【完結】平民として慎ましやかに生きようとするあいつと僕の関係。〜平民シリーズ③ライリー編〜

華抹茶

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3 ヴィンセントside

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私はトルバート侯爵家の長男、ヴィンセント。長男とは言うが家を継ぐ予定はない。次男のチェットが家を継ぐ事になっている。

私は左右の目の色が違う事で家族からも『気味が悪い』『不吉だ』と言われてきた。

私も学園に来ていろんな人を見たけど、目の色が違う人なんて誰一人として見ていない。だから本当に私は不気味なんだろう。

父からは「笑うな。その顔で笑われると気味悪さに拍車がかかる。」と言われ、その通りにしてきたことで感情のない顔になった。
でもそのお陰か、父からはそれについて何か言われることは無くなった。


学園に来るまではほとんど家から出ることは無かった。違うな、出してもらえなかった、が正しいのかも。外に出る事に興味は無かったから不便は無かったけど。

一応家庭教師の先生が居てくださったからある程度の勉強はさせて貰えた。母曰く、「何も出来ないのは家にとって恥となるから仕方なく。」だそうだ。

文字を覚え、最低限の教育が終わったら家庭教師の先生はいなくなった。その時の私は確か6歳くらいだっただろうか。それからは家にある本を読んで過ごすだけになった。

ほとんど誰とも関わる事もなく時間は沢山あったから、家にある沢山の本を全て読んでしまっていた。それで勉強は出来たから家庭教師の先生が居なくてもなんとかなるんだな、と思った。

家の人達は使用人を含め、気味の悪い私と関わろうとはしなかった。食事は常に自分の部屋で一人で取っていた。産まれてから自分の記憶のある中で、家族と食事をした覚えは殆どない。

使用人が私の部屋に食事を持ってくるが、忘れていたのか分からないけれどしばらく食事ができない事もあった。だからなのか食べられる量は少ないんだと思う。

『なぜお前を産んでしまったんだ。お前のような目の色が違う人間など不吉だ。家に不幸を呼び込むお前を、なぜ…。お前など産まなければ良かった!』

母にそう言われた事がある。私は生きていてはいけない人間なんだと理解したのと同時に、ではなぜ殺さないのだろうかと不思議だった。

いや、1度死にかけたことはあったか。母が1度泣きながら硬い棒を持って私を何度も叩いた事がある。

『お前がいるせいで!2人目が出来ない!お前のせいだ!お前の!早く後継を作らなければならないのに!お前がいるから!家に不幸が撒き散らされる!お前なんか!お前なんかぁっ!』

あの時は痛みと熱さでよく覚えていないけど、助けてもらえたようで私は今も生きている。


それから母は私と会う事も話す事もなく、伝える事がある時は使用人が代わりに伝えてきた。

もう16になろうかと言う時、貴族学園に入るように言われた。合格すれば通わせてやる。落ちたらそのまま何処かへ行け、と。

私はどちらでも良かったが、とりあえず試験を受けなければならず試験を受けた。内容は簡単で全て答える事が出来た。すると結果は首席合格。凄い事なのかもよく分からないけど、良かったらしい。


私が首席合格となった事で、ウェインライト公爵家から私に婚約の打診がきた。
ウェインライト家はとにかく優秀な人間を迎える事が第一らしく、私の成績だけで婚約を申し込んできた。

「お前でも役に立てる事があった。相手はあのウェインライト公爵家だ。嫌われることのないよう言われたことはなんでも従え。お前の意思など無いのだから。くれぐれも機嫌を損ねることのないように。」


母からの言いつけで、学園に入ってからは婚約者に従った。嫌われることのないようなんでもした。だが。

「目の色が違うなんて聞いていないっ!何を考えているかもわからないその顔を見せるなっ!気持ちが悪いっ!何処かへ行けっ!」

そう言われてしまった。このままでは母の言いつけを守る事が出来ない。そう思って悩んでいた時だ。

「もう無理だ!ヴィンセント・トルバート!お前との婚約を破棄する!!」

婚約者にそう言われてしまった。ああ、私は言いつけを守れなかった。そう思った時だ。

「じゃあ僕が彼を貰っても問題ない、ですよね?」

綺麗な紫の目の、精悍な男性がそう言った。


ライリー・フィンバー様。『ドラゴン討伐の英雄』となった騎士科の首席合格者。世間に疎い私でもライリー様の事は知っていた。それくらい彼はこの学園で知らない者は居ない有名な方だった。

