48 / 98
中学生になったら
羽香奈の全て
しおりを挟む
その日以来、原田と数人の取り巻きによる陰湿な嫌がらせが始まった。
葉織と付き合いの長いクラスメイトなど、味方がいないではなかったが……。
いじめに耐えかねて学校に行けなくなったわけじゃない。
その日限りの通行人、観光客と多少のトラブルになるくらいなら、葉織は耐えることが出来たけど……
身近な友達の心の色が見えることが、怖くなってしまったのだ。
昨日、羽香奈は転入の手続きのため半蔵とふたりきりで学校を訪ね、その帰り道に全てを教えてもらったのだった。
「葉織くんに助けられておいて、仇で返して……
あなたみたいな恥知らず、きっと罰が当たるね。
せっかく頑張って受験勉強しているのに、お気の毒」
「はぁ?
そんな非現実的なこと信じてるの?」
「信じるよ。
わたしたちがどこに住んでいるのか、知らない?
知らなくてもいいけどね。
毎朝毎朝、わたし、あなたの為に心をこめてお参りしているの。
神様のいるところまで、ほんの数歩で行き来できるから……」
刹那、羽香奈の頬に鋭い痛みが刺さった。
なんとまあ、気の短い人。
だが、その痛みが羽香奈にもたらしたのは悦楽で、思わず笑みこぼす。
葉織くんもこうやって、理不尽な痛みに耐えてきた。
同じ痛みを知ることが出来た。
「私がどれだけ頑張ってきたか、あなたなんか、なんにも知らないくせにっ!」
「よく言うよ。
何も知らないのはあなたも同じじゃない。
葉織くんのことも、わたしのことも」
あなたなんかに葉織くんのことは少しだって教えてあげないけれど、と断ったうえで、羽香奈は続ける。
「葉織くんはわたしの全てを救ってくれた。
わたしは、わたしの一生全て使ってもその恩返しがしたいの。
そのためだったらどんなに醜くたって、穢れたって平気。
神聖な場所でのお祈りを呪いに変えるなんて罰当たりをしたって、あなたが落ちるまで祈り続けてあげる」
「や……やだ、やめてよ……落ちる、なんて」
羽香奈の想像以上に、彼女は「落ちる」という言葉に敏感だった。
想像なんて出来るはずもない。
中学受験させてくれるような、親から与えられる恵みなど、羽香奈の人生には無縁もいいところだ。
「お参り、やめてあげてもいいけど。
わたしが次に見るまでに、あの机をきれいにしてくれたらね」
そも、彼女を呪うためのお参りなんて無駄なこと、羽香奈は実際にはしていないのだが。
わたしの時間の全ては葉織くんのためのもの。
あなたなんかに使うのは、たとえ一秒だとしてももったいないじゃない。
葉織と付き合いの長いクラスメイトなど、味方がいないではなかったが……。
いじめに耐えかねて学校に行けなくなったわけじゃない。
その日限りの通行人、観光客と多少のトラブルになるくらいなら、葉織は耐えることが出来たけど……
身近な友達の心の色が見えることが、怖くなってしまったのだ。
昨日、羽香奈は転入の手続きのため半蔵とふたりきりで学校を訪ね、その帰り道に全てを教えてもらったのだった。
「葉織くんに助けられておいて、仇で返して……
あなたみたいな恥知らず、きっと罰が当たるね。
せっかく頑張って受験勉強しているのに、お気の毒」
「はぁ?
そんな非現実的なこと信じてるの?」
「信じるよ。
わたしたちがどこに住んでいるのか、知らない?
知らなくてもいいけどね。
毎朝毎朝、わたし、あなたの為に心をこめてお参りしているの。
神様のいるところまで、ほんの数歩で行き来できるから……」
刹那、羽香奈の頬に鋭い痛みが刺さった。
なんとまあ、気の短い人。
だが、その痛みが羽香奈にもたらしたのは悦楽で、思わず笑みこぼす。
葉織くんもこうやって、理不尽な痛みに耐えてきた。
同じ痛みを知ることが出来た。
「私がどれだけ頑張ってきたか、あなたなんか、なんにも知らないくせにっ!」
「よく言うよ。
何も知らないのはあなたも同じじゃない。
葉織くんのことも、わたしのことも」
あなたなんかに葉織くんのことは少しだって教えてあげないけれど、と断ったうえで、羽香奈は続ける。
「葉織くんはわたしの全てを救ってくれた。
わたしは、わたしの一生全て使ってもその恩返しがしたいの。
そのためだったらどんなに醜くたって、穢れたって平気。
神聖な場所でのお祈りを呪いに変えるなんて罰当たりをしたって、あなたが落ちるまで祈り続けてあげる」
「や……やだ、やめてよ……落ちる、なんて」
羽香奈の想像以上に、彼女は「落ちる」という言葉に敏感だった。
想像なんて出来るはずもない。
中学受験させてくれるような、親から与えられる恵みなど、羽香奈の人生には無縁もいいところだ。
「お参り、やめてあげてもいいけど。
わたしが次に見るまでに、あの机をきれいにしてくれたらね」
そも、彼女を呪うためのお参りなんて無駄なこと、羽香奈は実際にはしていないのだが。
わたしの時間の全ては葉織くんのためのもの。
あなたなんかに使うのは、たとえ一秒だとしてももったいないじゃない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる