奴隷の花嫁

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第11話 戦争

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 王都から一つ隣、イロマンツィの町外で両軍勢の陣が張られている。

 スピネル軍:総数2,500名。
 民兵 :1,000名
 奴隷兵:500名
 正規兵:王都防衛軍500名、南征軍500名
 貴族 :28名、将軍2名
 各々、半数を右翼軍、左翼軍とし、右翼軍をレフトサロ南征将軍が指揮し、左翼軍をラナマキ王都防衛将軍が指揮する。

 コランダム軍:総数約4,000名
 民兵 :約1,000名
 奴隷兵:約2,000名
 正規兵:約1,000名
 約半分で右翼と左翼に別れ、隣の町であるヨエンスーと隔てている川を渡った辺りに陣を敷いている。

 スピネル軍の全体的な士気は低い。既に幾つも町を落とされたという事もあるが、右翼軍にいる南征将軍の部隊以外、戦争自体初めてとなる。
 東征将軍はヨエンスー防衛戦で負傷し、現在は王都にて療養中になっている。それも士気が下がっている要因の一つだった。
 貴族達の間で戦争の真似事の様な遊戯は行われていたが、用意された部隊でルールの上で勝敗を付けるだけというもの。人が死ぬことなんてあり得ない戦争と比べれば児戯に等しいものだった。
 だが、その様な児戯でもラナマキ王都防衛将軍は負け無しと言われ、人々からは期待されていた。
 白銀の鎧に身を包んだ王都防衛軍は、人々に希望を与え、勝利を約束する勇者達の集まりと呼ばれ、それを指揮するのがラママキであると言うことで民衆の指示は非常に高かった。
 それに対し、南征軍は鉄の鎧に黒い革を打ち付けた黒いつや消しの鎧であったため、死を呼ぶ者の様な扱いであり、初めて見る民衆も多く、味方でありながら恐怖の対象になっていた。

 しかし、戦闘の火蓋が切られると事前の期待や希望とは全く違った結果が現れ始めた。

「左翼は大混乱です。本陣の一部も出撃し、より混戦の一途をたどっているとの事です」

「貴族を50人毎に付けた意味がまるでわかってないですねぇ……」

「右翼は将軍の指示通り、相手の力を中央に集めるように運動させ、壁部隊と攻撃部隊を2分化させて包囲殲滅しておりますので、現状安定しておりますが、やはり、たまに包囲の隙間を開け、後衛に流し、直営第4部隊を除く第1から第3を各半分の50人に分けた部隊による殲滅が無ければ、戦線は崩壊していたかもしれません」

 残りの第5部隊は全部隊への伝令役として使用している。基本的には右翼軍は50人で一部隊として編成しており、基本そこに部隊長の貴族を置いている。しかし、貴族が足りていないので、第5部隊から人数を割き、部隊長として充てているため、ギリギリ一部隊二人で担当することができた。本陣裏では第5部隊用の休憩所が設けてあり、そこには戦場にも関わらず大の字で寝転んでしまっている者達が多かった。

「南征軍では使い物になりませんねぇ。士気の低さが一番でしょうが」

「初陣だらけですので、致し方ないかと」

「そもそも、防衛戦というものは士気が下がりやすいものです。ヴァロ、ヘルマンニ将軍から学びましたか?」

「はい。勝利の記憶以外得るものが無い為です」

「50点ですね。それは国の視点に立った場合のみです。兵士達に取っては勝った場合には報奨金を出せば良いのです。だが、士気が上がらない理由は元々戦う理由がないからですよ。軍人だけの部隊で全て完結できればいいのですが、現状の経済状況ではそれができません。その為、民兵や奴隷兵を使わざるを得ない。その者達にとっては占領者が変わろうが、公平な税と公平な裁判、いわゆる公平な統治さえあれば問題ないのです。まあ、今回に限っては東の町から逃げて来た民兵も居るので、奪還するという意志があるため、もう少し士気が高いはずなのですが、やはり戦闘行動と言うものが初めてというのもあるのでしょうね」

「勉強になります」

「私が言わずとも、ヴァロならすぐに残りの点数を見つけ出したと思いますよ。しかし、左翼の状況は問題ですね。手を出しに行きますか」

「はっ! お供いたします。しかし、後で何か言われませんかね?」

「言わせておけばいいのですよ。ただ、あそこまで無様な戦いを誇るような者では無いと思いたいのですがね」

「少人数で、しかも、ルールの決まった安全な武具で行う遊戯とは違いますから……。閣下にお会いになられる時は、お言葉は柔らかめにお願い致しますね」

「それなら終わるまで会いたくないものですね」

「……」

「しかし、ヨナも良いタイミングで辞めたものです。私に戦力が集中しないように誰かが手回ししたのですかね」

「私もレフトサロ将軍に会うまで円満にやめることができたという事を信じていました」

「あれは頭が少し固いが、有能ですからね。私の手に渡るならという事なのでしょう。今頃女性と寝てるのでしょうかね。こちらはこんなに大変なのに……」

「私がまだ将軍の所に来る前に男爵家の4女と結婚なさいました。ラウリ様の直接ではないですが、口頭の手ほどきによって、夜の生活もかなり順風なことのようです」

「そうなのですか。しかし、ヴァロ。君の所の当主は随分とすごい能力を持っていますね。南の町に入り込んでいる女間者の篭絡に手を貸してくれないものですかねぇ」

「方針を変えてからご自身の商いは全て辞めてしまったと聞いています。私の居る時も女性を抱いていると言う話は一度も耳にすることがありませんでしたし」

「不能にでもなったのでしょうかね?」

「体験した娼婦から聞いたのですが、あの方なら不能になっても女性を篭絡する事は簡単ではないかと思えました」

「その娼婦はとても床上手だったと。なるほどねぇ」

「えーと……」

「以前王都に寄った時、私に黙って行ったことを責めているのではないのですよ。私には妻も子も居ますし」

「わかりました……、今度ご案内致します……。ただ、ラウリ様の手ほどきを受けたのは彼女が最後でしたので、今も居るかどうか……」

「私は怒っていませんよ」

「なんとか探させて頂きます!!」

 雑談をしつつ二人は部隊の元へと行くのであった。



 鋭い顔つきで精強な者達が50人の2部隊整列している。
 その場を二人は前を雑談しつつ通り過ぎる。すると、その2部隊は二人の後ろを何も言わずに各4列縦隊で続いていく。
 進む方向は数分先の戦場、両軍相まみえる戦場の一番先頭の激しい地点に向けて。

「各隊、凸陣形」

 ヴァロがその様に号令をかけると部隊は左右に広がり、各々あまり密集し過ぎない円錐形の陣形を組んでいく。
 レフトサロが手を上げると全員が停止し、部隊は静寂に包まれる。
 しかし、目の前は両軍乱れる戦場であり、金属のぶつかる音や、悲鳴、怒号、様々な音が入り乱れ、混乱の極地になっていた。

