春宮くんは靡かない。

文字の大きさ
4 / 6

4. 春宮くんは貧乏人。

しおりを挟む


 春宮 梓は貧乏大学生である。

 具体的には『麗明大学』という難関大学の理学部に所属する大学生(貧乏)だ。所謂難関大学という括りの中では中間くらいの難易度なのだが、『麗明大学』は校舎も綺麗で学内施設も整っており、非常に人気のある大学である。
 かく言う梓も第1志望の学校だった。奨学金制度も整っており、学園が認める成績優秀者になれば奨学金は返さなくても良くなるというそれに惹かれて入学した。

 とはいえ。


「梓、おはようー!今日も顔死んでんな」
「……はよ。課題で徹夜」
「うわぁー、俺やってもねーわ」
「俺もー。やってない奴の方が多そう」


 ルーズな友人達に囲まれながら、自分を維持するのは存外難しい。
 彼等のように適宜サボり自由に遊ぶ事もまた、「大学生」としての魅力だと思う。それを出来ずにいる自分は、本当に大学生として人生を楽しめているのか。

 無言で講義の準備を始めた梓に、げらげらと笑っていた友人達もいつしか気遣わしげな視線を寄越してくる。


「梓さ、サークルとか入んねぇの?もっと楽しもうぜ。折角の大学生なんだから」
「入らない。時間ない。金ない」
「そんな3段活用みたいな……。てか金ないの?あんな働いてんのに」
「妹と弟に仕送りしてるから」


 今年高校2年生になった妹と、中学3年生になった弟。我儘言いたい盛りの年齢の彼等は、今厳格な祖父母の家で窮屈な思いをしているのだ。
 そんな彼等にせめて、時折自由に遊ぶくらいのお金を、と。
 
 祖父母に生活費として3万。妹と弟にそれぞれ1万。月に彼等に渡している。


「……は、多くね?お前バイト代月どんくらいよ」
「大体9万。103万超えないように調整はするけど」
「生活費4万!?いやいや、家賃は?」
「……家賃2万」
「どんなボロアパートだよ!!!こわっ!!」


 なんだと。確かに壁は薄いし鍵は壊れているけれども。5畳くらいはあるし案外過ごしやすいのだ。それに大家さんも中々ルーズで良い人だし。
 そう言えば、友人達は何故かすっかりドン引きした様子で梓を見つめた。

 所謂「パリピ」に属する友人達は、何故か梓のような愛想のない人間のそばに居て心配までしてくれる。その事が嬉しくて、梓はほんの少しだけ頬を緩めた。


「あ、あずにゃんスマイル。なんで今?」
「何その通称……」
「激レアかつキュートだからついた。見てほら俺の手、梓のこと抱き締めたくて痙攣してるから」


 成程、ぶるぶると異様に震える友人達の手元を見つめ、梓は彼等と少しだけ距離をとる。彼等は「そんなあずにゃんも好き……」等と妄言を吐いて倒れていった。あずにゃん呼びやめてほしい。

 しかし、「とまぁそれは置いといて」と復活してきた友人は、殊更心配そうな表情で梓を見つめる。首を傾げれば何故か溜息を吐かれ、「そういうとこだよ」とよく分からない苦情を言われた。
 

「まじでさ、金なら貸すし家もルームシェアするくらいはできるからさ。しんどくなったら来いよ?」
「俺2人暮らし無理だわ」
「ねぇ梓くん?今そういう話じゃないよね?」
「ルームシェアっていうから……」
「聞いてくれるかなぁ???」


 ニッコリ笑顔で梓の両肩を掴んだ友人。

 
『俺の愛人にならないか』


 友人の姿が、昨日の「ヤバい奴」と重なって、梓は思わず身を捩る。昨日とは違って簡単に拘束は外れたものの、顔を上げると、彼等友人は不審そうな顔で梓を見下ろしていた。

 ーー傷付けて、しまっただろうか。俄に焦る梓だが、その考えは一瞬で払拭された。


「…………。ちょっと梓何だその反応」
「え?今あずにゃん怯え……?え?」
「梓、なんかあった?」


 次々と身を乗り出して迫り来る友人達。彼等の目には一様に心配の色が宿っていて、梓は柄にもなく嬉しくなってしまった。
 
 
「……あー、昨日、バイト先で」


 「愛人契約」を持ち掛けてくる男に出会ったこと。
 其奴にバイト終わりまで待ち伏せされ、道で壁に押し付けられて執拗に迫られたこと。
 何故か、自分の個人情報を把握していたこと。

 全てを話し終えた梓は満足気に息を吐いた。


「いやいやいや、なんでそんな余裕なん?家出よ?絶対ストーカーじゃんそれ。やばいよどうする『冬木』、俺らのあずにゃんが変態の魔の手にあわわわわ」
「落ち着け『秋穂』。なぁ梓、本当に大丈夫か……いや、大丈夫じゃないんだ。家も絶対にバレてるだろ?もし家に来られたら家賃2万のセキュリティで梓を護れるか?」
「鍵壊れてるから無理だな」
「うん引っ越して?」


 3人の友人こと、冬木、秋穂、夏海は心配そうに梓を見つめ、既に引っ越し先の住宅を決めようなんて話を始めている。しかし、2万以上の家賃の所だと梓は生活に困って飢え死んでしまうので、彼らには申し訳ないがこの先も引っ越すつもりはない。
 その事を伝えると、彼らは何故か梅干を丸ごと食ったかのような渋い顔になってしまった。

 真剣に会話している彼らには申し訳ないが、機能の男は不審者と言えど何故かやたら聞き分けは良かったから、きっと唯のおふざけだと思うのだ。
 「愛人契約」なんて男が男に持ちかけるものでもないし。


「……とにかく。マジでなんかヤバそうな奴がいたり気配を感じたら、直ぐに警察と俺達の誰かに伝えろ」
「優先順位とか決めといた方が良いんじゃなーい?」
「確かに。じゃあ冬木→秋穂→俺にするか。俺バイトあるし、冬木はバイトしてないだろ?」
「長期休暇で荒稼ぎするからな」
「じゃあそれで」


 ……。梓がぼんやりとノートに目を落としている間に、勝手に連絡網が決まっていた。とはいえそれは彼らなりの優しさと最大限の譲歩だと思うので、梓は有難く受け取ることにした。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

冬木(20)
梓の友人その1。1浪している。
テニサーに入っていて夜は飲み会盛り。長期休暇で荒稼ぎするタイプ。

秋穂(19)
梓の友人その2。
同じくテニサーに入っていて夜は飲み会盛り。塾講をしている。喋り方が緩い。

夏海(18)
梓の友人その3。
まだ誕生日が来ていない。
軽音サークルとテニサーを掛け持ちしていて3人の中では1番忙しい。カラオケでバイトしている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

処理中です...