そんな方が私の手を取り一緒に食事をしようと言う。

なぜ。私は誰とも関わってはいけないはず。不幸を撒き散らしてしまう。早く離れなければいけないのに。

心ではそう思っていたけど、ライリー様の手の温もりを感じて動けなくなった。


「なぁ、あんな事言われて悔しくないの?」

「…悔しくはありません。その通りですから。」


『悔しい』とはどの様な感情なのでしょう。


「ムカついたりとか、悲しいとかは?」

「…それも特にありません。」


『ムカつく』や『悲しい』もよくわかりません。


「自分はそれでいいわけ?」

「…はい。私の意思はないも同然ですから。」


私に意思は必要ない。持ってはいけない物だから。


「…ライリー様。助けていただいてありがとうございました。ですがもう私とは関わらない方がよろしいかと思います。」


私と居ることは貴方にとって不幸にしかなりません。


「…なんで?」

「……見ての通り、左右の目の色も違って気味が悪いですし、無表情で気持ち悪いとよく言われます。そんな私と一緒にいてはライリー様にもいらぬ傷が付く恐れが…。」

「却下。僕、そういうのどうでもいいんだよね。それに僕は別に目の色が違かろうが無表情だろうが何にも思わないし。」

「…………。」


初めてだ。私の目も顔も何も思わないなんて。


「……この後アイツに何かされたりする可能性は?」

「…直接はないかと思います。」

「誰かお前の味方は?」

「……おりません。」


私はずっと1人です。


「じゃあとりあえずは僕と友達になろう。いいよね?」

「……ですが。」


私と関わってはいけません。私とは違い、誰もが憧れる貴方が。


「いいよね?はい決定。じゃこれからよろしく。」


でもライリー様は私と友達になる事を決められた。私は従わなければならない。私の意思など関係ないのだから。


それから午後の授業の為にと教室へ戻る。今日の私を見る目がいつもと違った。
婚約破棄を言い渡された事が広まった様で、ヒソヒソとその事について話している様だ。

遠巻きにされる事も慣れているし、暴言を吐かれる事も慣れている。でも私の存在が周りにとって良くないならば何処かへ消えた方がいいのだろう。

でも勝手にそんな事をすれば父や母が怒るだろう。……いや、もしかしたら喜ばれるかもしれない。でも私にはそれを決める事など出来はしない。



「あ、ヴィンセント!」

「…ライリー様?」


午後の授業が終わり、教室を出た時にライリー様に声をかけられた。

騎士棟と文官棟はかなり離れているから、わざわざ私に会いに来たことになる。


「ヴィンセントって通い?それとも寮住まい?」

「寮です。」

「じゃあ一緒に帰ろう。」


え?一緒に帰る?なぜ?


