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おわりのとき
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昼下がりの屋敷の一室に、艶かしい音が響く。
「んむっ……んっ……ん……」
サブリナは、目を閉じ、懸命にアルバートのものを咥えている。
彼は拒まなかった。
眉間に深いしわを刻み、苦しむような顔でサブリナを見下ろしている。
「サブリナ……」
絶え間なく動いているサブリナから返答はない。
アルバートは構わず続ける。
「マルクが今どうしているか、知っているか?」
「……ひいえ」
咥えたまま首を小さく振る。
サブリナは、彼からマルクの名が出たことに、すこし驚いていた。
面識はないと思っていたから。
そういえば、あれから彼に会っていない。
合わせる顔がないのだろうと、なんとなく感じてはいたが……。
サブリナは、アルバートのものを喉の奥に入れた。
こうすると息が詰まって、頭の中の余計なものが消えてくれる。
奥のほうにぐっと入れ、すーっと戻してまた唇で包む。
機械人形になったようにそれを繰り返した。
「マルクは田舎の教会に行ったそうだ。私との決闘に破れ、二度ときみに手出しできないよう、切り落としてやった」
「……」
何を、とは問わない。
サブリナはマルクの顔をもう思い出せなかった。
記憶にあるのは、目のまえに突きつけられたときの硬いあれと、終わってしょんぼりしているときのあれだけ。
だから、切り落とされたのも、きっと……。
サブリナは喉の奥深くに、アルバートのものを入れ、頭を空にした。
「マルクのあとに数人来ただろう? あれは、あいつの取り巻きだ。酒場で吹聴して、脅せばやれると焚きつけたらしい。私の耳となる人間があちこちにいるとも知らず、なんとも平和ボケしたおぼっちゃまだったな」
数人、とアルバートは言った。
彼はすぐに感知していたのだ。
だとしたら、そこからの半年ーー絶えることなく続いていた、サブリナを頼る男たちは。
それを手引きしていたのは。
サブリナは全力で、両手をも使って、アルバートに奉仕する。
彼が話を続けられないようにしたかった。
彼女のことを優しく抱きしめてくれる、彼が恋しかった。
だが、アルバートは話をやめない。
このために来たのだから。
使用人にまで露見していたのは想定外だったが、訪問の理由は変わらない。
「サブリナ。私はきみのほうから、婚約を取り下げてほしかったんだ。家どうしは申し分ない。でも、きみ自身が『わたしはふさわしくない』と、身を引いてくれるのを待っていた。私から断りを入れてしまうと、きみに問題があるとされ、次の縁談などもはや……うっ」
聞きたくなかった。
『次の縁談』なんていう言葉は、サブリナの中にはまったくない。
アルバートと結婚したくて、だからこうやって、頑張ってきたのに……。
彼女は半年で身につけたテクニックのすべてを、惜しみなくアルバートに使った。
「さ、サブリナ……」
言わせない。
「きみにここまでさせて悪かった……」
言わせない言わせない。
「だが……もうダメなのはわかるだろう?」
言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない。
「ーー婚約は、破棄だ」
直後にアルバートはうめき、サブリナの口の中に彼が溢れた。
なかなか飲み込めなかった。
涙を流しながらでは、なかなか、喉に入ってくれなかった。
「んむっ……んっ……ん……」
サブリナは、目を閉じ、懸命にアルバートのものを咥えている。
彼は拒まなかった。
眉間に深いしわを刻み、苦しむような顔でサブリナを見下ろしている。
「サブリナ……」
絶え間なく動いているサブリナから返答はない。
アルバートは構わず続ける。
「マルクが今どうしているか、知っているか?」
「……ひいえ」
咥えたまま首を小さく振る。
サブリナは、彼からマルクの名が出たことに、すこし驚いていた。
面識はないと思っていたから。
そういえば、あれから彼に会っていない。
合わせる顔がないのだろうと、なんとなく感じてはいたが……。
サブリナは、アルバートのものを喉の奥に入れた。
こうすると息が詰まって、頭の中の余計なものが消えてくれる。
奥のほうにぐっと入れ、すーっと戻してまた唇で包む。
機械人形になったようにそれを繰り返した。
「マルクは田舎の教会に行ったそうだ。私との決闘に破れ、二度ときみに手出しできないよう、切り落としてやった」
「……」
何を、とは問わない。
サブリナはマルクの顔をもう思い出せなかった。
記憶にあるのは、目のまえに突きつけられたときの硬いあれと、終わってしょんぼりしているときのあれだけ。
だから、切り落とされたのも、きっと……。
サブリナは喉の奥深くに、アルバートのものを入れ、頭を空にした。
「マルクのあとに数人来ただろう? あれは、あいつの取り巻きだ。酒場で吹聴して、脅せばやれると焚きつけたらしい。私の耳となる人間があちこちにいるとも知らず、なんとも平和ボケしたおぼっちゃまだったな」
数人、とアルバートは言った。
彼はすぐに感知していたのだ。
だとしたら、そこからの半年ーー絶えることなく続いていた、サブリナを頼る男たちは。
それを手引きしていたのは。
サブリナは全力で、両手をも使って、アルバートに奉仕する。
彼が話を続けられないようにしたかった。
彼女のことを優しく抱きしめてくれる、彼が恋しかった。
だが、アルバートは話をやめない。
このために来たのだから。
使用人にまで露見していたのは想定外だったが、訪問の理由は変わらない。
「サブリナ。私はきみのほうから、婚約を取り下げてほしかったんだ。家どうしは申し分ない。でも、きみ自身が『わたしはふさわしくない』と、身を引いてくれるのを待っていた。私から断りを入れてしまうと、きみに問題があるとされ、次の縁談などもはや……うっ」
聞きたくなかった。
『次の縁談』なんていう言葉は、サブリナの中にはまったくない。
アルバートと結婚したくて、だからこうやって、頑張ってきたのに……。
彼女は半年で身につけたテクニックのすべてを、惜しみなくアルバートに使った。
「さ、サブリナ……」
言わせない。
「きみにここまでさせて悪かった……」
言わせない言わせない。
「だが……もうダメなのはわかるだろう?」
言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない言わせない。
「ーー婚約は、破棄だ」
直後にアルバートはうめき、サブリナの口の中に彼が溢れた。
なかなか飲み込めなかった。
涙を流しながらでは、なかなか、喉に入ってくれなかった。
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