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1 転生者は、隠されたい。
1ー5 願い
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1ー5 願い
僕が赴くことになっているポリドール伯爵家は、この王国ができた頃からあるという名家で水魔法で名高い魔法使いの家系だ。
しかし、今代の当主は体が弱くあまり表に出てくることもないらしい。
僕は、乗り合い馬車に揺られながらあの夜の夢を見た。
ロイドの熱。
目が覚めると僕は、指で唇に触れていた。
乗り合い馬車には他にも数人の旅人が乗り合わせていたが、みな、それぞれ話したり居眠りをしたりしている。
僕は、なぜか、ホッとしていた。
僕が夢を見ていたことに誰も気付いてはいない。
もし、誰かに見られていたら。
僕は、頬が熱を持ってくるのを感じてうつむいた。
「これ、お兄ちゃんにあげる」
ふと声の方を見るとそこには幼い少女の姿があった。
かわいらしい茶色いふわふわの髪をした茶色い瞳の少女は無邪気な笑顔を浮かべて僕にカラフルな組み紐のミサンガみたいなものを差し出していた。
「これ、恋が叶うおまじないなんだよ」
「そうなの?」
僕は、その少女を邪険にすることはできなかった。
これから僕がお世話する子供たちのことを考えてしまう。
僕がその組み紐を受けとると少女は、前歯の欠けた口を開けて微笑んだ。
「その紐を手首につけてて。願いが叶うと紐が切れるんだよ」
「そうなんだ」
僕は、少女にうながされるままに手首にそのミサンガもどきを巻いた。
「お兄ちゃんの願い、叶うといいね」
「ありがとう」
僕は、少女の頭をそっと撫でた。
でも。
僕は、わかっていた。
僕の願いなんて叶う筈がないことを。
王都から乗り合い馬車で1週間ごとごとと進んでいくとポリドール伯爵領に到着した。
王国の北に位置するポリドール伯爵領は、広大な平野に豊かな麦畑が広がっている。
今の時期は、収穫に忙しいのだろう。
街道の辺りでは、領民たちが笑い声をあげながら麦を刈っていた。
どうやら豊作のようだし。
きっと伯爵領は、いいところなのだろう。
その日の夕方には領都クロノアに到着した。
僕は、馬車を乗り換えて街の小高い丘の上にある伯爵のお屋敷を目指した。
それは、目を見張るほどの立派なお屋敷だった。
ちょっとした城のような石造りの屋敷の大きな扉を叩くと軋むような音がして銀髪をオールバックにした渋いイケオジの執事が現れた。
僕がロイドからもらった紹介状を渡すと彼は、僕についてくるようにと促した。
屋敷の中もゴージャスで。
僕は、思わずきょろきょろとしてしまう。
赤い毛足の長い絨毯が敷き詰められた廊下の先に重厚な木の扉があった。
執事は、ドアをノックする。
「新しい家庭教師がこられました」
中からぼそっと声が聞こえて執事が扉を開く。
そこには、見たこともないぐらい贅を凝らした天蓋付きのベッドが置かれていて。
ベッドに半身を起こしてこちらを見ている初老の男性が僕を見て微笑みかけていた。
僕が赴くことになっているポリドール伯爵家は、この王国ができた頃からあるという名家で水魔法で名高い魔法使いの家系だ。
しかし、今代の当主は体が弱くあまり表に出てくることもないらしい。
僕は、乗り合い馬車に揺られながらあの夜の夢を見た。
ロイドの熱。
目が覚めると僕は、指で唇に触れていた。
乗り合い馬車には他にも数人の旅人が乗り合わせていたが、みな、それぞれ話したり居眠りをしたりしている。
僕は、なぜか、ホッとしていた。
僕が夢を見ていたことに誰も気付いてはいない。
もし、誰かに見られていたら。
僕は、頬が熱を持ってくるのを感じてうつむいた。
「これ、お兄ちゃんにあげる」
ふと声の方を見るとそこには幼い少女の姿があった。
かわいらしい茶色いふわふわの髪をした茶色い瞳の少女は無邪気な笑顔を浮かべて僕にカラフルな組み紐のミサンガみたいなものを差し出していた。
「これ、恋が叶うおまじないなんだよ」
「そうなの?」
僕は、その少女を邪険にすることはできなかった。
これから僕がお世話する子供たちのことを考えてしまう。
僕がその組み紐を受けとると少女は、前歯の欠けた口を開けて微笑んだ。
「その紐を手首につけてて。願いが叶うと紐が切れるんだよ」
「そうなんだ」
僕は、少女にうながされるままに手首にそのミサンガもどきを巻いた。
「お兄ちゃんの願い、叶うといいね」
「ありがとう」
僕は、少女の頭をそっと撫でた。
でも。
僕は、わかっていた。
僕の願いなんて叶う筈がないことを。
王都から乗り合い馬車で1週間ごとごとと進んでいくとポリドール伯爵領に到着した。
王国の北に位置するポリドール伯爵領は、広大な平野に豊かな麦畑が広がっている。
今の時期は、収穫に忙しいのだろう。
街道の辺りでは、領民たちが笑い声をあげながら麦を刈っていた。
どうやら豊作のようだし。
きっと伯爵領は、いいところなのだろう。
その日の夕方には領都クロノアに到着した。
僕は、馬車を乗り換えて街の小高い丘の上にある伯爵のお屋敷を目指した。
それは、目を見張るほどの立派なお屋敷だった。
ちょっとした城のような石造りの屋敷の大きな扉を叩くと軋むような音がして銀髪をオールバックにした渋いイケオジの執事が現れた。
僕がロイドからもらった紹介状を渡すと彼は、僕についてくるようにと促した。
屋敷の中もゴージャスで。
僕は、思わずきょろきょろとしてしまう。
赤い毛足の長い絨毯が敷き詰められた廊下の先に重厚な木の扉があった。
執事は、ドアをノックする。
「新しい家庭教師がこられました」
中からぼそっと声が聞こえて執事が扉を開く。
そこには、見たこともないぐらい贅を凝らした天蓋付きのベッドが置かれていて。
ベッドに半身を起こしてこちらを見ている初老の男性が僕を見て微笑みかけていた。
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