ポンコツ女子は異世界で甘やかされる

三ツ矢美咲

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第7章

彩芽、落ちる

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 戦いが終わった様だった。
 彩芽の位置から全ては見えないが、二人とも生きている様である。

 これで解決かと思い「よかったよかった」と独り言を言っていると……



 塔の尖塔の上からロープで吊るされている自分の身体が、尖塔と距離が離れ始めている事に気付いた。
 塔が城に向かって斜めになっているのだ。

「たすけてーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 叫んでも、フィリシスが飛んでくる気配が無い。
 このままでは、死んでしまう。
 身体をよじっても、ロープが解ける気配も無い。

「冗談でしょ!?」

 斜めになる塔の上、高所恐怖症じゃなくても宙吊りに背筋が凍る。



「アヤメ!! 大丈夫か!!?」

 ここまで、全速力で螺旋階段をのぼってきたストラディゴスを見て、安堵した。
 助かった。
 彩芽は、なぜ自分がこの塔の階段が螺旋階段と知っているのか、映像がフラッシュバックする。

「ストラディゴスさん! 私、前ここ来た事ある!」

「降りたら聞く!」

 ストラディゴスは彩芽を縛るロープを解くと肩に担ぎ、螺旋階段へと向かう。
 しかし、内壁に張り付いていた螺旋階段は、塔の半分に重心が偏る事で次々と歯抜けになっていく。
 もう降りる事が出来ない。

「くそっ」

 傾斜が増していく監視室。
 このままだと床が抜けると、もう一度屋根に戻る。
 屋根を登っていき、尖塔につかまる。

 彩芽は次々に思い出す記憶の断片にクラクラした。



 そんな彩芽を担いだまま、ストラディゴスは助かる方法を探す。

 他に空を飛べそうなもの、地面に降りれる方法を考える。
 アスミィやハルコスが使っていたベルトでもあれば、空に避難できそうだが、そんなに都合よくは無い。
 ストラディゴスは、倒れつつある外壁を覗き込んだ。
 階段の歯が抜け、積まれた石が所々梯子状になっている。

「これしかないか……」

 城と反対側なら、降りている最中に塔が倒れても、少なくとも塔に潰される事は無い。

「アヤメ、下を見るなよ」
「んな無茶な!?」

 ストラディゴスが外壁をクライミングでおり始めた。

「ストラディゴスさん!」
「なんだ!」
「私のどこが好きなの!」

「……それ誰に聞いた!?」

「オルデン公とか! みんな!」
「オルデン公!? オルデン公はお前を好きじゃないのか!?」
「ただの友達だってば!」

「領主様が友達!? なんだそれ! その話! 続きは降りてからじゃダメか!?」
「生きてる間に聞きたくて!」

 まだ地面までは数十メートルは距離がある。
 落ちれば二人共ひとたまりも無い。

「ああ、もう! わかったよ! 最初にあった日の夜、お前は俺といて楽しいって言ったんだ!」
「楽しかったし言ったかも!」

「俺は、お前といると良い奴でいられるらしい!」
「何それ!」

「俺を、死ぬまで良い奴でいさせて欲しい!」
「告白みたい!」
「告白だ! ずっと一緒にいたいんだ! お前が俺を、あの日の夜みたいに『嫌いじゃない』って言ってくれるなら、俺は!」

 その時、彩芽の中でバラバラだった記憶のピースが繋がり始めた。

 酒場を出て、夜道で話し、タバコを吸い、塔の上で朝日を見た。

 異世界に一人で来て、ずっと不安を感じないでいられたのは、自分を抱えている巨人のおかげである事に気付いた。

「一言で言い表せない!」

 彩芽は、フィリシスの言葉が引っ掛かっていた理由がはっきりし、スッキリした顔をする。
 同時にストラディゴスの事を、ただの友達と思っていたのは、違う気がした。

「ああ! ああ、そうだ、お前を一言で言い表せるもんか! だから、もっと俺にお前の事を教えてくれ! 俺は、お前の良い所も悪い所も、全てが知りたいんだ!」

「嫌いじゃないよ!」

 今まで生きてきた中で、一番うれしい言葉だった。
 酔った自分から出た言葉だが、それは彩芽が誰かに言って欲しかった言葉でもあった。

 本心で、心の底から。
 ストラディゴスは、ストラディゴスの言葉として言ってくれたのだ。



 * * *



 塔に小さな浮遊感が宿っていく。
 見張り塔が倒壊を始め、壁も足場も遠のいていく。
 塔の壁に張り付いたまま落ちれば、結局最後は自由落下と同じ事になる。

 ストラディゴスは、斜めになっていく塔の坂を滑り始める。
 しかし、坂道は途中で崩れ無くなり、二人は空中へと投げ出されてしまった。



 ストラディゴスは彩芽を強く抱きしめた。
 死ぬ前にせめて温もりを感じたかった訳では無い。
 自分の身体を盾にしてでも、どうしても守りたかったからだ。

 ストラディゴスの腕の中で、彩芽は思った。

 このまま死ぬにしても、自分を好きな人に守られながら死ぬのなら、無駄に死ぬより一ミリでもマシだと思えるなら、悪くない人生と言えるのでは無いか。



「ぐぁっ!?」

 二人の身体を衝撃が襲った。
 地面への激突では無い。

 気が付くと、竜になったフィリシスの腕につかまれていた。

「フィリシス!? どうやって」

 ストラディゴスの質問に、フィリシスは下を見る。
 そこには、アスミィと、ポポッチの恰好をしたハルコスがいた。
 ハルコスは、胸を隠して手を振っている。

「さっき、言ったよな。俺は覚えてるからな、ディー。約束だ、お前を俺の好きにさせろよ」
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