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陰謀
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◇式典◇
ひっそりとした結婚式であった。
新郎は近衛騎士団長。
新婦は元聖女。
本来ならば、王宮のそうそうたる面々が揃うはずの挙式である。
だが、つきまとう醜聞のため、新郎の父と新婦の母のみが二人を見守った。
「イリオス・スペンダー伯。貴殿はミーナス・フェルン子爵令嬢を、終生愛すると誓いますか?」
イリオスは一瞬、間を取り答える。
「……誓います」
ミーナスも同様に、誓いを告げる。
続いて誓い固めのキスとなる。
イリオスは短めのミーナスのヴェールを上げ、彼女を見る。
湖面を思わせる彼の蒼い目は、すぐに伏せられた。
交わした唇は、やけに冷んやりしていると、ミーナスは感じた。
イリオスの父スペンダー伯爵が、労わるようにミーナスを見つめた。
ミーナスの母は、ハンカチで目尻を押さえた。
それぞれの親に挨拶を済ませ、二人は馬車に乗る。
新居は王都の中心から離れた、馬車で一刻ほどの閑静な場所にある。
スペンダー伯爵が、二人のために建ててくれた。
「君を……」
ガタガタと走る馬車の中で、不意にイリオスが言う。
「君を愛することは、ない」
ああ、それで、先ほどの誓いの言葉を言うのに、一瞬の間があったのか。
「心得て、おります」
感情を表すことなく、ミーナスは答える。
その後二人とも無言のまま、馬車は新居にたどり着いた。
◇陰謀◇
ロガリア王国は、王都に王宮と神殿が並ぶ。
王国の守護神は、女神キニージュ。
狩猟する乙女の姿で描かれる。
女神の加護は、王国に『聖女』という存在をもたらした。
聖女は女神キニージュの持つ、七つの宝玉のいずれかを持ち、十二歳から十七歳まで神殿で生活をする。
世俗的な欲望を封じ込め、ひたすら神に仕える聖女は、ロガリア王国においては王族に次いで権威を与えられている。
還俗すれば、数多の縁談に恵まれる。
聖女の血脈を受け継ぎたいと、多くの貴族は願っている。
そして時には、王太子や王子に嫁ぐものもいる。
ミーナス・フェルンは神託を受けた十二歳の時に、七つの宝玉のうち、六つを持つと認められた。それは歴代聖女の中でも最高の資質である。彼女の持つ宝玉とは、「癒し」「完治」「清浄」「祓い」「解呪」「結界」である。
記録によれば、七つ全てを内包した聖女は、存在していない。
宝玉を一つでも有していれば、神殿の聖女となれるのだ。
神殿は歴代最高の聖女を国民の前に出し、一層の信仰心を煽ろうとした。
ただし残念ながら、ミーナスの外見は、至って凡庸なものであった。
多くの聖女が持つ、プラチナブロンドの髪も、宝石を思わせる青や碧の瞳も、彼女は持ち合わせなかった。
神官たちは協議し、ミーナスと同時に聖女の認定を受けた少女三人と合わせて、聖女の職務を与えることにした。
幸い三人の新聖女たちは、高位貴族の子女であり、麗しい容姿を備えていたのだ。三人とも、「癒し」の宝玉を有する。神殿に訪れる人々には、それだけでも十分だ。
ミーナスを含め、四人の聖女たちは、神殿の内外で熱心に与えられた役割を果たした。
もっとも、圧倒的な『聖なる力』を発揮するのはミーナス一人。
次第に残りの三人は、ひたすら笑顔を振りまくだけの存在となった。
神殿でのミーナスの生活が三年を過ぎる頃、ロガリア王国の国王が病に臥せる。
王宮付の医者たちが何人集まっても、なかなか良くならない。
そこでミーナスが呼ばれた。
ミーナスの持つ宝玉の一つが、「完治」に望みをかけたのである。
そこで一ヶ月ほど、ミーナスが国王の側で祈り続けた結果、原因不明の病が、完治した。
国王は感激し、ミーナスと第二王子との婚約を結ぶ。
ミーナスが十七歳になり還俗したら、第二王子と結婚することが決まった。
それを面白く思わない者たちがいた。
まずは国王の主治医たち。既得権の喪失を恐れた。
王太子予定の第一王子。第二王子に権威を与えたくなかった。
ミーナスと一緒に役割の一部を果たしていた、三人の聖女。自分たちの方が爵位も見た目も、第二王子に相応しいと思っていた。
何よりも、ミーナスと婚約した、第二王子タレスが彼女を忌避した。
ミーナスのありふれた外見に、タレスは心惹かれなかった。
ミーナスを排除しよう。
しなければならない。
自分たちの幸せを守るために!
名誉と権威を守るために!
