奴隷の花嫁

圧縮

文字の大きさ
13 / 17

第12話 将軍と奴隷

しおりを挟む
「さて、ヴィルヘルム男爵、貴方を私の臨時副官に任命します」

 ヴァロの出立を見届けた後、陣に戻るあたりでそう伝える。

「はい?! 私などでよろしいのでしょうか……?」

「ええ、問題ありません」

 ヴィルヘルムは男爵位を持っているが、基本的には農民と変わらないことを日頃行っているので貴族らしいことなどする自信が無い。そしてさらに言えば、戦争行為など初めてのことで、そのような大役勤められるとは思っていなかった。戦うにしても妻であるパウリーナの後ろに隠れていたと言う一般的には恥と思えそうな行為だが、今回は妻であろうが誰であろうが、強い者に守られなければ生き存えることなどできなかったであろう。

「非常に光栄なことなのですが、私には軍を指揮する事も、剣が達者だと言う事もありません。それでもよろしいのでしょうか?」

「ええ。立場上指揮できる者が手元にほしかったと言うのがあります。本心は同じラウリ男爵のところで購入した奴隷を持っている仲間意識と、貴方の伴侶の話を聞きたいと思いまして。まあ、もっと単純に言えば、話し相手がほしいのですよ」

「戦うことには自信がありませんが、それでしたら喜んでお相手勤めさせて頂きます」

「一応実務はお願いしますよ?」

「難しいことにも自信がありません……」

「まあ、そこまで難しくはありません。火の手が上がったら攻め込むだけです」

 突然そのようなことを言われてヴィルヘルムはうろたえてしまう。

「戦争法上大丈夫なのですか?! 私は詳しいことを知りませんが、それは今禁止されているようなことなのではないのでしょうか?」

「禁止されていますね。だから、名乗り上げと戦地決定、そして戦争終結条件を本来初めに決めるのですよ」

「ですが……」

「ヴァロがこう言ったのです。宣戦布告をしないで攻めてきたんですよね。なら、それは盗賊と一緒でしょうと」

「それは強弁では……」

「関係ありません。戦争を常態化させないように、お互いの国が壊れすぎないようにと近隣の国々で決めた戦争法です。それを守らない者は盗賊として扱っても問題ないでしょう」

「それでは、万が一相手の王子を捕らえるなり、最悪殺してしまった場合は問題になりませんか?!」

「大丈夫でしょう。王子を僭称する盗賊の頭を捕らえただけですから」

「しかし……」

「大丈夫ですよ。国王とその側近は聡明な方です。きっと面白いことになると思いますよ」

「……」

「それに、ヴァロはこうも付け加えていました。攻めて来るのだから、攻められる事も覚悟しているはずですよねと」

「つまり、卑怯な手を使った盗賊相手なら、どんな手を使っても問題ないと……」

「そうでなければ、相手の補給陣を燃やすことなど許可しませんよ」

「さあ、火の手が上がるまでは休みましょう。およそ明日の昼までにはすべて決着つくと思いますが、その後は国境まで敗残兵を刈り尽くす事の行軍となるでしょう。休めるときは少しでも休むべきです」

「恐ろしいことを聞かされて眠れるか自信はありませんが、その通りだと思います」

「貴方の奥様のお話は行軍中にヴァロを含めて話しましょう」

 そうにっこりと微笑みながら伝えるので、ヴィルヘルムは毒気を抜かれ、思ったより簡単に眠れるかも知れないと思えた。





 自分の天幕で眠っていると兵士がヴィルヘルムを起こす為に入ってくる。

「ヴィルヘルム男爵、起床願います」

「ああ、わかった」

「準備が終わりましたらレフトサロ将軍の天幕までお越し下さい」

「すぐに向かうと伝えてくれ」

 貴族が兵士に天幕の中まで起こす為に来てもらうのも、本来はあり得ないことだろう。
 だが、今のヴィルヘルムは自分の領地にいる兵士も民兵も身の回りの者は全て連れてきては居ないのだ。皆、ヴィルヘルムとパウリーナを助けるためだけに残ったのだから。その為、起きた後の着替えや正装、鎧付け等は殆ど自分一人でやらなければならない。鎧は外に居る警護兵に助けてもらいながらつけるのだが、それ以外は結局自分一人でおこなうしか無いのだ。
 貴族としてはあり得ないほど村民に馴染んでしまっているので、そこまで苦にはなっていない所がまたヴィルヘルムたる所以なのだろうが。