「これから横槍を入れる! スピネル軍の者は道をあけよ! コランダム軍の者、降伏の意志があるのなら武器を捨てその場で頭を垂れよ!! それ以外は停止命令あるまで皆殺しだ!」

 普段の優しい口調のレフトサロ将軍から出た言葉とは思えない内容だった。だが、ヴァロを含めた全員は特に動揺した素振りもなく、これからの戦場に向かうために高揚していた。
 伝えられた内容が道を開けなければ両方皆殺しという宣言であるため、コランダム軍の者達も、味方であるスピネル軍の者でさえもたじろぎ怯む。その機を逃さずにレフトサロ将軍から無慈悲な命令がかかる。

「蹂躙せよ!! 突撃!!」

「おう!!」

 100人の応じる声が完全に重なり重い音となり混乱している両軍に届く。
 両部隊は連動せず、各々の司令官、左の部隊はレフトサロ将軍、右の部隊はヴァロの指揮により、2本の牙となって戦場を穿ちに行く。
 鬨の声を上げずに、ただ黙々と小走りでかけて来る戦士達。味方であるはずのスピネル軍でさえ、その様子に畏怖し、慌てて自陣方向に逃げ出す。
 逃げ出した兵士をチャンスとばかり攻撃を仕掛けようとするコランダム軍の者は、すぐに牙に追いつかれ、そしてあっという間に命を落とした。
 まるで触れれば即死の毒の様に、あり得ないほどの攻撃力を秘めたこの部隊は誰にも阻まれること無く、次々と敵兵士を屠り、駆け抜けていく。
 中には数人まとめて反撃しようとする者達も居たが、攻撃される際の防御役と攻撃役が完全に分かれており、防御役が一合受ける合間に攻撃役が相手の命を刈り取っていた。
 その為、混乱の極地であった戦場にも徐々に兵を引く指示が届き始め、この二つの牙が戦場を両断する頃には両陣営共に撤退指示が出ていた。

「被害報告」

「ヴァロ隊、負傷者無し」

「レフトサロ隊、軽症者1名。戦闘に問題なし」

「重畳重畳。さて、帰りますか。右翼部隊もそろそろ撤退指示を出してもいい頃です」

「了解致しました」

 両部隊はまた4列縦隊にもどり、レフトサロ将軍の後に続いて歩いて行く。
 その列からヴァロだけが左翼軍の元へとかけて行く。

「告げる! 降伏した兵士の処置は左翼軍にお願いするものである。以上!」

 単純に後始末をやっておけと失礼極まり無い言い方である。だが、助けられた上にあそこまで恐ろしい力を見せられれば、従う他無かった為、誰も反論することをせず、頭を地面に付け、命乞いをしている敵軍兵士、敵奴隷兵、敵民兵達を武装解除しつつ回収していった。

「しかし、随分と簡単に横槍入れられましたねぇ」

 ヴァロがレフトサロ将軍の隣、定位置に戻るとレフトサロから話題を振られた。

「南征軍で似たような事をやった時は今回の陣より狭いのに5分の1も進めませんでしたから」

「戦闘慣れしている者達との戦いはやはり違いますね。そう考えると彼らも精鋭がこちらに来ているわけでは無いのかもしれません」

「しかし、楽勝と言うわけには行かないようですね」

「そうですね。右翼軍は調べないとわかりませんが、左翼軍は民兵や奴隷兵の半数近くが戦力にならないでしょう。引いた今でこそ死体は少なくなっていますが、横断中にはもう少し両軍の死体を見ていましたからね」

「そうなると、我軍でまともな戦力は2,000近くとなってしまいそうですね」

「左翼軍の民兵と奴隷兵は多分しばらくは使い物にならないでしょう。あれだけ死を意識してしまう空間に居たのですから。心がもう戦えない者になっていると思います。なので、およそ1,500が実働可能な戦力になるでしょう」

「厳しい戦いになりそうですね……」

「相手は負傷していても参加させるだろうことを考えると、2,500から3,000ほどまだ出てくると思います。何か手を打たなければなりませんね……」

「何か手は考えておいですか?」

「今の所は何も。ここは南征軍の拠点とは違いますし、平野です。使えるものがほとんど無いのが苦しいところですね……」

「地形を利用するとしても、コランダム軍の後方にある川くらいしか見当たらないですし……」

「川に追い込むにしても、こちらの戦力不足で陣を広げた所に一点集中されれば突破は容易でしょう。勝つだけなら民兵と奴隷兵を犠牲にすれば勝つことは出来ると思います。ですが、それをやった場合、国民からは私達は攻めてきたコランダム軍より酷い扱いを受けるでしょうね」

「参考までに、それはどうするのですか?」

「負傷兵も関係無く突撃させ、命を賭してでも刺し違えてもらいます。その残党を私達がたらい上げる。もしくは、軍部兵士を除く全部隊を壁にして、漏れ出てくるものを逐次掃討。まあ、完全なる消耗戦ですね。これは考えるだけ無駄です」

「そう言えば、敵の補給陣は川を渡ってきていないのでしたよね?」

「先にこちらの陣が形成されつつあったので、その余裕が取れなかったようですね」

「相手は奴隷兵と民兵が主体……」

「なにか思いつきそうですか?」

「あまり良い案では無いですが、一つ思い浮かびました」

「教えてくださいますか、参考にしたいので」

「はい」

 ヴァロは内容を伝えつつ、そのまま自陣へと戻っていった。





「どうするのだ!!」

 日が暮れ始め、両軍ともに撤退し、休息を取るために陣へと戻る。
 補給物資はイロマンツィの町中にあるのでさほど遠くない。町の中から馬車を使い持ちて来るため、補給資材用の陣が必要がない。逆に言えば、補給陣を確保する人員さえ戦闘要員にしなければならないという状況であったのだが。

 今日の状況報告と、明日の戦争を有利にすすめるための軍議が大型の天幕にて行われているが、東部奪還作戦の司令官を兼任しているため、この場所での敗北は絶対に避けたい所だった。その為、自分の担当していた左翼が大敗と言えそうなくらいに疲弊してしまっている状況でも、怒号を回りに振り散らしていた。
 先に同席していた左翼陣営に居た貴族達はラナマキの怒りに触れられないよう、ずっと押し黙っているしか無かった。しかし、それがラナマキの怒りをより増幅させ、怒りの声から罵倒に変わっていった。

