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あなたは僕の憧れの人
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「藤原颯真です。よろしくお願いします」
初めてあの子を見た時、人間とは思えないほどのイケメンでこちらの目が潰れるんじゃないかと思ったし、彼と自分を見比べて世の中はなんて不公平なんだと何度目かの恨み言が頭の中を渦巻いた。
藤原颯真、二十三歳。現在超売れっ子のモデルさんだ。身長がなんと百八十五センチで誰もがうらやむ九頭身。モデルらしい細身ながらも筋肉だってしっかりとあり、そしてやっぱり姿勢がいい。だからこそ余計にカッコよさが突き抜けている。
ブリーチやカラーをしていない綺麗な黒髪をさっぱりとした短髪にしていて、切れ長で二重のこげ茶の瞳。鼻筋も通っており、色っぽい薄い唇。パーツの配置も完璧で作り物かと思うほどだ。
彼が出ている雑誌は飛ぶように売れ、表紙を飾れば瞬く間に売り場からその雑誌は消えていく。半裸の姿が載った時は、その雑誌を買えなかった女性たちで暴動が起きたほどだ。この国大丈夫?
そんな世の女性たちの熱い視線を一手に集めている超人気モデルの彼が、俺が講師を務めている俳優養成所へと入所した。
きっと所属事務所の意向で、今後は俳優としても売り出していくのだろう。ただ彼のレッスン予定期間はわずか半年。すぐにデビューさせるつもりなのだと悟った。
もう既にこれだけの人気があるのなら、俳優としてちょっと演技が未熟でも全然問題ないのだろう。俺とは住む世界が違いすぎる。本当にこの世の中は不公平だ。
「講師を務めます、佐藤恭介です。皆さんの俳優スキルが伸びるよう、精一杯努めますのでよろしくお願いいたします」
俺は俳優としてデビューしてから既に二十年経ったベテランだ。だがこんな養成所で講師をしているということはそういうことだ。
二十台の時に、ドラマで準主役になったことがある。その時は少しだけ人気が出たが売れっ子になることはなかった。
今現在も細々と小さな役をやりながら、養成所の講師をしてなんとか食いつないでいる現状だ。
売れないのならさっさと諦めて違う仕事でもした方が、老後のことを考えると尚いいのだろう。だが俺はどうしても『主役をやりたい』という夢を捨てきれていない。一度でもいいから主役をやれれば、この世界から足を洗って地道に働くつもりなのに。
そんな俺だから四十を目前にした今、当然ながらも独身で彼女の存在もいない。前の彼女と別れてからもう何年たったかわからないほどだ。
いつまでもこうやって俳優にしがみ付いている自分に嫌気が差す。
「佐藤さん、お疲れ様です!」
「お疲れ様です、松本さん」
「いやぁ~、今回の入所した子たち凄いですね」
「そうですね。やっていけるか不安ですよ」
今回入所した子は皆、藤原颯真を狙っている子ばっかりだ。どこから彼がここへ入所することを聞きつけたのか、入所希望者が殺到した。定員以上の人数を入れたことで、アクターコースは少々手狭になっている。
しかも彼がいるから周りの子たちの色めきだった声が凄くて、かなり煩い。レッスンが始まってもしばらくはきゃーきゃーと騒ぎ立てていて、講師の一人がキレてしまったほどだ。
しかもモデルをやっている子が非常に多く、全員ではないがこういう子はプライドの高い子が多い。容姿は恵まれており、周りから持て囃されて育ってきた子が多いからな。モデルとしても人気が出ると、自分は何をやっても上手くいくと勘違いする子も出てくる。
もちろんそんな子ばかりじゃないし、素直で真面目ないい子もいる。だけど芸能界という特殊な世界にいると、少しずつ変わってしまう人が多いのも事実だ。
「あ、でも藤原颯真君、思ったより真面目で驚きました」
「へぇ。あれだけ人気のある彼なら、鼻にかけた態度でもおかしくないんですけどね」
先ほど彼がいるクラスのレッスンを終えたところだ。彼は非常にまじめな性格なのか、俺の話を真剣に聞いてくれていた。その姿にちょっと驚いたものだ。
だが最初だけかもしれない。彼がここへ通う間に違う面も見えてくるだろう。彼の周りを取り囲む女の子たちのこともあるし、騒がしい中でレッスンを行わなければならないのは変わらない。いつもと違う気合を入れないとダメなんだろうな、と考えて重いため息が漏れた。
初めてあの子を見た時、人間とは思えないほどのイケメンでこちらの目が潰れるんじゃないかと思ったし、彼と自分を見比べて世の中はなんて不公平なんだと何度目かの恨み言が頭の中を渦巻いた。
藤原颯真、二十三歳。現在超売れっ子のモデルさんだ。身長がなんと百八十五センチで誰もがうらやむ九頭身。モデルらしい細身ながらも筋肉だってしっかりとあり、そしてやっぱり姿勢がいい。だからこそ余計にカッコよさが突き抜けている。
ブリーチやカラーをしていない綺麗な黒髪をさっぱりとした短髪にしていて、切れ長で二重のこげ茶の瞳。鼻筋も通っており、色っぽい薄い唇。パーツの配置も完璧で作り物かと思うほどだ。
彼が出ている雑誌は飛ぶように売れ、表紙を飾れば瞬く間に売り場からその雑誌は消えていく。半裸の姿が載った時は、その雑誌を買えなかった女性たちで暴動が起きたほどだ。この国大丈夫?