「レフトサロ将軍、お待たせいたしました」

 できるだけ急ぎ準備を整え、レフトサロの元へと赴く。天幕に入るとすでにレフトサロは準備を終え、この一帯の地図を眺めていた。

「おお、ヴィルヘルム男爵。上がりましたよ」

「上がったとは……、あ! 火の手でしょうか?」

「そうです。ヴァロは成功したようですね」

「おめでとうございます。後は生きて帰るだけですね」

「それも難しいかも知れませんが。それより、私達はこれから敵本陣を襲撃します」

「はい!」

「そこで、ヴィルヘルム男爵は2部隊を率いて別に動いていただきたいと思います」

「えっ!?」

「大丈夫です。実行は兵士達が行いますので、何ら問題ありません。お飾りという表現はお嫌いでしょうが、一緒に行くだけでかまいません」

「はい……。兵士を約200お貸しいただけるとなると、レフトサロ将軍は残りの1,300ほどを率いて行かれるのですか?」

「いえ、それは不可能でしょう。未だに眠っているでしょうし、ラナマキ将軍が許すとも思えません。なので、私の連れてきた手勢の残り300を引き連れて攻め込みます」

「え?! 大丈夫なのですか?!」

「問題ないでしょう。相手は浮き足立っておりますし、このお利口さんな部隊が攻めて来ると思っていないでしょう。もっと乱雑で粗暴な南の国々との戦いをこれからご覧に入れて差し上げますよ」

 そう言うと薄く笑う。しかし、ヴィルヘルムにはその笑いがとても怖い物に思えた。

「失礼します!報告!レフトサロ将軍、ヴィルヘルム男爵、両部隊とも準備は整っております!」

 天幕の外で声がかかり、レフトサロが許可を出すと南征軍兵士が入り報告をする。

「わかりました。ヴィルヘルム男爵に作戦を説明しますので、終わり次第向かいます。出撃体制のまま待機していて下さい」

「はっ!了解致しました!」

 兵士はそのまま走り部隊の方に向かっていった。

「それでは作戦を説明します」





 まだ宵闇が深く、日の光が昇る直前の一番闇が深くなる時よりは若干明るい時刻。
 黒い鎧をまとった一団が何事も話すことなく静かに進行し、とある平原を望むことができる少し小高い丘で先頭にいる者の指示で静かに停止する。

 東の空を見てみると、まだ日の光が昇ってくるには暫くかかるはずだが、薄く明るく見える。色彩も白というよりは赤いといった方が近いだろうか。
 その明かりより遙かに手前、見下ろした平原に幾つもの天幕が見え、あまり多くないかがり火がたかれているのが見える。

 かがり火で見えることは、あまり多くはない兵士だが、とても慌てた様子で右往左往している。
 その兵士達の近くの天幕からは幾人かその様子を確認するかのように顔だけ出している者も見受けられた。
 だが、全体的に起きてはおらず、何かあったが情報伝達がうまくいかないのか、指揮する者が居ないのか、起きないのか。
 一部しか混乱が起きていないと言うことは、現状無防備だと判断できた。

「これより、我が国を蹂躙せんとする賊共に誅伐を加える!!」

「おう!!」

 大きな声でレフトサロ将軍は宣言する。黒い鎧と隠密行動を全く意味のないものとして扱ってしまっている。しかし、堂々と、相手に聞こえるように大きな声ではっきりと伝えている。

「相手は賊だ! 気にすること無く成敗せよ!!」

「おう!!」

 レフトサロの声を聞き、次々と天幕から敵兵士が出てくる。何が起きたのか理解できた者は、慌てて鎧等の装備を装着するために自分の天幕に戻っていった。理解できなかった者は呆然とレフトサロの言葉に聞き入ってしまっていた。

「各々思うところがあるだろう!遠慮無く殺してしまってかまわない!」

「おう!!」

 呆然としていた者も、この言葉で慌てて自分の天幕に戻っていく。敵陣地はもう混乱の極みにあり、至る所で罵声や怒号が聞こえ、秩序という物が完全に欠落した状態だった。

「おまえ達は一騎当千! 一人で千人相手にできる強者よ!」

「おう!!」

 混乱はまだ極めていなかったのかと思ってしまうほど陣は荒れていた。戦闘を叫ぶ者、撤退を叫ぶ者、降伏を叫ぶ者。ここまでデタラメに入り乱れていると言うことは、司令官、もしくはそれに類する者達がほぼ居ないと言うことなのだろう。

「我が国、我が臣民、我が同胞。我が友、我が妻、我が子。それらの敵を討つのだ!」

「おう!!」

 この言葉で逃げ出す者が出始めた。身に覚えがあるのだろうか。実際報告では略奪があったと言う報告は受けている。婦女だけではないだろうが、暴行や性的暴行を受けた者の数は厳密に調べることができない規模になっているだろう。

「殺せ! 賊を皆殺しにせよ!!」

「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」

 言葉とともに全員が抜刀する。黒い鎧と抜いた刃が一斉に月明かりに反射し薄く光る。まるで死を告げる為に現れた悪魔の集団の様に。本陣では恐怖で座り込む者、武器を捨て、鎧を捨て逃げ始める者、自分の非を認める者、様々な悲観的反応が見て取れた。

「突撃!!」

「突撃!!」

 レフトサロの号令と共に黒い鎧の戦士達は丘を駆け降り、敵本陣に突撃していく。
 幾人かは本陣前に並び、闘おうという意思を表した。しかし、その闇の集団は一気にその男達をいとも簡単に切り捨て、本陣内部に走り込んでいった。