「失礼しますよ」

 その様な息苦しい空気の中、右翼陣営に居た貴族達がレフトサロ南征将軍と共に入室してきたことによって若干緩和する。
 本来、王都防衛将軍と南征将軍の肩書きは同位であるのだが、中央に居る者にとって選民意識が芽生えやすく、南の戦争のやり方を理解してない蛮族と戦っている者というイメージがあるため、ラナマキの方が地位が高いものだと錯覚していた。だが、レフトサロも戦争に勝てばいいので、相手のレベルに併せて下げることはせず、素直に裏方に着くことにした。
 しかし、戦争が始まってからそれは後悔することになったのだが、今更後悔しても死んだものが生き返るわけでもないし、時間が戻るわけでもない。全軍を指揮し、なんとか同等以上の状態に持って行きたいところだが、最初に譲ってしまった手前、言い出すことも憚られる苦しい状況だった。
 しかし、同地位の者が入ってきたという事で、ラナマキは暴言を吐くことが無くなったのは左翼陣に居た者にとってはありがたいことだった。

 両陣営の状況報告が始まる。
 まずは右翼陣営の報告だ。
 奴隷兵250名中負傷者30名、死者10名。戦線復帰可能数10名。民兵500名中負傷者93名、死者22名。戦線復帰可能数41名。南征軍500名中負傷者5名、死者0名。戦線復帰可能数5名。
 約500名差の戦力でこの状況は悪い戦火では無いと思われた。だが、左翼陣営の報告が酷い状況だった。
 奴隷兵250名中負傷者180名、死者50名、復帰可能数72名。民兵500名中負傷者350名、死者82名、復帰可能数91名。王都防衛軍500名中負傷者242名、死者44名、復帰可能数102名という3分の2近くを戦力として失う大敗だった。

 現状、陣に戻ってこれてない者は死者として扱うことになっているため、生きているものも居るかもしれないが、戦争に参加することが出来ないので、どちらにしても戦うことに関しては考慮される必要はない。
 左翼陣だけで1,250名中930名が何かしら傷を得た者となった。総合した数字で出せば、とんでもない比率だという事がよりわかってしまっただろう。さらにこれから心理的に戦線復帰もしくは、戦闘参加出来ない者も出てくるだろう。その様な者をあてにして陣形を組むことは劣勢な状況では致命傷に成り兼ねない。
 この状況を聞くことができたおかげで先ほどのラナマキ将軍の怒りが少しわかる気がするが、同じ兵士数を割り振られ、同じ数量の敵軍を相手にしていたのだから、その怒りは理不尽なものだろう。しかも、前線から引くきっかけを作ったのは余剰部隊として残していた100名程度の兵士だったのだから。
 ここで全軍の指揮をレフトサロ将軍に譲渡すればよかったのだが、地位が上と思い込んでいるラナマキ将軍は譲渡をしなかった。その様な言葉を出そうとすると睨まれ、誰もはっきりと口に出すことが出来なかった。

「レフトサロ将軍は挽回する方策はあるかね?」

 いけしゃあしゃあと意見を求めるラナマキに対し、左翼陣営の貴族も右翼陣営の貴族も苛立ちや怒りを覚えるが、さすがに表に出すものは居ない。現状仲違いをしても意味がない事を理解しているからだ。

「右翼左翼をまとめ、敵陣を中央突破し、敵将軍、もしくはコランダム軍大将、第一王子カールを生け捕りにするのがよろしいでしょう」

「それで上手く行くんだな?! よし!! それで行くぞ!!」

 ラナマキはどの様に部隊を配置し、どの様に突撃するか等、部隊運用のことを全く聞かずに軍議を終えようとしていた。周りが慌てて止めようとした瞬間、レフトサロから声がかかった。

「ラナマキ将軍。突撃するにしても、我軍兵士たちを犠牲を少なくし、かつ最大限に能力を発揮させる運用法があるはずなのですが、それはおわかりでしょうか」

 今日の大敗の様な運用、遊戯を行なっているかの兵士の運用は自分の収めている土地の兵士の者も一部居るが、納めていなくても同国人という事でその様な行いはやめて欲しかった。その意見を持った貴族が大多数であったため、レフトサロ将軍の一声はありがたいものだった。ここでラナマキを舌戦で負かせ、指揮権がレフトサロに移ることも望んでいたのだから。

「知らん。これから考える」

 だが、ラナマキはそれ以上に愚かな男だった。そう言い捨てると、自分の寝るためだけに造らせた天幕に行くために出ていってしまった。
 残された左翼軍の貴族達は頭を抱え、右翼軍の貴族達は呆れ果てて声も出せなかった。
 誰も天幕から出て行こうとせず、悩んでいた所でヴァロからレフトサロに声がかかった。

「レフトサロ将軍。やはり、私の提案を通して頂けないでしょうか」

「しかし……」

「このままでも多分同じ事でしょう。私の命一つくらいで体制を逆転出来るかもしれないのであれば、実行したいのです。それに、先ほどの案も本当は大して効果が無い事もご存知のはずです。我軍が中央突破出来るほどの突破力を有していないと。そして、南征軍兵士を捨て駒にすればなんとか達成できるかもしれない程度だと言う事も」

 この言葉には周りの者達も驚いてしまった。レフトサロ将軍がその様な案を出していたと言うのもあるが、それ程にこちらの軍勢が弱いと言うのもわかっていなかった。
 右翼軍と左翼軍の差は指揮するものや士気の差と言うのもあるが、全体的に兵士の質が下がっていると、右翼軍でも南征軍の兵士が居たおかげで戦線が崩壊しなかっただけなのだと気づく貴族も出てきた。

 このままでは全滅覚悟で戦いを挑み、残りは町の衛兵や強制徴収した民兵や奴隷兵で押さえつけるくらいしか手が無くなってしまう。ラナマキ将軍にまかせておけばその様な未来が現実になってしまいそうだった。

 しかし、ヴァロと呼ばれたレフトサロの付き人の様な兵士。首に角度を変えると色の変わる奴隷紋を刻み込まれた兵士が起死回生の案を提示しているという事が聞こえた。貴族達はその内容がどういうものなのかはまだ聞かされていない。

 だが、奴隷の兵が死ぬだけならまだ被害は少ない。そう考えて希望を持ってしまっているのが表情に現れ、レフトサロにはその事がとても苦しかった。彼にとっては単なる奴隷ではない。知識も、知恵も、そして武力も持ち、さらには性格まで良好なとても大切な家族にしても良いと思っている者なのだから。

「ラナマキ将軍にはたかだか奴隷の一部が褒賞に目が眩んで暴走したと伝えて下さい。そうすれば溜飲も下がるでしょう」

 ヴァロは畳み掛けるようにレフトサロに進言する。失敗した時の責任は自分で取る。捨て駒にしてくれて構わないと。返事に困っているとさらに続けてきた。

「南征軍やレフトサロ将軍にはまだやるべき事があります。生きて帰り、南の国からの侵略を防がなければなりません。この戦争で死んではならない人達です」

 仕事として、使命としてやらなければならない事。それはこの国を、民を守る事。その専任された場所が南征軍である。東に出向いて南を疎かにしてはならないと言いたいのだろう。しかし、レフトサロにとって、その守りたい民は東にもいるし、さらには今から死地に向かいたいと言っているヴァロも含まれるのだ。
 しかし、身内びいきをするわけにもいかない上に、その案を実行するにもヴァロ程の者でないと実行に不安がある。それを普通の兵士に行わせ、責任も取らせるにはさすがに酷であるし、実行は不可能だろう。そう悩んでいる所に貴族の一人から声を掛けられた。

