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「あら、アルテじゃない。帰って来てたって言うのは本当だったのね」

「あ、メリル、久しぶり。シャノンとはうまくいってるの?」

 せっかく村に帰って来たから友達に会おうと思って出かけると、後ろから声を掛けられた。振り向けば、何かと俺を目の敵にしていたメリルだった。

「まさか。とっくに別れたわ。あいつ、浮気しやがったのよ。頬ひっぱたいて別れてやったわ」

 浮気。その言葉にまたびくっと体をすくませた。

「こんな村で浮気とかすぐばれるのに。あーあ、もっといい男いないかしら。そうだ、あんた王都にいたんでしょ? いい男いっぱいいたんじゃない?」

「…うん、そうだね。都会だし人も多いし、カッコいい人も多いよ」

「あーあ、羨ましい。あたしも王都に行きたい…」

 メリルはそう言うがきっと無理だろう。メリルの両親はメリルを目に入れても痛くないほどに可愛がっている。一人娘だししょうがない。そんなメリルが王都に移り住むとか許されないだろう。

「村と言ってもそこそこ人もいるし、男もまだまだいるだろ? きっと良い人が現れるって。それに意外と他所から人も来るしさ」

「まあね…。っていうかあんた、また綺麗になったわね。さては恋でもしてる? 恋人出来たの?」

「え、ソンナコト、ナイヨ…」

「なんで片言なのよ…。あんた本当に嘘が下手ね。はぁ…綺麗な男がさらに綺麗になるなんて、ホントむかつく」

 別に綺麗になったなんて自分では思わないんだが…。メリルは昔から俺の顔が嫌いらしい。綺麗でムカつくとか昔は散々言われた。あ、今もか。

「しかも恋人まで出来てるなんて…。あーやだやだ。それとあんたがいると他の男があんたに目移りすんの。だから早く王都へ帰ってよね」

 じゃあね、と言ってそのまま背を向けてどこかへと去って行った。

「はぁ……俺の気も知らないで勝手なこと言うなよ」

 俺だってこの見た目のせいで苦労してんだぞ。綺麗であればいいなんて、そんなことないんだからな。


 久しぶりに村に帰ってきたこともあって、久しぶりに友人たちと会ったりローディーや母さんと出かけたり、それなりに楽しい毎日を過ごしていた。まぁ、村の女たちからはメリル同様、嫌味を言われたりもしたが。昔からの事だから慣れてるし別に平気だ。

 ただ、もうあと2日後には王都へ戻らないといけない。エリックから手紙が返ってきて『お袋さんが無事でよかった。帰ってきたらまた扱き使ってやるから覚悟しとけ』と急な休みについては文句はなかった。本当にいい奴だよエリックは。

「そうだ、王都でお世話になってる『太陽と月の星見亭』だったかしら? 迷惑かけたお詫びに何かお土産でも買っていったら?」

 そう母さんに言われ、それもそうだなと市場へ行くことにした。「それなら私も!」とローディーと一緒に。

「王都にはいろんなものがあるけど、ここの木の実のクッキーは名物だからそれでいいんじゃない?」

「そうだな。素朴な味で俺も大好きだし。それにするか」

 田舎の村じゃ王都に勝るようなものはない。木の実のクッキーなんてそこまで喜ばれるような物じゃないけど、味は間違いない。そのクッキーの店に足を運んでいた時だ。

「よぉ、そこのお2人さん。おお、どっちも可愛いじゃねえか。ん? よく見たらこいつは男か。髪が長いから女かと思っちまった」

 声を掛けられて振り向けば男が3人そこにいた。
 王都に出てからは髪を切る金がもったいなくて伸ばしっぱなしだったお陰で、肩を超す長さにまでなっている。一つに括っているが、後ろから見れば女に見えたんだろう。この華奢で小柄な自分が恨めしい。

「昨日この村に着いたんだ。案内してくれよ」

「いや、先を急いでるんで他を当たってください。それじゃ」

 冒険者か傭兵か。それなりに体を鍛えてはいるようだが、筋肉が全く足りん。それに昼間から酒を飲んでいるのか、顔が赤く吐く息は臭い。こんなキモイ奴と一緒にいたくないし、何よりローディーも一緒だ。変な事をされる前にとっとと逃げた方が良い。ローディーの手を引いて先を急ごうとした。だが。

