今まで我儘放題でごめんなさい! これからは平民として慎ましやかに生きていきます!

華抹茶

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新・番外編

バイロンside ~可愛い後輩に、はなむけを~①(本編裏ストーリー)

今回はエレンの兄、ランドルフの従者であるバイロン視点の話です。
本編では書かれていなかった裏側が、バイロン視点で見られるようになっています。
長くなったので4話に分けて公開します。

□ □ □ □ □ □ □ □


「え? エレン様が孤児を拾ってきた?」

「ああ、なんでもご自分の従者にするために拾ってきたらしい」

 公爵家当主の旦那様と一緒にお出かけされたその帰りに、エレン様は道端で倒れこんでいた死にかけの孤児を拾ったらしい。しかもご自分の従者にしたいと駄々をこねられたそうだ。
 旦那様はエレン様に大層甘く、結局はエレン様のお願いを聞くことになり連れて帰って来たとのこと。

 ボロボロで死にかけていた孤児なんて、公爵家ここの訓練についていけるとは思えない。旦那様は厳しい方だ。使えないとわかったらきっとあっさりと見限って捨てるに決まってる。
 俺は伯爵家の人間で身元もしっかりとしているし、子供の頃からの教育である程度の下地もあった。だからここの教育や訓練に関してなんとか付いていくことが出来たし認めてもらうことも出来た。
 だけど拾われたのは平民の孤児。今まで何も学んでいないだろうし、剣だって握ったこともないだろう。そんな子供がエレン様の、公爵家次男の従者になるなんて無理だろうな。

 なんて思っていたんだが。

「は? もう大人と模擬戦やってんの!?」

 あいつ、ライアスが拾われてから驚きの連続だった。

 最初は体もガリガリで背も小さくて、文字だって読めないし書けない。カトラリーの使い方さえまともに知らなくて、食べ方だって正直汚かった。ま、平民の孤児なんてそんなもんだろ。
 だけどあいつは凄かった。言われたこと、教えられたことはすぐに覚えるし、指摘されたら素直に聞いて矯正した。

「授業が終わってからも、一人で黙々と復習しているらしい。だから字を覚えるのも早かったし、マナーもとてもよくなった。まるで何かに取り憑かれてるみたいで、逆に怖いよ」
 
 あいつの授業に出ている同僚がそう言っていた。初めは字も読めないというからそこから教えるなんて気が遠くなる、なんて言っていたのに、今じゃ与えるだけ与えたら、あっさりと吸収するからとんでもないって。学びたい、知りたい、覚えたい、出来るようになりたいという意欲が凄まじいらしい。

 体もある程度健康になったら武術訓練も始まった。最初はもちろん下手くそだし、師匠にはよく地面に転がされていた。だけど目のギラつきだけは一丁前で、絶対に諦めない、強くなるんだって執念ともいえる意志を感じた。
 
「あいつは筋がいいぞ。日々の成長が著しい。きっとお前が追い抜かされるのはそう遠くないだろうな」

 師匠にまでそんなことを言われた。俺だって剣の腕には自信がある。だからこそランドルフ様の従者になれたんだ。そんな俺が、孤児だったあいつに負ける……?
 正直面白くなかったし認めたくなかったが、あいつが大人と模擬戦を行っているのを見てうかうかしていられないと危機感を持ったのも事実だ。

 そしてあいつは使用人食堂で出された食事を、いつも嬉しそうに美味しそうに食べていた。何一つ残さず綺麗に食べ切る。そして料理人にいつも「今日も美味しい食事をありがとうございました」と声をかけている。
 最初は皆びっくりした。だって誰一人としてそんなことを言ったことがないからだ。だけどライアスは毎日毎回、料理人に「美味しかった」「ありがとう」と声をかけている。そして言われた料理人も嬉しそうに笑うんだ。

 料理人含めて俺達は、食事が出てくることが当たり前だった。食べられることが当たり前だった。
 だけど孤児で死にかけたことのあるあいつはそうじゃない。ちゃんとした食事を毎日食べられることが感謝すべきことだったんだ。
 
「今日も美味しかったです。特に魚の料理が凄く美味しかったです」

「お。嬉しいねぇ。こっちこそいつも綺麗に食べてくれてありがとな。ほら、これ持ってけ。俺の新作のクッキーだ」

「え、いいんですか!? ありがとうございます!」

 料理人達はライアスの一言が本当に嬉しかったらしく、最近はお菓子を持たせるようになった。それを嬉しそうに受け取るライアスに周りの皆も微笑ましく見守っている。
 子供だからっていうのもあるんだろうが、そうやって感謝の言葉をすんなりと言うライアスを誰もが可愛がるようになった。成長期だからって皆でお菓子をあげたりすることも多くなった。

 初めは平民で孤児で何も出来ない知らないわからないあいつを、疎ましく思っていた奴だっていたはずだ。なのに今じゃ皆ライアスを可愛がっている。そして俺も。

「バイロン様、練習相手になってくれませんか?」

 俺はランドルフ様の従者で、ライアスもエレン様の従者になることを目指している。だから従者である俺に色々と聞いたり訓練相手になって欲しいと頼まれることも出てきた。
 初めはめんどくさいなって思って適当にあしらっていた。だけど気まぐれで「脇開いてるからもっと締めろ」って言ったら、「ありがとうございます!」ってにっこにこな顔で言いやがった。その素直さと笑顔に毒気を抜かれて、絆されたのは言うまでもない。

 それからはあっという間だった。ライアスはメキメキと武術の腕を上げたことで、魔法が使えないくせにそんなことは欠点にもなりゃしなかった。
 大人と模擬戦も早いうちにやり初めて、こっちが驚く早さであっという間に強くなっていった。
 師匠がああ言っていたのもわかる。

 そしてあいつもとうとう従者見習としてエレン様につくようになった。だけど――
 その時のエレン様は暗い表情をよくされるようになっていた。

 そんなエレン様に会ったあいつは呆然としていた。いつもいつも「エレン様に恩返しがしたいんです」って張り切っていたんだから。
 だけどあいつはそんなことでへこたれるような奴じゃなかった。あの手この手でエレン様に接していくうちに、エレン様も笑顔を取り戻されるようになった。俺達もエレン様が元気になってくれて一安心したもんだ。

 だけど、エレン様の婚約者であるクリストファー殿下の態度はますます酷くなっていった。それに合わせるようにエレン様もどんどん変わられて……
 エレン様が学園へと入学されてからは、エレン様の癇癪は更に酷くなっていった。

「おい、お前大丈夫か!?」

「バイロン先輩……俺は大丈夫です」

「大丈夫じゃねぇだろ!? 昨日高熱出したって聞いたぞ! 今日も一日休んどけ!」

 池に氷が張られるほど寒い日に、エレン様にその池の中に突き落とされて高熱を出したと聞いた。執事のチェスター様がポーションを渡したと言っていたから回復は早いだろうと思っていたけど、昨日の今日で仕事に戻るなんて。もう少し休んだって誰も何も言わないはずだ。

「俺はもう回復しました。それに昨日は一日エレン様のお側にいられませんでした。仕事にこれ以上穴を空けるわけにはいきませんから」

「なんでそこまでして……」

 あんな危険なことをされたのに、こいつはそれでもエレン様の側にいたいという。もし俺だったらこの先も従者を続けるかどうするか考えるぞ。

「エレン様に命を救っていただいたご恩をお返したいだけですよ」

 そう言ってライアスはまたエレン様の側についた。
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