正しい子供の作り方

トモモト ヨシユキ

文字の大きさ
19 / 25
2 転生者は、愛されたい。

2ー9 描きたい

しおりを挟む
 2ー9 描きたい

 目のやり場に困っている僕を見てロイドがくすっと笑った。
 「ほんとに君は、可愛らしいな」
 ロイドが体を拭き終わるのを待って僕は、彼にシャツを渡す。
 それを羽織ながら彼は、そっと僕の耳元で呟く。
 「あまりかわいくて我慢ができなくなりそうだよ、ダニー」
 「はひっ!?」
 思わず変な声を出してしまった僕にロイドがクスクス笑った。
 夕食前に一度自分の部屋へと戻った僕をフェリオス様が待ち構えていた。
 最近、フェリオス様は、僕の部屋で絵を描いていることがよくある。
 別に誰がフェリオス様が絵を描くことに反対しているということもないのだが、彼は、僕の他の者には絵を描いていることを隠したがっているようだ。
 それで、今まで拾った木炭で紙にスケッチしていたらしい。
 でも、僕が色鮮やかな絵の具や絵の道具をプレゼントした。
 ちょっとお高かったけど、僕は、それをどうしてもフェリオス様に贈りたかったんだ。
 僕には、絵のことなんてよくはわからない。
 けれど、フェリオス様の描く絵は確かに煌めいていた。
 才能、とでもいうのだろうか。
 フェリオス様には、絵の才能がある。
 きっと名のある者に弟子入りすれば後世に残る絵師になれるだろう。
 しかし、それは許されない。
 フェリオス様は、このポリドール伯爵家の嫡男なのだから。
 絵師になることはできなくても趣味で絵を描くことは許される。
 だから、僕は、フェリオス様に絵を描き続けて欲しいと思っている。
 僕は、フェリオス様の作品が飾られた部屋をぐるりと見回した。
 風景画が多いが何枚かは静物画もあった。
 「フェリオス様は、人物画は描かないのですか?」
 ふと僕が訊ねるとフェリオス様がびくっと体を震わせた。
 「人間は、嫌いだ」
 フェリオス様は、絵から顔を上げることなく呟く。
 「人間は、嘘をつく」
 僕は。
 8歳の子供の言葉に胸が締め付けられるような気がした。
 この敏いお子は、どれだけ傷ついてきたのか。
 守って差し上げたい。
 僕は、そう、思った。
 「なら、人間を信じなくてもいいのでは?」
 僕は、床の上に道具を広げて絵を描いているフェリオス様の前に跪く。
 「人間を信じる必要はありません。必要なことは、あなたが幸福であることですから。ただ、あなたを心から愛し気を配っている人たちがいることだけは忘れないで」
 フェリオス様は、応えなかった。
 僕たちは、しばらく静寂の中にいた。
 お互いの鼓動、呼吸音。
 それ以外は何も感じることはできなかった。
 しばらくして。
 「・・・お前のことは、描きたいと思った」
 フェリオス様が顔を上げて僕のことを見つめた。
 「ダニー。お前のことが描きたい」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...