 悲鳴が轟く。斬り捨てられた男の痛みの悲鳴や、断末魔、死を恨む叫びや殺した者を呪う怨言。それ以外に恐怖で叫び出す者、声を上げ逃げ出す者。様々な負の要素が含まれた音だ。

 その音が陣の入り口から徐々に伝播し、陣の奥へと向かう。
 次々と奥の方からも兵士が飛び出てくるが、鎧を着けておらず、いとも簡単に斬られていく。
 中には小隊長クラスの者が何人か居るらしく、武器や鎧を捨て逃げろと叫んでいる。

 本来であれば、多く見積もって相手陣にいる兵士は3,000名。こちらの攻め込んでいる兵士は300名。人数差は10倍となり、殺されるのはこちらの方である。

 しかし、夜襲はお利口さんな軍隊ではありえないと言う油断と、虚勢を張りたい者達であれば、派手な鎧を着けるものだが、漆黒の鎧で恐怖心をあおり、全員同時抜刀という事で悪魔の所行の用にも見えたのだろう。

 口頭で盗賊扱いされ、頭にくる者もいただろう。しかし、宣戦布告をしてないのは明白であり、さらには略奪も幾度も行っていた。結果、本当の盗賊と同じ様なことをしていたと気づいた者もいただろう。盗賊であれば最悪死刑。良くて奴隷となる。どの様な奴隷になるのかはその人の資質次第だが、戦争で捕虜になる一時的な奴隷、兵奴隷に比べて、盗賊のような犯罪奴隷であれば、恒久的な奴隷となる事が多かった。それが恐怖となって伝播し、逃げ出す者も多かったのだろう。

 だが、それ以上に混乱を増幅させた事が一つある。
 コランダム軍は今回指揮するための貴族がかなり少なかった。その理由は戦争に行きたくない貴族が自分の代わりにと差し出した奴隷である。位の高い者ほど奴隷の人数を出すことが多かった為、相手軍の兵士は半数近くが奴隷兵となってしまっていた。

 その奴隷達が、罰を与える貴族がおらず、さらにはこのまま残っても殺されるか、もう一度奴隷にされる事がわかっていて行動を起こさないわけがない。

 コランダムでは無理矢理奴隷にする貴族もいたという話であるため、武器を持ったまま家族の元へと戻ると言う選択肢が選べたのだろう。

 そのため、この戦いで斬られた兵士は基本奴隷兵ではなく、コランダム軍の正規兵ばかりであった。

 民兵などは無理矢理徴収された場合もあるため、率先して戦いに参加することはなかった。だが、奴隷になってしまうことを恐れた為、奴隷達と一緒に一目散に逃げ出していた。

 そのような大混乱のコランダム軍本陣を剣を片手に持ちながら南征軍兵士達とゆっくりと蹂躙していくレフトサロ将軍は、兵士達には死を告げる死神のように見えたのだろう。歯向かってくる者には容赦の無い攻撃、いやもう殺戮と言って良いだろう。その蹂躙劇は、1時間経たずに終えることになる。本陣は本来指揮権が無い小隊長達の全面降伏により陥落した。

 空が白くなり始めたあたりで、もう全敵兵士の武器の徴収は終え、負傷者の救護をしようという辺りまで事は進んでいた。





「レフトサロ南征将軍!!」

 レフトサロが敵陣の中心、多くの敵兵の武器を押収し、積み重ねている所で全体指揮をしていると、息を切らせながら走り寄る一団があった。

「これはラナマキ王都防衛将軍。この様な朝早くにいかがなさいましたか?」

 まるで朝の散歩の最中の遭遇と言わんばかりにレフトサロは爽やかに受け答えする。

「いかがなさいましたかじゃない!! 説明してもらおうか!!」

 怒り心頭のラナマキに対して、早起きして一仕事終えた後の様なレフトサロと言う温度差の激しい対立だった。

「説明と言われましても、ご覧の通りです」

 両手を広げ、見ればわかりませんかという仕草をする。それがよりラナマキの怒りを増やしたのか、赤くなった顔がより赤くなっていく。

「ふざけるな!! なんでこうなっているのかと聞いている!!」

「それを言ってよろしいのでしょうか?」

「なにっ!?」

 ラナマキはレフトサロから馬鹿にされたことに対し、怒りをぶつけようとしたが、レフトサロの鋭い目がそれを止めさせた。

 実はレフトサロも静かに怒っていた。半分は宣戦布告もしないで攻めてきたコランダム軍の将に対し。そして、残りはラナマキに対し。その怒りをぶつけるかどうか、迷っていた。戦争貴族であるため、お互いに成り上がり貴族ではある。位に差が無いはずだが実際に扱われるのはラナマキの方が上になる。

 実際戦闘行動に関して言えば、今回はっきりとレフトサロの方が上であると誰もが見ても納得できただろう。
 あれだけ兵士を無駄死にさせ、さらに今日も指揮権を渡したままであれば、半数以上は兵士が死に絶えていただろう。その様な暴挙をしでかす事が明白だった男に対してレフトサロが何で下手に出なければならないのだろうかと。

