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6 ゼフィロside
しおりを挟む私はゼフィロ・オルブライト。人々の希望となる【勇者】のスキルを発現した。
15歳の時、成人の儀で明らかとなり私は望まぬスキルを手に入れてしまった。その時は「どうして私が…」と絶望した。
勇者になるということは、魔王討伐に赴かなければならないことがわかっていたから。
魔王が復活して20年。今まで何人もの騎士や神官たちが魔王討伐に向かったが誰1人として帰ってくるものはいなかった。
文献には『魔王が誕生する時、勇者のスキルを持つ者が現れる。その者がこそが魔王を討伐できる唯一の希望』と書かれている。この20年の間、【勇者】のスキルを発現した者がいなかったが、ただスキルの発現を待つだけという訳にはいかず数多の猛者たちが討伐に向かったのだ。
魔王は必ず復活する。それがいつになるかはわからないが、ずっと昔から『魔王』と『勇者』は繰り返し誕生し続けてきたのだ。
中には勇者が敗れることもあり、混沌の時代を迎えた時もあったという。勇者だからといって必ず勝てるわけではないということだ。
成人の儀の後、両親に「スキルはなんだった?」と聞かれれば応えないわけにはいかず、嘘をつく勇気もなく正直に【勇者】のスキルが発現したことを話した。
それを聞いた父は嘆き、母は泣いた。2人の兄もショックを受け、しばらく我が家はまるで葬式を行っているかのようだった。
母は現国王の妹で、父は宰相。公爵家の3男である私は、偽りのスキルを報告するわけにはいかず国へ報告することとなった。
国へ報告したその時の反応は、我が家とは正反対で皆興奮し大いに盛り上がったものだ。伯父である国王陛下だけは「お前に重荷を背負わせることを許して欲しい」と言われたが。
それからの日々はまさに地獄だった。護身術程度の剣術しか嗜んでいなかったのに、本格的な訓練が始まった。それと同時に体術に魔法の訓練も同時に行うことになった。
とにかく時間がないのだ。無理やりに詰め込むだけ詰め込み、私は訓練に明け暮れる毎日だった。
1年目はまだいい。2年、3年と時間が経つにつれ、焦れた周りが私を早く『勇者』として完成させるよう通告されるようになった。
その時は「何を自分勝手なことを」と思いかなり憤慨した。家族も皆同様で、私は一瞬勇者なんてならずに逃げ出そうかとも考えたほどだ。もしかしたら過去、魔王に敗北した勇者は周りから焦らされ開花しきれないまま討伐に向かったのかもしれない。
だがそういう訳にもいかず、俺はまさに血反吐を吐きながら毎日体に鞭を打って訓練していった。
そして5年の歳月がかかりようやく『勇者』として開花でき、騎士のセルジオ、大聖女のソニア、魔導師のギルエルミと共に勇者討伐へと出発することになった。
その時の周りの反応は「ようやくか。何としても討伐を成功させてこい。出来るまで帰ってくるな」という感じだった。もちろん直接そう言われたわけではないが、噂というものは嫌でも耳に入ってくる。
だから私は絶対に魔王討伐を成功させ、成功した暁にはこの王都を出て自由気ままに生きることを誓った。
もし私が魔王討伐に成功したら、王都に戻れば囲われることは間違いない。どこぞの令嬢を宛がわれ無理やり結婚、なんてことも十分に考えられる。実際既にいろいろなところからの婚約の打診が送られてきていると聞いた。
両親や兄達は私に協力的だし、恐らくそういったことからも私を守ってくれるとは思うが、他国の姫君を、と言われれば断ることは難しくなるだろう。そうなれば政略的な駒として、私は一生使われるのだ。命を懸けて魔王討伐させられた挙句、最後はただの駒。
【勇者】のスキルを発現したばっかりに、私は国の傀儡となることが決まったも同然だった。
私がどんな思いで訓練に明け暮れ、【勇者】のスキルを開花させたかもわからず、自分勝手な事ばかりを言う人間。そんな奴らの思う壺になんて絶対にならない。
そんな思いを胸に、家族と別れ魔王討伐の旅へと向かった。
荷物は見た目以上にたくさんの物を入れられるマジックバックに入れているため、移動はほぼ馬。途中町や村に立ち寄り物資の補給をする。そして強い魔獣がいる場合は討伐も請け負いながら魔王が住む暗雲立ち込めるあの場所へと向かっていった。
町や村へ立ち寄れば「勇者様! 頑張ってください!」とか「魔王を倒してこの世に平和を!」と口々に言われる。人々の期待がそれだけ大きい事は分かっていたが、そう言われれば言われるほど見えないプレッシャーが伸し掛かってくる。
「ゼフィロ、周りなんて見るな。自分のやりたいようにやればいいからな。気負い過ぎるなよ」
そう助言してくれたのは最年長のセルジオだった。騎士団長という、王国騎士団のトップを長年務めてきた彼の言葉は俺の救いとなった。
「ゼフィロ様。わたくし達は仲間です。あなたの絶対的な味方です。何かあればわたくし達を頼ってくださいませ」
そう優しく言葉をかけてくれたのは大聖女のソニア。若くして大聖女の任に付いた彼女の言葉も心に染みた。
「ま、ダメだったらダメだった時だし。その時は残された人間がどうにかすればいいんだ。僕たちだけに責任を押し付けるなんておかしいからな」
そう言ってくれたのは天才魔導師のギルエルミ。責任背負わされるのなんてまっぴらごめんだから、と魔導師団の団長の席を蹴った男。彼の言葉も俺の肩から重荷を取り払ってくれた。
私の立場を理解し、助け、共に手を取り合ってくれる仲間。このメンバーだからこそ、私は魔王討伐に向かう事を本当の意味で決意できたのだ。
仲間たちを死なせたくない。だから何としても討伐を成功させなければ。
プレッシャーに押しつぶされそうな時は仲間を頼り、魔王の元へと馬を走らせた。
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