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二人を繋ぐ夜光花の灯り

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 今日は満月だ。くっきりとその姿を現し暗闇の中を煌々と照らしている。ふと近くにある夜光花に目をやればふるふると震えていた。それは段々と広がっていき、やがてふわりふわりと蕾が開く。たくさんの夜光花が開花すると夜とは思えないほどの灯りがともされた。

「凄い……なんだよ、これ」

 辺り一面光の絨毯だ。一つ一つは淡い光ながらもそれが集まると圧巻だ。空には月と星が、地上には光り輝く一面の花畑。想像していた以上の光景に、俺は唖然とするほかなかった。

「本当に凄い……綺麗だ。あ~……クロードと見たかったな」

 こんなに美しい景色、大好きなクロードと一緒に見たかった。ちょっと乙女思考かとは思うけど、こんなに凄い光景を一人で見るなんて贅沢だけど寂しくも思う。

 俺は立ち上がってゆっくりとその花畑を散策することにした。こんなすごい光の中を歩いている自分は、まるでおとぎ話の花の妖精だ。死ぬ前にこんなに凄い景色を見られて良かったと思う。
 ここで俺が死んで、その死体はやがて腐り落ちていくのだろう。だけどこの花たちに見守られながらだったらきっと幸せなんだろう。恐らくあと一か月ほどで俺の命は潰えてしまう。だが俺はここから動くつもりはない。食料だって今日が最後だ。
 空腹のまま動けなくなって花畑に身を任せて命を終わらせる。俺はそう選択した。

 クロードと一緒にいられない人生だったらもういらない。俺には既に十分な幸せな記憶がある。クロードの熱に触れたあの夜の思い出が。

「エミルッ!!」

「え……?」

 俺一人しかいないこんな場所で、名前を呼ばれて驚いた。振り向くとそこにはもう二度と会う事がないと思っていたクロードが立っていた。

「な、なんで……? 夢……?」

「エミルッ!! やっと見つけたぞッ!!」

 クロードは鬼の形相でずんずんとこっちに向かってやって来る。やばい。怒ってる。超怒ってる。前に見たキレたクロードより、何倍も怒ってる。
 怖い。逃げなきゃ。なのに俺は動けない。クロードが怒っていることよりも、また会えたことが嬉しくて。

「てめぇっ……! 俺を散々コケにしやがってっ……!」

 あ。嬉しいけどコレはダメだ。怒りのオーラが見えるほど怒ってるクロードには恐怖しかなかった。

「ご、ごめんっ! 本当にごめんなさいっ!」

「あっ! コラッ! てめぇっ! 逃げんなっ!!」

「無理ッ!」

 俺はクロードに背中を向けて逃げ出した。だって怖いもんっ! ボコボコに殴られる未来しか見えないよ! もうすぐ死ぬけど、ボコボコに殴られて死ぬのは嫌だっ!!
 だけどクロードは信じられないくらい足が速い。一緒に冒険者として活動していたから知っている。クロードは俺なんかよりずっと強いって。だから俺が必死で逃げたところで意味はない。あっという間に追いつかれてそのまま地面に押し倒された。背中にもの凄い衝撃が走る。

「ぐっ……!」

「エミルッ……!」

「ひぃっ!」

 激怒したクロードの顔が目の前にあるぅっ!! しかも夜光花の灯りのおかげではっきり見えてるし!! 怖い怖い怖いっ! きっと骨すら残さず燃やされたあの魔物ってこんな気持ちだったに違いないっ……! ひぃっ!!

「おいコラてめぇ。俺に何やったかわかってるんだろうな?」

「わ、わかってますわかってます! その節は本当に申し訳ないことをいたしましてっ……!」

「申し訳ないと思ってたら逃げねぇよな……?」

「そ、それには事情がございましてぇぇぇぇっ……!」

 俺の体を跨ぐように乗っかかりながら力いっぱい胸倉掴まれて、もうちびりそうなくらい怖いぃぃっ……! なんで俺がここにいるってわかったんだよ!? 行先だって何も言ってないのにぃぃぃ!!

「散々舐めた真似しやがってっ! 覚悟は出来てんだろうなッ!? あ゛あ゛ッ!?」

「ひぃっ……! すみませんでしたぁぁぁぁ! 許してください! もうしません! もうしませんからぁぁぁ!!」

「うるせぇ! 黙ってろッ!!」

「んうっ!?」

 俺は掴まれた胸倉を思いっきり引っ張られて、その勢いのままクロードの唇と重なった。

 は? え? どういう状況??
 え? これってキスだよな? は? なんでキスしてる?

 本来なら嬉しいはずのキスも、あり得ない状況すぎて理解が出来ない。いやマジでどういう事よ??

「お前、余命三か月だって言われたんだろ?」

「なっ!? なんでそのことをっ……」

「お前がいなくなった次の日、お前を診た医者が訪ねて来たんだ」

「え……?」

 クロードの目が覚めたのは昼前だった。慌てて起きるも俺の姿はどこにもない。荷物も何もかもなくなっていることに気付いたクロードは俺を探しに外へ出た。その時ちょうど俺を診た医者が俺を訪ねて来たらしい。だが俺はもういないとわかった医者はクロードに俺の病状を伝えた。

「お前、余命三か月どころかこの先もずっと元気でいられるってよ」

「は?」

「ここ最近、咳は出てたか?」

「え? 咳……? あれ? そういえば出てない、かも……」

 そう言われて気が付いたけど、この街に着いた頃から咳が出ていなかった、と思う。夜光花のことで頭がいっぱいだったから全然気付いていなかった。

「余命三か月っていうのは人違いだったらしい。御年八十三歳のどこぞのじいさんの診断だ。あのクソ医者、間違えてお前にそれを伝えたんだよ」

 俺が診察した時の一つ前に、同じように咳が出ていたおじいさんを診ていたらしい。そんで診察結果を間違えて俺に伝えてしまったんだそうだ。

「お前の症状はレイグの実の食べ過ぎが原因だってさ。あの木の実は瘴毒が多く含まれていて、食べ過ぎると気管に影響が出るらしい。そのまま木の実を食べずに過ごせば瘴毒は抜けて咳は収まる。だからお前の咳が止まったのはレイグの実を食べていなかったからだ」

 レイグの実は森の中に自生する背の高い木のてっぺんにだけなる木の実だ。甘くて美味しいそのレイグの実は俺の好物だった。魔物討伐で森へはよく行くし、木のてっぺんになっていても魔法で取ることが出来るから俺はよくそれを取って食べていた。
 だけど一人逃げるようにこの街へ来る時からその実は食べていない。
 
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