 しかし、今ここでその怒りをぶつけてしまっても兵士達が混乱するだけとなってしまう。そして、敵軍も逃げ出した兵士達をうまくまとめるか、まだ未確認の場所に伏しているかもしれない兵士達を利用すればラナマキの指揮ならば同等以上の戦いが出来るだろう。

 相手利を与えることしか意味の無い戦闘地での政治闘争をすることはやめ、レフトサロはラナマキでも手柄をあげられる様に言葉を続ける。

「まだ、ヨエンスー、オウトクンプ、バルカウス、ミッケリ、ラフティと5個も町があるのです。更に言えばそれらに追随する村々を考えれば、今この場で議論するよりする事が多々あるでしょう。そして、今敵兵達が逃げていったばかりです。追撃する良い機会かと思われますが?」

 レフトサロの鋭い目から解放されたラナマキはなんとか体面を保とうと静かに呼吸する。しかし、恐怖におびえた体はうまくそれを実行してくれず、言葉が仕えながら出てしまう。

「そ……そうかね……、私の為に……手柄を残してくれたのかね……」

「ええ、まだ敵大将と思われる人物の捕獲に成功しておりません。南征軍及び、右翼部隊の半数はこの者達の処理をしてから追随しますので」

「あ……ああ、そうするが良い。私はもう行くぞ」

「ご武運を」

 そう言うと取り巻きの貴族の様な者達に支えられながらレフトサロの元から離れていく。
 その様子を呆れながら眺めているレフトサロは思わずこう呟いてしまう。

「私も大人げなかったですかね……」





「ここで待機してください」

「もっと命令口調でお願いします」

「あ、ああ。すまない。慣れないのでな」

「謝るのも結構です。小部隊ですが、率いる訓練と思って私どもをお使い下さい。それと、敵本陣の方で悲鳴が聞こえておりますので、策は成功したと思われます」

「わかった。全軍待機。このまま橋を監視する。橋を落とそうとする者が出た場合、50名を1部隊とした計4部対で随時対応。絶対に落とされるな!」

「了解しました!」

 もっとしっかりとした口調で命令してほしいと言われたのはヴィルヘルムだ。貴族とはいえ、僻地の開拓地が自分の領地である為、村民とかなり近しい間柄であり、出来ないことを普段から頼んでいる為、以外と腰が低かった。しかし、軍隊ではそれがあまり良い影響を与えないため、それを直すようにとレフトサロからも言われていた。そのための訓練だとも。

 一辺境の男爵がそのような訓練必要なのか疑問だったが、現状南征軍の2部隊に対し、曖昧な指示しか出せていなかったことを考えると、帝王学というわけではないが、覚えていて損はないのだろうと思えた。
 しかし、約3,000人に対し、300人で攻め込むと言うレフトサロの案は無謀にしか思えなかった。そのため、ヴィルヘルムは200人とはいえ、人数を増やす為にレフトサロに合流したかったのだが、レフトサロは余裕なので、その橋を絶対に落とさせないで下さいと厳命されていた。

 南征軍兵士に簡単に説明した時も特に動揺がなく、本当に大丈夫なのか心配して橋に向かって行軍中にヴィルヘルムの補佐として第2部隊隊長と話していたが、こちらに200人割く理由はヴィルヘルムがいるからだと言われ、複雑な気分になってしまった。

 この橋を守るために来た部隊だが、基本的に近くの林で隠れ、表に出ることはなく、通過する敵兵を押さえたりすることもない。
 やらなければならないことと言えば、この橋を落とさせないこと、万が一敵軍別働隊が攻めてきた場合、後方から強襲すると言う程度だった。
 逃げてくる兵士達と戦うことはまず無いだろう。あったとしてもこちらの士気は高く、強者達があいてであるため、数の差が無ければ簡単に制圧できるだろうと思えた。

 実際に、夜が明け、日の光を浴びることが出来始める時間に、20人程度の逃亡兵が橋を落とす相談をしていた。そこ50人ほど南征軍の兵士が武器を持って近寄ると、糞尿を漏らしながら投降してきたと言う状況だった。

 レフトサロ将軍は何をやったのだろうかと逆に不安になったが、この様におびえると言うことは、作戦は完遂したと思って良いだろうと考えられた。
 幾度か、小さな小競り合いと敵兵の捕獲があったが、特に問題なく過ごし、いつまでここに居て良いのか、いつまでここに居るべきなのか不安になった辺りで大人数の集団がこちらに近寄ってきた。

「報告、ラナマキ将軍以下約600名、こちらに近づいて参ります」

「わかった」

 短く兵に答え、考え始めた。
 このまま隠れているべきか、それともラナマキ将軍を迎え入れるべきか。
 正直言えば、あの将軍とは話をしたくない。男爵と戦貴族なので、位の上下関係は実際無い。今回この戦いに参加しているのも、東方面に詳しい戦貴族がいないのと、元々いたはずの戦貴族が敵国に捕獲されている為、代理で、そして自分の村を取り戻したいが為に参加しているのだ。

