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第14話 大願のための力
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コランダム国王都、外れにある広場で一人の少しあどけなさを残した青年男性が人々の前に立ち、大声で伝えていた。
「私は皆に聞いて貰いたい! 奴隷達も人である!」
青年男性は真剣な顔で周りを見つめながらそう伝える。
「そらそうだろうよ。今更何言ってるんだ」
たまたま聞いていた民衆の内の一人がそう野次を入れると、周りから笑い声が上がる。
だが青年男性はその野次にも負けずに言葉を続ける。
「その同じ人達が酷い扱いを受けているのは皆さんもご存じでしょう!」
「そら、奴隷だからな。犯罪とか売られたとかあるだろうよ」
言葉を伝える度に野次を入れられ、それを聞いた民衆は笑ったりしてまじめに聞いてもらえなかった。
「その酷い扱いをされている奴隷達を解放しましょう!」
「俺達が買った労働力だ。買ったものを好きにしたっていいだろうよ。それに今更その労働力を無かったことにするなんて出来ねえよ」
いとも簡単に論破されてしまい、青年男性にはそれ以上言葉を続けることが出来ず、それに気づいた民衆はあっけなく解散していった。
「レクス、今日はもう終わりにするのか?」
「ああ、ステルか。今日はもう終わりにしようと思う」
その様子を広場の端の方で眺めていたステルと呼ばれた男性が近づき質問する。レクスと呼ばれた青年男性が残念な表情をしながらその問いに答える。
「まあ、仕方が無いだろう。地道に行こうぜ」
「僕は一刻も早く皆に広めたいんだけどね」
「ずっとやってたら親方が怒るぞ?」
「う……、それは不味い……」
「ようやく相鎚を許されたんだからな。下働きから一歩ようやく進んだ所だ。今はおとなしくしてた方がいいと思うぞ?」
「お前は僕より後に来たのに、ずいぶんと早くから相鎚打たせてもらってるからな」
「そりゃ、ここに来る前少し鍛治としてやってたからな。一通り出来るぞ。親方には研ぎが巧いと褒められてるんだ。それは差が出ても仕方が無いだろうよ」
「その経験がうらやましいよ」
「俺にはその若さがうらやましいよ」
レクスとステルはお互いに敬語などは使わない間柄である。だが、年齢は19才と26才との差がある。お互いに結婚適齢期という状況だが、レクスにはやりたいこと、ステルは比較的良い見た目を良いことに商売女達に手を出している。小さな家に弟子6人で住んでいるのだが、ステルだけはたまに帰ってこないことがあり、聞くと女の所にいたと言っている。結婚する気なのかと尋ねると、全くその気は無く、楽しんでるだけと言っていた。いつかこいつは刺されたりするのではないかと不安になるが、腕だけは良いのと、何故か馬が合うのでよく連んでいる。
それと、実際に演説などを行うことは無いが、レクスの活動を理解し、手助けしてくれる人の一人である。
今ではこの組織も自分を含めて6人になった。
一人で地道にやって居たとき、レクスに見られ、拒絶されるかと思ったら手伝うと言ってくれた。場所の指定や衛兵の動向などを陰ながら調べてくれ、未だに捕まるようなことは一度もなかった。
他の4人は、商人に無理矢理連れて行かされた父や母、子を取り戻したいと考えている者達であり、真剣に取り組んでいる者達である。
本来もう少し人数が居たのだが、ステルに遠くの農村に嫁ぐと伝言を残して去ってしまった。
この活動は強制は出来ない。話もせずに去ってしまうのには多少心が痛かったが、新天地で幸せにしているだろうと考えると少しだけ痛みが和らいだ。
「戦争に出ていた者達が帰ってくるってよ!」
レクスが演説をしている時に後ろの方でその様な話が聞こえ、聞いていた民衆のほぼ全部がそちらの男の話を聞くために向かっていってしまった。
そのまま話を聞きに行くにはさすがに恥ずかしく、話の内容はステルに聞いてきて貰うことにした。
スピネル国に攻め入り、相思相愛であるレーナ姫を救い出し、カール王子と結婚させると言う名目で戦争を起こした王族。
進軍から2週間、途中までは町を陥落させた等の報が毎日大々的に報じられ、民衆はとても盛り上がっていた。
だが、ある時期から「今日も勝利した」だけのような報道になり、中身が殆ど意味のないものになっていった。王国報道以外の市民報道でさえ、同じ内容を報道していたので、民衆は勝っていると錯覚し、勝ち続ける常勝軍だと褒め称えた。
しかし、それも長くは続かなくなり、民衆も殆ど毎日同じ内容のものを報道している事に対し、不信感を覚え、一部の有志がスピネル国の国境の町ラフティを見に行ったそうだ。
報道通りであれば、ラフティには自分たちの国旗があがっているはずだったのだ。が、そのラフティに上がっている国旗はスピネル国の物だった。
不審に思った有志は内部に入り込んだ。
潜入では無く、既に堂々と門から身分証を提示すれば入れる様で、既にコランダム国の商人達が行き来していた。
楽々侵入出来た有志達は分散し、情報を集めると次の情報が集まった。
・スピネル軍はコランダム軍を既に殲滅し、多くの兵士達を捕虜としている。
・その捕虜の中には進軍した貴族6人の内一人を除き全員捕まっているという。もちろんカール王子も虜囚となった。
・コランダム軍占領下の町では、日常的に略奪、強奪、男女年齢関係なく強姦があり、国の軍隊と呼べるような秩序ある者達ではなかった。
・宣戦布告をせずに、いきなり攻め込み、蹂躙していったコランダム軍。最終的には盗賊として処理された。
・今でもこの町にコランダム軍兵士として従軍してたが、逃げ出した者が来ることがある。だが、その様な者達は衛兵が捕まえ、別口で奴隷になっている。
・本来ならコランダムの国の商人や人々と接する事さえ反吐が出そうだが、この事実を知らない者が殆どだと聞いて驚いている。そして、荒廃したこの現状で、金を稼ぐには人を選んでる余裕が無いとのこと。
・レーナ姫がカール王子に仕返ししたことを聞くと、なんとか溜飲を下げることが出来た。
・その捕虜となったカール王子他約2,000名の奴隷はコランダム国の王と売買契約が済み、近々コランダム国に送られると言うこと。
・宣戦布告をしなかった為に戦後の損害賠償などは無かったが、奴隷は一般的な場末の奴隷の50倍以上の金額で取引されることになった。
・その奴隷を買う金はすべての貴族から現金で徴収し、これからすべての町や村で超増税が起こるとの事。
・奴隷の身で一軍を指揮し、将軍と呼ばれた者が居る。
主にこれらの情報が重複して伝わってきた。
有志の一行はその情報を正しく伝えなければならないと、慌ててラフティの町を去り、その正しいと判断できる情報を各町に伝えていった。
その情報がようやくレクスの居る王都に伝わってきたと言うことだった。
その情報が伝わって以来、レクスの演説を聴きに来る者が増えた。
相変わらず野次は入るが、お約束と言うような感じで楽しみにしてる者も出始めたようだ。だが、一つ変わってきたのが、奴隷解放せよと叫ぶ人が増えてきたのだ。
演説後、その者達と接触してようやくその理由が判明した。
今回の戦争で徴兵され、ほぼ無理矢理連れて行かれた民兵の中に彼ら、彼女らの父や母、兄弟、愛する者などが居たようだ。
軍隊に女性民兵などはゼロではない。糧食管理や調達任務などが主である。もちろん望めば戦闘任務に行くことも可能だった。だが、命からがら逃げ帰ってきた者が徐々に増え始め、その実情を語った。
コランダム国内では糧食管理などが主任務だったが、スピネル国に入ってからは貴族やカール王子の身の回りの世話をさせられるようになった。
そして、すぐに体を使った性処理を求められるようになったと言っていた。
相手は貴族や王族の為に拒否することも出来ず、毎日各一人の生け贄を差し出す形をとらざるを得なかったそうだ。
その性処理は女性だけではなく、男性も求められることが多かった。
中には男性そのものを欲しがる者もいたが、男性と女性が絡んでいるところを見て楽しむ者もいたためである。
逆に言えば、貴族に体を許すよりまだましだったと言える為、その日は当たり扱いになったとも言っていた。
だが、絡んだ男性は、貴族の機嫌や嫉妬により、最前列送りになり、命を落とすこともあったため、どちらにしてもハズレの日という扱いだったようだ。
その様な苦痛な日々が続き、王都目前のイロマンツィの町近くでそれは起こった。
貴族や性奴隷のように扱われた自分たちの天幕が燃え始めたのだ。
貴族は慌てて消化の指示をし始めたが、嫌気がさしていた者達と消す振りしてそのまま集団で逃走を図ったそうだ。
そのまま真っ直ぐ同じルートを通ればすぐに追っ手が差し向けられると考えた彼ら、彼女らは、勝手に持ち出した貴族の宝石を近くの町で売り、北方から自分の町に戻るルートを使って逃げ出したそうだ。
終戦からかなり時間がかかり、ようやく帰り着けた理由は相当大回りしていったためだと言っていた。
貴族や王族が奴隷になった者達をスピネル国から買い取った事が、兵士達が帰ってくると言う噂の元だった。
しかし、王族や貴族が金を出した。だから、その奴隷は自分たちの物だと所有権を主張しだした。
