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35 ゼフィロside

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「ん…朝…」

 日差しを感じて目が覚める。腕の中には愛しい人。未だぐっすりと眠っていて起きる気配はなさそうだ。

 昨日はかなり無理をさせた自覚はある。リコを何度も突き上げて吐精させて、何も出なくなっても繰り返し突き上げた。

 昨夜のリコは堪らなく可愛かった。最初に私のモノを口に頬張って、頬を染めて潤んだ瞳で見つめられた時、これはダメだ、と思ったのだ。もう止められない、と。

 お互いの気持ちを確かめ合って、初めてリコから好きだと言われて舞い上がった自覚はある。その上、リコからあんな風に積極的に迫られたら理性の糸は簡単にぶち切れるなんて当たり前だ。

 今まで我慢していたこともあって、昨夜はタガが外れてしまった。好きだという気持ちが止まらなくなって、その思いのまま暴走してしまった。

『さっきのゼフィ様も、カッコよかったので…』

 激しい交わりのあとに、ふにゃりとした顔でそんなことを言われたらもうどうにもできなくなった。あれはリコが悪い。リコが可愛すぎるのがいけない。

『もう…むりぃ……あん…あぁ……あ、もう、激し、すぎぃ…っ』

 涙を流しながら、そう口にするリコ。はぁ…思い出しただけで股間に来る…。だがもう、今日はそっとしておいてあげよう。これ以上はリコが壊れてしまう。それほどまでに激しく交わったのだから。

 今までにないほど、満たされた気持ちになっている。もちろんリコがそこにいるだけで、十分幸せだし楽しいのだが、気持ちを通わせた昨夜は今まで以上の幸福感だった。
 それと同時に、絶対にリコを離す物かと誓った。

 邪魔する奴がいたら……。ああ、そういえば既にいたな。迷惑な皇女が。

 さて、あいつはどうしたものか。簡単に手を引くとは考えられないが、最悪の場合は――。

「ん~……ゼ……さ……」

 リコが起きたのだろうか。そう思ってしばらく待ってみたが、むにゃむにゃと口を動かしただけで起きる気配はなかった。
 このまま昼過ぎまで寝かせておくか。それくらいまで起きてこられないだろう。

 頭にちゅっとキスを落とし、1人ベッドから降りる。身支度を整えてリビングへ行き茶を淹れた。

「はぁ…やっぱりリコが淹れてくれた方が美味しいな」

 返す言葉がないのに、そう独り言ちた。すると外に人の気配がした。セルジオ達だろう。そろそろ来る頃かと思っていたからちょうどいい。
 扉をノックされる前に鍵を開け扉を開けた。

「お。ノックする前に開いちゃった。おはよ、ゼフィロ」

「ああ、おはよう」

 予想通り、セルジオ達だった。口々に朝の挨拶をしながら中へと入ってくる。

「あら? ウルリコさんはどうしたのですか?」

「リコならまだ眠ってる。恐らく昼頃まで起きてこないだろう」

「え…なんで?」

「抱き潰した」

「「は…?」」

 ギルエルミとソニアの声が被る。仲が良いな。婚約した理由が理由だったが、なんだかんだ言ってもお似合いの二人だろう。

「ソニア、礼を言う。お陰でお互いのわだかまりが解けた」

「…ああ、いえ。それなら良かったのですけど…。ウルリコさんは大丈夫なのですか?」

「問題ない。癒しの魔法を掛けておいた」

「そうですか。まぁ、皇女の一件がありますからお互いが強い絆で結ばれてくれないと、その隙をついてややこしくなりそうなので良かったのですけど…ウルリコさんに無理をさせてしまいましたね」

 私が抱き潰す原因となったのが自分だと思っているからか、ソニアは苦笑いをしている。抱き潰した原因はどちらかというと、リコが可愛すぎたからなのだが言う必要はない。

 それからいつ頃王都へと発つのかという話になって、あまり時間がないことから2日後と決まった。リコが起きてきたらその話をしなければ。
 王都へは転移を繰り返していくことから2週間もかからずに着くだろう。王都に着いたらまずは家へと戻り、家族にリコを紹介しないと。反対されることはないだろうが、リコと共にここに住むことの了承も貰っておかないとな。

「…え? 皆さん、どうしてここに!?」

 そんなことを話していたら、リコが起きてきた。もう少し寝ているかと思ったが存外早い目覚めだな。…まだ抱き潰しても大丈夫ということか?