 自分は王家の政治部門から任命された貴族であり、軍務部門の貴族とは立場が違う。しかし、指揮の傘下に入っていると言うことで、一応は上役になっている。レフトサロみたいに尊敬できる相手ではないため、そこまで下手に出なくても良いのではないかと思う。と悩んでいたところ、自分の補佐から声をかけられた。

「ヴィルヘルム男爵、行くべきです。少なくとも、後でわかった場合、レフトサロ将軍にご迷惑がかかります」

「やっぱり行かなきゃだめか。なんか嫌いなんだよね」

「貴族社会でもその様なことは多々あるでしょう」

「うちは田舎だから全くないのさ。あるとすれば、嫁が怖いと相談しに来る村人くらいかな」

「うらやましいことです」

「本人は真剣なんだよ?」

 そう言うとお互いに笑い合い、吹っ切れたところでラナマキ将軍を迎え入れることにした。





「ヴィルヘルムと言ったか。ご苦労。それでおまえはここで何をしている?」

「はっ! レフトサロ将軍の命で橋の確保に来ておりました」

「ちっ、またレフトサロか……」

「何か?」

「何でも無い! 我らはこれから敵軍追撃にかかる。渡ってる間に敵兵から攻撃されるかもしれん。周囲を警戒せい」

 ヴィルヘルム男爵が地方の貧乏貴族だと言うことがわかっていたのか、それともほかの貴族に聞いたのか。ラナマキは最初から高圧的だった。属する所が違うため、よほど何かに秀でて勲章などを貰っていなければへりくだる必要は無い。
 本来であれば、文句の一つも言いたいところだが、そんなことをしてこの男との面会時間が長引くことを嫌がってヴィルヘルムは何も言わずにその会談を終えた。

「呆れたものだな。自分が最高位で有能だと思い込んでいる。そんな男に率いられなければならない兵士達は気の毒だ」

「あまり、そのことを口に出されませんように。民兵の間でレフトサロ将軍に属したものへの不平不満が上がってると聞いております」

「仕方が無いことだな……。ここまで能力の差がはっきりと出てしまったのだからな。わかった。口に出すのはお前かレフトサロ将軍の前だけにしよう」

 出さないとは言わなかった。言いたくはなかったが、ラナマキに対して不満が多かったからだ。

 正規兵は基本どの様な命令でも受け付けなければならないが、民兵はそこまで命令に堅守しなければならない理由など無い。ただ単に力が弱いために命令を受けざるを得ないだけなのだ。

 さらに、戦争のスペシャリストだから指示に従うだけであって、戦争の素人には従わないだけの自由は本来志願という形であるのだから。

 今回は単純に上に就く者が無能であっただけ。道ばたで馬車に引かれる位の運の悪さが発揮したと思うしかないだろう。

 これからどこまでラナマキが民衆の支持を得られる様な武勲を獲得できるかわからないが、少なくともラナマキについて行かざるを得なかった民兵の指示を受けるためには生半可な武勲では無理だろうと思えた。





 この戦争はこの日から7日で終わりを告げる。
 宣戦布告をしていないため、降伏勧告も必要ないし、降伏も基本受け付けなくてかまわない。しかし、ラナマキが王族と貴族を国境から一つ手前の町ミッケリで一気に捕獲した為に大規模の部隊が居なくなった為だ。
 一気に貴族達が捕まったことが伝わっていたのか、ラナマキ以外の部隊が国境の町ラフティに届くと敵兵は全員逃げだし、町は開放される事になった。
 盗賊と言う扱いであったため、王族だろうが、貴族だろうが、平民だろうが、奴隷だろうが捕獲できた者は皆一様に乱雑に扱われた。

 良い物を着ていた場合、剥ぎ取られ、そして適当な使い古された服を渡され、剥ぎ取られた服はまとめて商人に下取りされていく。
 武器や防具も各町で足りなくなった補充分以外、すべて商人や鍛冶商人に下取りされる。
 天幕や馬車、馬、食料品等もすべて商人達に下取りされ、その金額は各町の被害状況に応じて割り振られていく。

 スピネル軍参加数、正規兵1,000名、民兵1,000名、奴隷兵500名。将軍2名、貴族24名。
 生存総数、正規兵946名、内重軽傷者230名、死者54名。民兵896名、内重軽傷者453名、死者120名。奴隷兵440名、内重軽傷者230名、死者60名。

 コランダム軍参加数、正規兵1,000名、民兵1,000名、奴隷兵2,000名。王族1名、貴族7名。
 生存捕獲数、正規兵586名、死者319名、行方不明者95名。民兵535名、死者255名、行方不明者210名。奴隷兵781名、死者429名、行方不明者790名。

 被害総額大金貨にして約40万枚以上。人的被害、物的被害、商業的被害を含めた金額であるためと、行方不明者も居るため、詳細は最後になってもわかることがないだろう。心的被害まで考えればもっと金額的に大きな被害となる。