更に酷い貴族は、その奴隷を遠方に売り、減った資産を取り戻そうと躍起になっていると言っていた。
その様な実情を知る者はより奴隷解放運動に参加するようになり、貴族や王族の非道を広めていった。
時間が経つにつれて、人が増え、そして衛兵達でさえレクス達を捕まえずに話を聞くようになった頃、レクス達に話を持ちかける者達がいた。
「反王政団体のリクハルドです。貴方が奴隷解放運動団のレクスさんですね、お会いできて光栄です」
第一印象はやたらと笑顔が綺麗な白髪が交じり始めた男性という所だった。
彼も、娘を貴族に無下に扱われ、殺された内の一人だと説明を受けた。その説明していた時は綺麗な笑顔から人では無いと思えるような酷い表情だった。
「私達反王政団体と、貴方達の奴隷解放運動団の統合を提案します」
奴隷制を許可しているのはこの国の王が認めたことであるため、奴隷の解放は王に許可を頂かなければならない。
単純に、王政が無くなれば、奴隷は自然と解放されると言うことになるのだろう。
だが、レクスにとって、国が無くなる事を行っても良いのか判断できず、反対しようとした時、ステルがレクスを別の部屋に連れ出し、説得してきた。
あの様な腐った貴族達が、俺達の意見を聞くとは思えない。王城に乗り込んだ瞬間に衛兵達から一網打尽にされるだろう。それに、国を倒せる勢いがあれば、お前の最終目標のきっかけが作れるだろうと。
そのステルの説得により、反王政団体と組むことを決意する。
「わかりました。貴方達と手を結びましょう」
「おお、ありがたいことです。王政を廃止し、奴隷達を解放致しましょう!」
二人は立ち上がり握手を交わす。リクハルドの手は大きく、そして力強かった。
本心から王族を憎み、廃止するために行動していたと言っているだけあり、奴隷解放運動団と組むのは一条の光だったのだろう。本当に嬉しそうな笑顔だった。
「主はリクハルドさんにお願いします。私では分不相応ですので……」
レクスはさすがに若者であるため、更に目的のことが達せられれば特に気にしなかったため、上に立つ必要も無かった。なので、自分から身を引いたのだが、リクハルド達はそれをさせてくれなかった。
「連合主はレクスさん、貴方にお願いします。いえ、貴方でなければならないのです」
「レクス、それはお前がやるべきだ」
リクハルドから言われるだけでなく、信用していたステルからもその様に言われてしまう。
「若輩の身です、私なんかが上に立っても誰も着いてこないでしょう……」
「いえ、演説を聴いて私は確信しておりました。貴方こそこの新しい連合の主となるべきです」
「お前だから俺は着いてきたんだ。お前じゃないなら俺は降りるぞ」
リクハルドからは褒められ、そしてステルからは脅される。非常に困った状況になるが、二人から伝えられる。
「俺がお前の手助けをしてやる。お前で無くてはだめだ」
「私が貴方の補佐をしましょう。若い人の方が求心力があります。見た目も良いし、貴方だからこそ着いてきた人々もいるのでしょうから」
結局この言葉でレクスは折れ、新しい連合主になることを決意した。
「わかりました。そこまで言うのでしたらお引き受け致しましょう。それと、名前はどうしましょうか、新しい名前にした方が良いと思うのですが……」
新奴隷解放運動団、反王連合、断罪団等、いろいろな名前が案として浮かび上がってきた。だが、今まで出てきた案は余り良いイメージではなく、頭を悩ませた。
「では、救国民連合ではどうでしょうか。国や民を救う者の連合。僕たちの国なのだから、僕たちの手で救わなければならないと思うのですよね。それに、他の団体も吸収できた時にも使いやすいでしょうし」
「それがよろしいでしょう!」
「それにしよう!」
二人の意見も一致し、救国民連合という名前で今後活動していくことになった。
救国民連合で活動する初めの演説会はとても人数が多くなっていた。
奴隷解放運動団の人数も多かったが、反王政団体の方もかなりの人数が居た事がわかった。
団体結成式典とでも言うべき形を整え、初めに設立の経緯を皆に伝える。
奴隷のこと、現王政・貴族体制のこと。それらを廃止、改善し、皆の生活を豊かに、そして自分たちの子孫のために良い国を残そうと考え発足したと。
この演説の最中も、すすり泣く声や、大声で王や貴族を罵倒する者、様々な反応が見られた。
それだけ苦しい思いをした者が居るのだろう。現体制では、民衆も奴隷に近しい存在になっている。奴隷よりはましという程度だ。中には良い貴族もいるだろう。だが、この国は模範を示す王族が一番の腐敗している場所だ。
これからは賛同してくれる貴族を探し、王や貴族を政治の中心から離す事を目標とし、助けられる者が居れば皆で手を取り合い助けていこうと伝え、新しい団体の設立を宣言した。
歓声が轟き、多くの者が賛同してくれる。レクスにとってとても得がたい経験となった。
しかし、レクスは知らないところで薄く笑っている者達が居るとは夢にも思っていなかった。
しばらくは平凡というのもおかしいことだが、普通の演説が行われていた。他の者達も各所で演説会を行い、人数も順調に増えていった。
噂されていた増税が行われると、人々の関心はより増し、演説会に参加する人数もどんどん増えていった。
そんなある時、小さな演説会をしている場所、救国民連合のメンバーは5人くらいだろうか、そこに貴族の一団が乗っている馬車が通りかかってしまった。
普段は演説会をする広場の出入り口から離れた当たりで少なくとも一人は貴族や王族、衛兵の乱入を防ぐために監視をしているはずだったのだが、この時は慣れが監視を緩めたのか、監視していた者が怠慢だったのか、それとも他の意図する者が監視者を一時的に排除したのか。ともかく理由はわからないが、貴族と衝突をしてしまった。
初めは口論だけで済んでいた。平民や奴隷がこの様な場所で集会をするなど聞いていない。身分不相応であり、目障りだから早く散れと。それに対し、こちらは平和的な演説会でしかない為、安全なものだと。
だが、その貴族が好戦的な男であった。平民や奴隷は貴族に等しく冷遇されていれば良いのだと伝え、私兵を使い、その広場の者達を攻撃し始めた。
貴族が相手ではそのまま受け入れるしか無い。せめて命がある内にその暴力が止まるしか望みがなかった。
本来であれば。
既にこの国の貴族がやってきたことをこの広場にいる者達は知っていた。中にはその貴族に理不尽な扱いをされた者もいただろう。
民衆の内、一人の男が声を荒げながら一人の私兵に殴りかかる。
私兵は慌てずに対処し、その男を突き飛ばす。本来、一方的に攻撃できていたため、攻撃されるとは思っていなかった私兵達はこの行動に驚く事が、出来なかった。
なぜならば、突き飛ばされた男を見て、その場の近くにいた民衆5人が一気に私兵達に襲いかかってきたからだ。
貴族はその様子におびえ、直ぐに逃げ出すが、その途中で衛兵に民衆の反乱と告げ、鎮圧を命令してしまった。
衛兵達にとって、民衆は自分たちが守らなくてはならない人々である。命令を受けたからには動かなくてはならない衛兵達にとってはやりたくもない仕事であった。
人数も10人くらいだと言われ、20人ほど集め現場に着いてみると狂気に染まった民衆達が30名ほど。
しかも、その貴族の私兵達は既に全員事切れていた。
そして、その矛先が自分たちに来てしまうと恐れた衛兵長は追加の増援を指示し、こちらから絶対に手出ししないことを命令し、盾によるバリケードを作ることに専念した。
衛兵の人数が増えると、民衆は今まで演説会に参加していた者は衛兵が敵に回ったと思い込み、仲間を呼びに幾人か走って行く。
その様にして徐々にお互いに人数が増えていく。
衛兵達の盾によるバリケードの目前では石を投げたり、私兵が持っていた剣を振るったりしている者がおり、なんとか現状守勢だけで耐えきっていたが、多勢に無勢という状況になり、徐々に衛兵たちは陣を後ろに引いていく。
衛兵が200人程になっているが、民衆は既に1,000人を超えているだろう。
さらには、その民衆の中にも衛兵の鎧を着た者が混ざり始め、守勢を保っていた衛兵達はいつ自分達の周りで反乱が起きてしまうかという恐怖が伝染していった。
レクスは別の場所で演説中にその一報を聞き、演説を中断してまで慌てて現場に駆けつける。
万が一武力衝突となった場合、どちらにも死者が出てしまう可能性があるからだ。
人が死んでも良いと思ったことはさほどない。死んでもかまわないと思える人は世の中に多いと思う。だが、現在争っているのはその死んでもかまわないと思わない人達なのだ。貴族や王族では無く、普通の町民対衛兵、広義で言えば民衆対民衆となるのだから。
争わせてはいけない、手を取り合うことの出来る仲間なのだから。そう思い、急いで走る。
だが、現場に着いてみると、既に武器と武器が打ち合う音、鎧のこすれる音、盾と武器がぶつかる音、人々の叫び声、痛みに耐える声、知人が痛みを受けたことを呪う声、様々な悪い感情を生み出す音が蔓延していた。
その中でいくらレクスが声を上げ、止めようとしても、誰一人として聞くことがなく、喉が枯れた辺りで立ち尽くすしかなくなってしまった。
衛兵達は民衆の圧力に負け、徐々に後退する。
後退先は王城だ。王城の門を閉めれば暫くは持つだろうとの判断だった。