そんな世の女性たちの熱い視線を一手に集めている超人気モデルの彼が、俺が講師を務めている俳優養成所へと入所した。
きっと所属事務所の意向で、今後は俳優としても売り出していくのだろう。ただ彼のレッスン予定期間はわずか半年。すぐにデビューさせるつもりなのだと悟った。
もう既にこれだけの人気があるのなら、俳優としてちょっと演技が未熟でも全然問題ないのだろう。俺とは住む世界が違いすぎる。本当にこの世の中は不公平だ。
「講師を務めます、佐藤恭介です。皆さんの俳優スキルが伸びるよう、精一杯努めますのでよろしくお願いいたします」
俺は俳優としてデビューしてから既に二十年経ったベテランだ。だがこんな養成所で講師をしているということはそういうことだ。
二十台の時に、ドラマで準主役になったことがある。その時は少しだけ人気が出たが売れっ子になることはなかった。
今現在も細々と小さな役をやりながら、養成所の講師をしてなんとか食いつないでいる現状だ。
売れないのならさっさと諦めて違う仕事でもした方が、老後のことを考えると尚いいのだろう。だが俺はどうしても『主役をやりたい』という夢を捨てきれていない。一度でもいいから主役をやれれば、この世界から足を洗って地道に働くつもりなのに。
そんな俺だから四十を目前にした今、当然ながらも独身で彼女の存在もいない。前の彼女と別れてからもう何年たったかわからないほどだ。
いつまでもこうやって俳優にしがみ付いている自分に嫌気が差す。
「佐藤さん、お疲れ様です!」
「お疲れ様です、松本さん」
「いやぁ~、今回の入所した子たち凄いですね」
「そうですね。やっていけるか不安ですよ」
今回入所した子は皆、藤原颯真を狙っている子ばっかりだ。どこから彼がここへ入所することを聞きつけたのか、入所希望者が殺到した。定員以上の人数を入れたことで、アクターコースは少々手狭になっている。
しかも彼がいるから周りの子たちの色めきだった声が凄くて、かなり煩い。レッスンが始まってもしばらくはきゃーきゃーと騒ぎ立てていて、講師の一人がキレてしまったほどだ。
しかもモデルをやっている子が非常に多く、全員ではないがこういう子はプライドの高い子が多い。容姿は恵まれており、周りから持て囃されて育ってきた子が多いからな。モデルとしても人気が出ると、自分は何をやっても上手くいくと勘違いする子も出てくる。
もちろんそんな子ばかりじゃないし、素直で真面目ないい子もいる。だけど芸能界という特殊な世界にいると、少しずつ変わってしまう人が多いのも事実だ。
「あ、でも藤原颯真君、思ったより真面目で驚きました」
「へぇ。あれだけ人気のある彼なら、鼻にかけた態度でもおかしくないんですけどね」
先ほど彼がいるクラスのレッスンを終えたところだ。彼は非常にまじめな性格なのか、俺の話を真剣に聞いてくれていた。その姿にちょっと驚いたものだ。
だが最初だけかもしれない。彼がここへ通う間に違う面も見えてくるだろう。彼の周りを取り囲む女の子たちのこともあるし、騒がしい中でレッスンを行わなければならないのは変わらない。いつもと違う気合を入れないとダメなんだろうな、と考えて重いため息が漏れた。
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