「待て待て。いいじゃねぇか。つめてーこと言うなって。ほらほら」

 その男はローディーの手を掴むと、自分の方へと引き込んだ。

「きゃっ! 痛い! やだやだ、放して! お兄! 助けて!」

「ローディー! おい、やめろ!」

「男の方はかなり綺麗な顔してんな。俺、こっちでいいか? 女はお前にやるよ」

「マジかよ、俺もそっちのにいちゃん目ぇつけてたのに…」

「がはは。後で回してやるから、その時は女の方と交換な」

 もう一人の男は俺の腕を掴み上へと捻り上げた。力一杯暴れてももがいても全くほどける気配がない。クソ…ローディーを助けないといけないのに! こいつら俺らを強姦するつもりだ。ローディーをそんな目に遭わせたくない! 俺はどうなってもいいから、ローディーだけは助けなきゃいけないのに!

 なんで俺には力がないんだよっ! くそっ! なんで鍛えても筋肉がつかねぇんだっ! なんで誰も助けてくれないんだっ!

 くそっ! くそっ! くそっ!

 助けてっ! 誰でもいいから助けてくれよっ!

「…っトレヴァーさぁぁぁぁん! 助けてよぉぉぉぉ!!」

「アルテっ!!」

 懐かしい声が聞こえたと思ったその瞬間、俺を拘束していた男が「ぐえっ」とカエルが潰れたような声を出し吹っ飛んでいった。俺の拘束は解けて、そのまま床に座り込んでしまう。
 するとローディーを拘束していた男もさっきと同様、「ぐはっ」と吹き飛び、もう一人の男も「ひぎゃっ」とあっという間に床に伸びていた。

「アルテ! 大丈夫か!」

「へ…? え?」

 見るとそこにはトレヴァーさんがいた。腕にはローディーを抱えて。

「怪我はっ!? 痛いところはっ!?」

「へ…? 掴まれた腕は、痛いけど……大丈夫、です」

 なんでここにトレヴァーさんがいるの? え? ナニコレ。

「そうか…。良かった、間に合って。君も大丈夫か?」

「は、はい。助けてくれてありがとうございました」

 抱えたローディーを俺の横にそっと置くと、伸びた3人をあっという間に紐で手足を縛りあげ転がしている。

「お兄…良かったぁ…。怖かったよぉ…わぁぁぁぁん」

「ローディー、ごめんな。俺が助けてあげられなくて」

 ローディーは俺にしがみ付くと、恐怖と助かったことの安堵とでわんわんと泣き出してしまった。それをなだめるように抱きしめて背中をさすってやる。

 トレヴァーさんは近くにいた人に何かを話していて、それが終わったのか俺達のところへと駆けてきた。

「今、警備隊を呼んでもらった。それが到着するまでここで待っていて欲しい。それにしても、本当に良かった」

 トレヴァーさんはほっとした表情で俺の頭を撫でる。剣だこのあるその手が懐かしいと思った。


 それから警備隊が来て、あの男たちは連行された。そして事件の状況を説明し、俺達も家へ帰ることになった。

 家に帰る前に「後で少し話がしたい」とトレヴァーさんに言われた。とうとう別れ話になるのかと、この時が来たのだと悟った。
 ローディーと手を繋いで歩く。その後ろをトレヴァーさんが続いている。その間俺たちはずっと無言だった。

「ただいま」

「おかえり2人共。ってあら? ローディーどうしたの?」

 泣きはらした顔をしたローディーを見た母さんが心配そうに声を掛ける。隠すことは出来ないから、さっきあった出来事を説明した。

「なんてこと…良かったわ、2人共無事で。トレヴァーさんと仰ったかしら。この子たちを助けていただいて本当にありがとうございました」

「いえ、騎士として当然の事をしたまでです。本当に無事でよかった」

 最後は微笑みながら俺の顔を見てそう言った。

 ……その表情の意味は何? 俺の事、もう嫌いになったんじゃなかったの?

「お礼をしないといけないわね。よければ今日はうちでご飯でも食べていってくださいな。たいしたおもてなしは出来ませんけど…」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」

「母さん、トレヴァーさんは王都で知り合った騎士なんだ。まさかここで会うなんて思ってなかったけど…。少し話するから俺の部屋行くね。ローディーの事お願い」

 あらそうなの。と俺を見送ってくれた。ローディーの事は母さんに任せておけば大丈夫。

 俺はトレヴァーさんを連れて自分の部屋へと向かった。

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