江ノ島の小さな人形師

sohko3

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中学生になったよ

告白

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 中学二年生になって、初夏。

 一年の頃と変わりなく、葉織と羽香奈は連れだって登校していた。

 去年も同じ時期に、校庭の藤棚が満開だったなぁ。

 今年もきれいに咲いてるね。

 思わず藤棚の側で足を止めてしばし見上げている羽香奈の嬉しそうな横顔の方がきれいだなぁと葉織は思う。

 言葉通りの意味ではなく、葉織があの日、初めて見た笑顔は取り繕った偽りのものだったから。

 少なくとも自分や祖父母やハナハナコンビの前では偽りのない、心からの笑顔を見せてくれるようになった。

 そんな彼女の横顔に、葉織も安心感と満足感で満たされていた。

 なんとなく、幸せなひとときってこんな感じのことかなって思った。





「あ、あの。潮崎さん? 
朝早くからすいません。
ちょっとお話しがあるんです」

 立ち止まっていたふたりに声をかけてきたのは同学年の男子。

 葉織のクラスメイトだったから羽香奈に紹介する。

 同じクラスの浜谷倫太郎。

 みんなに「はまりん」って呼ばれてるよ、と。

 人目につかない場所へ行きたいと浜谷は言うが、葉織に見える心の色にはそんなに不審な兆候は見られない。

 葉織と浜谷は同じクラスで、普段の生活態度はそんなに危なそうな奴には見えない。

 葉織は彼らと別れて先に自分の教室へ向かうことにした。





「潮崎羽香奈さん、おれ、あなたが好きです。
付き合ってください!」

 熱っぽい、彼なりの勇気と想いを込めた精いっぱいの告白だったが。

「わたし、他に好きな人がいるんです。
お付き合いは出来ません」

 一瞬の躊躇いも考慮もなく、ぺこりと一礼だけして、羽香奈はすぐに背を向けてその場を離れようとした。

「ち、ちょっと待って!」

「はい?」

「あの、噂で聞いたんだけど。
潮崎さんが好きなのってその、潮崎葉織だって本当?」

「そうですけど?」

 知っているなら何故、告白などするのだろう。

 羽香奈は純粋に疑問で首を傾げる。

「えーとぉ、潮崎さん達ってきょうだいなんだよね? 
一緒に住んでるんだよね」

「本当のきょうだいではないですよ。
戸籍上そうなっただけで」

「戸籍上でそうなら、結婚とか出来ないじゃない? 
男として好きなの?」

「男の子とか関係なくて、わたしは『葉織くん』というひとりの人がただただ好きなんです」

 たとえ葉織が女の子だったとして、姉妹になったのだとして。

 そんな想像をしてみたが、きっと今と変わらぬ感情を抱いていただろうというのが羽香奈の結論だった。

「で、でもさぁ……
もし葉織に今後、好きな女の子が出来て、付き合って。
結婚しますなんてなったら潮崎さんはどうすんの?」

「もしそうなったら、わたしは葉織くんのいないところへ行きますね」

「へ!?」

 羽香奈は笑顔のまま、彼に淡々と説明する。

 わたしのような女が同じ家にいたら、葉織と好き合っている女の子にとっては邪魔だろう。

 離れて暮らしたとしても、自分はいわゆる「小姑」という立場で、その子にとって煩わしい存在でしかないだろう。

「葉織くんの幸せの邪魔をしたくない。
わたしはそれから先は、彼に見えない場所で生きていくだけですよ」

「それでいいの? 
見えない場所に行って潮崎さんはそれからどうするつもりなの?」

 だったら今のうちに、葉織以外に好きになれそうな男を探す方向も考えたらどうか。

 彼が食い下がる目的はそこなのだが。

「葉織くん以上に好きになれる人なんて絶対にいない。
それは間違いないから、わたしは葉織くんがくれた思い出だけを大切にして、それからも生きていくの。
それだけで生きていけるもの」

 わたしをこの世に生まれさせてくれたのは、葉織くんだから。


 それは羽香奈にとって大切な気持ちだったから、この場限りの告白の相手にはとても伝えられない言葉だった。

「ごめんなさい。
こんなわたしのことを好きだって思ってくれたあなたの気持ち、嬉しくないわけじゃないんですよ。
ありがとうございます」
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