しかし、王城の入り口まで一直線の道に来たとき、衛兵達は絶望した。
王城は堀で囲まれて、門は吊り上げ式の橋になっている。その衛兵達が逃げ込むための吊り橋が既に上げられており、退路が断たれていた。
ここまで耐えきっていた者達、職務のため致し方なく命令に従っていた者達へのこの仕打ちは、攻めていた民衆側も不遇に思ったのか、呆然と立ち尽くす衛兵達には手を加えることをしなかった。
しかし、逆に自分達の味方でさえ簡単に裏切る王族や貴族により怒りを感じ、次々と王城の周りに人々が集結していく。
城というのは守るに容易く攻めるに難い形状である。さらに籠城を目的とした食料や水の確保は日常的に行われているため、長く耐えることが出来るだろう。そういった安心が、判断を誤らせた。
衛兵達を見捨てた事により、集まった民衆は怒りの頂点を超え、なんとかして王城を落としてやると言う意気込みが伝播していった。
誰も住んでいない近場の家を取り壊し、その板の壁や扉を掘りに投げ入れ、そしてつなぎ、足場にして堀を渡り、王城の壁を登り始めた。
王城の中に避難した貴族達は、その様子に恐怖し、自分達の側近に弓を射ることを命令する。
衛兵に命令しないのは全員鎮圧に出ており、中に残されているのは貴族や文官、他には使用人達だけだった為である。
滅多に弓を射ることをしない貴族の側近達は壁を登ってくる民衆を狙うことはおろか、まともに撃つことも出来ず、良くて下手な方向に飛ぶ、悪ければ羽の付いている末矧側から勢い無く落ちて行く事もあった。
しかし、中には狩猟を嗜む貴族も居た為、数人の犠牲が出てしまう。しかし、その犠牲が出る度に民衆の怒りはより強くなり、次々と城内へと侵入するために登り始める。
一人二人が矢を射ることが出来ても、まともに当てたりするのは難しい事な上、集団から殺意を向けられて落ち着いて矢を射ることなど歴戦の戦士達でなければ不可能だろう。まともに矢を射ることが出来ていた貴族達もまともに飛ばなくなり、そして矢を射ることが出来なかった貴族が逃げ始めると、慌ててその後を追うように逃げてしまった。
抵抗が無くなった民衆は次々と城内に侵入していく。
そして遂には閉ざしていた門、城内への橋が降り始めると、人々から大きな歓声が轟くように上がる。
城内へと進めることに喜ぶ声、貴族や王族に一泡吹かせられるといきり立つ声。だが、ここまでならまだ良かった。中には、貴族を殺せと叫ぶ声や、皆殺しにしろと言う声も幾つも上がっていた。
ここまで出来たのだから、もう止めるべきだとレクスは門の近くに立ち皆に止めるよう伝えようとする。
だが、枯れた声は皆に届くことなく、皆が城内に入るための見届け役として応援に来てくれたと勘違いする者が多く、全くの逆効果になってしまった。
レクスの参戦で士気の上がった民衆は、次々と城門から内部へと入り、城内で仕事をしていた者の指示で各所に分散し、王族、貴族への部屋へと一気に駆けていく。
狂気をまとった民衆はもう止まらない。
少なくともレクスにはもう止める術がない。
その様子を呆然と立ち尽くしながら眺めているしかなかった。
暫くするといくつかの場所から小さな悲鳴と大きな歓声が上がる。
その歓声が落ち着く頃に、王城の前にある広場に、次々と貴族が連れられてくる。
部隊長などが出発もしくは演習の説明などをする演説舞台に手足を縛られ、貴族がその上に転がされていく。
暴言を吐く貴族や、命を懇願する貴族、なんとか民衆に取り入ろうと頑張っている貴族等、老若男女関係なく20人程連れてこられた。
この国の中枢である宰相の公爵や他の重鎮である侯爵・伯爵、そしてたまたま居合わせたその家族達だ。
そして、歓声が一番大きく盛り上がったのはこの国の王と、そして事の発端を作り出したカールを引きずり出してきた時だった。
だが、聡明と褒め称えられていた王妃と、その次男ミスカまでも引きずられてきた時、レクスは頭が真っ白になり、よろけてしまった。
たまたま近くに居た連合員が支えてくれたため、倒れることはなかったが。
慌ててその二人を連れてきた者達に指示しようと近寄る。
だが、皆は狂気に満ちた目で何を言っても、もう自分の声が届く事がなかった。
王とカール王子に関しては仕方が無いと思うことはある。だが、この二人は常に民衆の味方であったはずだ。それを思い出し、二人を解放するために声をかける。枯れた声、湧き上がる広場、そして狂気に満ちた者達。結局、レクスの声は誰一人として届くことがなかった。
慌てて補佐してくれているステルとリクハルドを探す。だが、周りにはおらず、自分の意見を聞き入れてくれそうな直近の者は一人も居なかった。
舞台上は貴族達で埋まっており、階段の下に転がされる事になった王や王妃達。
レクスは近くによって声をかけようとしたが、何を言って良いのかわからず、結局ここでも立ち尽くすだけだった。
「ミスカ、ごめんなさいね、この様な時代に生んでしまって……」
「母上……」
「この国の王政は今日で終わりでしょう。父とそして兄のカール、この二人のせいで……、いえ、私もですね。愚かな二人を止めることが出来ませんでした」
「母上、僕たちが何をしたのでしょうか?」
「何もしなかったのがいけなかったのです。実際はスピネル国から帰ってくる兵士達を戻そうとしていましたが、王やカール他、宰相達が決めた事をそう簡単に覆すことが出来ません。あの兵士達は無理矢理戦争に連れて行かれ、カール達が戦争の決め事を忘れ、盗賊に貶めてしまった。おろかなカールがすべて元凶とはいえ、それを正すこともせず、傍観していたように民衆からは見えたのでしょう。実際に結果という家族が皆に戻らなければ何もやってない事と同義です」
「わかりました。それで僕はこれからどうすればよろしいですか?」
「死を受け入れなさい。本当は貴方には逃げ延びて一人の民としてでも生きて欲しかった。貴方の子を夢見たこともあります。ですが、愚かな王は逃げ道さえ他の者に教え、すべて塞がれてしまっていました。もう私達は残された道は、王族として愚かな王と王子の他に、それを阻止しようとしていた無力な家族が居たと記憶されるほかないでしょう」
「わかりました。僕は母上の言うとおり、死を受け入れます」
「ミスカ……」
「母上、僕は死んだらどうなるのでしょうか。あの世という物があると聞きます。そこでも母上と一緒になれるでしょうか?」
「ええ、先に行って待っていますわ」
レクスは二人の会話を聞き、なんとか生き残らせようと決意する。そして、なんとしても補佐の二人を見つけ、命令させなくてはと思い至った瞬間、王城の上、テラスで広場に伝わるような大声が聞こえた。
「諸君! 今日は苦しみに耐え忍んだ我々の解放される特別な日となった!!」
慌ててその声の主を確認すると、レクスの探していたステルとリクハルドだった。あの二人に命令することが出来ればこの悲劇をすべてでは無く一部だけで終わらせることが出来ると思い、城門へと駆けていった。
「今、広場の舞台上でこの国を腐敗させていた人物達を並べている。皆にも見覚えがあるだろう。この国の宰相、侯爵、伯爵達だ。先程の戦争に負けた後、疲弊した国庫を潤すために、そして自分達の蓄えた金塊の為により酷い重税を決めた者達だ!」
城内に攻め入っていた民衆以外にも、この騒ぎを聞きつけた民衆達も広場に集まり始め、かなりの人数が入れると思えた広場も人の通る隙間がないのではないかと思えるくらいにふくれあがっていた。
そして、その重税に苦しめられていた者達はここに居る皆であったため、この言葉には皆が大声をあげ宰相達を非難した。
「この国をより良くするためにはどうするべきだと思うかね?!」
リクハルドの声に対し、直ぐにいろいろなところから声が上がる。
「殺せ!」
「首を刎ねろ!」
「殺してしまえ!!」
言葉は違うが、ほぼすべてが死を望む声だった。
そして、その声に呼応して多くの人々が殺せと叫ぶ。
舞台上に上げられていた宰相は怯え、命を懇願する声を上げるが、人々の叫びにその声は届かず、一人の舞台上にいた剣を持った若い男に首を刎ねられた。
その様子に悲鳴を上げる者もいたが、狂気が伝染した民衆達は殆どが喜びの声をあげ、舞台上の貴族達を次々に殺すように言い合う。
一人、また一人と首が刎ねられると、その都度喜びの声を、歓喜を上げ首を落とした者に対し、賛辞の声を送る。
それが、老人であれ、若い女性であれ、成人前の子供であれ……。
レクスはその様子を耳にし、より慌てる。早くしなければあの聡明な二人まで死なせてしまうと。
だが、城門に着いたとき、レクスは入ることを許されなかった。
指導者であるレクスだと叫んでも、ステルとリクハルドの命令で、レクスは入ってきてはいけないと。
城門に向かうレクスをステルとリクハルドは城のテラスから眺めていた。
そして、これから行うことは彼が、レクスが止めることは出来ないともわかっていた。
各所に扇動する者達を配置し、平和的な演説会から武力衝突、聴衆や他の民衆を扇動し、王城まで攻め込む。そして、貴族や王族確保。そして他の一般民衆を集めた上での処刑。この筋書きを書いたのはこの二人だった。
「すべてが予定通りに」
「彼には酷だったのではないか?」
「かまわないですよ。彼の野望はこの国ではなく、スピネル国なのだから」
