正しい子供の作り方

2 転生者は、愛されたい。

2ー10 8歳の熱情

　２ー１０　８歳の熱情

　「いいですよ」
　僕は、頷いた。
　「喜んであなたのモデルになりましょう」
　「ほんとか？」
　フェリオス様がぎらぎらと輝く青い瞳で僕をとらえた。
　「ほんとにお前を描いてもいいんだな？」
　「はい」
　僕がにっこりと微笑むとフェリオス様の顔が真っ赤に染まる。
　「約束だからな！」
　フェリオス様は、立ち上がると勢いよく部屋から飛び出していった。
　途中、彼は、僕を振り向き再度確認する。
　「ほんとに、ほんとに約束したぞ！」
　「わかってます」
　答える僕に向かってフェリオス様は、はにかむような笑みを浮かべると去っていった。
　ふぅっと僕は、ため息をつく。
　フェリオス様は、苛烈だ。
　あの小さな体に嵐のようなものを抱え込んでおられる。
　いつか、その熱情が彼を傷つけることがなければいいのだが。
　僕は、さっきまでフェリオス様が描いていた絵を手にとって眺めた。
　それは、この部屋から見える庭の風景で。
　秋が終わり長い冬が来る直前の夕暮れの風景だった。
　ここに来た頃は、まだ秋の最中でっ人々は収穫に沸いていた。
　けれど。
　冬が来る。
　このポリドール領の冬は、厳しく長いとラキアスさんからきいていた。
　王都育ちの僕にとっては、辛いかもしれないと、ロイドも言っていた。
　僕は、窓を押し開けた。
　冷たい風にぶるっと体を震わせる。
　「冬、か」
　冬は、貴族にとって社交の季節だ。
　だが、このポリドール領においては冬は、孤独に耐えなくてはならない季節なのだ。
　ポリドール伯爵が病に倒れてからほぼほぼこの地を訪れる貴族もなく、フェリオス様たちも王都に行ったことがない。
　今まで、どうやってこの寂しい季節を過ごしてきたのだろうか。
　特にフェリオス様のようなお子には、辛かったことだろう。
　あの方は、敏すぎる。
　まるで他人の心まで見透かすような青い瞳。
　僕は、フェリオス様の瞳を思い出してなぜか胸がどきどきするのを感じていた。
　真摯な眼差しだった。
　僕にモデルになって欲しいと頼んだ時のフェリオス様の眼差しは、熱をもっていて。
　それは、ただの子供の持つ熱とは少し違うような気がして僕は、胸が高鳴った。
　いや。
　僕は、頭を振ると窓を閉める。
　そんなわけがない。
　あの、８歳の少年の眼差しがロイドのものと似ているなんてことあるわけがない。
　「まさか、ね」
　僕は、苦笑した。
　まさか、８歳の子供が僕に本気で恋しているわけがないし！
　でも。
　僕は、フェリオス様のことを侮っていた。
　８歳児の一途な熱情を僕は、理解しきれていなかった。
　そのことを僕は、思い知ることになるのだ。