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6. 冬木くんは心配する。
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冬木 和真は苦労性である。
大学での仲良し4人組の中では当然のように引率役に収まっているし(年上ということもあるだろうが)、サークル内でも1回生にして既に先輩から職務を与えられこき使われている程度には頼られている。
とはいえ、本人は適度にサボり適度に遊ぶ柔軟さも持ち合わせているので、特にストレスを抱えることなく生活できているのだが。いわゆる、頭はいいのに成績は悪い(やれば出来る)タイプである。容量が良いとも言う。
そんな冬木は、大学で出会った少年――春宮 梓のことが、心配で心配で仕方ない。
「飯に誘われた!?」
「うん。通報したけど」
「いやいや、でもまた次の日には来たんだろ」
「来た。ウインナーコーヒー頼んでた」
「いや知らんけども」
4人の中で最も真面目で素っ気ない少年は、しかし何処かボケボケなところがある。真顔のままその日のストーカーのメニューを告げる彼の目には、恐怖や不安など微塵も浮かんでいない。普通なら、異性なら勿論同性であっても混乱する出来事の渦中にいるというのに、だ。
冬木よりも講義を多くとっており、先にこの事について話していたであろう夏海と秋穂をチラリと一瞥すると、彼らは揃って諦めた表情で首を振った。俺も苦渋の表情を浮かべつつ、梓を再び見つめる。
3人の渋い顔を見つめた梓は、首を傾げている。
「マジで接近禁止命令とか出してもらったほうがいいんじゃね?警察も通報して来てくれてんだったら協力してくれるだろ。警察はなんて言ってんだ?」
「『現行犯で手を出されない限り』云々。現行犯で絡まれてるけど」
「警察君さぁ……。ねーあずにゃん、俺のバイト先来る?塾講だから給料もいいよ?」
「マジ?バイト増やそうかな」
いや増やすんじゃなくてね。
という秋穂の心の声が聞こえた気がする。秋穂はとうとうレモンを丸齧りしたような顔になってしまった。
冬木はため息を吐き、梓の艶やかな黒髪を撫でる。その手をすぐさま叩き落とす彼は、決して警戒心に掛けた天然馬鹿ではないのだ。何なら人間関係構築を面倒くさがる方で、冬木達もグループワークなどで何度も声をかけてようやく仲良くなることができた過去がある。
そんな彼が、出禁にすることなく関わりを持っている理由が、冬木には分からなかった。
――というか、気に入らない。
だって、金に苦労している梓の情報を知ったうえで、「良い食事」で梓を唆すなんて。それはつまり、梓を「金で釣ろうと思えば釣れるやつ」と考えて愛人契約とやらを持ち掛けたということになるはずだ。梓を軽視しておいて、あわよくば恋仲になろうだなんて、なんて傲慢な男なのだろう。
冬木からしてみれば、男への印象は最下層なのだ。そんな男を梓に近づけたくない。
「今度、バイト中に行こうか?3人でカウンター席占拠すれば流石にあきらめて帰るだろ」
「お、冬木めいあーん。ね、あずにゃん俺チョコレートが好きなんだけどメニューある?」
「俺はチーズケーキがいいー」
「……フォンダンショコラとガトーショコラ、ザッハトルテがある。フォンダンショコラは数量限定だから要予約だと思うけど。チーズケーキはベイクドとレア」
来るな帰れ、とも来て、とも言わないところが、梓の「グッとくる」ポイントだと思う。無意識で人の庇護欲を煽るのだから質が悪い。男が何故梓に夢中になるのかを、冬木達は何となくわかるのだ。――分かるから、むかつくのだが。
冬木は3人で予定を合わせ、カウンター席を予約してもらうよう梓に頼む。秋穂はついでにフォンダンショコラの予約も頼んでいた。快く了承してくれた梓はスケジュール帳にその旨を素早く書き込むと、教科書を再びペラペラめくり始めた。
秋穂と夏海のくだらない日常の話を何となく耳に入れながら、冬木はじっと梓を観察する。
真っ黒な髪に真っ黒な目。色白な肌がその黒をより強調していて、愛想のない彼にミステリアスな印象を加えている。その内面を暴きたくなる、とは同回生の女性陣の弁。面が良いのでモテているが、如何せん愛想がないので告白する勇気のある者も現れず、女性陣は「出る杭は打つ」スタンスでいるという。
出る杭は学外にいるんだぞ、と周辺に座っている女性陣には伝わっただろうか。何人かの女子生徒がスマホをカチカチと忙しなくいじっているので、梓のカフェはしばらく女性客が増えるに違いない。
そのまま、大人の男が居づらいカフェになってしまえばいいのだ。
どうせ梓は誰にも恋焦がれることはないので、彼女ができるといったイレギュラーも起こらない。
「つまりは、大団円」
「……?なんか言った?」
「いや、独り言。ーーつーか、梓、マジで夜は特に気をつけろよ」
またその話か、と途端に面倒くさそうな顔になる梓。その目をじっと見つめ、真剣な表情で冬木は言葉を続ける。
「パッと梓をとんでもねぇ高級レストランに誘えるほどの金持ちだぞ。ぜってぇ怪しいだろ。どこの会社か知らねぇの?」
「………………いや、よく考えたら名前すら知らねーわ」
「は?」
ポカンと口を開けて固まった冬木を見つめ、梓が気まずそうに頬を掻いた。そして、思い出すように暫し虚空を見上げ、再び「うん、聞いてない」と呟いた。
「…………お前、それ下手したら怪しい職業とかじゃねーの。絶対絆されんなよ。間違っても2人で会うな」
「会わねーよ」
退屈そうな無表情で息を吐く梓に、冬木も重い溜息を吐いた。