「まあ、国を盗ると言うことでは無いと言うのが悲しいところですね」
「いいじゃないか。道化をずっと演じて貰おう」
「長年の友人である君がその様なことを言うとはねぇ」
「利害の一致だよ。俺は友人などと一度も思ったことはない」
「言葉に出していましたけどね」
「あんな薄っぺらい言葉で信じるとはね。簡単なやつだよ」
「貴方の野望はまだ先まであるんですから、まだその仮面は剥がない方がいいですよ」
「ここで女を犯したり殺したりする方が楽しくなってきたけどな」
「まあ、やり過ぎにはご注意を」
「忠告感謝」
そんなことを話しているとはレクスは夢にも思っていなかっただろう。
二人とは常に奴隷を解放する事や、王族、貴族のやってきた酷い事ばかり話してきた。レクスは利用されているなど少しも疑っていなかった。
いや、今でも疑ってないだろうと想像できた。
もし、この場に彼が登ってきたら、処刑を止めようと言ってくることだろう。
しかし、王や貴族に取って代わり、自分達が頂点に立つには今はこの方法を除いて道は無いだろう。
もっと平和裏に行くことも出来たかも知れないが、兵士もいない、衛兵もいない、王や貴族の愚行が多発している。これを利用しないのはどう考えても愚か者だろう。
その上、人身御供になっているレクスは政治には無関心だと言うこともわかっている。
ステルは犯せる、そして殺せる女を与えておけば大人しくしている。そして、元奴隷解放団員に顔が利くので、そちらの捨て駒としても利用できる。
ステルが先程口にした予定通りとは、リクハルドが想定していた予定通りでもあった。
内心笑いが止まらないが、もう少しですべてを手に入れることが出来る。気を引き締めて取り掛からねばと思い直した。
王城に入ることが出来なかったレクスは、失意の元に舞台上が見える位置まで来ていた。
テラスからは色々な口上が述べられ、次々と貴族やその家族達が処刑されていく。
そして、ついにミスカ王子と王妃の順番となった。
「国民の皆様、この国の王妃として皆様に謝罪致します。愚かな王や愚かな王子、そして愚かな宰相達を止めることが出来ず、皆に苦しい思いをさせてしまいました。今日でこの国、そして私、我が愛するミスカの命は終わるでしょう。ですが、お願いがあります。私達の命を無駄にせず、良い国を造って欲しいのです。死ぬ間際の戯れ言と思っていただいてもかまいません。ただ、私は良い国にするために尽力して参りました。ですが、力も能力も足りなかった。ただそれだけです。どうか、私の言葉を聞き入れ、どうか、皆で、良い国にしていって下さい」
それだけを言い終えると、剣を持った処刑人に合図を送り、王妃は首を刎ねられた。
数カ所から歓声が上がったが、それも直ぐに収まる。なぜならば、大多数が王妃の言葉を聞き、喜ぶ気分にはなれなかったのだから。
「皆様、私は力使うこと、いえ、持つことさえ出来ない愚かな王子であったことを、謝罪します。皆の力で、母上の望む国をどうかお造り下さい」
ミスカ王子は短い言葉で処刑人に合図を送り、首を刎ねられた。
さすがに扇動する者達も声を上げて喜ぶことが出来ず、広場は水を浴びせられたように静まりかえってしまった。
「聡明なる王妃、そしてミスカ王子、我らがする事の犠牲にならざるを得なかった事を謝罪しよう! そして、我ら皆がその望みを実現しよう!」
冷め切った広場に響くリクハルドの声。
少しでもこの惨劇を正当化させねば、そして民衆達が賛同し、行ったことにしなくては自分のみが危うくなってしまう。そう考え、王妃の言を約束した。
「だが、その理想を実現する前にこの二人が問題となっている。まずは、スピネル国のレーナ姫を勝手に相思相愛等と妄言を吐き、宣戦布告をせずに攻め入り、更にはその戦争に負け、盗賊扱いで捕虜となり、この国の我らの重税で拾われた上に、一緒に買われた戦争に向かった兵士達を売りさばこうとした愚か者のカール王子だ!!」
よくこの短期間でここまで愚かなことを連続して行えるものだと感心しつつ、リクハルドは広場に向かって叫ぶ。
演説会に参加していた者には周知の事実だったが、今更知った者もいるらしく、方々から怒りの声があがる。
舞台上に案内されたカール王子は、血まみれの舞台に怯み、下半身に染みを作っていく。
だが、屈強な男二人に抱えられ、逃げることもしゃがみ込むことも出来ずに連れて行かれる。
「俺は悪くない!! すべては父上が悪いのだ!! 殺さないでくれ!!」
カール王子はこの期に及んでまで命の懇願をした。しかも自分は悪くないと叫びながら。
広場にいた民衆は先程の二人との差に、より怒りを覚え、方々から殺せと叫び始める。
これ以上彼の話を聞きたくない為に、布で猿ぐつわをされ、声が出ないようにして首を刎ねられた。
この時の処刑人は皆から賞賛され、満足げに舞台を降りていった。
「さて、最後になる。この国で一番偉い者、この国で一番愚かな者、そう、この国の象徴であるコランダム王だ!」
歓声と共に王は舞台上に上げられる。
愚かな王はカールと同じく下半身に染みを造り、そして逃げ出そうと足掻くが、労働せず温々としていた者では、日夜重労働で鍛え上げられた男達に対して何もすることが出来なかった。
「この愚かな者が、聡明であれば、いや、少しで良いから周りを見ることが出来たならば、我々はこの様な苦しい生活をしなくて済んだであろう。そして、この様な辛く苦しい事を皆で決めず、そして実行しなくて済んだであろう。すべてはこの男、この愚かな王が元凶である!」
この言葉には多くの民衆が賛同し、声を荒げて王を罵倒した。
王の政治で職を失った者もいただろう。戦争で愛する者を失った者もいただろう。増税で死ななくても良かった子供達もいただろう。その様な言葉を続け、王の罪を露わにしていった。
今回の騒動はリクハルドが企み、実行したことであるが、すべて民衆とこの愚かな王に罪を全て被せる様に演説する。
高揚し、狂気に満ちた民衆と、恐怖に怯えた王ではその様なことに気づく者は一人もおらず、コランダム国の最後の王の処刑が始まろうとしていた。
「やめろ! お前達は何をしようとしているのかわかっているのか?! 国王を殺そうというのだぞ! 大逆罪だぞ!」
「国がなくなれば、その罪は誰のせいでも無いだろうよ!」
「俺達が国を作ったらお前こそ罪人だ!」
「良いから殺してしまえ!」
カール、そして王の言葉により感情を揺さぶられた民衆は皆が王を殺しに掛からんばかりに高ぶっている。
リクハルドとしてはこのまま殺させても良いのだが、これからの秩序を考えるとそうさせるのはあまり良くない。
その為、民衆が暴発する直前まで待ち、処刑を実行する。
王の首が刎ねられ、恨めしそうな表情を残したまま舞台上に転がると、民衆の歓喜は最高潮に達した。
「俺達はもう自由だ!」
「貴族共からの圧政から救われたんだ!」
「私達の勝利よ!」
そう言いながら広場に来た民衆達は抱きしめ合いながら喜んでいた。
レクスはその光景を力なく眺めていた。
まだ奴隷は完全に解放されたわけではないが、もうそれを縛る物は何もない。
新しい体制で奴隷の完全解放を行えば簡単に望みは達成されるだろう。
しかし、レクスにとって望んだ光景とはかなりかけ離れていた。
聡明な貴族や王族を取り込み、奴隷を廃止し、そして王政も徐々に移行させる。
少なくとも、暴動のような混乱の極みの状態で、しかも征服者を殺害して終わらせようとは思っても居なかった。
一人の人が首を刎ねられ命を落とすと言う本来であれば見たくもない辛いことのはずなのに、その事が非常に喜ばしいことと民衆が喜び叫んだ事が一番レクスにはこたえた。
こんなはずではなかった、こんなことをするつもりはなかった。どうしてこの様なことになったのだ、どうしてこんな事が起きたのだ。なぜ誰も自分の言うことを聞かないのだ、なせ自分の手から全てが離れていってしまったのだ。
何故、何故、色々と頭を回転させるが、疲労、そして目の前の状況が頭を冷静にさせない。
自分の理想と、自分の力量がかけ離れていたと言えばそうかも知れない。理想を押しつけるだけだったかも知れない。
色々と考え、自然とうつむいてしまっていた。誰かに助けを叫びたい衝動に駆られ、空を見る。
晴れた空に、緩やかに、そしてゆっくりと大きな雲が流れていく。
空はあんなに穏やかなのに、地上はこんなに血なまぐさい。そう意識できた、いや、そう思うことで心に余裕が出来たとき、レクスの視界に映った者がある。
そう、リクハルドだった。
薄く笑いを浮かべながら、誰とも喜びを分かち合うことなく広場を眺め続けている男。
この出来事の初めは探すことをしなかったが、途中から見つからず、そしてその者の命で王城に入ることが出来なかったこと。
それらが一つの結論を導き出す。
自分は使われたのだと。
彼は本心から貴族や王族を排除しようと思っていただろう。しかし、平和にとは考えていなかったのだろう。
そして、今あの場に一人で経っている理由、およそこの後のコランダム国を牛耳るつもりなのだろう。
指導者の一人として。
あの男にこれ以上使われる、それは非常に不愉快なことだ。
だが、レクスにとってもうこれ以上この国でやるべき事は無い。
現在持っている力を行使し、スピネル国に侵攻する事が第一だ。
「姉さん。もうすぐだよ」