「失礼ですが、あなたはストックの名前を頂いた方でしょうか」

 レフトサロに対してではなく、ヴァロに対してだった。奴隷の立場の自分に対して、しかも貴族から敬語で話を掛けられるとは思わず、ヴァロは一瞬うろたえてしまう。だが、なんとか表情と取り繕い、返事をすることに成功する。

「はい。私はアールトネン奴隷商出身の、ヴァロ=ストックと申します。よくその名前をご存知ですね」

 まだ自分を含めて15人程嫁いでいることになる。自分の一つ後の時期に1人買われることが無かったと聞いているので、14人かもしれない。それとも新しいオークションが終わり20人程になっているかもしれない。その程度しかストックの名前は世の中に出ておらず、まだこれから名前を広げなければならない途中の事なので、この様な早期に名前を言い当てられるとは思っても居なかったのだから、驚くのも仕方がないだろう。
 返事を聞くと、その貴族は嬉しそうに笑い、手を上げつつヴァロに近づき、手を差し伸べてくる。
 慌てて腰辺りの服で手を拭き、握手をしたのだが、理由がわからず困惑してしまう。

「私の名前はヴィルヘルム=レミンネン。男爵位を頂いている。東の国境沿いにある小さな村の領主だ。それと、パウリーナ、君たちの姉を妻に貰った男さ」

「姉上の旦那様でしたか!! 姉上を引き取って頂き、誠にありがとうございます!!」

 この様な所で初めの5人の内の1人を引き取った人に出会えるとはさすがに想像することさえ出来なかった。しかし、人の良さそうな顔、そして立ち振舞い。そして少しだけ抜けているように見える様。全てが完璧な演技で無ければ、姉は良い所に嫁ぐことができたのだろうと思えた。姉の動向も気になるところだが、奴隷の立場でその様なことを聞くのも憚られ、言葉をギリギリで飲み込む。

「パウリーナは良い子だよ。良い妻でもあるし、いずれ良い母にもなってくれるだろう。領民にも愛され、そして率先して動いてくれる。私にはもったいないと思えるくらい良い妻だ」

「もったいないお言葉です……」

 引き取られたうちの1人は少なくともとても評価されている様だ。苦しく辛い訓練、厳しいが貴族の嗜みなどを教えて下さる時間、過去の出来事から学び、自分の血肉にするための教え、一時的だが皆がゆっくりできた教えの時間。共に歩んだ短いがとても濃い時。その姉弟の1人の引き取り手がこの様な言葉を伝えてくれる。心から嬉しいことであり、今すぐラウリの元に行き、伝えたい衝動にかられた。

「彼女も本当はここに連れてきたかった。だけど、大怪我してしまってね。8人のコランダム軍兵士から私を守ってくれたのだよ。ああ、命に別状はないよ。今はアールトネン男爵の所で療養してもらってる。傷痕になってしまう所もあるそうだが、概ね綺麗になるだろうと言っていたよ」

 連れてきたかったという過去形の言葉に敏感に反応してしまったが、生きてくれた。それと、しっかりと自分の命も、そして主の命も守りぬいたという事がわかった。
 ラウリ様なら自分の命を守りぬいたと言う事をとても嬉しく思いそうだな。もしくは、傷ついたことを嘆くかな。どちらだろう。と思考を一瞬飛ばしかけるが、すぐに意識をヴィルヘルムへと戻す。

「レミンネン男爵も、彼女も命を守ることができて大変嬉しく思います。そして、怪我を負った彼女を救って頂き、心からお礼を申し上げます」

 深く、そして長くヴァロは礼をする。ここが軍の天幕でなければ、泣きでしてしまいそうなほどに感情は高ぶってしまっていた。

「礼こそ私から言わせてくれ。彼女の命を救うきっかけになったアールトネン男爵にはもう伝えたが、直接彼女と手合わせし、学ぶ時に切磋琢磨したのは君たちだ。君たちの存在が無ければ、彼女はあの戦いで命を落としていたかもしれない。本当にありがとう」

「ありがとう……ございます……」

 ヴァロは礼の姿勢から頭を上げてくれなかった。いや、正しくは上げられなかったので、そのままの姿勢を取るしか無かった。ヴィルヘルムもその事に気づいていたので、何も言わずに肩に手を置くだけにした。

 そして、今度はレフトサロ将軍や他の貴族の皆に向けて言葉を発した。

「私は彼の姉弟である女性を妻として我が屋敷に迎え入れている。そして先日、国境沿いの一番初めに被害の受けた町、ラフティに近い村である我が領にも少人数だが占領部隊が来た。そこで私の妻は襲われた私を逃がすために1人でその男達を相手に無手で立ち振舞い、最後は村人の手助けもあったが、全員打ち倒すことに成功した。村人が助けるまでに3人は屠っていたのも村人を連れて駆けつけた私も見ている。だが、怪我をしての無理の行動で今は療養中だ」

 今まで各々別々の話をして頭を悩ませていた貴族達が一斉に注目し、そして話を聞き入っていた。英雄のような立ち振舞いであるため、賞賛の声が上がったのは劣勢な状況だからでは無いだろう。

「そして、このヴァロ君は、私の妻の姉弟だ。血の繋がりはない。アールトネン奴隷商で同じ事を学ぶ事でアールトネン男爵がストック、その名を授けたそうだ。そしてみがきあげていった結果、レフトサロ将軍に見初められたのだ。そんな彼の作った作戦、まだ私は耳にしていないが、私はそれを支持しよう」

 思わぬ所からヴァロの作戦を支持するものが出てしまい、レフトサロはより悩む。多分、先ほどの英雄のような彼女の妻の話を聞いた貴族達もこのまま悩んでいれば続々と指示していくだろうと。
 作戦の内容を知っているレフトサロにとって、危険な作戦なことがわかっている。だが、ラナマキが指揮する懸念と、作戦が成功すれば相手にかなりの損害を与えることが出来る可能性があるので悩んでしまっているのだ。

「大丈夫です。ヴァロ君は生きて帰ってきますよ」

 ヴィルヘルムの無責任な言葉。だが、レフトサロもそう願いたいし、そう思いたかった言葉が胸に染みた。

「ヴァロ……。全責任は私が取ります。必ず帰って来なさい」

「はい……!」

 なんとかレミンネン男爵の会話で顔を上げることのできたヴァロは再び深い礼をする。またもや長い礼だった。



「奴隷兵を100人、有志でお願いします。危険な任務だという事も。そして町から皮の鎧を同じく人数分の100着と赤い染料を。そして木炭の準備をお願い致します」

 そしてヴァロは準備された100名と100着の鎧の前に立ち説明する。

「これから君たちには特殊な任務についてもらう。この作戦が無事完了すれば、君たちは奴隷の立場から開放されるよう、レフトサロ南征将軍が動いて下さる。そして報酬もかなりの額が用意されている。首の紋様も消す手配をしよう。刺青の者は消すことは出来ないが、奴隷の意味をなさない模様を描くことを約束しよう。だが、逆に言うとそれだけ危険な任務になっている。全て順調に行けば生存の確率は非常に高い。しかし、全て作戦通りに行くとは限らない。敵も生きている人間なのだから。ここまで聞いて無理だと思う者。笑うわけではない。立ち去ってもらって構わない。新たに有志を募るだけだ」