大学での仲良し4人組の中では当然のように引率役に収まっているし(年上ということもあるだろうが)、サークル内でも1回生にして既に先輩から職務を与えられこき使われている程度には頼られている。
とはいえ、本人は適度にサボり適度に遊ぶ柔軟さも持ち合わせているので、特にストレスを抱えることなく生活できているのだが。いわゆる、頭はいいのに成績は悪い(やれば出来る)タイプである。容量が良いとも言う。
そんな冬木は、大学で出会った少年――春宮 梓のことが、心配で心配で仕方ない。
「飯に誘われた!?」
「うん。通報したけど」
「いやいや、でもまた次の日には来たんだろ」
「来た。ウインナーコーヒー頼んでた」
「いや知らんけども」
4人の中で最も真面目で素っ気ない少年は、しかし何処かボケボケなところがある。真顔のままその日のストーカーのメニューを告げる彼の目には、恐怖や不安など微塵も浮かんでいない。普通なら、異性なら勿論同性であっても混乱する出来事の渦中にいるというのに、だ。
冬木よりも講義を多くとっており、先にこの事について話していたであろう夏海と秋穂をチラリと一瞥すると、彼らは揃って諦めた表情で首を振った。俺も苦渋の表情を浮かべつつ、梓を再び見つめる。
3人の渋い顔を見つめた梓は、首を傾げている。
「マジで接近禁止命令とか出してもらったほうがいいんじゃね?警察も通報して来てくれてんだったら協力してくれるだろ。警察はなんて言ってんだ?」
「『現行犯で手を出されない限り』云々。現行犯で絡まれてるけど」
「警察君さぁ……。ねーあずにゃん、俺のバイト先来る?塾講だから給料もいいよ?」
「マジ?バイト増やそうかな」
いや増やすんじゃなくてね。
という秋穂の心の声が聞こえた気がする。秋穂はとうとうレモンを丸齧りしたような顔になってしまった。
冬木はため息を吐き、梓の艶やかな黒髪を撫でる。その手をすぐさま叩き落とす彼は、決して警戒心に掛けた天然馬鹿ではないのだ。何なら人間関係構築を面倒くさがる方で、冬木達もグループワークなどで何度も声をかけてようやく仲良くなることができた過去がある。
そんな彼が、出禁にすることなく関わりを持っている理由が、冬木には分からなかった。
――というか、気に入らない。
だって、金に苦労している梓の情報を知ったうえで、「良い食事」で梓を唆すなんて。それはつまり、梓を「金で釣ろうと思えば釣れるやつ」と考えて愛人契約とやらを持ち掛けたということになるはずだ。梓を軽視しておいて、あわよくば恋仲になろうだなんて、なんて傲慢な男なのだろう。
冬木からしてみれば、男への印象は最下層なのだ。そんな男を梓に近づけたくない。
「今度、バイト中に行こうか?3人でカウンター席占拠すれば流石にあきらめて帰るだろ」
「お、冬木めいあーん。ね、あずにゃん俺チョコレートが好きなんだけどメニューある?」
「俺はチーズケーキがいいー」
「……フォンダンショコラとガトーショコラ、ザッハトルテがある。フォンダンショコラは数量限定だから要予約だと思うけど。チーズケーキはベイクドとレア」
来るな帰れ、とも来て、とも言わないところが、梓の「グッとくる」ポイントだと思う。無意識で人の庇護欲を煽るのだから質が悪い。男が何故梓に夢中になるのかを、冬木達は何となくわかるのだ。――分かるから、むかつくのだが。
冬木は3人で予定を合わせ、カウンター席を予約してもらうよう梓に頼む。秋穂はついでにフォンダンショコラの予約も頼んでいた。快く了承してくれた梓はスケジュール帳にその旨を素早く書き込むと、教科書を再びペラペラめくり始めた。
秋穂と夏海のくだらない日常の話を何となく耳に入れながら、冬木はじっと梓を観察する。
真っ黒な髪に真っ黒な目。色白な肌がその黒をより強調していて、愛想のない彼にミステリアスな印象を加えている。その内面を暴きたくなる、とは同回生の女性陣の弁。面が良いのでモテているが、如何せん愛想がないので告白する勇気のある者も現れず、女性陣は「出る杭は打つ」スタンスでいるという。
出る杭は学外にいるんだぞ、と周辺に座っている女性陣には伝わっただろうか。何人かの女子生徒がスマホをカチカチと忙しなくいじっているので、梓のカフェはしばらく女性客が増えるに違いない。
そのまま、大人の男が居づらいカフェになってしまえばいいのだ。
どうせ梓は誰にも恋焦がれることはないので、彼女ができるといったイレギュラーも起こらない。
「つまりは、大団円」
「……?なんか言った?」
「いや、独り言。ーーつーか、梓、マジで夜は特に気をつけろよ」
またその話か、と途端に面倒くさそうな顔になる梓。その目をじっと見つめ、真剣な表情で冬木は言葉を続ける。
「パッと梓をとんでもねぇ高級レストランに誘えるほどの金持ちだぞ。ぜってぇ怪しいだろ。どこの会社か知らねぇの?」
「………………いや、よく考えたら名前すら知らねーわ」
「は?」
ポカンと口を開けて固まった冬木を見つめ、梓が気まずそうに頬を掻いた。そして、思い出すように暫し虚空を見上げ、再び「うん、聞いてない」と呟いた。
「…………お前、それ下手したら怪しい職業とかじゃねーの。絶対絆されんなよ。間違っても2人で会うな」
「会わねーよ」
退屈そうな無表情で息を吐く梓に、冬木も重い溜息を吐いた。
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感想ありがとうございます!
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