使われたこと、民衆を思い尽力してくれていた人達を殺したこと、それは全て自分の無力だからだ。と、全てを受け入れ、そして決意した。
「私は皆に聞いて貰いたい! 奴隷達も人である!」
青年男性は真剣な顔で周りを見つめながらそう伝える。
「そらそうだろうよ。今更何言ってるんだ」
たまたま聞いていた民衆の内の一人がそう野次を入れると、周りから笑い声が上がる。
だが青年男性はその野次にも負けずに言葉を続ける。
「その同じ人達が酷い扱いを受けているのは皆さんもご存じでしょう!」
「そら、奴隷だからな。犯罪とか売られたとかあるだろうよ」
言葉を伝える度に野次を入れられ、それを聞いた民衆は笑ったりしてまじめに聞いてもらえなかった。
「その酷い扱いをされている奴隷達を解放しましょう!」
「俺達が買った労働力だ。買ったものを好きにしたっていいだろうよ。それに今更その労働力を無かったことにするなんて出来ねえよ」
いとも簡単に論破されてしまい、青年男性にはそれ以上言葉を続けることが出来ず、それに気づいた民衆はあっけなく解散していった。
「レクス、今日はもう終わりにするのか?」
「ああ、ステルか。今日はもう終わりにしようと思う」
その様子を広場の端の方で眺めていたステルと呼ばれた男性が近づき質問する。レクスと呼ばれた青年男性が残念な表情をしながらその問いに答える。
「まあ、仕方が無いだろう。地道に行こうぜ」
「僕は一刻も早く皆に広めたいんだけどね」
「ずっとやってたら親方が怒るぞ?」
「う……、それは不味い……」
「ようやく相鎚を許されたんだからな。下働きから一歩ようやく進んだ所だ。今はおとなしくしてた方がいいと思うぞ?」
「お前は僕より後に来たのに、ずいぶんと早くから相鎚打たせてもらってるからな」
「そりゃ、ここに来る前少し鍛治としてやってたからな。一通り出来るぞ。親方には研ぎが巧いと褒められてるんだ。それは差が出ても仕方が無いだろうよ」
「その経験がうらやましいよ」
「俺にはその若さがうらやましいよ」
レクスとステルはお互いに敬語などは使わない間柄である。だが、年齢は19才と26才との差がある。お互いに結婚適齢期という状況だが、レクスにはやりたいこと、ステルは比較的良い見た目を良いことに商売女達に手を出している。小さな家に弟子6人で住んでいるのだが、ステルだけはたまに帰ってこないことがあり、聞くと女の所にいたと言っている。結婚する気なのかと尋ねると、全くその気は無く、楽しんでるだけと言っていた。いつかこいつは刺されたりするのではないかと不安になるが、腕だけは良いのと、何故か馬が合うのでよく連んでいる。
それと、実際に演説などを行うことは無いが、レクスの活動を理解し、手助けしてくれる人の一人である。
今ではこの組織も自分を含めて6人になった。
一人で地道にやって居たとき、レクスに見られ、拒絶されるかと思ったら手伝うと言ってくれた。場所の指定や衛兵の動向などを陰ながら調べてくれ、未だに捕まるようなことは一度もなかった。
他の4人は、商人に無理矢理連れて行かされた父や母、子を取り戻したいと考えている者達であり、真剣に取り組んでいる者達である。
本来もう少し人数が居たのだが、ステルに遠くの農村に嫁ぐと伝言を残して去ってしまった。
この活動は強制は出来ない。話もせずに去ってしまうのには多少心が痛かったが、新天地で幸せにしているだろうと考えると少しだけ痛みが和らいだ。
「戦争に出ていた者達が帰ってくるってよ!」
レクスが演説をしている時に後ろの方でその様な話が聞こえ、聞いていた民衆のほぼ全部がそちらの男の話を聞くために向かっていってしまった。
そのまま話を聞きに行くにはさすがに恥ずかしく、話の内容はステルに聞いてきて貰うことにした。
スピネル国に攻め入り、相思相愛であるレーナ姫を救い出し、カール王子と結婚させると言う名目で戦争を起こした王族。
進軍から2週間、途中までは町を陥落させた等の報が毎日大々的に報じられ、民衆はとても盛り上がっていた。
だが、ある時期から「今日も勝利した」だけのような報道になり、中身が殆ど意味のないものになっていった。王国報道以外の市民報道でさえ、同じ内容を報道していたので、民衆は勝っていると錯覚し、勝ち続ける常勝軍だと褒め称えた。
しかし、それも長くは続かなくなり、民衆も殆ど毎日同じ内容のものを報道している事に対し、不信感を覚え、一部の有志がスピネル国の国境の町ラフティを見に行ったそうだ。
報道通りであれば、ラフティには自分たちの国旗があがっているはずだったのだ。が、そのラフティに上がっている国旗はスピネル国の物だった。
不審に思った有志は内部に入り込んだ。
潜入では無く、既に堂々と門から身分証を提示すれば入れる様で、既にコランダム国の商人達が行き来していた。
楽々侵入出来た有志達は分散し、情報を集めると次の情報が集まった。
・スピネル軍はコランダム軍を既に殲滅し、多くの兵士達を捕虜としている。
・その捕虜の中には進軍した貴族6人の内一人を除き全員捕まっているという。もちろんカール王子も虜囚となった。
・コランダム軍占領下の町では、日常的に略奪、強奪、男女年齢関係なく強姦があり、国の軍隊と呼べるような秩序ある者達ではなかった。
・宣戦布告をせずに、いきなり攻め込み、蹂躙していったコランダム軍。最終的には盗賊として処理された。
・今でもこの町にコランダム軍兵士として従軍してたが、逃げ出した者が来ることがある。だが、その様な者達は衛兵が捕まえ、別口で奴隷になっている。
・本来ならコランダムの国の商人や人々と接する事さえ反吐が出そうだが、この事実を知らない者が殆どだと聞いて驚いている。そして、荒廃したこの現状で、金を稼ぐには人を選んでる余裕が無いとのこと。
・レーナ姫がカール王子に仕返ししたことを聞くと、なんとか溜飲を下げることが出来た。
・その捕虜となったカール王子他約2,000名の奴隷はコランダム国の王と売買契約が済み、近々コランダム国に送られると言うこと。
・宣戦布告をしなかった為に戦後の損害賠償などは無かったが、奴隷は一般的な場末の奴隷の50倍以上の金額で取引されることになった。
・その奴隷を買う金はすべての貴族から現金で徴収し、これからすべての町や村で超増税が起こるとの事。
・奴隷の身で一軍を指揮し、将軍と呼ばれた者が居る。
主にこれらの情報が重複して伝わってきた。
有志の一行はその情報を正しく伝えなければならないと、慌ててラフティの町を去り、その正しいと判断できる情報を各町に伝えていった。
その情報がようやくレクスの居る王都に伝わってきたと言うことだった。
その情報が伝わって以来、レクスの演説を聴きに来る者が増えた。
相変わらず野次は入るが、お約束と言うような感じで楽しみにしてる者も出始めたようだ。だが、一つ変わってきたのが、奴隷解放せよと叫ぶ人が増えてきたのだ。
演説後、その者達と接触してようやくその理由が判明した。
今回の戦争で徴兵され、ほぼ無理矢理連れて行かれた民兵の中に彼ら、彼女らの父や母、兄弟、愛する者などが居たようだ。
軍隊に女性民兵などはゼロではない。糧食管理や調達任務などが主である。もちろん望めば戦闘任務に行くことも可能だった。だが、命からがら逃げ帰ってきた者が徐々に増え始め、その実情を語った。
コランダム国内では糧食管理などが主任務だったが、スピネル国に入ってからは貴族やカール王子の身の回りの世話をさせられるようになった。
そして、すぐに体を使った性処理を求められるようになったと言っていた。
相手は貴族や王族の為に拒否することも出来ず、毎日各一人の生け贄を差し出す形をとらざるを得なかったそうだ。
その性処理は女性だけではなく、男性も求められることが多かった。
中には男性そのものを欲しがる者もいたが、男性と女性が絡んでいるところを見て楽しむ者もいたためである。
逆に言えば、貴族に体を許すよりまだましだったと言える為、その日は当たり扱いになったとも言っていた。
だが、絡んだ男性は、貴族の機嫌や嫉妬により、最前列送りになり、命を落とすこともあったため、どちらにしてもハズレの日という扱いだったようだ。
その様な苦痛な日々が続き、王都目前のイロマンツィの町近くでそれは起こった。
貴族や性奴隷のように扱われた自分たちの天幕が燃え始めたのだ。
貴族は慌てて消化の指示をし始めたが、嫌気がさしていた者達と消す振りしてそのまま集団で逃走を図ったそうだ。
そのまま真っ直ぐ同じルートを通ればすぐに追っ手が差し向けられると考えた彼ら、彼女らは、勝手に持ち出した貴族の宝石を近くの町で売り、北方から自分の町に戻るルートを使って逃げ出したそうだ。
終戦からかなり時間がかかり、ようやく帰り着けた理由は相当大回りしていったためだと言っていた。
貴族や王族が奴隷になった者達をスピネル国から買い取った事が、兵士達が帰ってくると言う噂の元だった。
しかし、王族や貴族が金を出した。だから、その奴隷は自分たちの物だと所有権を主張しだした。
更に酷い貴族は、その奴隷を遠方に売り、減った資産を取り戻そうと躍起になっていると言っていた。
その様な実情を知る者はより奴隷解放運動に参加するようになり、貴族や王族の非道を広めていった。
時間が経つにつれて、人が増え、そして衛兵達でさえレクス達を捕まえずに話を聞くようになった頃、レクス達に話を持ちかける者達がいた。
