ポンコツ女子は異世界で甘やかされる

三ツ矢美咲

文字の大きさ
51 / 121
第10章

彩芽、混浴する

しおりを挟む
 フィデーリスの町には、数十の公衆浴場がある。
 そのどれもが男女共用で、男女や種族を分けたサービスをする方が稀だ。
 混浴かつ、施設での差別はないと言う事である。
 金さえ払えば奴隷だろうが貴族だろうが、関係無く使えるのだ。

 理由は単純、身体の衛生状態を管理する場であると同時に、大切な出会いの場でもあるからだ。



 その中でもブルローネ運営の公衆浴場は、利用料が他よりも高いにもかかわらず一部の人々に人気があった。

 公衆浴場と聞いて、日本の温泉や銭湯をイメージするかもしれないが、この世界にある公衆浴場の大半はサウナに近い。
 巨大な入浴用の湯船もあるが、基本的には汗をかいて垢すりをして身体を綺麗にし、汲んだ湯で汚れを洗い流す場である。
 設備としては、それ以上何も無い施設が殆どだ。
 その代わり、施設主が用意している従業員として働く奴隷達が客の身体を綺麗に洗い、オイルで髪を綺麗にし、全身マッサージをするのが一般的であった。

 そんな施設に人気の差が出る一番の違いは、二つ目の役割による所、利用者の客層にある。

 日本人の感覚では、風呂は一時間程度入れば十分に長いと感じるだろう。
 だがそれは、体温よりも高い湯船に入る事を前提にした時間である。
 サウナでも長時間入っていれば身体への負担が大きくなる。

 しかし、ここには低温のサウナや、少し暖かい温水プール程度の温かさの湯船しかない。
 そんな公衆浴場では、場を満たす高い湿度と程よい温度で長時間いても身体への負担が少なく済む。
 一種のサロンの様な、社交場としての機能を十分に担っていた。

 となれば、ブルローネの客層とコネクションを作りたい者達にとってはこれ以上無い場であり、人脈を作れるだけでなく、姫達の裸体も堂々と拝めると言う事で、男女問わず常に一定の利用客が入り浸っていても不思議は無かった。



 * * *



 彩芽は、ここ五日ほど軽い水浴びを時々するだけで、まともに身体を洗った記憶が無かった。

 自分の匂いもストラディゴスの匂いも、鼻が慣れてしまい何も感じないが、良い物ではないだろう。
 この世界の基準的な人の体臭に近づいて来ていると言えなくも無いが、程よく清潔である事はそれだけで旅のリスクを大きく減らせる。
 異世界で未知の病気にかかれば、彩芽はこの世界の人間より重症化する可能性が高いのだ。

 大浴場の入り口で施設の従業員に身体を洗う二枚の布だけ渡されると、ストラディゴスと共に更衣室で服を脱ぎ、広げた布で胸から太ももまでの前だけ隠し、浴場に足を踏み入れた。

 ストラディゴスはと言うと、こんな場所に自分から誘って置いて、更衣室から既に少し緊張している様子であった。



 むわりとした空気の中、仕事を終えた姫達が六人、楽しそうに談笑して歩いてくるのとすれ違う。
 もう風呂上りなのだろう。

 ちなみに、ブルローネには男娼もおり、呼び名は王子では無く姫娼婦と同じく姫と呼ばれている。
 今すれ違った姫の半分は、美しい見た目をした男娼であった。

 他にも人種、種族、性別を問わずに一糸纏わぬ恰好をした様々な人が、思い思いに大浴場を楽しんでいた。



 彩芽は、銭湯、温泉、サウナと言った施設がこの上なく好きであった為、何の変哲も無い公衆浴場だと言うのにワクワクしていた。
 そうとは知らずに誘ったストラディゴスは、知らずに大当たりを引いた形となる。

 別に、他人の裸を見て眼福だと言う理由で好きなのではない。
 公衆浴場では、全ての人が服を脱ぎ、同じ目的で集まる。
 まさに彩芽が苦手とする社会のしがらみと服の窮屈さから同時に解放される場所として、条件が整った場であるのだ。
 入浴者と言う同じ目線で全員がいられる空間。
 聖域、サンクチュアリである。



 彩芽が身体を洗おうと、壁際に並べられた低い背もたれのある椅子に座る。
 だが、そこには鏡も蛇口も無ければ、もちろんシャワーも無かった。

 どうすれば良いのか分からず困ってストラディゴスを見ると、腰布一枚で前を隠した巨人は入り口で渡された一人二枚の布を濡らし、固く絞って彩芽の腕を洗い始めた。

 あかすりである。

「痛いか?」
「ううん」

 温い湯気で満たされた浴場内は暑く、何もしなくても汗がダラダラと流れていく。
 ストラディゴスがタオルと呼ぶには硬い布で擦る度に、彩芽の腕から垢が気持ち良い程ボロボロ取れ、布をタライに満たした水で洗って、また固く絞ってあかすりを繰り返す。

 ベッドでして貰ったマッサージもヤバいぐらい気持ち良かったが、どうやらストラディゴスは経験豊富なだけあって女性の身体の扱いを心得ている様で、布で擦られても最初の一擦りだけ僅かに肌が抵抗するだけで、その後はあかすりが彩芽からすると天国の様なマッサージに感じられた。