こうして、ミーナスは罠に嵌められる。
ひっそりとした結婚式であった。
新郎は近衛騎士団長。
新婦は元聖女。
本来ならば、王宮のそうそうたる面々が揃うはずの挙式である。
だが、つきまとう醜聞のため、新郎の父と新婦の母のみが二人を見守った。
「イリオス・スペンダー伯。貴殿はミーナス・フェルン子爵令嬢を、終生愛すると誓いますか?」
イリオスは一瞬、間を取り答える。
「……誓います」
ミーナスも同様に、誓いを告げる。
続いて誓い固めのキスとなる。
イリオスは短めのミーナスのヴェールを上げ、彼女を見る。
湖面を思わせる彼の蒼い目は、すぐに伏せられた。
交わした唇は、やけに冷んやりしていると、ミーナスは感じた。
イリオスの父スペンダー伯爵が、労わるようにミーナスを見つめた。
ミーナスの母は、ハンカチで目尻を押さえた。
それぞれの親に挨拶を済ませ、二人は馬車に乗る。
新居は王都の中心から離れた、馬車で一刻ほどの閑静な場所にある。
スペンダー伯爵が、二人のために建ててくれた。
「君を……」
ガタガタと走る馬車の中で、不意にイリオスが言う。
「君を愛することは、ない」
ああ、それで、先ほどの誓いの言葉を言うのに、一瞬の間があったのか。
「心得て、おります」
感情を表すことなく、ミーナスは答える。
その後二人とも無言のまま、馬車は新居にたどり着いた。
◇陰謀◇
ロガリア王国は、王都に王宮と神殿が並ぶ。
王国の守護神は、女神キニージュ。
狩猟する乙女の姿で描かれる。
女神の加護は、王国に『聖女』という存在をもたらした。
聖女は女神キニージュの持つ、七つの宝玉のいずれかを持ち、十二歳から十七歳まで神殿で生活をする。
世俗的な欲望を封じ込め、ひたすら神に仕える聖女は、ロガリア王国においては王族に次いで権威を与えられている。
還俗すれば、数多の縁談に恵まれる。
聖女の血脈を受け継ぎたいと、多くの貴族は願っている。
そして時には、王太子や王子に嫁ぐものもいる。
ミーナス・フェルンは神託を受けた十二歳の時に、七つの宝玉のうち、六つを持つと認められた。それは歴代聖女の中でも最高の資質である。彼女の持つ宝玉とは、「癒し」「完治」「清浄」「祓い」「解呪」「結界」である。
記録によれば、七つ全てを内包した聖女は、存在していない。
宝玉を一つでも有していれば、神殿の聖女となれるのだ。
神殿は歴代最高の聖女を国民の前に出し、一層の信仰心を煽ろうとした。
ただし残念ながら、ミーナスの外見は、至って凡庸なものであった。
多くの聖女が持つ、プラチナブロンドの髪も、宝石を思わせる青や碧の瞳も、彼女は持ち合わせなかった。
神官たちは協議し、ミーナスと同時に聖女の認定を受けた少女三人と合わせて、聖女の職務を与えることにした。
幸い三人の新聖女たちは、高位貴族の子女であり、麗しい容姿を備えていたのだ。三人とも、「癒し」の宝玉を有する。神殿に訪れる人々には、それだけでも十分だ。
ミーナスを含め、四人の聖女たちは、神殿の内外で熱心に与えられた役割を果たした。
もっとも、圧倒的な『聖なる力』を発揮するのはミーナス一人。
次第に残りの三人は、ひたすら笑顔を振りまくだけの存在となった。
神殿でのミーナスの生活が三年を過ぎる頃、ロガリア王国の国王が病に臥せる。
王宮付の医者たちが何人集まっても、なかなか良くならない。
そこでミーナスが呼ばれた。
ミーナスの持つ宝玉の一つが、「完治」に望みをかけたのである。
そこで一ヶ月ほど、ミーナスが国王の側で祈り続けた結果、原因不明の病が、完治した。
国王は感激し、ミーナスと第二王子との婚約を結ぶ。
ミーナスが十七歳になり還俗したら、第二王子と結婚することが決まった。
それを面白く思わない者たちがいた。
まずは国王の主治医たち。既得権の喪失を恐れた。
王太子予定の第一王子。第二王子に権威を与えたくなかった。
ミーナスと一緒に役割の一部を果たしていた、三人の聖女。自分たちの方が爵位も見た目も、第二王子に相応しいと思っていた。
何よりも、ミーナスと婚約した、第二王子タレスが彼女を忌避した。
ミーナスのありふれた外見に、タレスは心惹かれなかった。
ミーナスを排除しよう。
しなければならない。
自分たちの幸せを守るために!
名誉と権威を守るために!
こうして、ミーナスは罠に嵌められる。
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