魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます

トモモト ヨシユキ

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35 それを望んだのは

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    魔王による戦いの刻終結から約2ヶ月が過ぎた。
   『魔王の杜』ダンジョンのダンジョンシティ  グランの聖光神教会においてルファスと侑真の結婚式が行われた。
    それは、表向きは、2人の異世界人のカップルの結婚式だったが、実は、魔王と元勇者の結婚式だった。
    式は、ごく内輪だけで行われた。
   王都から招いたルファスの母であるラミアさんとその夫であるインダラーク伯爵とルファスの弟ヴィスコンティと、俺とイオルグとビザークだけが参列していた。
     その若いカップルは、お揃いの白とグレーの上下を身に付け、白と緑の美しいブーケを手にしていた。
    俺にとって、俺自身の体を持っているルファスが俺の幼馴染みの侑真と結ばれることは、いまだに信じがたいことだった。
    どこか白昼夢的な気持ちでいた俺は、厳かな式が終わり、グランの街でもちょっと有名なカフェを借りきってのパーティーが始まる頃になっても、まだぼんやりとしていた。
    「どうしたんですか?ハジメ」
     ヴィスコンティが俺に声をかけてきた。
   「うん・・」
    俺は、どこか上の空で返事をした。
   「なんでも、ないよ」
    「本当に?」
     ヴィスコンティが俺の額に自分の額を寄せた。
   「少し熱っぽいですね。今日は、もう引き上げる方がいいかもしれないですね」
    俺は、ヴィスコンティに同意した。
   最近、少し、風邪気味だったんだ。
   俺は、ルファスと侑真に詫びを言ってからヴィスコンティと連れだってダンジョンへと帰った。
    ヴィスコンティは、俺をベッドへ休ませるとその隣へ寄り添ってくれた。
   「ルファスたち、幸せそうだったね」
    俺が呟くと、ヴィスコンティがそっと俺の髪をすきながら言った。
   「ハジメもああいう風に結婚式をしたい?」
   「それは、わからないなぁ」
   俺は、ヴィスコンティと目があってドキッとした。俺たちは、どちらともなく口づけを交わした。
   ヴィスが俺の下唇を甘く噛みながら俺に優しく訊ねた。
    「俺と結婚してくれますか?ハジメ」
     「ヴィス」
     俺は、頷いていた。
    「俺でよかったら」
    「あなたでないとダメです」
     ヴィスコンティが俺を抱いて囁いた。
   「あなたがいい、ハジメ。私は、あなたを愛しているのだから」
        その夜。
   深夜に、俺は、不意に激しい腹痛に目覚めた。
   脂汗が流れるほどの痛みに、俺は、思わず呻いた。
   隣で休んでいたヴィスコンティが、俺の異変に気づいて飛び起きた。
   「ハジメ?どうしたんですか?」
    「平気、だよ、ヴィス。ちょっとお腹が痛いだけだから」
   「すぐに医部の者を呼びます」
    ヴィスコンティは、すぐにベッドから出るとダンジョン内連絡用のスライムに向かって呼び掛けた。
   「医部を頼む」
    2~3分して白衣姿のアイリがスライムに応答した。
   「こちら、医部です。どうされましたか?」
   「ああ」
     ヴィスコンティがスライムに映し出されたアイリに言った。
   「ハジメが腹痛で。ちょっと来てもらえるか」
  「ハジメ様が?すぐに行きます」
    駆けつけたアイリは、俺の体に手を置き体内をスキャンすると、俺に優しく言った。
   「大丈夫ですよ、ハジメ様」
    そう言うとアイリは、俺の額に手をあてた。
   暖かい。
  アイリの手を通じて癒しの力が俺の中へと流れ込んでくるのを感じて、俺は、目を閉じた。

