江ノ島の小さな人形師

sohko3

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中学生になったら

羽香奈の全て

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 その日以来、原田と数人の取り巻きによる陰湿な嫌がらせが始まった。

 葉織と付き合いの長いクラスメイトなど、味方がいないではなかったが……。


 いじめに耐えかねて学校に行けなくなったわけじゃない。

 その日限りの通行人、観光客と多少のトラブルになるくらいなら、葉織は耐えることが出来たけど……

身近な友達の心の色が見えることが、怖くなってしまったのだ。


 昨日、羽香奈は転入の手続きのため半蔵とふたりきりで学校を訪ね、その帰り道に全てを教えてもらったのだった。



「葉織くんに助けられておいて、仇で返して……

あなたみたいな恥知らず、きっと罰が当たるね。
せっかく頑張って受験勉強しているのに、お気の毒」

「はぁ? 
そんな非現実的なこと信じてるの?」

「信じるよ。
わたしたちがどこに住んでいるのか、知らない? 
知らなくてもいいけどね。

毎朝毎朝、わたし、あなたの為に心をこめてお参りしているの。
神様のいるところまで、ほんの数歩で行き来できるから……」

 刹那、羽香奈の頬に鋭い痛みが刺さった。

 なんとまあ、気の短い人。

 だが、その痛みが羽香奈にもたらしたのは悦楽で、思わず笑みこぼす。

 葉織くんもこうやって、理不尽な痛みに耐えてきた。

 同じ痛みを知ることが出来た。

「私がどれだけ頑張ってきたか、あなたなんか、なんにも知らないくせにっ!」

「よく言うよ。
何も知らないのはあなたも同じじゃない。
葉織くんのことも、わたしのことも」

 あなたなんかに葉織くんのことは少しだって教えてあげないけれど、と断ったうえで、羽香奈は続ける。

「葉織くんはわたしの全てを救ってくれた。

わたしは、わたしの一生全て使ってもその恩返しがしたいの。

そのためだったらどんなに醜くたって、穢れたって平気。

神聖な場所でのお祈りを呪いに変えるなんて罰当たりをしたって、あなたが落ちるまで祈り続けてあげる」

「や……やだ、やめてよ……落ちる、なんて」

 羽香奈の想像以上に、彼女は「落ちる」という言葉に敏感だった。

 想像なんて出来るはずもない。

 中学受験させてくれるような、親から与えられる恵みなど、羽香奈の人生には無縁もいいところだ。

「お参り、やめてあげてもいいけど。
わたしが次に見るまでに、あの机をきれいにしてくれたらね」

 そも、彼女を呪うためのお参りなんて無駄なこと、羽香奈は実際にはしていないのだが。

 わたしの時間の全ては葉織くんのためのもの。

 あなたなんかに使うのは、たとえ一秒だとしてももったいないじゃない。
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