「反王政団体のリクハルドです。貴方が奴隷解放運動団のレクスさんですね、お会いできて光栄です」
第一印象はやたらと笑顔が綺麗な白髪が交じり始めた男性という所だった。
彼も、娘を貴族に無下に扱われ、殺された内の一人だと説明を受けた。その説明していた時は綺麗な笑顔から人では無いと思えるような酷い表情だった。
「私達反王政団体と、貴方達の奴隷解放運動団の統合を提案します」
奴隷制を許可しているのはこの国の王が認めたことであるため、奴隷の解放は王に許可を頂かなければならない。
単純に、王政が無くなれば、奴隷は自然と解放されると言うことになるのだろう。
だが、レクスにとって、国が無くなる事を行っても良いのか判断できず、反対しようとした時、ステルがレクスを別の部屋に連れ出し、説得してきた。
あの様な腐った貴族達が、俺達の意見を聞くとは思えない。王城に乗り込んだ瞬間に衛兵達から一網打尽にされるだろう。それに、国を倒せる勢いがあれば、お前の最終目標のきっかけが作れるだろうと。
そのステルの説得により、反王政団体と組むことを決意する。
「わかりました。貴方達と手を結びましょう」
「おお、ありがたいことです。王政を廃止し、奴隷達を解放致しましょう!」
二人は立ち上がり握手を交わす。リクハルドの手は大きく、そして力強かった。
本心から王族を憎み、廃止するために行動していたと言っているだけあり、奴隷解放運動団と組むのは一条の光だったのだろう。本当に嬉しそうな笑顔だった。
「主はリクハルドさんにお願いします。私では分不相応ですので……」
レクスはさすがに若者であるため、更に目的のことが達せられれば特に気にしなかったため、上に立つ必要も無かった。なので、自分から身を引いたのだが、リクハルド達はそれをさせてくれなかった。
「連合主はレクスさん、貴方にお願いします。いえ、貴方でなければならないのです」
「レクス、それはお前がやるべきだ」
リクハルドから言われるだけでなく、信用していたステルからもその様に言われてしまう。
「若輩の身です、私なんかが上に立っても誰も着いてこないでしょう……」
「いえ、演説を聴いて私は確信しておりました。貴方こそこの新しい連合の主となるべきです」
「お前だから俺は着いてきたんだ。お前じゃないなら俺は降りるぞ」
リクハルドからは褒められ、そしてステルからは脅される。非常に困った状況になるが、二人から伝えられる。
「俺がお前の手助けをしてやる。お前で無くてはだめだ」
「私が貴方の補佐をしましょう。若い人の方が求心力があります。見た目も良いし、貴方だからこそ着いてきた人々もいるのでしょうから」
結局この言葉でレクスは折れ、新しい連合主になることを決意した。
「わかりました。そこまで言うのでしたらお引き受け致しましょう。それと、名前はどうしましょうか、新しい名前にした方が良いと思うのですが……」
新奴隷解放運動団、反王連合、断罪団等、いろいろな名前が案として浮かび上がってきた。だが、今まで出てきた案は余り良いイメージではなく、頭を悩ませた。
「では、救国民連合ではどうでしょうか。国や民を救う者の連合。僕たちの国なのだから、僕たちの手で救わなければならないと思うのですよね。それに、他の団体も吸収できた時にも使いやすいでしょうし」
「それがよろしいでしょう!」
「それにしよう!」
二人の意見も一致し、救国民連合という名前で今後活動していくことになった。
救国民連合で活動する初めの演説会はとても人数が多くなっていた。
奴隷解放運動団の人数も多かったが、反王政団体の方もかなりの人数が居た事がわかった。
団体結成式典とでも言うべき形を整え、初めに設立の経緯を皆に伝える。
奴隷のこと、現王政・貴族体制のこと。それらを廃止、改善し、皆の生活を豊かに、そして自分たちの子孫のために良い国を残そうと考え発足したと。
この演説の最中も、すすり泣く声や、大声で王や貴族を罵倒する者、様々な反応が見られた。
それだけ苦しい思いをした者が居るのだろう。現体制では、民衆も奴隷に近しい存在になっている。奴隷よりはましという程度だ。中には良い貴族もいるだろう。だが、この国は模範を示す王族が一番の腐敗している場所だ。
これからは賛同してくれる貴族を探し、王や貴族を政治の中心から離す事を目標とし、助けられる者が居れば皆で手を取り合い助けていこうと伝え、新しい団体の設立を宣言した。
歓声が轟き、多くの者が賛同してくれる。レクスにとってとても得がたい経験となった。
しかし、レクスは知らないところで薄く笑っている者達が居るとは夢にも思っていなかった。
しばらくは平凡というのもおかしいことだが、普通の演説が行われていた。他の者達も各所で演説会を行い、人数も順調に増えていった。
噂されていた増税が行われると、人々の関心はより増し、演説会に参加する人数もどんどん増えていった。
そんなある時、小さな演説会をしている場所、救国民連合のメンバーは5人くらいだろうか、そこに貴族の一団が乗っている馬車が通りかかってしまった。
普段は演説会をする広場の出入り口から離れた当たりで少なくとも一人は貴族や王族、衛兵の乱入を防ぐために監視をしているはずだったのだが、この時は慣れが監視を緩めたのか、監視していた者が怠慢だったのか、それとも他の意図する者が監視者を一時的に排除したのか。ともかく理由はわからないが、貴族と衝突をしてしまった。
初めは口論だけで済んでいた。平民や奴隷がこの様な場所で集会をするなど聞いていない。身分不相応であり、目障りだから早く散れと。それに対し、こちらは平和的な演説会でしかない為、安全なものだと。
だが、その貴族が好戦的な男であった。平民や奴隷は貴族に等しく冷遇されていれば良いのだと伝え、私兵を使い、その広場の者達を攻撃し始めた。
貴族が相手ではそのまま受け入れるしか無い。せめて命がある内にその暴力が止まるしか望みがなかった。
本来であれば。
既にこの国の貴族がやってきたことをこの広場にいる者達は知っていた。中にはその貴族に理不尽な扱いをされた者もいただろう。
民衆の内、一人の男が声を荒げながら一人の私兵に殴りかかる。
私兵は慌てずに対処し、その男を突き飛ばす。本来、一方的に攻撃できていたため、攻撃されるとは思っていなかった私兵達はこの行動に驚く事が、出来なかった。
なぜならば、突き飛ばされた男を見て、その場の近くにいた民衆5人が一気に私兵達に襲いかかってきたからだ。
貴族はその様子におびえ、直ぐに逃げ出すが、その途中で衛兵に民衆の反乱と告げ、鎮圧を命令してしまった。
衛兵達にとって、民衆は自分たちが守らなくてはならない人々である。命令を受けたからには動かなくてはならない衛兵達にとってはやりたくもない仕事であった。
人数も10人くらいだと言われ、20人ほど集め現場に着いてみると狂気に染まった民衆達が30名ほど。
しかも、その貴族の私兵達は既に全員事切れていた。
そして、その矛先が自分たちに来てしまうと恐れた衛兵長は追加の増援を指示し、こちらから絶対に手出ししないことを命令し、盾によるバリケードを作ることに専念した。
衛兵の人数が増えると、民衆は今まで演説会に参加していた者は衛兵が敵に回ったと思い込み、仲間を呼びに幾人か走って行く。
その様にして徐々にお互いに人数が増えていく。
衛兵達の盾によるバリケードの目前では石を投げたり、私兵が持っていた剣を振るったりしている者がおり、なんとか現状守勢だけで耐えきっていたが、多勢に無勢という状況になり、徐々に衛兵たちは陣を後ろに引いていく。
衛兵が200人程になっているが、民衆は既に1,000人を超えているだろう。
さらには、その民衆の中にも衛兵の鎧を着た者が混ざり始め、守勢を保っていた衛兵達はいつ自分達の周りで反乱が起きてしまうかという恐怖が伝染していった。
レクスは別の場所で演説中にその一報を聞き、演説を中断してまで慌てて現場に駆けつける。
万が一武力衝突となった場合、どちらにも死者が出てしまう可能性があるからだ。
人が死んでも良いと思ったことはさほどない。死んでもかまわないと思える人は世の中に多いと思う。だが、現在争っているのはその死んでもかまわないと思わない人達なのだ。貴族や王族では無く、普通の町民対衛兵、広義で言えば民衆対民衆となるのだから。
争わせてはいけない、手を取り合うことの出来る仲間なのだから。そう思い、急いで走る。
だが、現場に着いてみると、既に武器と武器が打ち合う音、鎧のこすれる音、盾と武器がぶつかる音、人々の叫び声、痛みに耐える声、知人が痛みを受けたことを呪う声、様々な悪い感情を生み出す音が蔓延していた。
その中でいくらレクスが声を上げ、止めようとしても、誰一人として聞くことがなく、喉が枯れた辺りで立ち尽くすしかなくなってしまった。
衛兵達は民衆の圧力に負け、徐々に後退する。
後退先は王城だ。王城の門を閉めれば暫くは持つだろうとの判断だった。
しかし、王城の入り口まで一直線の道に来たとき、衛兵達は絶望した。
王城は堀で囲まれて、門は吊り上げ式の橋になっている。その衛兵達が逃げ込むための吊り橋が既に上げられており、退路が断たれていた。