 ヴァロは言い切り、口をつぐむ。しばらくの間沈黙が流れる。だが、誰一人として立ち去るものは居なかった。

「君たちの意志を受け取った。それでは作戦を説明する」





「レフトサロ将軍、行ってきます。後はよろしくお願い致します」

 皮鎧に木炭を塗りつけ、全員が若干まだら模様だが真っ黒の鎧になっていた。闇夜に乗じて接近するという事なのだから。

「わかった。皆も生きて帰ってこい」

 将軍という雲の上の存在から奴隷たちに言葉が掛けられる。これがラナマキ王都防衛将軍であったならば、人気取りか程度にしか思わなかっただろう。今回の戦いでもいかに堕落した戦貴族だと言う事も兵士の皆に知られてしまい、一気に信頼は失墜していた。だが、レフトサロ南征将軍、幾度も防衛戦争を行ない、その全てに打ち勝って国を守っている英雄から言われる。今回も同じ兵数を率いていたはずなのに、ほとんど被害を出していなかった。
 奴隷から開放され、独り立ちする資金もあてに出来る状況でさらに英雄からの声がけ。士気は否応が無く高まることになった。

「静かに。他の兵士たちは明日に備えてもう寝ているのだから」

 いきり立った男達を抑えるのは並大抵のことではない。だが、これから行う任務の内容を考えれば、自然と皆は静かになってくれた。



 ヴァロ達は真夜中より少し前辺りに出発する。
 現在陣を敷いている場所から一つ北の村に近い場所にある橋を目指す。
 約2時間後、真夜中と呼ばれる辺りで橋を渡り終えた一行は小休止を入れる。

「再度確認をする。我々の目的は敵補給陣の壊滅だ。幸か不幸か、敵補給陣はこの渡り終えた川の先、今我々が居る大地の方に作られている。第1から第3部隊はこのまま川を下流へと南下し、敵本陣後方にある橋の崩落を。私の率いる残りの第4から第10部隊は補給陣の炎上、壊滅を。お互いに独立して動くことになる事での合言葉は剣の樋。そして必ずお互いに剣の先端は入れ、根本を少し鞘から出し見せること。作戦終了の最終合流地点はさらに南下したところにある川幅が広くなっている所の浅瀬だ。以上、質問はあるか?」

 各々首を振り質問はないと意志を表す。

「では、小休止後、二手に分かれて進軍する。橋の崩落部隊は第一部隊はエメリ、貴方が指揮を取って欲しい。残りは私が指揮を取る」

 エメリと呼ばれた男、防衛軍の兵士だったが、奴隷だけの急襲部隊を作ると耳にし、レフトサロ将軍に報酬はいらないから連れて行って欲しいと懇願しに来たものだ。
 詳細を聞くと、東征将軍の元で初戦を戦う予定だった者らしい。王都まで知人の遺言で人を送っていた為に参戦に遅れたと。予定というのは戦う前に敗走してしまったからだ。ヴァロやレフトサロは彼の証言と意志、そして聞いていた東征軍の状況と合わせ、嘘を言っているものではないと判断できた。だが、本来は正規軍に編成され、戦うのが筋である。レフトサロは彼の目により真剣な眼差しを感じ、随行を許可したのだ。
 だが、作戦上誰かもう一人指揮できるものが欲しいと思っていたし、奴隷に指揮させるわけにもいかないと考えていたが、作戦の覚えの良さや、判断の良さを考慮し、崩落部隊の指揮を任せるのに都合が良かったのも結果良ければという所だろうか。

 崩落部隊を指揮しているエメリが約1時間程だろうか、歩いた所にようやく目的の橋が見えてきた。
 この橋は、本来石造りの橋だったのだが、数年前の川の氾濫で崩落してしまい、現在は仮説の木の橋が作られていた。そして新しい石造りの橋もすぐ近くで再構築中であるのだが、この戦争で現在作業は中断している。幸い、この場に歩哨が立っていることは無く、作業も順調に進む。
 支えにしている支柱に傷を付け、砂を撒かれた表面を木の葉の付いた枝で掃除し、床に穴を開ける。同時作業で森の中で光が漏れないように松明と炭に火を移す。そして橋の上には何箇所か落ち葉や枯れ技を重ね、火を移す準備をする。

「カルロ先輩、ようやく一矢報いることができます……」

 そうつぶやくとエメリは枯れ技の山に火を点けた。





 少しエメリ達に遅れる時刻で補給陣にたどり着くヴァロ達。
「火種は各々近くで隠れて作ること。第4部隊は左手前の大天幕を、第5部隊は左奥、第6部隊は真ん中、第7部隊は真ん中奥、第8部隊は右手前、第9部隊は右奥。最後私の指揮する第10部隊は最奥の一番豪華な大天幕二つ、多分居るだろうバカ王子、カール=コランダムの天幕を焼く。できるだけ同時期に行いたい。第4・第5部隊はたどり着いてから少し時間をあけてから火を点けること。第6部隊が一番厳しい位置にある為だ。それと、余裕がある者だけでいいが、馬車にも火を点けて欲しい。優先は食料が乗せてある馬車。次に武器。空の馬車は手が空いてる者だけでいい」

 それぞれ頷き、ヴァロの指示で一斉に散っていく。
 ヴァロ達は最奥のため、急いで行動しなければならない。歩哨に見つからず、なおかつ一番早くたどり着くであろう4番隊の火点けに間に合うようにしなければならない。
 歩哨が遠くの場合は走り、近くの場合は視界に入らないように早歩き。皮鎧にしたのは音が鳴らないようにするため、そして炭を塗りつけたのも視認しにくくするため。
 ヴァロの鎧は元々音の鳴らないようにしている上に、黒い革を貼り付けてあるので隠密性が高いものになっているが、今回普通に参加している奴隷兵には備蓄していた金属鎧が手渡されていた為、皮鎧を集めてもらったのだ。

 しかし、豪華な天幕が最奥というのも不思議な事だとヴァロは走りながら考える。一般的には陣の真ん中に天幕を立てると思われる。理由もどの方向から攻撃されても対処できるようにというものだ。
 見た目はまるで王城と町とでも言うような形である。これを指揮した者、もしくは指図したものは余程の愚か者か、臆病者だろう。

