【短編集】BLハピエン詰め合わせ

華抹茶

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あなたは僕の憧れの人

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「それでは今回のレッスンはここまでです。お疲れさまでした」
 
 今日も無事にレッスンが終わり、帰ろうかと思ったその時だ。藤原颯真が俺の前へ来るといくつかの質問が飛んできた。おや、と思いながら、その質問に一つ一つ答えていく。どれも俳優としての演技力に必要な質問で、彼は本気で俳優を目指しているのかと思った。事務所の意向で養成所に来たわけではないのかもしれない。
 そんな彼とのこういったやりとりは、レッスンが終了するごとに行われた。しかも彼の演技もなかなかのもので、教えたことの吸収も早い。家で自主的に練習しているのだろうか。
 そんなやりとりが幾日も続き、彼への劣等感は変わらないが、将来が楽しみだと思うようになった。

「佐藤さん、最近楽しそうですね」

「あ、顔に出てました? 恥ずかしいな」

 松本さんにそう言われてしまう程、年甲斐もなくはしゃいでしまったか。
 彼にそのまま理由を聞かれ、藤原颯真のことを伝えると「あれ?」と首を傾げられてしまった。

「彼のことを受け持っている別の講師の方が言ってたんですけどね、彼レッスンが終わるとさっさと帰っていくらしいですよ。それを追いかける女の子たちも一緒になって動くから、まるで魚群のようだって言ってましたね」

「え? そうなんですか?」

 どういうことだろうか。彼は俺のレッスンの時は毎回かなりの質問が飛んで来る。お陰で帰る時間が遅くなり、サービス残業をしているくらいだ。
 他の講師も現役の俳優だから、質問にはしっかりと答えられるはずだ。俺よりも有名な人もいるし、どちらかと言えば俺よりもその人に質問した方がいいはずなのに。

「もしかしたら佐藤さんの人柄がそうさせてるのかもですね。実際優しいですし、話しやすいですもん」

「そう、なんでしょうか……」

 あれほど真面目に取り組んでいる彼が、そんなことで人を選ぶだろうか。なんだか少し腑に落ちないながらも、それ以上考えても仕方がないと思考を止めた。
 そして藤原颯真が養成所に通う半年はあっという間に過ぎた。
 各養成所によって仕組みも様々だし、レッスンの時間も違うが、うちでは短くて三か月から二年コースと幅広くカリキュラムが用意されている。本気で俳優を目指している子は、アクターの二年コースを取ることが多い。そしてまだ学びたいと思った子は更に一年追加する場合もある。
 だが藤原颯真は予定通りの半年で終了だ。その後の追加申し込みはないようだった。彼からの質問攻撃も、これで終了かと思ったのだが。

「佐藤さん、俺今度ドラマに出ることになったんです。そんなにいい役でもなくて出番もほんのちょっとしかないんですけど、でも一生懸命演じます。だから俺の演技がどうだったか佐藤さんに感想を聞かせて欲しいんです」

 なぜ?
 そう思ったが、彼はレッスンも非常に真面目に取り組んでいたし、本気で俳優を目指そうとしていると感じたから、俺は素直に彼の申し出を受け入れた。
 実際彼がどんな演技をするのか気になったし、教え子がデビューするのだから素直にそれを見たいと思ったのもある。俺が「わかったよ」と答えると嬉しそうな顔をして連絡先の交換を持ちかけられた。

「……藤原颯真の連絡先、ゲットしちゃったよ」

 俺のスマホの連絡先に『藤原颯真』の名前と電話番号に、チャットアプリの連絡先までもが入っている。
 もちろんこの業界にいるおかげで他の芸能人の連絡先は入っている。が、彼ほどの人気絶頂にいるモデルの連絡先なんて入っていない。
 この番号を売ったらいくらになるんだろう。なんて馬鹿げたことが一瞬頭をかすめる。そんなことをするつもりはないが、この番号を欲しがる人は山のようにいるだろう。決してこのスマホを紛失するわけにはいかないなと、ちょっと怖くもなった。
 
 そしてしばらく日にちが経ち、チャットアプリに藤原颯真から連絡が来た。どうやら先日言っていたドラマの放送日のお知らせのようだ。予定を確認すれば、俺もその日の夜は仕事が入っておらずテレビで見ることが出来る。
 スケジュール帳にしっかりと書き記し、万が一忘れないためにアラームのセットまでかけておいた。これで見逃すことはないだろう。
 そのおかげもあってか、ドラマが放送される一時間前からテレビの前にかじりついていた。そして予定されていたドラマの放送が始まる。
 彼が言っていた通り、出演シーンは短くもあったが俺は彼の演技に引き込まれていた。
 セリフもたったの二言だけ。でも切ないそのシーンで見せた彼の表情は、何故か胸にぐっとくるものがあった。
 見た目がいいから、だけじゃない。本当に彼はあの『役』になりきっていたのだ。

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