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1 婚約破棄だと?ふざけるな
しおりを挟む「もう無理だ!ヴィンセント・トルバート!お前との婚約を破棄する!!」
ここはリッヒハイム王国の貴族学園内の食堂。昼食時にはいろんな科の全学年の学園生が集まる。だからかなり広い所だし、人数だってかなり多い。
なのにそんな場所で皆が聞こえる大声で婚約破棄宣言。
「なぁ、あの叫んだあいつ誰か知ってる?」
「あれは、文官科3学年生のパスカル・ウェインライト公爵令息。そして婚約破棄されたのが、文官科2学年生のヴィンセント・トルバート侯爵令息。」
「公爵家…。なのにあんな事平気でやるの?」
そういえば、クリステン王国の王子もおんなじ事したんだっけ。
「ライリー様、あの2人は去年婚約したそうですがあまり仲は良くなかったみたいですよ。」
「へぇ。良く知ってるな。……ふぅん。」
「あっ!ライリー様!?」
気に入らない。こんな公衆の面前で堂々と婚約破棄なんて。された方はどんな気持ちか考えろよ。馬鹿か。…馬鹿だからわからないんだろうな。
僕はライリー・フィンバー。平民だったけど、3年前に『ドラゴン討伐の英雄』になって叙爵されて一応貴族、ってことになってる。一代限りの騎士爵だ。
去年この貴族学園の騎士科に首席合格者として入学した。今は騎士科の2学年生。あと数ヶ月もすれば3学年生になるけど。
去年まで僕の兄ちゃんもこの学園にいたけど、卒業して今は魔法師団の特別団員となっている。…アーネスト・スタンディングと結婚して。
だから同じ王都に居るのに、なかなか兄ちゃんとは会えなくて寂しい。くっそ、アーネストの野郎、兄ちゃんを独り占めしやがって!
アーネストの事を思い出して、少しイラッとしながら騒ぎの中心へと足を進める。
「っ!? なんだお前は!? …ってライリー・フィンバー!?」
僕ってやっぱり有名人だな。僕はこいつのこと知らなかったけど、こいつは僕の事を知ってたか。
「そうです、ライリー・フィンバーです。パスカル・ウェインライト公爵令息様。彼との婚約を破棄されるのですか?」
「ああそうだ!こんな感情のない人形みたいな気持ちの悪いやつとはもう無理だ!だから婚約を破棄するんだよ。…おまけに左右の目の色も違うなんて、気味悪さに拍車がかかってる。いくら優秀だとはいえ、コイツとこの先一緒かと想像するだけでゾッとする!」
ちらりと婚約破棄を宣言されたヴィンセント・トルバートを見る。確かに金と青で左右の目の色は違うし、何の感情も見られない無表情だ。
だからといって気持ち悪いかと言われてもそうは思わない。容姿は整っている方だと思う。…兄ちゃんと母さんの顔を見慣れている僕にしたら、他の人間は大体似たり寄ったりな感じにしか思わないけど。だから人の顔なんてはっきりいって興味ない。
ただ整っている分、より人形に近い感じはするんだろうな。
だからといって、気持ち悪いとか気味が悪いとかよく言えるな。
「婚約破棄になる理由はそれですか?それ以外はないと?」
「ああそうだ!それがどうした!?」
「じゃあ僕が彼を貰っても問題ない、ですよね?」
「は?」
良いとも悪いとも返事を貰ってないけど、僕はヴィンセントの手を握って空いている席に座った。
「ここ座って。ご飯はもう食べた?」
「…いえ。」
「じゃあ頼んで。一緒に食べよう。」
僕もまだだったから丁度いい。
「ちょっ!ライリー様!いいんですか!?」
「何が?別にいいでしょ。婚約破棄だって言ってるんだし。…悪いけど、Aランチ2つ頼んできてくれる?」
何が婚約破棄だ。ふざけるな。
僕はこんな奴が大嫌いだ。僕の母さんも昔、同じように公衆の面前で婚約破棄を言い渡された。母さんにも悪いところがあったとはいえ、こんな常識外れの阿呆な事をされて傷つかない訳がない。
ましてや貴族だから社交にも影響するし、本人だけじゃなくてその『家』にも傷がつく。
あの馬鹿公爵令息は、ヴィンセント個人だけじゃなくてトルバート侯爵家にも自分の家にも傷をつけたことになる。その事分かってんのか?わかってないんだろうな、馬鹿だから。
僕はヴィンセントの事も、パスカルの事も、どちらの家の事も知らない。
知らないけれど、こんな事を目撃して放っておくなんて出来なかった。……母さんの事を思い出したから。
母さんには父さんがいた。だから今は幸せにやってるし、今じゃあの時に起こった国外追放も無くなってる。
だけどコイツは?父さんのようにコイツを守ってやれるような奴がいるのか?もしいなかったら?
いたらそいつに任せよう。いなかったら僕が守ってやろう。そう思って、コイツを連れてきた。
それに婚約破棄の理由が『左右の目の色が違って気味が悪い、表情がなくて気持ちが悪い』だ。
ヴィンセントの性格が悪いだとかならまだしも、見た目だけで破棄を宣言した。最悪だろ。
…しかしヴィンセントってずっと無表情なんだな。あんな事されたのに悲しいとか悔しいとか全然ないのか?
「なぁ、あんな事言われて悔しくないの?」
「…悔しくはありません。その通りですから。」
は?自分で認めてんの??
「ムカついたりとか、悲しいとかは?」
「…それも特にありません。」
…なんだこいつ。本当に感情がないのか?
「自分はそれでいいわけ?」
「…はい。私の意思はないも同然ですから。」
なんだよそれ。…貴族ってこんななの?んなわけないよな。
「…ライリー様。助けていただいてありがとうございました。ですがもう私とは関わらない方がよろしいかと思います。」
「…なんで?」
「……見ての通り、左右の目の色も違って気味が悪いですし、無表情で気持ち悪いとよく言われます。そんな私と一緒にいてはライリー様にもいらぬ傷が付く恐れが…。」
「却下。僕、そういうのどうでもいいんだよね。それに僕は別に目の色が違かろうが無表情だろうが何にも思わないし。」
「…………。」
「……この後アイツに何かされたりする可能性は?」
「…直接はないかと思います。」
直接は、ね。じゃあ間接的にはあるってことか。
まぁそうだろうな。こんな婚約破棄宣言されて、家からも何か言われるだろうし問題しかないよな。
「誰かお前の味方は?」
「……おりません。」
いないのかよ。こいつはずっと1人だったってこと?
「じゃあとりあえずは僕と友達になろう。いいよね?」
「……ですが。」
「いいよね?はい決定。じゃこれからよろしく。」
こんな感じでヴィンセントと僕の関係は始まった。
…これが今後、大きく変わるなんてその時は思いもしなかった。
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