 レフトサロ将軍が奇策を使わなかった場合、この数字はもっと多くなった上に、兵士の被害は逆転してしまっていただろう。

 更に言えば、王都やほかの町、村も占領され、多大な被害を受けていたことだろう。
 コランダム軍の捕虜の内、カール王子他5名の貴族を捕獲することが出来た事は僥倖と言えよう。
 一般奴隷と同じ扱いにしていたため、かなり文句を言われたが、盗賊相手にこちらが融通を利かせる必要は無い。

 余り騒がしいと殺して埋めると宣言したところ、カールを含めた全員が静かになった。もちろん、貴族と勝手に言っている者達は一纏めにはせず、全員バラバラに収監してある。
 負ける原因を作った者、宣戦布告をわざとせずに、戦争を起こし、兵士達を盗賊に貶めた張本人達。まじめに参加した兵士や奴隷達の間にそれらは放り込まれた。
 さすがに同室になった者達は騒ぎ立てる事は無かったが、庶民の間に一人だけ放り込まれた貴族は針のムシロだっただろう。

 スピネル国としては、戦災復興資金の確保として、コランダム国へ奴隷の販売を行うことをした。
 実際にこれだけの数の奴隷を確保していても余り意味の無いことである上に、食費だけでもかなりの金額になる。不良債権になってしまうため、早いところ手放したいというのもあった。



 戦後処理と言う形で行動していた兵士や貴族達を労うという名目で今回カールに狙われていたレーナ姫が現場に現れた。労いの言葉を伝えたりするのは当たり前に行われたが、ついでに行われたことがスピネル国民の士気を上げることになった。

 捕虜となり、汚い服を着せられているコランダム国第一王子カールの元にわざわざ向かい、鉄格子越しに面会したのだ。内容はこの廊の居心地はいかがですかという内容であり、カールはその言葉に激怒したが、ゴミを見るような目つきでレーナ姫が対王家としてではなく、対盗賊として対応し、最終的には心が折られ何も言うことが出来なくなっていた。

 コランダム国に奴隷を販売するのだが一つ条件が付いた。数人だけ買われてしまうことを防ぐために、全員一括引き取りという形にした。
 もし、買い取らなければ南方と対立している国との交渉材料として売ることも出来たので、実際はコランダム側じゃなくても問題なかったのだが、王家はコランダム側に売ることに決定したようだ。表向きは盗賊行為を働いた事への見せしめ、実情は嫌がらせとして。

 コランダム側としては自分の国の第一王子であるため、買い取らないわけにも行かない。しかし、盗賊行為をし、奴隷となった事で、名声が地にまで落ちてしまった王子を買い取ることにはかなりの葛藤があったようだ。しかし、買い取ることになった理由は他にあった。

 他の貴族から戦争参加の報酬と、出兵した兵士達が戻ってこない事への損害賠償と、代理奴隷を出した貴族達の損失補填、他には強制徴収された民衆家族等からの突き上げがあり、少しでもその熱を下げ、矛先を王家から逸らしたいが為だった。

 後日の奴隷売買の交渉時、値下げ交渉があったことに関しては噂でしか出ていないが、噂の出所がコランダム王宮に出入りしている使用人からと言う事で、真実では無いかと噂された。愚かな王子を育てた王であるために、両国民共にその噂を否定出来なかったのもその噂を信じる要因の一つであっただろう。

 レーナ姫が王都に戻るときに合わせて防衛部隊は王都入りすることになった。
 残りの処理は他の町から派遣されてきた正規兵とその町毎にいる戦争に参加しなかった衛兵、そして民兵に任せ凱旋する。
 王都の入り口に着くと、民衆から歓喜の声で迎えられた。
 その歓声は奴隷兵部隊であろうが、民兵部隊であろうが、正規兵部隊であろうが分け隔て無く、惜しみない拍手や歓声が送られた。

 先頭は奴隷兵部隊。この様な歓声を受けることなど、奴隷になってからは初めてだろう。いや、奴隷になる前から受けることも無かっただろう。その様な感動を覚えつつ、そして規律を守った行動をするべく、にやついてしまう顔をなんとか押さえながら行進する。

 奴隷兵部隊を率いていた貴族達は入り口に用意されていた天井と壁の無い馬車に乗り、奴隷兵の行進に囲まれながら迎え入れてくれた民衆に手を振っている。

 手を振られた民衆から歓声や喜びの声が上がり、貴族も奴隷兵も高揚していく。中には嫌がりつつも戦いに出向いた者もいただろう。しかし、この様な歓声を浴びることがわかれば、もう一度戦いに赴くのも悪くは無いと思ってしまう者もいただろう。

 そして、民兵部隊が顔を出す。
 民兵は占領された町民だけで無く、この王都からも出向いた者もいた。その様な者は目の前を通ると名指しで呼ばれ、そして知っている者からはより大きな声で生還を喜び、そして賞賛していった。こちらも貴族は馬車の上で手を振っていたが、民兵での知り合いが通った時の歓声に若干負けているため、少し不愉快になっている者もいたが、すぐに他の者達から賞賛の声を貰うためにすぐに機嫌を戻していた。

