【完結】消えた一族の末裔

華抹茶

文字の大きさ
33 / 51

33

しおりを挟む
「え!? ヴィー、二週間の停学処分になったの!?」

 夕食を食べ終えたらヴィーが王宮に行ってくると出かけてしまった。今日会ったあの令嬢のことでの話らしい。心配になって、ヴィーが帰ってくるまで待っていた。
 帰ってくるなりどうだったのかと聞けば、停学処分。退学にならなかっただけマシだとヴィーは笑っていた。

「ご、ごめん! ごめんね、ヴィー! 僕のせいだ……僕がちゃんと自分を守らなかったからっ……」

「違う。お前のせいじゃない。俺もやり過ぎた自覚はある。だから泣くな。な?」

「でもっ……」

 詳しく話を聞けば、あの令嬢のお父さんはこの国の宰相様だった。それで今日あったことを知った宰相様は、ヴィーのお父さんであるアレクシス様へと詰め寄ったらしい。
 なんだかんだと揉めたが、レイン殿下と宰相様の息子であるラフヘッド副団長が力を貸してくれて、今回のヴィーの処分が二週間の停学処分で落ち着いたとのこと。
 レイン殿下と副団長さんにはお礼の手紙を書こう。副団長さんは受け取ってくれるかはわからないけど、送るだけ送っておかなきゃ。

「それで明日からは一緒に行けないからお前の側にいられなくなったんだ」

「うん、わかった。僕もちゃんとするから大丈夫。もし何か言われても、ヴィーの名前とレイン殿下から貰った腕輪を見せて、ちゃんと立ち回る。殴られそうになったりしたら、ちゃんと護身術で躱す。そんで逃げる。僕はちゃんと出来るから、というかやらなきゃいけないから」

 ヴィーに甘え過ぎたんだ。僕が護身術を習ったのは、こうなった時のために自分で対処出来るようにするため。ちゃんと習ったんだから、自分でなんとかしなきゃ。
 僕の行動一つで、ヴィーにも迷惑がかかってしまう。確かにヴィーがあんな風に首を絞めたのはやり過ぎだと思うけど、でもそこには僕のことをとても大切にしてくれる気持ちがあったからだ。
 なら僕が出来ることは、ヴィーにあんな風にさせないこと。僕が傷つかなければヴィーだってあんな凶暴になったりしないはずだ。

「もし何かあれば姉上でも殿下でも使えるものは使え。あの人たちなら、リュークが助けを求めて怒ることはない」

「うん、わかった」

 ヴィーがいない二週間、僕も学園を休もうかと一瞬思ったけど、今は薬学科で調合の授業も始まったところだ。それに休んでしまうとそれだけ授業が遅れてしまう。薬学科はかなり勉強を頑張らないとすぐに追いつけなくなるから、休むことはしたくない。
 
「それとヴィー。今日一緒に寝てもいい?」

「……いいが、どうした?」

「うん、今日ヴィーが守ってくれて嬉しかったから。なんか今日は一緒に寝たいなって」

 いつも一緒に寝ようって誘うのはヴィーからで、僕から誘ったことはない。だけどなんだかヴィーと離れるのは寂しくて、ついこう言ってしまった。そしたらすごく嬉しそうに笑ってくれるから、なんか胸の奥がムズムズする。でもそれは嫌な気持ちじゃなくて、こう温かくて気持ちがいいものだ。

 今日はヴィーの部屋で寝ることになった。自分の部屋から枕を持ってヴィーのベッドの上へ。ヴィーのベッドも僕と同じサイズだから、やっぱりちょっと狭い。
 ヴィーは僕が落ちないようにぎゅっと抱きしめてくれた。こうしてヴィーの温かさを感じていると、気持ちよくてすぐに眠たくなる。ヴィーの腕の中はいつも安心出来て、こうしているのがすごく好きだ。

「おやすみヴィー」

「おやすみリューク」

 すぐにうとうとした僕の頭に、何か柔らかいものが触れた気がした。なんだろうと思う間もなく、僕は夢の中へと潜っていった。


 そして翌日。迎えに来た馬車に乗ったのは僕一人。初めて一人で学園へと向かうからちょっと緊張する。
 でも昨日あれだけヴィーに大丈夫って言ったんだ。ちゃんとやらなきゃ。

 学園へと到着して教室へ入れば、やっぱり皆には遠巻きにされている。でも相変らずエッカルト様とローゼ様は僕の近くへとやって来た。
 今日はすぐに専門授業が始まる。エッカルト様達と教室を移動することになった。
 廊下を歩いている時に、誰かに襲われるんじゃないかと警戒する。でも今回は何も起こることなく到着した。それにほっと小さく息を吐く。たったこれだけのことに緊張しすぎだな。
 
「では今日は、先日行った調合の復習から」

 この前は、薬草を二種すりおろして精製水と混ぜただけの簡単な調合だった。これは傷薬で、値段も安いから平民がよく買う薬の一つだ。作るのもすごく簡単だけど、すりおろす時に雑にやり過ぎると効果も劣る。逆に時間をかけて細かくすり潰すと効果が上がる。だけど値段の安い傷薬を丁寧に作る薬師は少ないらしい。

