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14 ヴィンセントside
しおりを挟むギルドで働き始めてから2ヶ月程で、全ての仕事を覚えた私はますます働く事が楽しくなった。
周りの人達も良い方が多くてとても楽しい。ここに来る前の私には信じられない事だ。
冒険者の方達とも仲良くなれ、厄介な事に巻き込まれそうになった時は守ってくださる。
そんなある時から、魔力の色が悪い方が数人ギルドに毎日出入りする様になっていた。
私も対応する事があったけど、そこでは特に何かある訳ではなく普通の冒険者と同じだった。
常に笑顔で接してはいるけれど、なんとなく目の奥が笑っていない様な、値踏みされている様な感じがした。
「ヴィンセント君、今日はもう上がっていいよー。お疲れ様ー!」
「はい。お疲れ様でした。……ライリーさんお待たせしました。」
「ヴィンお疲れ様。相変わらず凄い人気だな。」
「なんていうか…。信じられません。」
「それがヴィンの元々の魅力だったんだ。今まで誰も気づかなかっただけ。…じゃ帰ろ。」
ライリーさんは、ギルドで低ランクの冒険者への指導をする様になった。だから帰りはいつも一緒だ。
私はこの時間が特に楽しい。ギルドの皆さんと話すことももちろん楽しいけど、ライリーさんと話したり一緒にいる事が特に楽しいと感じる事に気がついた。
心の中にある『何か』が何なのかはまだわからないけど、ぽかぽかととても暖かくて、たまにきゅっと苦しくなる。でも悪い感じは全くしない。
早くこの答えが見つかるといい。
家に着くとライリーさんのお兄様が旦那様と一緒に帰ってこられていた。
魔道具で剣に魔法を乗せるという、凄いものを開発したと。
見せてもらったが本当に凄かった。こんな事が出来るなんて。それを作られたアシェル様がとてつもない天才なんだと驚いた。
「アシェル様は素晴らしいですね。流石は『ドラゴン討伐の英雄』と言ったところでしょうか。……あれ?」
「? どうしたヴィン?」
やっぱり間違いじゃない。アシェル様のお腹の中に、誰とも被らないもう一つの魔力が視える。これはもしかして…。
言っても良いのだろうか。どうしよう。でも…。
「あの…もしかしたら違うかも知れないのですが…。でも…いや…。」
「? どうしたんだよ、とりあえず言ってみたら?」
「……あの。もしかしてアシェル様は、妊娠、されてませんか?」
「「「「「えぇ!?」」」」」
「な、なんでそんなことわかるんだよ!?」
「いえ、あのっ!アシェル様のお腹の中に、本当に小さいのですが誰とも被らない魔力があって…。」
「はぁ!? ちょちょちょ、もうちょっと詳しく話して!」
私が妊娠の可能性を伝えると、一気に騒がしくなった。それで私は人の魔力が視える事を初めて話した。
気味が悪いと嫌われるだろうか。不安だったけど、皆さんはそんな事は全くなくむしろ凄いと言ってくださった。
エレンさんは先生を呼びに家を飛び出され、アーネスト様とライアスさんはアシェル様を横にさせようとわたわたとされ、ライリーさんは呆然としておられた。
特にライリーさんはショックだったのか、
「…兄ちゃんが妊娠…。嘘だろ…ていうことはアーネストと…嘘だろ…。わかっていたけど…そんな…。」
とぶつぶつ仰っていた。大丈夫だろうか。
エレンさんが連れてこられた先生に診てもらうと妊娠している事が確認できた。
「いやぁこれは凄い。本当に初期の初期で、まだ体にはなんの変化もない状態で妊娠がわかるとは…。」
アシェル様達は驚かれていたけど本当に嬉しそうにされていて私もなんだか嬉しくなった。
そして、私のこの目の事を『魔眼』という事になった。特別な目だと。気味が悪いのではなく、特別な目だと言ってもらえた。
「魔眼…。私の目は特別な魔眼。ありがとうございます。エレンさん。」
気味が悪いと言われなかった事で安心した私は大変な事をしてしまった。
「それと私もまだ一つ不思議な事が残っていて…。エレンさんの中にライアスさんの魔力が混じっているのですが、これはどういう事なんでしょうか。」
「「「え。」」」
そう言うと皆さん固まってしまって、エレンさんは見る見るうちに顔が赤くなってしまわれた。
「ヴィンセントっ!それは絶対誰にも言うなよ!いいな!」
そう言うと部屋へと隠れてしまわれた。
「え?私は何か悪いことをしてしまったのでしょうか?」
「…あー、うん。とりあえず僕の部屋行こ。説明するから。」
気まずそうにするライリーさんに連れられて部屋へと入る。
それはなんと閨事の事だった。体内に精子を注がれると精子の魔力が体内に残る。そう言う事だった。
「なんて事を…。」
私はなんて事を言ってしまったんだ。ちょっと考えればわかる事なのに。なぜその事に気が付かなかったんだ。
「…エレンさんに謝らなければ。」
最悪だ。なんて失礼な事を…。真っ赤になったエレンさんはどれだけ恥ずかしかっただろうか。
「でもヴィンておっちょこちょいなのか?ちょっと考えたらわかりそうなものだけど…。」
「…自分でも驚いています。なぜ思いつかなかったのでしょうか。」
「閨事を知らないわけじゃ、ないんだよな?」
「…そうですね、本で読みましたので知ってはいます。自分には関係ない事だと思って、今まで忘れていました。」
いろんな本を読んだお陰で、そう言った事も知ってはいる。
でも人から嫌われていた私には関係ない事だと思っていた。私に触れる事なんてしたくないだろうと。
「……興味、ある?自分に関係あるってなったら、興味、ある?」
え?興味?