 正規兵部隊になるとより歓声は大きくなった。
 行進順はまず東征軍からだった。東征軍は現状壊滅状態であり、なんとか逃げ延びた者達だけでこの王都入り前で無理矢理再建したものだ。
 町を守れなかったと言う負い目はあるが、すべて奪還することが出来たと言う実績もあったため、民衆からは歓喜の声で迎えられていた。
 東征将軍は傷の治療のため、まだ動くことが出来ず参加できなかった。

 続いて南征軍が民衆の前を通る。一気に民衆の歓喜が爆発し、より大きな声で迎え入れられる。
 今回一番活躍した部隊であり、10倍もの部隊を強襲し、勝利を収めるという話が既に民衆の間では毎夜酒の肴になっており、その戦士達を迎え入れることの出来る事を声を上げて喜んでいた。
 南征軍での負傷者は出たものの、戦闘に参加できない程の傷では無いため、ほぼ無傷での勝利となったのもより大きな歓声の要因だろう。

 しかし、その歓声も最高潮のモノではなかった。
 馬車の上で手を振るレフトサロ南征将軍が見える少し前、100名の黒尽くめの、見栄えは汚く不揃いな皮鎧の集団が通った時が見物に来ていた民衆達が一番我先にと声を上げていた。

 この者達は、10倍の戦力差の戦いを勝利へと導いた陰の功労者達。補給陣を攻めるという本来であれば卑怯と誹られそうな戦法。しかし、より相手は卑怯な行いをしてきた為、反撃の狼煙、戦略の要、救国の戦士達、その様な位置づけでとらえられ、勝利への第一歩がここからだったと声高に叫ぶ者さえいた。

 その中でも一番多く歓声を受けていたのは先頭にて歩く少しだけ他の者達と毛色の違う鎧を着ている男だった。
 南征軍とレフトサロ南征将軍の馬車との間にいたため、すぐ気づかれたが、他の南征軍の鎧と同じだったのだ。
 民衆達の噂は、彼一人だけ鎧が違うことや生い立ちまで届いており、その違いに気づいた民衆は我先にと声を上げたのだ。

「彼が奴隷の部隊を率いて戦争を勝たせてくれた人よ!」

「一人だけ鎧が違うからな! 間違いないだろうよ!!」

「相当危険な任務だったんでしょ?」

「ああ、全員生還できないかも知れない所だったらしい。考えてみろよ、4,000人近い部隊の後ろを取り、補給陣を攻め込むんだぜ。夜だとはいえ、俺だったら行って帰ってくることさえ出来ないかも知れないぞ」

「そうね、あんたは臆病で怠け者だからね」

「うるせぇ!」

「それはそうと、ヴァロ=ストックって人で良いのよね?」

「元々奴隷だったそうよ!」

「いや、今でも奴隷なんだそうだよ。見てみろ、首に虹色に光る入れ墨があるだろう。あれは魔法で付けられた奴隷紋なんだよ!」

「そうなの!? では、生まれが良い人が奴隷になったのかい?」

「いや、どうやらそうじゃないらしい。彼は貴族ではないのにストックって名乗っている理由を聞いたことあるかい? あの名前はアールトネン奴隷商で売られた特別な奴隷にだけ付けられる名前らしいんだ」

「どう特別なの?」

「商会が再開してからの奴隷は皆何かしら特別な能力を持っていると聞いたぞ」

「わしが聞いたのはほぼ全員が使用人として一流の能力を持ってると」

「それだけじゃないよ。すごく強いんだって聞いたよ」

「あと、みんな頭が良いみたいだよ。取引ある商人が言ってたけど、あの商会は商品を卸した後の取引もその奴隷達が行う場合があるんだけど、全員お金を間違えたことないんだって」

「そして、彼はこれから来るレフトサロ南征将軍に買われ、自力で南征軍の副将まで力と知恵で登り詰めたらしいぞ」

「そんな人が私たちを助けてくれたのね!」

「かっこいいわ。奴隷達を率いて危険な任務を成功したなんて! まだ独り身なのかしら?」

「まるで奴隷の将軍だな。って、おいおい、お前狙うつもりか?」

「良い顔立ちしてるし、頭も良いし、強いんだろう? そんな優良物件見逃す手はないじゃないのよ」

「あのなぁ……」



 至る所でこの様な会話がなされ、そしてヴァロが視線を向ける度に黄色い声援が上がっていた。
 その直後に来るレフトサロ将軍も多くの歓声を貰い、満面の笑みで馬車の上から手を振っていた。


 しかし、その後に来る王都防衛軍が前を通ると、先ほどの歓声とは何のことかと言わんばかりに小さくなっていった。
 もちろん、皆を守ってくれたと言う正規兵達には惜しみない拍手が送られたが、南征軍と比べれば小さいものだった。
 だが、そんな王都防衛軍の中で一番盛り上がったのは最後尾で迎え入れられたレーナ姫ではなかった。
 ラナマキ王都防衛将軍だったのだ。
 民衆はより大きな声で、ラナマキに向かって叫んだ。