「? どうした?」

「…私を迎えに来たのですか?」

「そうだけど?友達になったから別にいいでしょ?」

友達とはそういうものなのですか?
ライリー様がいらしたのと私に声をかけた事で周りの目が集まっている。

このままではライリー様がおかしな目で見られてしまう。

「…ありがとうございます。ですが、私と一緒にいるのは…。」

「はいはいはい。その話はいいから。僕には傷がつこうがつかなかろうが関係ないから。…行くよ。」


なぜ私をそんなに気にされるのですか?私は1人で大丈夫ですし、今までもずっと1人でした。


…でもなんだろう、この気持ちは。あまり感じたことのない『何か』が胸の奥で燻っている。



「ここが僕の部屋。いつでも遊びに来ていいよ。で、ヴィンセントの部屋は?」

「……1番上の階の平民部屋です。」


嘘だろ…。上級貴族なのになぜ平民部屋?とライリー様が不思議に思われている。

父と母がこの貴族学園に私を入れたのは、早く家から追い出したかったからだ。

学費や寮費はそれなりの金額がかかる。でも私にそこまでお金をかける事はしたくない。家の恥とされる私には平民部屋で十分だと、そう決められこの部屋となった。

私は別に不満はない。それどころか、誰にも関わらず部屋に1人でいられるのはとても楽だ。


「それは……。私が侯爵家の人間として相応しくないからです。」

「なんで…って聞いてもいい?」

「…………。」

家の事を何でも話してしまうのは良くないだろう。黙っていたら追及されることはなかった。


「じゃ。とりあえずご飯、いこ。」


またライリー様に連れられて食堂へ来た。するとライリー様を慕う3人が同席したいと申し出てきた。

「僕はいいけど…。ヴィンセントは?いい?」

ライリー様は私に意見を求められた。こんな事は初めてだ。

「…私は大丈夫なのですが。他の方がお嫌でしたら私は別の席に…。」

私は誰がいてもいなくても別にいいけど、他の方が不快になるならば席を外れた方がいい。そう思ったのだけど。


「はい却下。お前達もヴィンセントがいても別にいいよな?…嫌なら他へ行ってよ。」

「い、嫌だなんて!そんな事はありません!是非ご一緒させて下さい!」

私の意見は流された。なぜ。私は一緒にいていい人間ではないのに。


同席された3人はちらちらと私の顔を見ている。その目は明らかに邪魔だと言っていた。申し訳なさが募る。


「それにしても、お昼の時のライリー様はカッコよかったです!さすがライリー様!」


他の方々がお話しされているのをただ聞いて、もくもくと食事を取る。私の存在はここにはない。気配を消さなければ。


「あれ?ヴィンセントもう食べないの?」


なのにライリー様は私を気にしてくださる。気にされる様な人間ではないのに。なぜ…。


「あまり多くは食べられなくて。もうお腹がいっぱいです。」

「…もう少し食べた方が良いんじゃないのか?」

「残すのは申し訳ないのですが、これ以上はもう入りません。…これでも少し食べられる量は増えたのですよ。」


学園に来てからは毎日食事が取れるおかげで、以前よりも食べられる量が増えた。でも皆様の様に全て食べる事は未だに難しい。

料理を残すのは、作ってくださっている料理人の方には本当に申し訳ない。いつか全部食べられる様になれるだろうか。


食事が終わると同席された3人の方はライリー様と一緒に居たくて部屋へ来る様お誘いしている。私は1人部屋へ戻ろうとしたら、ライリー様はその誘いを断り私と部屋へと戻られた。


ライリー様の部屋近くまで来ると、

「ヴィンセント、何かあったら絶対僕に言って。」

こう言われた。なぜ。…私には分からない。

「…それは命令、ですか?」

命令ならばわかる。

「違う。友達としてのお願い。」

「友達…。」

友達としてのお願い。…それはどういう意味なのでしょうか。

「…申し訳ありませんが、友達が出来たことがなくてよくわからないのです。」

分からないので正直にそう答えた。それを聞いたライリー様は少し呆れた様な驚かれた顔をされた。

「…じゃあこれから何かあったら僕に言うこと。相談する事。わかった?あと、食事はこれから毎日一緒に取るから。」

「……はい。わかりました。」


何故かは分からないけど、そう言われたら私には従うしか方法はない。


そしてライリー様と別れ自分の部屋へと戻った。

椅子に腰掛け今日の事を振り返る。



何故ライリー様は私の事を気にされるのだろう。こんな風に誰かに気にされた事なんて今までにないからわからない。


でも私の心には『何か』が確かに存在している。これはおそらく感情だろう。でも何の感情なのかわからない。

でも気持ちの良いものだと言う事は感じられる。


そしてライリー様の持つ魔力。とてもだった。

太陽の様な明るい魔力。この学園でいろんな人を見てきたけど、ライリー様が1番綺麗な魔力をされている。

ライリー様はとても不思議な方だ。


そんな方と私が『友達』。これで良いのだろうか…。私の存在など、人にとって不快でしかないのに。
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