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番外編
ディルクside 中編
しおりを挟むだがそんな生活も長くは続かない。一番の脅威であったアドリアンが動き出した。命を狙われた殿下を連れ出し必死に逃げ出した。
何とか王都を抜け出し国境のテレン村へと向かう。だが殿下に異変が起きた。
悪夢を見るようになってしまったんだ。あの襲撃がトラウマとなってしまい、1人で寝ることが出来なくなってしまった。悪夢を見て飛び起きた時の殿下は、見ているこちらが痛々しくて胸が苦しくなった。
なんとか心安らかに眠ってほしくて、安心してほしくて殿下を抱きしめて「大丈夫」とささやき続けた。その日はそのまま悪夢を見ることがなく眠れたようだが、1人で寝ると悪夢を見ることがわかった。それからは俺が必ず一緒に寝るようになった。
それがとても嬉しくて毎晩楽しみにしていた。おまじないだと言って頭にキスをする。そんなおまじないなんてありはしないが、少しでも触れたくて勝手にやった。何か言われるかと思ったが、顔を赤くするだけで嫌がるそぶりがなかったから毎日することにした。
そしてテレン村での夜。いつものように抱きしめていたら固い物が当たる感触があった。場所的に殿下の…。
きっと出国の目途がたって安心して緊張が少し解けたことも要因の一つだろう。抜くなんて出来る状況じゃなかったから気を抜けた今、こうなったんだろうと思う。
アレが大きくなったことを悟られないようにするためか、殿下は密着していた体を離すような動きを取った。
生理現象で恥ずかしい事なんてない。だからそれは俺がなんとかしよう。そう心に言い訳をして殿下のアレに手を伸ばした。
ずっと夢見ていたことだった。俺の手で乱れる殿下を見ることが。想像していたよりもいやらしく、可愛らしく、過激で、甘くて。恐らくこれが最初で最後の触れ合いだ、とその時は思っていた。
そしてその後、必死に馬を駆け隣国リッヒハイムへと到着する。
なんとか入国した後は、金を稼ぎながらアドリアンに対しての対応を考えるつもりだった。だが国境門で既に俺たちの正体がバレてしまった。
『…お願いがあります。こんなことを言える立場ではないことはわかっています。ですがどうかお願いです。ディルクを…彼の命だけは助けてください。俺はどうなっても構いません』
その言葉を聞いた時は、何をバカなことを、という気持ちと、自分の事より俺の事を案じてくれた嬉しさで感情がぐちゃぐちゃになった。だから勢いであんなことを言ってしまった。
『嫌です! 死ぬなら…貴方と一緒に死にたい! 貴方がいない世界なんて必要ない! だから最後まで側にいさせてください! 貴方を愛しているんです!』
俺はただの専属護衛だ。例え愛しく想っていても気持ちを伝えるつもりはなかった。だがこの人がいなくなって自分だけが生き残ったことを考えた時、とても恐ろしくなった。そんな人生に何の意味があるのか。むしろ俺が死んで貴方が生き残るべきなのに。
だが殿下はガンドヴァの王族だ。正しくその意味を理解している。
もしガンドヴァが戦争に負けた時、残された国民は虐げられる可能性がある。それを憂いて交渉材料として自分の命を差し出すと。それで国民の命と尊厳が守られるのならばそれでいいのだと。
今のガンドヴァの王族の血筋が途絶えるということは、ガンドヴァの歴史が終わるという事。そして新たな歴史を刻む一歩として自分の命を差し出す。
本当は恐ろしくて仕方がないはずだ。俺だって死にたくないから生きるために嫌なことだってしてきた。だけど王族としてやらなければならないと強い意志でそう決められた。
だから俺もその時は一緒だと伝えた。自害してでも追いかけると言えば、困った顔をしながらもわかったと了承してもらえた。
そして離宮へと移り初めて殿下の秘密を知ることになった。
衝撃だった。ある日を境に人が変わった殿下。神の啓示を受けられたのかと思って殿下に聞いたが「んなわけねぇだろ」と否定されていた。だがそれは間違いではなかったのだ。
殿下は神に会ったことも声を聞いたこともないと言っていたが、思い出せないだけで本当は神の采配によるものだと思う。そうだと言ってもらえた方がよほど納得できる。
聞けばこの世界とは別の世界の記憶を持っているなんて、どう考えたって理解できない。そもそも前の人生の記憶を持っていること自体があり得ないことだ。その記憶を持っている人が王族として転生している。だったら神の愛し子として神から遣わされたと言われた方がしっくりくる。
本人は否定しているが、俺にはそうとしか思えず、だからこそそう考えれば納得できる部分も多く、この人が王になってくれればと強く思った。
そして驚くべきことに殿下と同じ転生者と会うことができた。通話の魔道具の製作者であるエレン・フィンバー殿。
こんな奇跡が起こるなどどう考えても神が導いているとしか考えられない。2人は同郷だったようで俺達にはわからない前世での言語で会話をされていた。そしてこの出会いが殿下の将来を大きく左右することになるとはその時には思いもしなかった。
エレン殿に会ったその後から、殿下の様子が少し変わった。俺に何かを伝えようとしているが真っ赤になって「…なんでもない」と言われること数回。何か思うことがあるなら言って欲しいと思っているが、無理強いするつもりもないためいつか伝えてくれるのを待つことにした。
だがガンドヴァが進行を始めたことを聞かされる。それも宣戦布告もなしで。奇襲をかけようとしているらしい。
まったくアドリアンらしい『ガンドヴァの王族』らしい卑怯さだ。…リッヒハイムの諜報員が複数潜伏していることもわからず、相手との力量差もわからず、無謀なことを平気でしている。
だが戦争が始まればリッヒハイムの勝利としてあっという間に終結するだろう。そうなれば俺たちの命も終わる。
だからなのか、ガンドヴァが動き出したと聞いたその後、殿下が意を決したように俺に話し出した。
『俺の命はもう1ヵ月もないだろう。もしかしたらもっと短いかもしれない。お前だけでも生きて欲しいけど約束だからな。一緒にあの世へ行こう』
俺の顔を暖かな手で包み込み、優しく笑いかけながら。
『だけどその前にお前にどうしても伝えたいことがあるんだ。……俺もお前の事が好きだよ』
え……? なんて……?
『だからさ。死ぬ前にお前との思い出が欲しい。いいか?』
自分に出来ることならなんだってします!
『うん、ありがとう。じゃあさ――俺を抱いてよ。お前と一つになりたい』
衝撃的な言葉と、殿下からの口づけと。あの時は頭が真っ白になった。驚きが強すぎると本当に真っ白になるんだと初めて知った。
その日、求められるがまま殿下を抱いた。いつか夢見たことが今現実となっている。でもこれも夢かもしれない。夢でもいい。殿下に触れることを許された。求められた。想いが通じ合った。
可愛くて愛しくて無我夢中で抱いた。幸せだった。幸せしか感じなかった。
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