 愚か者と噂でよく耳にするカール王子だが、この最奥の大天幕に居た場合、どちらなのか判断しにくくなるだろう。もちろん両方という事もあり得るが。
 火を点けることについてはどの様な形であれ問題はない。万が一中央にあり、監視が厳しい場合は強行突破で火を投げ入れるつもりだったからだ。今回は第6部隊の真ん中が厳しい場所にあるが、それ以外は特に問題はない。実際に厳しいと言っても大天幕付近に歩哨が集中しているので、そこまで大変ではないのだろう。

 大天幕にあと少しで強襲出来る位置で土を掘り、簡単なくぼみを作り、火をおこす。移動中に探させた太い枝に油を染み込ませた布を巻きつけ、ひとり二つずつ火を点ける。
 火を点け終え、敵補給陣の方を確認すると、第4部隊の方向から火の手が上がっているのを確認した。
 第6部隊の到着を考えると少々早い気がするが、ここでゆっくりとしていても作戦は失敗する。その為、全員に突撃の指示をする。

 ふた手にわかれ、大天幕とそのまわりにある馬車に火を点けに行く。布と動物の皮で出来ている天幕は意図も簡単に燃え始め、中の集積物へと燃え移っていく。どうやらこの大天幕は町で略奪した取得品の様にも思える。この様な所に大量の貴金属や宝石類を持ってくるとは思えなかった為だ。

 誰かの遺品もしくは形見だったかもしれない。しかし、その様なことを考えていてはこの火計を実行することは出来ない。その為作戦遂行だけを考え他に燃やすべき馬車等を探す。
 ヴァロが宝石などを確認している間に隊の仲間が周りにあるめぼしい馬車に全て火を点け終えていた。無言でうなずき、撤退準備、第10部隊の半分との合流予定地点へと急ぐ。

「火事だー!!」

 敵歩哨達の声がようやく耳に届いた。少し離れた第4部隊の辺りであれば、もう少し早く耳にできたかもしれないが、ともかく連続で火の手が上がれば人の手が関わっているとすぐに気づくだろう。幾つもの場所で火の手が上がり、さらに消化するための人員は橋が崩落しているおかげでそこまで多くない事になる。追手も少ないことだろう。

 合流地点に向かうと既に5人は揃っていた。念の為にお互いに合言葉を言い合い、剣を少し出して見せ合う。問題ないことを確認し、急ぎ全体の合流地点へと向かう。

 敵補給陣から離れ、少し状況を確認するために後ろを振り向く。約8箇所から火の手が上がり、その集積物が燃えている予定の火の明かりが見える。かなり明るく見えるので、作戦は成功しただろうと思われる。しかし、ここで浮かれてしまっては不意に遭遇するかもしれない敵歩哨達に対応できなくなる。それを考え、手を使い皆の気分を鎮める。






「補給陣の方が明るい……まさか、火事か?!」

 敵本陣で歩哨をしている兵士達が、スピネル軍が行った事と連想するにはしばらく時間がかかった。何故ならば、ルールを守った戦争しかしないお利行さんな軍隊というイメージであるため、夜間強襲等考えもしていなかった。
 その為、全軍を起こすことはせず、数部隊だけで補給陣を確認しようと行動した所、橋が燃えている所に出くわした。

「橋が燃えたら補給部隊との連絡が途絶える!! 絶対に消せ!!」

 部隊長が慌ててその様な指示をし、木の枝が組まれ燃えている火の柱を槍で壊させる。手前、そして真ん中、さらに奥と3箇所組まれた場所があり、順次急いで橋から燃えている木の枝を落とさせる。燃え燻っている場所は足で踏み、砂を掛け鎮火させる。最後の一つ本陣から遠く、一番補給陣に近い火の柱近くでそれは起こった。

「なにっ!?」

「うわぁぁあ!!!」

 足元が一気に傾き、橋が崩落したのだった。

 エメリは、橋の両側にある支えに切れ目を作り、その間に火の着いた炭を仕込んでいたのだ。完全に燃えることはしなくても、徐々に耐久力を減らしていき崩壊するだろうという事もあったが、砂や足踏みでよりその支えに痛みを与えさせる事を考えた。完全に燃やしてしまえば良かったのかもしれないが、大きな炎は早い発見をされてしまい、橋が崩落するだけの状態にすることが出来るか自信が無かった為と、少しでも彼らに報いを与えたいという気持ちがこの作戦を取らせた。

 もし、ここで鎮火してしまっても、人数が多く通った場合、それだけでも崩落させることができただろう。
 本陣側で待機していたコランダム軍の部隊長は空いた口がふさがらず、どうすべきかしばらく思考が考えつかなかったが、ともかく報告だけはしなければと考え本陣へと戻っていった。





 ヴァロ達は再出発し、少し経った所で第8部隊と第9部隊と合流することに成功する。幸いなことにひとりも脱落者が出ていなかった。それに、人数が多ければ相手の哨戒部隊に遭遇することがあっても生存率は遥かに上がる。だが、人数が多ければ視認率が上がるため、逆に呼び寄せてしまうことにも成り兼ねない。だが、敵補給陣の人員の少なさを考えれば、さほど歩哨が多く出てないと判断し、そのまま進むことにした。

 だが、人数が多いことが災いしたのか、敵の哨戒部隊と遭遇してしまった。大抵4~5名で動いていると思われた哨戒部隊だが、相手は15人ほど居た。こちらは全部で31名という事で勝利をすることは間違い無いだろう。だが、ここにスピネル軍の兵士が居ることが知られてしまうリスクのほうが高い。さらには鳴り笛で周囲居る歩哨兵達を呼び寄せてしまうかもしれない。その為、迅速な殲滅が必要になる。

「全員殺せ」

 ヴァロは皆に短く伝え、剣を抜き突撃する。
 暗い中に黒い鎧、確実に敵兵だと判断できる状況ではあるが、相手は戸惑っていたらしく、反応に遅れる。
 赤い染料で表面を色づけられた剣があっという間に二人を屠る。赤や黒の色は暗い中だと視認しづらくなる傾向にあるため、そして万が一合言葉が漏れたとしても、言葉が発せない状況にあったとしても仲間と区別できるように手持ちの剣を赤い染料で塗らせていたのだ。

 実際、人を斬ってしまえば染料は落ちてしまうだろう。だが、根本だけでも塗られていれば仲間と判断できる。その為、根本だけでも見せるようにと指示したのだ。

 次々と斬り捨てられて行くコランダム軍兵士は慌てふためき逃げようとするが、逃げ出して仲間を呼ばれては元も子もないので危険を承知でさらなる突撃をする。
 だが、相手にも剣の覚えのあるものがおり、ヴァロはそこで大柄な男に進撃を止められてしまう。
 1合、2合、3合と撃ちあうものの、上手くあしらわれ、決めることが出来なかった。急いた気持ちが単純な剣筋にしてしまったのかもしれない。その間に逃げた敵兵士の方からよく通る笛の音が聞こえた。