 肘がツルツルになり、腕が細くなったのでは無いかと言うぐらい見違えるように綺麗にされ、手と指を丁寧に拭われ、両手が終わると今度は足を洗われていく。

 石鹸も何も使わなくても、技術でここまで綺麗になるのかと彩芽は感心する。

 足の指の間、土踏まず、かかと、くるぶし、白い角質や黒い垢が恥ずかしくなるぐらいボロボロと取れ、恐ろしいまでに綺麗にされて行く。

 四肢が終わると、今度は床に寝かされ、背中をゴシゴシとあかすりされていく。

 その間、彩芽はひたすら「ああ……あああ……」と快感に身をゆだねて知能指数が急速に低下していくのを止められない。
 バカになる。

「前はどうする?」

 ストラディゴスの言葉に彩芽は悩んだ。
 この快感が、身体の前面にまでと考えると、もう恥ずかしさよりも欲望が勝っていた。

 彩芽は尻を隠していた布で前を隠し、コロンと仰向けになる事で返事をする。
 今更快感から引き返せない。

 ストラディゴスが彩芽の胸と腰を隠す様に布をかぶせて前を隠していた布を取る。
 それから万歳をさせると首や肩、肩甲骨に脇を洗い出した。

「アヤメ」
「な、なに?」

 ストラディゴスは洗う手を止めずにアヤメに不思議そうに聞いてきた。

「ずっと気になっていたんだ。アヤメは、エルフの血を引いてるか、実はかなり若いのか?」
「どういう事?」

「わきに毛が生えてない」

 思わぬ指摘に彩芽の顔が、徐々に真っ赤になっていく。
 男の人にムダ毛の話など振られた事が無い。
 公衆浴場に来てまで彩芽に対して紳士的に接していたストラディゴスから、そんな事を聞かれるとは思いもしなかった。
 ただ裸を見られるよりも恥ずかしい。

「は、生えてる方が良かった?」

 質問の方向を間違えるが、気になった。
 世の中、そう言う趣向の男性がいる事は知っている。

「いや、そこにこだわっちゃないが、その……胸が大きいから、もう成熟しているとばかり思って……気になっただけだ」

 そう言いつつ、ストラディゴスは蒸れて辛かった下乳をゴシゴシと洗い始める。
 洗うと言う目的がある為か、いつもの遠慮や気恥ずかしさは感じられない。

「その……首から下は……脱毛済み……です」

(ぎゃー何言ってんだ私ー!?)

 と彩芽は心の中で叫ぶ。
 だが、ストラディゴスは悪気もデリカシーも無く踏み込んでくる。

「脱毛? なんだってそんな事を?」

 その反応を見るに、この世界では、ムダ毛は成熟の証以上でも以下でも無いのだろう。

 そう言えば、アスミィもフィリシスも裸体は、猫と竜そのままと言った感じだったなと思い出す。
 人の状態でも薄い毛で覆われているか、ツルツルであった。

「手入れが面倒で……」

 彩芽は脇を、お手上げのまま布で擦られながら、顔を手で隠した。
 身嗜みの為と、せめて言えば良かったと後悔する。

 どこまでもズボラな自分の本性が恥ずかしい。

「それなら、その……」

 ストラディゴスは彩芽の腹、みぞおちを洗い始める。

「こ、子供はもう……つくれるんだよな?」

 彩芽は腹を拭われながら、さらに赤くなっていく。
 ストラディゴスの言葉に下腹部を意識してしまう。

 予想外のストレート。

 だが、その言葉に嫌らしさも焦りも感じない。
 ただ確認し、安心したかった事がわかる。
 彩芽が成熟した女性なのか否かを。

 その時、彩芽が彼氏彼女みたいな事を目標に考えていたのに対し、ストラディゴスは牛歩の速度ながらその先を見ていた事に気付いた。
 それは、彩芽がまだ先だと思っていたステップであった。

「……つ、つくったことないけど、たぶん……」

 真っ赤になりながらも、なんとか答えた彩芽の言葉。
 ずっと前に進めないでいたストラディゴスは、さらに念押しをしてくる。

「子供は……その、今とかではなくて、いつか欲しいと思ってたりするのか?」

 彩芽の腹を布で洗う大きな手が、ヘソの下に到達する。
 ストラディゴスは洗っているだけでも、子宮と膀胱が刺激され、変な気持ちになってくる。




「あ、ありがと! 今度は私が洗うね!」

 彩芽が、これ以上は、自分の定めたサンクチュアリ・公衆浴場では進めてはいけない事だと布で前を隠し立ち上がった。

 危なかった。
 まさか身体から落としにかかってくるとはと焦る。

 彩芽は、ストラディゴスの身体に染み付いた女を喜ばせるテクニックが無意識に漏れている事にようやく気付いた。
 腰と胸に布を巻いた彩芽に背中を擦られ、初恋を経験したばかりのティーンエイジャーみたいな初々しい喜びに胸を躍らせている目の前の巨人。

 危ういバランスの上で、今のストラディゴスは成り立っているのかもしれないと彩芽は思う。

「子供は、欲しいよ」

 だが、そのバランスが良い方に崩れるのを望んでいる自分がいる事に彩芽は気付いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...