ここまで耐えきっていた者達、職務のため致し方なく命令に従っていた者達へのこの仕打ちは、攻めていた民衆側も不遇に思ったのか、呆然と立ち尽くす衛兵達には手を加えることをしなかった。
しかし、逆に自分達の味方でさえ簡単に裏切る王族や貴族により怒りを感じ、次々と王城の周りに人々が集結していく。
城というのは守るに容易く攻めるに難い形状である。さらに籠城を目的とした食料や水の確保は日常的に行われているため、長く耐えることが出来るだろう。そういった安心が、判断を誤らせた。
衛兵達を見捨てた事により、集まった民衆は怒りの頂点を超え、なんとかして王城を落としてやると言う意気込みが伝播していった。
誰も住んでいない近場の家を取り壊し、その板の壁や扉を掘りに投げ入れ、そしてつなぎ、足場にして堀を渡り、王城の壁を登り始めた。
王城の中に避難した貴族達は、その様子に恐怖し、自分達の側近に弓を射ることを命令する。
衛兵に命令しないのは全員鎮圧に出ており、中に残されているのは貴族や文官、他には使用人達だけだった為である。
滅多に弓を射ることをしない貴族の側近達は壁を登ってくる民衆を狙うことはおろか、まともに撃つことも出来ず、良くて下手な方向に飛ぶ、悪ければ羽の付いている末矧側から勢い無く落ちて行く事もあった。
しかし、中には狩猟を嗜む貴族も居た為、数人の犠牲が出てしまう。しかし、その犠牲が出る度に民衆の怒りはより強くなり、次々と城内へと侵入するために登り始める。
一人二人が矢を射ることが出来ても、まともに当てたりするのは難しい事な上、集団から殺意を向けられて落ち着いて矢を射ることなど歴戦の戦士達でなければ不可能だろう。まともに矢を射ることが出来ていた貴族達もまともに飛ばなくなり、そして矢を射ることが出来なかった貴族が逃げ始めると、慌ててその後を追うように逃げてしまった。
抵抗が無くなった民衆は次々と城内に侵入していく。
そして遂には閉ざしていた門、城内への橋が降り始めると、人々から大きな歓声が轟くように上がる。
城内へと進めることに喜ぶ声、貴族や王族に一泡吹かせられるといきり立つ声。だが、ここまでならまだ良かった。中には、貴族を殺せと叫ぶ声や、皆殺しにしろと言う声も幾つも上がっていた。
ここまで出来たのだから、もう止めるべきだとレクスは門の近くに立ち皆に止めるよう伝えようとする。
だが、枯れた声は皆に届くことなく、皆が城内に入るための見届け役として応援に来てくれたと勘違いする者が多く、全くの逆効果になってしまった。
レクスの参戦で士気の上がった民衆は、次々と城門から内部へと入り、城内で仕事をしていた者の指示で各所に分散し、王族、貴族への部屋へと一気に駆けていく。
狂気をまとった民衆はもう止まらない。
少なくともレクスにはもう止める術がない。
その様子を呆然と立ち尽くしながら眺めているしかなかった。
暫くするといくつかの場所から小さな悲鳴と大きな歓声が上がる。
その歓声が落ち着く頃に、王城の前にある広場に、次々と貴族が連れられてくる。
部隊長などが出発もしくは演習の説明などをする演説舞台に手足を縛られ、貴族がその上に転がされていく。
暴言を吐く貴族や、命を懇願する貴族、なんとか民衆に取り入ろうと頑張っている貴族等、老若男女関係なく20人程連れてこられた。
この国の中枢である宰相の公爵や他の重鎮である侯爵・伯爵、そしてたまたま居合わせたその家族達だ。
そして、歓声が一番大きく盛り上がったのはこの国の王と、そして事の発端を作り出したカールを引きずり出してきた時だった。
だが、聡明と褒め称えられていた王妃と、その次男ミスカまでも引きずられてきた時、レクスは頭が真っ白になり、よろけてしまった。
たまたま近くに居た連合員が支えてくれたため、倒れることはなかったが。
慌ててその二人を連れてきた者達に指示しようと近寄る。
だが、皆は狂気に満ちた目で何を言っても、もう自分の声が届く事がなかった。
王とカール王子に関しては仕方が無いと思うことはある。だが、この二人は常に民衆の味方であったはずだ。それを思い出し、二人を解放するために声をかける。枯れた声、湧き上がる広場、そして狂気に満ちた者達。結局、レクスの声は誰一人として届くことがなかった。
慌てて補佐してくれているステルとリクハルドを探す。だが、周りにはおらず、自分の意見を聞き入れてくれそうな直近の者は一人も居なかった。
舞台上は貴族達で埋まっており、階段の下に転がされる事になった王や王妃達。
レクスは近くによって声をかけようとしたが、何を言って良いのかわからず、結局ここでも立ち尽くすだけだった。
「ミスカ、ごめんなさいね、この様な時代に生んでしまって……」
「母上……」
「この国の王政は今日で終わりでしょう。父とそして兄のカール、この二人のせいで……、いえ、私もですね。愚かな二人を止めることが出来ませんでした」
「母上、僕たちが何をしたのでしょうか?」
「何もしなかったのがいけなかったのです。実際はスピネル国から帰ってくる兵士達を戻そうとしていましたが、王やカール他、宰相達が決めた事をそう簡単に覆すことが出来ません。あの兵士達は無理矢理戦争に連れて行かれ、カール達が戦争の決め事を忘れ、盗賊に貶めてしまった。おろかなカールがすべて元凶とはいえ、それを正すこともせず、傍観していたように民衆からは見えたのでしょう。実際に結果という家族が皆に戻らなければ何もやってない事と同義です」
「わかりました。それで僕はこれからどうすればよろしいですか?」
「死を受け入れなさい。本当は貴方には逃げ延びて一人の民としてでも生きて欲しかった。貴方の子を夢見たこともあります。ですが、愚かな王は逃げ道さえ他の者に教え、すべて塞がれてしまっていました。もう私達は残された道は、王族として愚かな王と王子の他に、それを阻止しようとしていた無力な家族が居たと記憶されるほかないでしょう」
「わかりました。僕は母上の言うとおり、死を受け入れます」
「ミスカ……」
「母上、僕は死んだらどうなるのでしょうか。あの世という物があると聞きます。そこでも母上と一緒になれるでしょうか?」
「ええ、先に行って待っていますわ」
レクスは二人の会話を聞き、なんとか生き残らせようと決意する。そして、なんとしても補佐の二人を見つけ、命令させなくてはと思い至った瞬間、王城の上、テラスで広場に伝わるような大声が聞こえた。
「諸君! 今日は苦しみに耐え忍んだ我々の解放される特別な日となった!!」
慌ててその声の主を確認すると、レクスの探していたステルとリクハルドだった。あの二人に命令することが出来ればこの悲劇をすべてでは無く一部だけで終わらせることが出来ると思い、城門へと駆けていった。
「今、広場の舞台上でこの国を腐敗させていた人物達を並べている。皆にも見覚えがあるだろう。この国の宰相、侯爵、伯爵達だ。先程の戦争に負けた後、疲弊した国庫を潤すために、そして自分達の蓄えた金塊の為により酷い重税を決めた者達だ!」
城内に攻め入っていた民衆以外にも、この騒ぎを聞きつけた民衆達も広場に集まり始め、かなりの人数が入れると思えた広場も人の通る隙間がないのではないかと思えるくらいにふくれあがっていた。
そして、その重税に苦しめられていた者達はここに居る皆であったため、この言葉には皆が大声をあげ宰相達を非難した。
「この国をより良くするためにはどうするべきだと思うかね?!」
リクハルドの声に対し、直ぐにいろいろなところから声が上がる。
「殺せ!」
「首を刎ねろ!」
「殺してしまえ!!」
言葉は違うが、ほぼすべてが死を望む声だった。
そして、その声に呼応して多くの人々が殺せと叫ぶ。
舞台上に上げられていた宰相は怯え、命を懇願する声を上げるが、人々の叫びにその声は届かず、一人の舞台上にいた剣を持った若い男に首を刎ねられた。
その様子に悲鳴を上げる者もいたが、狂気が伝染した民衆達は殆どが喜びの声をあげ、舞台上の貴族達を次々に殺すように言い合う。
一人、また一人と首が刎ねられると、その都度喜びの声を、歓喜を上げ首を落とした者に対し、賛辞の声を送る。
それが、老人であれ、若い女性であれ、成人前の子供であれ……。
レクスはその様子を耳にし、より慌てる。早くしなければあの聡明な二人まで死なせてしまうと。
だが、城門に着いたとき、レクスは入ることを許されなかった。
指導者であるレクスだと叫んでも、ステルとリクハルドの命令で、レクスは入ってきてはいけないと。
城門に向かうレクスをステルとリクハルドは城のテラスから眺めていた。
そして、これから行うことは彼が、レクスが止めることは出来ないともわかっていた。
各所に扇動する者達を配置し、平和的な演説会から武力衝突、聴衆や他の民衆を扇動し、王城まで攻め込む。そして、貴族や王族確保。そして他の一般民衆を集めた上での処刑。この筋書きを書いたのはこの二人だった。
「すべてが予定通りに」
「彼には酷だったのではないか?」
「かまわないですよ。彼の野望はこの国ではなく、スピネル国なのだから」
「まあ、国を盗ると言うことでは無いと言うのが悲しいところですね」
「いいじゃないか。道化をずっと演じて貰おう」
「長年の友人である君がその様なことを言うとはねぇ」
「利害の一致だよ。俺は友人などと一度も思ったことはない」
「言葉に出していましたけどね」
「あんな薄っぺらい言葉で信じるとはね。簡単なやつだよ」