 傷薬の調合が終わると、早速今日の本題だ。今回は傷薬と同じ薬草と手順だけど、精製水を混ぜた後に魔力を込めながら攪拌する。そうすると不思議なことに鎮静効果を持つ塗り薬になる。これを清潔な布に塗って、炎症が起こっている箇所に張り付けて使う。
 作り方は簡単だけど、込める魔力量が多すぎても少なすぎても鎮静効果が失われてしまう。そのちょうどいい感覚を掴むのが少し難しそうだ。

 僕も早速やってみる。精製水を混ぜて魔力を流しながらぐるぐると攪拌する。とろりとしたところで魔力を流すのをやめてみた。出来た薬に指をつけてみると、微妙に温かった。成功すると冷たい感覚があるから、これは失敗だろう。
 それから何度か挑戦してみたけど、周りは次々と成功している中、僕は一向に鎮静薬を作ることが出来なかった。
 どうしてだろう。魔力を流す量を増やしたり減らしたり色々調整しているのに、出来上がるのは全て同じもの。何がダメなのかさっぱりわからない。

「ぷっ。あいつ、まだ成功してないみたいだぞ」

「本当かよ。笑える。才能ないんじゃないか?」

「諦めて辞めてしまえばいいのにな」

 とうとう鎮静薬を作れないのが僕一人になってしまった。それを見て周りから嘲笑がちらほらと聞こえる。
 それを無視してもう一度作ってみる。ゴリゴリと薬草をすりつぶして精製水を入れる。少しでも丁寧に。そして魔力を流して、と思ったところでふいに声をかけられた。

「あの、もしよかったら僕が手伝おうか?」

「え?」

「あ、いきなりごめん。僕はオーラフ・ジェンキンス。よろしく」

「あ、はい。よろしくお願いします、ジェンキンス様」

 えっと、確かジェンキンス様って子爵家の人じゃなかったっけ? しかもこの薬学科でもすごく優秀な人で、鎮静薬の調合もすぐに終わらせた人だ。でもなんでいきなり僕を手伝うって言ってくれたんだろう?
 
「これから魔力を流すところだよね? 僕が流すから攪拌してくれる?」

「え……でもそんなことしていいんですか?」

「うん、大丈夫だよ。それにこうしないと次の調合に進めないから。また放課後とか使って練習して出来るようになればいいよ」

「ありがとうございます」

 うわぁ……こんなに親切な人もいるんだ。
 エッカルト様とローゼ様は、相変らず僕の近くにいるんだけど、僕を手伝おうとはしなかった。僕が自分でやれなきゃいけないことだからそれは別にいいんだけど、こうやって手を貸してくれる人もいるんだってことがすごく嬉しい。

「じゃあいくよ。ほら、混ぜて混ぜて」

「は、はい!」

 ジェンキンス様に魔力を流してもらいながら、僕はとにかく混ぜる作業を行う。ある程度混ぜていると、感触が変わった瞬間があった。そこで魔力を流すのを止めてもらう。
 出来上がった薬に指を入れれば、ちゃんとひんやりとした鎮静薬が出来上がった。

「ちゃんと出来たみたいだね。よかった」

「はい! ジェンキンス様、ありがとうございました!」

「いえいえ。魔力を止める時機もぴったりだったよ。僕のことは、オーラフって名前で呼んで。仲良くしよう」

「はい! ありがとうございます、オーラフ様!」

 差し出されたオーラフ様の手を握って握手をした。貴族はあまりこういう挨拶をしないけど、平民の僕に合わせてくれたみたいだ。
 それから専門授業の時だけじゃなく、僕はオーラフ様と一緒に過ごすことが多くなった。
 最初はちょっとだけ警戒したけど、レイン殿下が僕の教室までわざわざ来てくれたことがあった。その時に殿下が「オーラフじゃないか。リュークと仲良くなったのか。これからも頼むぞ」と言ってくれたことで、この人は大丈夫だとわかった。

 オーラフ様の家も薬師一家で、お父さんが特級薬師だそうだ。それでオーラフ様も王宮に行ったことがあるらしく、殿下と何度か面識があったらしい。
 オーラフ様も「困ったことがあったら何でも言ってね」と言ってくれて、ヴィーが側にいない今、とても心強いと思った。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

婚約破棄されて追放された僕、実は森羅万象に愛される【寵愛者】でした。冷酷なはずの公爵様から、身も心も蕩けるほど溺愛されています

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男アレンは、「魔力なし」を理由に婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡され、社交界の笑い者となる。家族からも見放され、全てを失った彼の元に舞い込んだのは、王国最強と謳われる『氷の貴公子』ルシウス公爵からの縁談だった。 「政略結婚」――そう割り切っていたアレンを待っていたのは、噂とはかけ離れたルシウスの異常なまでの甘やかしと、執着に満ちた熱い眼差しだった。 「君は私の至宝だ。誰にも傷つけさせはしない」 戸惑いながらも、その不器用で真っ直ぐな愛情に、アレンの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 そんな中、領地を襲った魔物の大群を前に、アレンは己に秘められた本当の力を解放する。それは、森羅万象の精霊に愛される【全属性の寵愛者】という、規格外のチート能力。 なぜ彼は、自分にこれほど執着するのか? その答えは、二人の魂を繋ぐ、遥か古代からの約束にあった――。 これは、どん底に突き落とされた心優しき少年が、魂の番である最強の騎士に見出され、世界一の愛と最強の力を手に入れる、甘く劇的なシンデレラストーリー。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

処理中です...