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10 夏の夜の夢

10ー8 行くべきか、行かざるべきか

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 10ー8 行くべきか、行かざるべきか

 そりゃ、俺だって少しは心が痛むさ。
 自分がやったことがきっかけで街が一つ消されたりしたらな。
 だが、それは、俺のせいなのか?
 街を消すのは、俺じゃない。
 黒江がわざとらしくため息をついて見せる。
 「お前な、もう少し自分のやったことに責任を持ってくれよ?」
 はい?
 俺に黒江は、ぶちぶちと文句を言い出す。
 「もともとクルトゥ神を攻略するためにクルクスの街に拠点を移したんじゃないか。それが順調に進みすぎたからこんな騒ぎになってるんだぞ?」
 「ああ」
 俺は、黒江に逆に訊ねた。
 「そのことのどこが悪いんだ?」
 「悪くはない」
 黒江が答える。
 「だけど、よくもない」
 なんですと?
 俺は、ちょっと怒りを感じていた。
 なんで?
 まるで俺が悪人みたいにいわれるわけだ?
 悪いのは、攻め込んできた連中じゃね?
 「だが、その原因を作ったのはお前だ、薫」
 黒江がじっと俺を見上げた。
 「お前のせいで今、一つの街が消えようとしているんだ」
 消える?
 俺は、ちょっと考え込んだ。
 まだ、俺は、クルクスの街では新顔だ。
 行商の貸本屋も始めたばかり。
 前のクロイツェルの街ならともかく、俺がなぜ、街の人々に思い入れがなくちゃならない?
 だけど。
 俺は、ふと思い出していた。
 俺がクロイツェルの街を去るとき。
 いつも貸本を持っていってた店の小僧がそっと俺にお菓子をくれたっけ。
 菓子なんかめったに口にはいらないだろうに。
 それに。
 別の店のガキは、俺に摘んできただろう花をくれたな。
 もしかしたら、新しい街でもそんなことがあったかもしれない。
 もしかしたら。
 俺は、黒江に告げた。
 「すぐにクルクスに行くぞ」
 「薫?」
 黒江が驚いた様子で俺を見た。
 俺は、黒江に背を向けた。
 「早くしろ!」
 「ああ、わかった」
 黒江が頷く。
 あっ、そうだ。
 俺は、慌ててミミアスたちを呼び寄せる。
 隷属の魔法の絆を使えばすぐに引き寄せることができる。
 急に呼ばれたミミアスとクルトゥ、ラキアスは、キョトンとしてした。
 黒江が異世界への道を開く。
 俺たちは、そのまま光の中へと包み込まれた。
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