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100.鼻水も垂れて
京利は、リハビリを頑張っている。今では普通に立てるし歩けるし、お箸も持てる。
本格的にリハビリが始まったころ、オレがリハビリを間近で見守るか離れたところで見守るか論争は、京利の中に一大旋風を巻き起こした。
番に汗だくで運動している様や情けない顔で痛がっている様を晒してしまうのか。この問題が京利を悩ませた。
ところが、京利の『凛が一瞬でも見えないのは堪えられない』といういつもと同じ欲望と、オレが放った、
「情けない顔を晒す、ったってそんなの今更じゃね?」
っというなんとも簡単な一言で、京利の一切の悩みは霧散した。確かに。って思ったみたいだ。
それからというもの歩行練習のときも関節可動域練習も、俺を近くの椅子に座らせてやっている。
本当に汗びっしょりになってふうふういって頑張っている。関節可動域練習の方は、痛みがすごいらしく、まるで拷問に耐えているかのような声が聞こえてくる。さすがにぎゃーは言わないけど、ぐっ、うぐっ、って呻くし、鼻水も垂れている。
オレは、それをずっと見てる。リハビリの四ノ宮先生からお手伝いのお許しがでたのは、時々、お水を渡す、タオルで汗や鼻水を拭いてあげる。
こんなことしかできない。
少し凹んでいると、リハビリの四ノ宮先生が京利に聞こえないようにオレにこっそり言う。
「それだけで十分です。凛様が見てくれているから京利様は頑張っているんですよ。ほら、見てください。すごい威嚇フェロモンです。まだまだ元気そうですね」
さっと離れていった。見ると、京利が燃えるような嫉妬フェロモンをこちらに投げつけていたようだ。
「京利!今の動きすごく良かった。かっこいいよ京利」
オレの京利、本当にかっこいい。かっこいいしかない。汗も、苦痛に歪む顔も、鼻水ですらも、神聖な絵画のように見える。
一瞬で京利の炎は、鎮火した。
周りの皆は、穏やかに微笑んでいる。
オレは、それから絶対に目を離さないことにした。京利がいくら苦しそうでも痛そうでも、絶対に目をそらさない。京利の頑張っている姿を目に焼き付けておく。
オレのお産も近い。どんなお産になるかなんてわからない。今からどんだけ不安に思って、あれこれ考えてしまっても仕方がない。
そう思っていてもやはり不安はつきまとうものだ。
でも今この時の京利を全部覚えていたら大丈夫な気がするんだ。
定期的にオメガ棟にいるさえたんのところにいって、検診を受けている(もちろん車イスで京利も一緒に行く)けど、赤ちゃんの成長が順調だということが分かると、嬉しくて安心する。そして怖くもある。なんともいえない感情だ。
もしかしたら、失う未来だって。
毎回、さえたんが写真をくれる。ある日の検診で、びっくり、なんと男の子だと判明した。お尻側からの映像を映しているときに、かわいいお尻の間におちんちんがはっきりと映っちゃったんだよね。こんなに綺麗に見えるんだ!かわいいっっっ!
オレのお腹が、みるみる大きくなってきているのがわかる。
この間は、最新の技術で撮影してくれたんだけど、それがすごいリアルなんだよ。びっくりした。
映っている子がイケメンで、オレが京利に似てるね!って喜んで京利に言ったら、いや、美しい横顔が凛にそっくりだって京利が真面目に言うんだ。
そんな言い合いをしていたら、本当に君達は思った通りの反応をしてくれるね。ってさえたんが嬉しそうに呆れていた。
京利の病室への帰り道。
「なあ、凛。子どもの名前だが、『凛真』はどうだろうか。凛と真実の真で、『凛真』だ」
京利は、振り向く。
「いい名前だね!」
オレは笑って頷いた。
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