「撤収!! 急げ!!」

 ざっと確認すると8名は敵兵士が倒れていた。この短い時間で半数以上傷つけることができたのは僥倖だろう。だが、これで他の部隊にも影響を与えてしまう事になる。苦しくなるかもしれないが、こちらも手練が居るという事を向こうも理解したと思わせることができたので、部隊編成の時間くらいは稼げただろう。

 全員で方向を変え、一気に逃げ出す。ヴァロは殿を努め、後ろからの攻撃を警戒した。追撃は無かったのだが、何人かこの短い間で怪我を負っていた。やはり、強行軍であったため、体の疲労がたまり、行動に精彩を欠いてしまったのだろう。
 ともかく、皆生きて帰る事を優先させなければと思い直し、集合場所へと向かうことにした。

 その後、特に追撃や襲撃、遭遇等は無く、無事に集合場所の河原にたどり着くことができた。ここは一箇所だけ広くなっている場所なので、ある意味わかりやすい場所である。

 エメリが率いる橋を落とした部隊は一番初めに付いていた。すぐ近くにある石造りの橋の石材集積所からその様子を眺めており、崩落を確認したとの事だった。崩落せずに突破してしまいそうな時は、その場で足止めをし、再度火を点け、崩落まで耐え切るつもりでも居た。
 ヴァロは全ての天幕に火が点いたか確認することが出来なかったので、この仕事の徹底ぶりには頭が下がる思いだった。

「ヴァロさん、それでこれからどうするんですか?」

「夜明け前辺りに船が来る予定です。渡し舟程度の小さな船しか確保できないはずですが、人数分は何とかなる予定です」

「最悪順次対岸へと言う事になるのか……」

「そうならない事を祈ります」

 しばらくすると、夜襲部隊全部が合流することに成功した。
 死者は無し。負傷者は8名。そして、橋の崩落は成功、全天幕に火を点けることに成功という完璧な作戦実行と言える出来だった。
 ただ、ヴァロの遭遇した哨戒部隊と、第4部隊の点火が早かったため、第6部隊が火の確保の時間が取れず、篝火を無理矢理使用し、哨戒部隊との強襲戦闘が起こったという事態もあったが、概ね成功だろう。後は時間を待って川を渡るだけになった。

 夜明け間近、闇が一瞬濃くなる時間に舟が到着する。しかし、予定の数より少ない上に、さらに小さい舟だった。

「遅れてすまねえ。この辺りの流れを暗い中操作できる者なんてほとんど居ないからこれだけの数になっちまった」

 およそ6人乗りの舟が3艘。何事もなく往復できれば6往復で100人全員渡ることが出来る。
 こうなるとわかっていれば、別の作戦を取ったかもしれない。往復せずに下流まで流してもらえるだけでも良かったのだから。翌日、もう明け方になっているので今日の反撃に間に合わせるためにという考えに基づいて行動していたのが仇になったのかもしれない。

 今更、作戦を変更するわけにもいかないし、有志で来てもらった彼らに対し無碍に扱うことも出来ない。他に取れる手段もこれ以上のものは無い為、このまま皆を対岸まで渡してもらう。

 乗ってから下流へと進み対岸に下ろすのに5分。戻ってきて兵士を乗せるのに10分と言った所だろうか。しかし、それでも1時間半は軽くかかってしまう。リスクの高い作戦となってしまった。

「怪我人を抱える第6、第8、第9、第10部隊を優先に。それ以降は順次第一部隊から。対岸に着いた者はその場で待機」

 戦場よりそこそこ南側のこの対岸は確実ではないが安全地帯と言って大丈夫だと思われる。その為、この場で残り最後まで指揮する義務をヴァロは負っている。

「僕も最後の10人に入れて下さい」

 そう言ってきたのはエメリだった。ヴァロはエメリが亡くなったカルロの仇を打つ為に志願した事を知らない。しかし、たまたま相手が油断していたからここまでほとんど何もなく進める事が出来たが、油断していなければ全滅していたかもしれない策に志願してきたのだ。その意を汲み、ヴァロは許可した。




「あと2往復ですね」

「何事も無ければ良いのですが」

 エメリがヴァロに対して話を持ちかける。
 今まで何も事故や襲撃と呼べそうな物は何一つとしてなかった。唯一あったのは1人、舟に乗る時に転び、全身水浸しになってしまったという程度だ。
 この言葉も、今到着した空の舟を見てそう口にした。正直暇だという気持ちがあったのだろう。ヴァロもその気持ちがわかるので特にたしなめることをせず、そのまま返事をする。

 5回目の輸送、90人目の18人が乗り、岸を離れていく。東の空がほんの少し明るく見える。もうそろそろ日が登り始める時間になる。

 急がなくては敵兵士達に見つかる可能性が出てきてしまう。さらに、先ほど戦った兵士の人数は約15人。こちらが傷つけ戦闘不能な者が居たとしても戦力は拮抗しつつある。

 その上、こちらは敵陣地の奥と言えなくもない場所である。増兵もあるだろう。出来るだけ早めにこの場から立ち去る事が最良なのは間違いない。

 そう思っていた矢先、その言葉通りに二人の近くに矢が突き刺さる。

「敵襲! 私を中心に散開陣形! 矢に対処せよ!」

 ヴァロは矢の飛んできた方向を向きつつそう指示すると同時に剣を抜き、暗い中なんとか見えた矢を打ち払う。
 思ったより矢の飛んでくる数が少ないのが幸いして、敵の視認できる人数が確認できた。

「20人。思ったより多いですね……」

「どうする?」

 ヴァロのつぶやきに対して慣れない丁寧語だったエメリが元の口調になって質問する。

「エメリ、貴方は泳げますか?」

「自慢じゃないが、風呂以上に多い水に浸かったことは一度もないね。ヴァロさんはどうよ」

「もし水の中で息が出来るのならば泳げると申しておきましょう」

 暗い中の上、敵兵の放つ矢を防ぐためにお互いの顔は確認できない。だが、二人とも、苦笑いをしているだろう事はわかった。

「耐えるしか無いでしょう。ただ、攻めて来られないようなペテンなら一つ案がありますけど」

「この戦力差だ。まだ伏兵があるかもしれない。ペテンをやろう」

 引っかからなければおしまい。だが、どちらにしても、打つ手が一つもない状況。下らない嘘で相手が騙されてくれれば儲けと言う程度だが、騙されてくれれば舟が戻ってくる時間を稼げるだろう。
 儚い希望を込め、ヴァロは大きな声で伝える。

「告げる!! 第1部隊、予定ルートから前進せよ! 第2部隊、索敵しつつ左翼方向から! 第3部隊、ヨエンスーの町強襲部隊を指揮し、陥落せよ! 少し待てば友軍が上陸する! もし俺達が守りきれなくても他の部隊が確保してくれる! 生き残ることを優先せよ! 」