「貴方の野望はまだ先まであるんですから、まだその仮面は剥がない方がいいですよ」
「ここで女を犯したり殺したりする方が楽しくなってきたけどな」
「まあ、やり過ぎにはご注意を」
「忠告感謝」
そんなことを話しているとはレクスは夢にも思っていなかっただろう。
二人とは常に奴隷を解放する事や、王族、貴族のやってきた酷い事ばかり話してきた。レクスは利用されているなど少しも疑っていなかった。
いや、今でも疑ってないだろうと想像できた。
もし、この場に彼が登ってきたら、処刑を止めようと言ってくることだろう。
しかし、王や貴族に取って代わり、自分達が頂点に立つには今はこの方法を除いて道は無いだろう。
もっと平和裏に行くことも出来たかも知れないが、兵士もいない、衛兵もいない、王や貴族の愚行が多発している。これを利用しないのはどう考えても愚か者だろう。
その上、人身御供になっているレクスは政治には無関心だと言うこともわかっている。
ステルは犯せる、そして殺せる女を与えておけば大人しくしている。そして、元奴隷解放団員に顔が利くので、そちらの捨て駒としても利用できる。
ステルが先程口にした予定通りとは、リクハルドが想定していた予定通りでもあった。
内心笑いが止まらないが、もう少しですべてを手に入れることが出来る。気を引き締めて取り掛からねばと思い直した。
王城に入ることが出来なかったレクスは、失意の元に舞台上が見える位置まで来ていた。
テラスからは色々な口上が述べられ、次々と貴族やその家族達が処刑されていく。
そして、ついにミスカ王子と王妃の順番となった。
「国民の皆様、この国の王妃として皆様に謝罪致します。愚かな王や愚かな王子、そして愚かな宰相達を止めることが出来ず、皆に苦しい思いをさせてしまいました。今日でこの国、そして私、我が愛するミスカの命は終わるでしょう。ですが、お願いがあります。私達の命を無駄にせず、良い国を造って欲しいのです。死ぬ間際の戯れ言と思っていただいてもかまいません。ただ、私は良い国にするために尽力して参りました。ですが、力も能力も足りなかった。ただそれだけです。どうか、私の言葉を聞き入れ、どうか、皆で、良い国にしていって下さい」
それだけを言い終えると、剣を持った処刑人に合図を送り、王妃は首を刎ねられた。
数カ所から歓声が上がったが、それも直ぐに収まる。なぜならば、大多数が王妃の言葉を聞き、喜ぶ気分にはなれなかったのだから。
「皆様、私は力使うこと、いえ、持つことさえ出来ない愚かな王子であったことを、謝罪します。皆の力で、母上の望む国をどうかお造り下さい」
ミスカ王子は短い言葉で処刑人に合図を送り、首を刎ねられた。
さすがに扇動する者達も声を上げて喜ぶことが出来ず、広場は水を浴びせられたように静まりかえってしまった。
「聡明なる王妃、そしてミスカ王子、我らがする事の犠牲にならざるを得なかった事を謝罪しよう! そして、我ら皆がその望みを実現しよう!」
冷め切った広場に響くリクハルドの声。
少しでもこの惨劇を正当化させねば、そして民衆達が賛同し、行ったことにしなくては自分のみが危うくなってしまう。そう考え、王妃の言を約束した。
「だが、その理想を実現する前にこの二人が問題となっている。まずは、スピネル国のレーナ姫を勝手に相思相愛等と妄言を吐き、宣戦布告をせずに攻め入り、更にはその戦争に負け、盗賊扱いで捕虜となり、この国の我らの重税で拾われた上に、一緒に買われた戦争に向かった兵士達を売りさばこうとした愚か者のカール王子だ!!」
よくこの短期間でここまで愚かなことを連続して行えるものだと感心しつつ、リクハルドは広場に向かって叫ぶ。
演説会に参加していた者には周知の事実だったが、今更知った者もいるらしく、方々から怒りの声があがる。
舞台上に案内されたカール王子は、血まみれの舞台に怯み、下半身に染みを作っていく。
だが、屈強な男二人に抱えられ、逃げることもしゃがみ込むことも出来ずに連れて行かれる。
「俺は悪くない!! すべては父上が悪いのだ!! 殺さないでくれ!!」
カール王子はこの期に及んでまで命の懇願をした。しかも自分は悪くないと叫びながら。
広場にいた民衆は先程の二人との差に、より怒りを覚え、方々から殺せと叫び始める。
これ以上彼の話を聞きたくない為に、布で猿ぐつわをされ、声が出ないようにして首を刎ねられた。
この時の処刑人は皆から賞賛され、満足げに舞台を降りていった。
「さて、最後になる。この国で一番偉い者、この国で一番愚かな者、そう、この国の象徴であるコランダム王だ!」
歓声と共に王は舞台上に上げられる。
愚かな王はカールと同じく下半身に染みを造り、そして逃げ出そうと足掻くが、労働せず温々としていた者では、日夜重労働で鍛え上げられた男達に対して何もすることが出来なかった。
「この愚かな者が、聡明であれば、いや、少しで良いから周りを見ることが出来たならば、我々はこの様な苦しい生活をしなくて済んだであろう。そして、この様な辛く苦しい事を皆で決めず、そして実行しなくて済んだであろう。すべてはこの男、この愚かな王が元凶である!」
この言葉には多くの民衆が賛同し、声を荒げて王を罵倒した。
王の政治で職を失った者もいただろう。戦争で愛する者を失った者もいただろう。増税で死ななくても良かった子供達もいただろう。その様な言葉を続け、王の罪を露わにしていった。
今回の騒動はリクハルドが企み、実行したことであるが、すべて民衆とこの愚かな王に罪を全て被せる様に演説する。
高揚し、狂気に満ちた民衆と、恐怖に怯えた王ではその様なことに気づく者は一人もおらず、コランダム国の最後の王の処刑が始まろうとしていた。
「やめろ! お前達は何をしようとしているのかわかっているのか?! 国王を殺そうというのだぞ! 大逆罪だぞ!」
「国がなくなれば、その罪は誰のせいでも無いだろうよ!」
「俺達が国を作ったらお前こそ罪人だ!」
「良いから殺してしまえ!」
カール、そして王の言葉により感情を揺さぶられた民衆は皆が王を殺しに掛からんばかりに高ぶっている。
リクハルドとしてはこのまま殺させても良いのだが、これからの秩序を考えるとそうさせるのはあまり良くない。
その為、民衆が暴発する直前まで待ち、処刑を実行する。
王の首が刎ねられ、恨めしそうな表情を残したまま舞台上に転がると、民衆の歓喜は最高潮に達した。
「俺達はもう自由だ!」
「貴族共からの圧政から救われたんだ!」
「私達の勝利よ!」
そう言いながら広場に来た民衆達は抱きしめ合いながら喜んでいた。
レクスはその光景を力なく眺めていた。
まだ奴隷は完全に解放されたわけではないが、もうそれを縛る物は何もない。
新しい体制で奴隷の完全解放を行えば簡単に望みは達成されるだろう。
しかし、レクスにとって望んだ光景とはかなりかけ離れていた。
聡明な貴族や王族を取り込み、奴隷を廃止し、そして王政も徐々に移行させる。
少なくとも、暴動のような混乱の極みの状態で、しかも征服者を殺害して終わらせようとは思っても居なかった。
一人の人が首を刎ねられ命を落とすと言う本来であれば見たくもない辛いことのはずなのに、その事が非常に喜ばしいことと民衆が喜び叫んだ事が一番レクスにはこたえた。
こんなはずではなかった、こんなことをするつもりはなかった。どうしてこの様なことになったのだ、どうしてこんな事が起きたのだ。なぜ誰も自分の言うことを聞かないのだ、なせ自分の手から全てが離れていってしまったのだ。
何故、何故、色々と頭を回転させるが、疲労、そして目の前の状況が頭を冷静にさせない。
自分の理想と、自分の力量がかけ離れていたと言えばそうかも知れない。理想を押しつけるだけだったかも知れない。
色々と考え、自然とうつむいてしまっていた。誰かに助けを叫びたい衝動に駆られ、空を見る。
晴れた空に、緩やかに、そしてゆっくりと大きな雲が流れていく。
空はあんなに穏やかなのに、地上はこんなに血なまぐさい。そう意識できた、いや、そう思うことで心に余裕が出来たとき、レクスの視界に映った者がある。
そう、リクハルドだった。
薄く笑いを浮かべながら、誰とも喜びを分かち合うことなく広場を眺め続けている男。
この出来事の初めは探すことをしなかったが、途中から見つからず、そしてその者の命で王城に入ることが出来なかったこと。
それらが一つの結論を導き出す。
自分は使われたのだと。
彼は本心から貴族や王族を排除しようと思っていただろう。しかし、平和にとは考えていなかったのだろう。
そして、今あの場に一人で経っている理由、およそこの後のコランダム国を牛耳るつもりなのだろう。
指導者の一人として。
あの男にこれ以上使われる、それは非常に不愉快なことだ。
だが、レクスにとってもうこれ以上この国でやるべき事は無い。
現在持っている力を行使し、スピネル国に侵攻する事が第一だ。
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使われたこと、民衆を思い尽力してくれていた人達を殺したこと、それは全て自分の無力だからだ。と、全てを受け入れ、そして決意した。
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