ライリーさんの顔がとても真剣で、初めて見る顔で、そんな顔で私に近づいてくる。
目が離せなくて、心臓がどきどきとうるさくなり出した。
「あ……。」
何も言えなくて動けなくて目が離せなくて。顔を寄せてくるライリーさんにどきどきして。
唇が触れてしまう。そう思った矢先、ふいっと方向を変えて頬にちゅっと温かいものが触れた。
「あ……。」
「…親愛のキス。ヴィンは大切な人だから。…もう戻ろう。」
え。キス、された?私に?ライリーさんが?
『親愛のキス』『大切な人だから』
ライリーさんは私をそう思ってくださっていた?
え、え、え。 私はどうしたらいいのでしょう。
顔が熱い…。心臓が煩い。胸が苦しい。でも嬉しい。
人から嫌われていた私なのに、ライリーさんは『大切な人』だと言ってくれた。キスをくれた。
私は?ライリーさんは大切な人?
もちろんそうだ。1人だった私を、こんなに素晴らしい世界に連れ出してくれた。たくさんの感情を教えてくれた。私を変えてくれた人。
だったら私もライリーさんに『親愛のキス』を贈りたい。
そっと部屋を出ると、ライリーさんは1人でリビングにいらっしゃった。アシェル様達は帰られたのかそこにはいらっしゃらなかった。
「…ライリーさん。あの…。」
ちゃんと伝えよう。私もライリーさんが大切な人なんだと。
「あの…私がこう思うのは烏滸がましいのかも知れませんが、その…私もライリーさんが『大切な人』です。」
「え?」
だから私からも『親愛のキス』を。恥ずかしさを堪えてちゅっと頬にキスをした。
「その…『親愛のキス』、なんですよね?ですので、お返しを…その、した方がいいのかと…。」
私がそう言うと、いきなり頭をテーブルに打ち付けて突っ伏してしまった。
「ライリーさん!? 大丈夫ですか!? 凄い音がしましたけど!?」
え!? いきなりどうしたんですか!? その音、絶対痛い音ですよね!?
どうしよう。また私はしてはいけない事をしてしまったのだろうか。
「ぐぅっ…!」と苦しそうな呻き声まで聞こえてしまった。ああ、ごめんなさい。私はなんて事を…。
「…あれ。アシェル達は帰ったのか。」
わたわたしていたらエレンさん達が戻られた。
「あ、エレンさん!先程は大変申し訳ございませんでした!」
「ああ…大丈夫。ごめんな。うん、もう大丈夫だから。」
もう2度とこんなことは致しません。本当に申し訳ありませんでした。
そして夕食時、ライアスさんから魔眼の事を人に話さない様気をつける様に言われた。
「ヴィンはこれから1人で外に出るのはやめた方がいい。絶対誰かと一緒にいる事。わかった?」
「はい。」
私にはよく分からないけど、何か危険な事が起こるかもしれないと言われた。
私は戦う事が出来ない。無力だ。皆さんに迷惑をかけない様気をつけなければ。
それから数日後、ライリーさん達は魔物討伐に出かけられた。3日ほど街を離れるそうだ。
その間私を1人にしないようにギルドマスターの家でお世話になる事になった。
私も戦えたらご迷惑をお掛けしないで済んだのに。
「皆さんお気をつけて。お戻りをお待ちしております。」
手を振って皆さんを見送った。
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