「おう!!」

 包囲殲滅兼、逆激を加えるという良い戦法だろう。本当に部隊が居ればだが。
 しかし、それがわかっていた9人は相手にペテンを引っ掛けるために合わせて檄を飛ばす。
 相手に策を弄する人材が居ないのか、援軍が来ることが無いことがわかってあえて周囲を警戒させるのかわからないが、敵中央の部隊以外の左右の人員が割かれ、後退していく。

 このペテンが通り、相手が考えることと言えば、敵部隊索敵と退路の確保、そして敵軍上陸部隊の確認だろう。遭遇戦そのまま部隊の部隊が増員して来たという期待は出来ない。もう補給陣側では日が昇るような勢いで明るくなっているのだから。そのため、1人でも良いから敵兵を捕獲し、責任を取らせたいという所だろうか。そのため、こちらがこの様な少ない人数でも半包囲を崩さないのだろう。

 人数が少なくなったおかげで、飛んでくる矢の本数がより少なくなる。暗い中の為、命中率は非常に低い。こちらも黒い鎧を着ているため、相手も視認しにくいという利点もあり、ほとんど剣を振るうことがなくなってきていた。

「このまま逃してくれないかね」

「そんな期待はしない方が良いと思いますが、私もそう願いたいですね」

「っと、その願いは聞き入れてくれないみたいだな」

 号令とともに、一斉に矢が飛ばされてくる。そして、そのタイミングに合わせて10人ほどの小集団が一段低いこちらと同じ河原にまで降りてきた。
 その小集団の1人、真ん中に居るの男にはヴァロは見覚えがあった。

「あの真ん中の大柄の男は私が相手します! それ以外は極力無理せず、次の指示があるまで生き残ることを最優先に!」

 敵補給陣から逃げる時に遭遇した敵哨戒兵達の1人、ヴァロの剣を止めた男だった。

「よう。さっきはよくもやってくれたな」

 剣を片手で持ちながら歩いてくる大柄の男はヴァロに対しそう話してくる。

「殲滅出来なかったのを今は悔やんでいますよ」

 ヴァロはしれっとその怒気の孕んだ言葉を受け流す。しかし、表情は真剣なままだ。侮っていて良い相手ではないと理解しているからでもあるが、元々の性格もあったかもしれない。

 そしてどちらからとも無く歩み寄り、剣を振るい合った。
 1合、2合……幾合も重ね、相手を殺す気で剣を振るう。

 ヴァロも遊んでいるつもりは毛頭無い。相手もそんなつもりは無いだろう。重い、そして鋭い一撃を防ぎ、そして喰らわせる。フェイントを間に交えようとしても、そのフェイントをおこなった隙に一撃を繰り出してくるため、見た目派手だが単純な応酬となる。しかし、体と意識はお互いにその一撃を最大限に効果を発揮させるために、視線の誘導や、体の部位をわざと動かし、違う剣撃を繰り出そうとしていたが、暗い中の戦闘ということであまり効果を発揮しなかったのも派手な戦闘にならざるを得なかった要因かもしれない。

 切っ先はすでに血を拭ってしまった為にもう赤い色は落ちてしまっている。だが、それ以外の部分はまだ暗闇では視認しにくい色になっているにもかかわらずヴァロに肉迫している。もし、日が昇った時、有利になっているのは自分ではなく相手ではないのかと考えてしまう。だが、剣士にとって、自分は絶対に負けないという自信を持っていなければ、相手を圧倒できるはずも無い。心に少し浮かんだその疑問を直ぐに捨て、全力で剣を振るう。

 エメリは隣で同じように暗い中剣を振るっているが、相手はさほど強い相手ではないように思える。少し、息を整えるために間を開け、周囲を確認すると、嬉しいことに誰も傷ついているものさえいなかった。

「どうだい、俺達に降らないか?」

 大柄の男がヴァロに対して降伏を進めてくる。剣を降ろさずに言ってくる所は剣士だからだろうか、それともそのような交渉をしたことが無いだけなのだろうか。

「何故、そんな事を言うんだい?」

 殺しに来ている相手に対して伝える言葉ではない上に、補給陣を襲った一団ということはもう向こうには知られているだろう。
 それを考えると、単純にヴァロを欲しがっているようには考えられなかった。

「俺の剣をここまで受ける者など滅多におらん。その剣の腕を惜しんでだ。それに、少しは頭が切れそうなのでな」

 ヴァロの剣を受けられる者が殆ど居ないと……。相手はそう言ってきた。

「それは大変嬉しいことだ」

「なら降ってくれるのか?!」

 大柄の男は嬉しさからか、切っ先が下がる。それをヴァロは逃さず攻撃を仕掛ける。

「何をするのだ!」

 慌てて大柄の男はヴァロの剣を防ぐ。相手が降ったと思った瞬間だった為に、完全に不意を突かれ、不利な体勢で攻撃を受けることになった。しかし、それでも完全なる一撃、傷、もしくは致命傷を負ってしまうかも知れない一撃を防ぐというのは彼のすごいところかも知れない。

「俺程度の男など、この国には腐って捨てるほど居る。そんな程度の男がほしいという国など、こちらから願い下げだ」

 全力で力押ししている所に、ヴァロは相手の腹めがけて蹴りを入れる。

「全員、川に向かって走れ!! そして飛べ!!」

 その言葉を聞いた9人は相手を蹴り、そして川に向かって走り始める。
 大柄の男は殺されると思い、身構えていたが、ヴァロが逃げ出したことに腹を立て、怒りながら追いかけてくる。

「まて!! 逃げるのか!?」

 剣を収め全力で走り始める10人を追いかけるが、コランダム軍兵士達は握りしめた剣が邪魔して速度が上がらない。しかし、仲間にするにせよ、捕らえるにせよ成果は上げなければならないのだろう。諦める事無く必死に追いかけてくる。

 しかし、その様子をあざ笑うかのように次々と川へと大きく飛び込んでいく。
 鎧を着けたままでこの流れは自殺行為であろう。それがわかっている大柄の男は一応足を止めずに走っていたが、唖然とした表情でその様子を眺めていた。

 コランダム軍の兵士達は、足を緩めた事を直ぐに後悔する。
 太陽が昇り始め、日の光が川を明るく映していく。
 そこには小さな舟を操る人影と、先ほどまで戦っていたであろう男達が舟の上で立っていた。

「逃げさせていただきますよ」

 ヴァロは大柄の男に対し、そう言うとあと一人分乗れそうな舟に飛び乗る。
 が、ジャンプ力が足りなかったのか、川に落ちていく。
 しかし、なんとか舟の端に捕まることができ、流されることはなかった。

「ヴァロさん、ずぶ濡れですね」

「エメリ、助けてくれるとありがたいです」

 ずいぶんと締まらない脱出劇だが、一人も脱落者を出すこと無く任務をやり遂げたと言う達成感に浸れるにはもう少し安全な場所と時間、そして暖まる毛布が必要だった。



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