   翌朝。
   目を覚ますと俺の腹痛は、嘘のようにおさまっていた。
   俺は、空腹に気づいた。
   そういえば、昨日の夕方からほとんど何も食べていなかった。
   俺が体を起こそうとすると、枕元に腰かけていたヴィスコンティが俺を止めた。
   「ハジメ、あなたは、当分、安静にしててください」
    「なんで?」
    俺がきくとヴィスコンティは、口ごもった。
   「それは・・」
    そのとき、部屋のドアがノックされてククルがトレーに乗った朝食を運んできた。
   「ヴィスコンティさんも、ハジメ様と一緒にどうぞ」
   ククルは、ベッド脇のテーブルにトレーを置いた。
   ダンジョンでとれた蜂蜜をたっぷりとかけたフレンチトーストに、新鮮な野菜のサラダに、ベーコンエッグといったメニューだった。
   俺は、ベッドから起き出して、朝食を食べ始めた。
   ククルは、カップに紅茶を注ぐとそれを、ヴィスコンティに手渡した。
   「ありがとう、ククル」
    ヴィスコンティが礼を言うと、ククルは、嬉しそうに微笑んだ。
   「ヴィスコンティさんも召し上がってください。ダンジョンの農園でとれたイチゴのジャムもありますよ」
    ククルは、自慢げに胸をはって言った。
    ヴィスコンティは、ククルを見てにっこりと笑った。
    俺たちが用意されていた朝食を美味しくいただくと、それを見届けて、空になった皿を積んだトレーを持って、ククルは、部屋を出ていった。
    それと入れ替わりにアイリが入ってきた。
   「おはようございます、ハジメ様」
    アイリは、にっこりと微笑むと俺にきいた。
   「体調は、いかがですか?」
   「うん。絶好調だよ」
    俺は、答えた。
   「仕事もあるし、早く起きたいんだけど、ヴィスコンティがダメだって言うんだよ」
   「そうですね」
    アイリが頷いた。
   「当分は、仕事は休んで、ゆっくりと過ごしてくださいね。でないとお体にさわりますから」
    「どういうこと?」
    俺は、訝しげにアイリに訊ねた。
   「なんで、休んでなきゃいけないの?はっきり言ってよ」
   アイリは、ヴィスコンティの方を窺った。ヴィスコンティが頷く。
    「その、ハジメ様、落ち着いてきいてくださいね。あなたの体内には、今、異物が存在しています」
     「異物?」
     俺は、キョトンとしていた。
     アイリは、俺の手に触れながら、言った。
    「心配しないでくださいね。異物とは言っても、悪い病気とかでは、ありません。その、あなたの体の中にいるものは・・」
    アイリが言いにくそうに言った。
   「新しい生命が宿っているんです」
    「はい?」
    俺は、一瞬、フリーズした。
   新しい命?
   何、それ?
   俺は、笑いながらアイリにきいた。
   「なんだよ、それ。新しいジョークかなんか?」
   「冗談では、ありません」
    アイリが真剣な表情で俺の手を握って言った。
   「なぜかは、わからないのですが、あなたの体内には、確かに、新しい命が芽吹いています」
    マジで?
   俺は、頭がくらくらしていた。
   子供、だって?
   なんで?
   そう思って、俺は、ふと2ヶ月ほど前のあの日のことを思い出していた。
   「抱いてやる。お前が孕むまでもな」
   ミハイルのあの言葉が甦ってきて、俺は、嫌な予感がしていた。
   あのとき。
   俺の中にいたもう一人の俺、光の神の一部である俺は、俺に体を貸してくれ、と言った。
   それは、あの日、ミハイルと交わるためにということだと思っていた。
   だけど、もしかしたら、それは違っていたのかもしれない。
   あの言葉は、もっと違う意味の言葉だったのかもしれない。
   例えば。
   ミハイルともう一人の俺の子供が産まれるまで俺の体を借りるということだったとか。
   「どういうこと?」
    俺は、少し、パニクっていた。
   俺は、ヴィスコンティの存在を思い出して、はっと息を飲んだ。
   ヴィス。
   ミハイルとミハイルを愛するもう一人の俺が、あのとき、クローゼと俺の体を使ってしたことをヴィスコンティは、知らないはずだった。
    俺は、ヴィスコンティに全てを話したけれど、その部分だけは、話すことができなかった。
    どうすればいい?
   俺は、頭が混乱していた。
   ヴィスコンティにどう話せばいい?
   「ヴィスコンティと2人にしてくれないか?」
   俺が言うと、アイリは、黙って部屋から出ていった。
   俺たちは、2人きりになった。
   静けさで息苦しくって、俺は、軽く咳払いをした。
   時間が過ぎていくのが、すごくゆっくりに感じられる。
  俺は、口を開きかけて、止まった。
   ヴィスコンティも黙ったまま、動かなかった。
   ヴィスは、待ってくれている。
   俺には、わかっていた。
   ヴィスコンティは、俺が話すのを待っているんだ。
   「ヴィスコンティ、俺、黙っていたことが・・」
   俺は、ミハイルと俺の一部であったもう一人の俺の物語を話した。
   光と闇に分かたれながらも深く愛し合っていた2人の話を。
   その2人が消滅する前に望んだこと。
   それは、きっと、2人の子供がこの世界に生まれ落ちることだったのだ。
   「俺が望んだわけじゃない。だけど、俺の一部だったもの、もう一人の俺がそれを望んだんだ」
   ヴィスコンティは、無言だった。
   俺も、黙り込む。
   長い長い時間、俺たちは、黙ったままで俯いていた。
   「私は」
    やがて、ヴィスコンティが口を開いた。
   「王都へ、帰ります」
    その言葉に、俺は、打ちのめされていた。
   ヴィスコンティが。
   この世界に来てからずっと俺の側にいてくれたヴィスコンティが俺のもとを去ろうとしていた。
    だけど。
    俺は、何も言わずに、ただ、小さく頷いた。
   俺に、何が言えるというんだろう。
   そして。
    ヴィスコンティは、部屋を出ていった。
   俺は、1人残された。
   うすら寒いただっぴろい部屋で1人、俺は、俯いていた。
   俺は、愚かだ。
   全てを失ってしまった。
   俺は、ひとりごちた。
   大丈夫。
    俺は、頭を振った。
   昔に戻っただけだ。
   ヴィスコンティに出会う前の自分に戻っただけ。
   俺は。
   涙が頬を流れていく。
   1人でも、生きていける。

    
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