もしかしたら、双生児の弟のお前なら、預かっているものを渡してもらえるんじゃないかと思ったんだが、まさか、あんな条件を出してくるとは思わなかった」
俺は、さっきのことを思い出してまた、赤面してしまった。夏目は、俺から視線を外すと言った。
「まさか、お前が、佐川さんの条件を飲むとは思わなかった」
「あれは・・」
俺は、口ごもった。
「兄さんの死の真相に、少しでも、近づきたくて、必死だったから」
「俺は、お前を見直したよ、南原」
「えっ?」
俺は、夏目を見た。夏目は、まっすぐに俺を見て言った。
「ずっと、お前は、佳人のことを、無視してるんだと思っていたんだ。佳人がどうなっても、お前は知らん顔だったから。正直、俺は、お前たち家族のことは、最低の奴等だと思っていた。一緒に暮らしてて、佳人のことに、気づかないなんて、変だと思っていた。でも、今度のことで、お前が本当に佳人のことに気づいてなかったんだってわかった。もし、知ってたら、お前なら、あいつを止めただろうからな」
「あなたは、夏目さんは」
「椎奈でいいよ、俺も、お前のこと、トモって呼ぶから」
「椎奈は」
俺はきいた。
「兄さんとは、どういう関係だったんですか?」
「俺と佳人の関係・・か」
椎奈は、遠い目をして言った。
「俺たちは、決して、結ばれることのない恋人同士のようなものだった」
「ええっ?」
俺は、椎奈の言葉に少し、狼狽えた。
「兄さんの恋人って、自殺した田原 直じゃないんですか?」
「田原 直、か」
椎奈は、言った。
「彼は、佐川さんの愛人だった。というか、佐川さんに飼われていたんだ。佳人も、似たようなものだったけどな」
「佐川さんに、飼われていた?」
「ああ」
椎奈は、頷いた。
「あの二人は、佐川さんのペットだった。特に、田原 直は、あの人に飼育されていた」
椎奈が言うには、田原 直の家は、少し、複雑な家庭だったのだという。田原 直が子供の頃、彼の弟が死んだ。交通事故だったらしい。以来、母親は、田原 直を弟殺しの兄として責め続けたのだという。15才の頃、母による虐待に耐えられなくなった田原は、家を出た。そして、歓楽街で男娼をしているところを佐川さんに拾われ、以来、彼に飼われていたのだという。
「基本、田原は、ノンケだった。田原が、本気で好意を持っていたのは、佳人だけだった」
田原は、自分と同じように佐川さんに飼われるようになった佳人を弟のように可愛がっていたのだという。
「二人は、本当の兄弟のように、お互いを愛していたんだ」
椎奈は、ため息をついた。
「佐川さんは、もう、長くない。あの人は、膵臓ガンで、もう、余命わずかだ。佳人も死んで、佐川さんまで失うとなると、田原は、行き場を失ってしまう。だから」
椎奈は、そこで言葉を切った。
だから、田原 直は、死を選んだのだろうか。
俺は、田原の孤独を思った。
大切な人を失ってしまう恐怖の中で、田原は、生きていた。
そして、再び、弟のように思っていた兄を失い、さらには、今、世話になっている人まで、失おうとしていたのだ。
だけど。
なぜ、田原は、俺のもとに、あの写真を送りつけたのか。
それは、椎奈にも、わからなかった。
ただ、あの写真の裏に書かれた言葉。
『語り得ぬことには、沈黙するしかない』
何を、田原 直は、語ることが、できなかったのか。
彼は、何を知っていたのだろうか。
ふと、俺が顔を上げると、椎奈と目があった。椎奈の整った顔を、俺は、じっと見つめた。俺は、ずっと、思っていたことをきいた。
「椎奈は、なぜ、兄さんを殺した犯人を探しているんだ?椎奈が、兄さんの恋人だったから、か?」
「そうじゃない」
椎奈は、微苦笑を浮かべて言った。
「確かに、俺は、佳人の恋人みたいなものだったが、恋人ではなかった。俺が、佳人を殺した犯人を探すのは、俺が、佳人を救うことができなかったからだ」
「えっ?」
俺は、椎奈にきいた。
「兄を救うことができなかった?」
「そうだ」
椎奈は、俺から視線を外して俯いた。
「俺は、さっき、苦しんでいる佳人を見捨てたといってお前の家族や、お前を最低の奴等だと思っていたといっただろう?そういう意味でいえば、俺は、もっと悪い。俺は、手を伸ばせば、すぐ届くところで苦しんでいる佳人を救わなかった」
「それは、救えなかったんじゃなくて?」
俺の言葉に、椎奈は、頷いた。
「俺は、佳人と同じ、だ。佐川さんのクラブで働いている。俺は、親がリストラされて、大学の学費が払えなくなったために、佐川さんのところで働くようになった。そこで、佳人と出会った。俺は、佳人と出会って、初めて、男を好きになった。だけど、佳人は、俺に言った。『自分は、どうでもいい相手としか、寝れない』って。佳人は、愛している者に抱かれることは、一度もなかった。なのに、どうでもいい相手には、誰でもいいから、抱かれていた。俺は、そんな佳人を救ってやることはなかった。俺は、ただ、苦しんで、もがいている佳人を見ていただけだった」
椎奈は、黙り込んでしまった。俺は、何となく、椎奈とその沈黙を共有していた。俺たちは、同じ男をそれぞれの方法で愛し、そして、救えなかったのだ。
「佳人は、愛している者を抱けないし、抱かれることもなかった。その苦しみにもだえる佳人を、俺は、愛していたんだ。俺は、酷い奴だ。ある意味、佳人を殺したのは、おれなのかもしれない。俺が、佳人を救わなかったから、佳人は、誰かに殺されたんだ」
俺は、椎奈の告白に、何も返す言葉がなかった。兄は、椎奈を愛していた。田原も愛していた。だけど、兄は、愛する人々には、抱かれることはなかった。
なら、誰が、兄を愛さなかったのか。いや、兄は、誰を愛さなかったのだろうか。
俺は、知る必要があった。
誰が、兄を抱いていたのか。
俺は、椎奈に、言った。
「俺を、あんたたちのクラブに、佐川さんの店に紹介してほしい」
椎奈は、ぎょっとした表情で俺を見つめていたが、すぐに、俺にきいた。
「それが、どういうことを意味するのか、お前は、わかっているのか?」
俺は、頷いた。
「俺が、兄を殺したのが、誰かを知るためには、俺自身が兄が辿ったのと同じ道を辿るしかない」
兄が、辿った道をいけば、きっと、兄が見ていたものを見ることができるはずだ、と俺は、思った。
兄が愛し、そして、愛さなかった者たちを、俺は、知りたかった。
椎奈が、何か、言いたそうな顔をして、俺を見た。
そのとき、バスがバス停に停車した。
俺は、バスに乗り込むために立ち上がった。その俺の腕を椎奈が掴んだ。
「絶対に、後悔することになる」
「それでも」
俺は、椎奈の腕を振り払った。
「俺は、やらなきゃならない」
俺は、バスへと向かって歩き出した。
佳人の。兄のために、俺が出来ることなんて、もう、他に何もなかった。
椎奈は、バスに乗り込んだ俺の後をついてきた。
俺たちは、一番後ろの座席に並んで座った。
バスは、動きだし、俺たちは、乗客のまばらなバスの中で、黙って、前を見たまま、座っていた。
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