「俺の息子を帰せ!」

「私の夫を生き返らせなさいよ!」

「僕のお兄ちゃんを帰してよ!」

「無能者! そんなのでよく将軍を名乗れたな!」

「私の旦那の左腕を戻しなさいよ!!」

「俺の友人はお前の指揮の下で左足を失ったんだぞ! 返せ!」

「あのボンクラで有名なカール王子に負けるとはどんな戦貴族だ!」

「奴隷とはいえ俺の所有物だったんだぞ! 相手が強くてぎりぎりの戦いならまだしも、そんなことは無かったじゃないか!!」

 戦いの勝利を喜ぶ声もごく一部はあったが、殆どがラナマキへの罵倒だった。
 ラナマキは日頃高圧的な態度をとり、民衆はその圧力にさらされていた。戦貴族や貴族との遊戯、戦を模した遊戯なら彼は右に出る者はいないと言われていたのだ。東征将軍もその遊戯の強者だったが、彼は今回被害者であり、相手軍がまともに戦いをしてこないという事を知らしめた功労者と言う位置づけなのでさほど文句を言われていることはない。だが、その様な無法者相手とわかっていながら遊戯と同じように戦おうと考えていることが間違いだったのだから。

 更に、兵士の運用等も完全に遊戯あり、兵士に指示するための伝令も準備していなかった。もちろん部隊内の伝達なども全く考えておらず、戦線は混乱し、レフトサロがいなければ歴史的大敗劇となったかも知れなかった。

 ラナマキにとって敵国の王子、いわゆる今回の最高司令官を捕らえたという自負があったため、大歓声での歓迎しか頭になかった。そのため、初めは笑顔で手を振り返しており、それがより民衆を激怒させた。

 先ほどの罵倒以上のより辛らつな言葉が投げられ、勘違いしていたラナマキの耳に届き、本来言われるであろう言葉と違うことを理解し激怒した。そして、その言葉を言った者に対し厳罰を与えようとしたのだが、一人だけではなく、周りのほぼすべての民衆がその言葉に近いことを叫んでいることにようやく気づいた。

 慌てて民衆の激怒に驚き、そして恐怖したラナマキは自軍の兵士を馬車上に上げ、四方を盾で囲み、その中に隠れてしまった。
 謝罪することもせず、ただ逃げただけと言うことがよりいっそう民衆は怒り、暴動にまで行きそうになった辺りで兵士達の列が途切れ、怒りは不完全燃焼のまま維持されることになった。

 しかし、その民衆もレーナ姫が見え、彼女が相手国王子に言った言葉を思い出し、拍手や喝采、歓声が沸き上がり、なんとか怒りが収まっていった。

 この後、ラナマキ王都防衛将軍は更迭され、一兵卒に落とされることになった。
 レフトサロ南征将軍が王都防衛将軍になる事を期待した民衆だったが、現在南征軍が押さえ込んでいる国々を放り出すことは出来ないと王都防衛将軍を辞退する。
 民衆の支持があり、ヴァロが王都防衛将軍という荒唐無稽の話も持ち上がったが、さすがにその様なことをさせることは出来ず、そして、他の良いなり手もいないため、現在は空席になっている。



 余談だが、ヴァロが行進中に寡黙な顔になっていた理由と、レフトサロが満面の笑みであった理由について。
 敵本陣強襲後、合流し、生還を祝い合ったレフトサロ、ヴァロ、ヴィルヘルムの3者は、引き続きラナマキ達の後を追い、コランダム軍に占領された町を開放するために進軍した。
 初めの2つの町ではまとまった反撃があったため、ラナマキ達が苦戦していたが、レフトサロ達の活躍によりいとも簡単に陥落、解放された。

 町の治安維持をしている間にラナマキ達は進軍し、手柄を稼ぐために行動する。
 その追随行軍中、暇であったタイミングで3者が幾度も集まっていた。そのときの会話がヴィルヘルム男爵の妻の夜の仕事についてだった。
 レフトサロはラウリの手腕を高く評価し、ヴァロで私財の多くを放出してしまったのだが、もう一人奴隷がほしくなったと言うのだ。
 だが、レフトサロは夜の事について期待しており、ヴァロは呆れて口を挟まず、ヴィルヘルムはそれに気づかずに妻の能力と容姿、性格を褒める。
 最終的にヴァロが口を挟み、ヴィルヘルムの妻、パウリーナに性の手ほどきはしていないと言うことがわかり、断念する。

 しかし、そこで以前漏らしたヴァロの言葉が再燃する。
 次王都に着いたとき、アールトネン奴隷商の娼館に連れて行くと。ラウリの手ほどきを受けた女性を紹介すると。
 今のラウリであれば、娼館を閉めているかも知れない事。以前事を済した女性がいるとは限らない事。居なかった場合どうすれば良いのか。それらを考えていたため、余り良い未来が想像できずに寡黙な顔になってしまっていた。
 一方レフトサロは、これから来るであろう楽しい出来事を想像し、一人でお花畑に迷い込んだ気分で民衆に喜びを振る巻いていたのだった。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...