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しおりを挟む学院に戻ればブランディス様を捕まえて聞き出した。
「あの、ブランディス様。確認したいことが…」
「もしかして婚約の打診のことですか? …ここでお話しする事は出来ませんから、放課後お時間貰えますか? そのことについてお話しします」
そして放課後。学院の奥にある庭園へと2人でやってきた。
「あの、婚約の打診だなんてどうしてです? 何かの間違いですよね?」
「間違いなんかじゃありませんよ。私は貴女と婚約したくて打診させていただいたのです」
「な、なぜです!? 私は貧乏男爵家でブランディス侯爵家にとって何の利益もありません。はっきり言ってお荷物です。それに身分だって釣り合いません。こんなの、ブランディス侯爵様や侯爵夫人は納得されてるのですか?」
私と婚約したいだなんて、なんの利益も出せないのにそんなのおかしい。普通貴族の結婚は恋愛結婚が多くなったとはいえ、上級貴族ならば政略結婚するところは多いはず。それは家と家の繋がりを持たせるためだったり、何かと利益があるから結ぶ結婚だ。
うちみたいな貴族の最底辺の男爵家、しかも貧乏なうちと侯爵家が縁を結んだって侯爵家側にはマイナスにしかならない。こんなことブランディス様ならわかってるはずなのに。
「……貴女は自分のことは考えないのですね。普通は私から婚約を打診されたら、何も考えず喜んで婚約を結ぶと思うのですけど」
「それはわかります! ブランディス様は第二王子殿下の側近候補で優秀で見目麗しくて、そんな方と婚約したいご令嬢なんてそこら中に溢れてます! ですが、それはブランディス様にも利益があるからこそで私なんか何も渡せるものなんてありません。
しかもこんな見た目だって平凡な私と婚約したらブランディス様が変な目で見られます!」
「平凡なんかじゃありません。貴女は私にとって世界一美しい人です」
「は?」
『世界一美しい』? 目がおかしくないですか? 医者にかかった方がいいです、それ。重症です。末期です。
「最初はこんな風に思ったことはありませんでした。ですが貴女と一緒に過ごすようになって貴女をもっと知るようになって、貴女がだんだん綺麗に見えてきたんです。努力家で、自分を犠牲にしてでもやり遂げようとする気概も惹かれた要因の一つです。好きになったら綺麗に見えるのなんて当たり前でしょう?」
好きになったら? え? 今そう言った? 好きになったらって、ブランディス様が私のことを好きってこと!?
「それに貴女は利益がないと仰いますが、十分利益はありますよ。貴女が嫁いできてくださればブランディス侯爵家にとって利点は大きいです。だってこんなに優秀な方を迎え入れられるのですよ? 我が侯爵家は文官の家です。父は宰相ですし、兄は次期宰相。そして私は殿下の側近。その私の妻に優秀な貴女が来てくだされば我が家は安泰です。貴女が望むように王宮で働くことももちろん認めますし、むしろ貴女の力を借りたいと父も言っているくらいです。ですからこの婚約になんの問題もないのですよ」
噓でしょ……。こんなのあり得ない……。
「それに、そんな我が家にもたらす利益なんておまけです。私が貴女と結婚したいんです。貴女を愛しているから。誰にも渡したくないんです。どうかお願いします。婚約、してくださいませんか?」
ブランディス様に握られた手が熱い。というか体全体が熱い…。こんな、こんなことって。
「身分が、釣り合わないです」
「私が成人すれば、父上が持っている子爵位を継ぐことになっています。なので問題はありません」
「……うちは貧乏です」
「ですが、優しくて美味しい料理に素晴らしい野菜を作れる。それはその人の心がこもっているからでしょう。お金があっても心が貧しい人だっています。貴女は心がとても豊かで温かい。そんなところも惹かれました」
「……縁談をすべて断られるほどの平凡顔です。不釣り合いです」
「過去に貴女との縁談を断った家は悔しがるでしょうね。こんなにも優秀な貴女を手に入れるチャンスだったのに、自らそれを棒に振ってしまった。
それに先ほども言いましたがどんな美女より、貴女が一番美しく見えるんです。不釣り合いだなんて思いません」
「……それ医者に行った方がいいです。重症です」
「ははっ。医者にかかったとしても正常としか診断されないでしょうね。私に悪いところは何一つありませんし。
……他には? 不安に思っていることはありますか?」
「…………ありません」
ここまで言われたら何も言えるわけない。こんな風に私を認めてくれた人なんていなかった。それも好きな人に認めてもらえた。これ以上の幸福ってあるのだろうか。嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。嬉しくて泣くだなんてヨアヒムが生まれた時以来だ。
「良かった。でしたら婚約、してくれますか?」
「…はい。私なんかでよろしければ」
そう返事をするとブランディス様にギュッと抱きしめられた。男性に抱きしめられるなんて初めてだからこれだけですごくどきどきする。それにブランディス様いい匂い。
「ベティーナ。愛しています。婚約を受けてくださって感謝します。本当に嬉しい」
「わ、私も……ブランディス様が好き、です。あ、愛しています…」
「コンラート、と呼んでください。ああ、貴女も同じ気持ちを持ってくださっていたなんて。貴女の事、絶対離しませんから覚悟してくださいね」
それからしばらく、誰もいない庭園で抱き合っていた。勉強をひたすら頑張っていただけの平凡顔の私がこんな素敵な方と結ばれるだなんて……。勉強頑張ってきてよかった。
私は貴族としてのマナーも最低限だし、侯爵家に嫁ぐ以上覚えなければならないことややらなければならないことも山のようにあるだろう。全くの未知の領域だけど持ち前の「逞しさ」と「根性」で乗り切ってみせる。
自分のためというより、愛する人のために。きっと大丈夫。コンラート様がいてくださる限り。
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