「おはようございます、ウルリコさん。体は大丈夫?」

「え? は、はい。大丈夫、ですが…?」

「ゼフィロは流石勇者というか、体力バカだからな。ま、今後も頑張れよ」

「へ? セルジオ様、どういう意味………あ、まさか……」

 ぎぎぎぎぎ、という音が聞こえそうな動きで私の方を見るのでそのままコクリと頷いておいた。なぜ自分が今起きたのか、その理由はもう皆にバレているとリコも気づいたのだろう。

「うわあぁぁぁぁ! ちょ、え、ま、は!?」

 真っ赤になった顔を手で覆い隠したと思ったら、奇声を上げてしゃがみ込んでしまった。ああ、もうそんなところすら可愛すぎてどうしようか。

「…ゼフィロ、ニマニマした顔、気持ち悪いから」

「ギルエルミ、失礼よ。否定はしないけど。それだけ幸せだという事でしょう」

「そうだな。ウルリコと再会した今のゼフィロは、締まりのない顔が多い」

 こいつら……。

「おぉ、怖い怖い。じゃ、また2日後に来るね」

 ぎろりと睨みつけたら、腕をさすりながら怖がる振りをしたギルエルミは立ち上がった。それを機に他のメンバーも立ち上がり、またね、と家を出ていった。

「全く……。リコ、そろそろ可愛い顔見せてくれる?」

 リコの側へ寄ってしゃがみ込み、顔を隠した手をそっと外す。「…なんでバレてるんですかぁ」と恥ずかしくて半泣きのリコ。ねぇそれわざとなの? 可愛すぎてまた押し倒して抱き潰したいんだが。

 「皆勘がいいからね」と抱き潰したことを皆に言ったことは黙っておいた。知られない方が良いこともある。

 リコの手を取って立ち上がらせ、そのまま椅子に座った私の膝の上に乗せた。「え、なんで…?」と困惑気味のリコだが、お互い気持ちが通じ合ったのだから疑問に思う事もないだろうに。そのまま腰を抱き寄せ、首元に頭を乗せた。あー、リコの匂い。落ち着く…。

「くすくす。ゼフィ様って甘えんぼですよね」

「嫌?」

「いいえ、全然」

 ゆっくりと頭を撫でる手が温かくて気持ちいい。今のこの時間が堪らなく幸せで愛おしい。
 だから、この幸せな時間をぶち壊そうとするあの皇女を何とかしなければ。

「ねぇリコ。大事な話があるんだ」

 「はい…」と撫でる手を止めて、聞く姿勢をとってくれた。一つため息を零し、口を開く。

「私は一度王都へと戻る。あの迷惑な皇女を何とかしないといけないから。だからリコには付いてきて欲しい」

「え…? 俺も一緒に?」

 「そう」と答えて、リコに預けていた頭を上げる。リコの目を見てちゃんと伝えないと。

「私はこの先、リコと過ごしていきたい。リコと一緒になりたい。だから皇女が、いや、皇女だけじゃなくてリコ以外の誰かに、何を言われても何をされても一緒になることはない。
 リコは私に子供を残せないと言っていたね。どちらかというと、私に子供は要らないんだ。というより、いない方が良い」

 え? と目をぱちぱち瞬かせるリコ。

「皇女だけじゃなくて私の血を残そうとする人は多い。だけど、それは要らぬ災いを呼ぶ。誰が私の子供を産むのか。誰が私の血を残すのか。
 そもそもスキルは遺伝しない。リコも知ってるでしょ? だから私の血を残したい云々言っているのはただの建前。私と繋がりを結び、有利に立てる地盤が欲しい。私という駒を使って権力を振りかざしたい。そういう人ばかりなんだ」

「………」

「だから私がリコと一緒になるというのは、そういった意味でも都合がいい。もちろんそれが目的じゃなくて、リコだから一緒になりたいんだ。それだけは信じて」

「はい。わかってます」

 にこりと笑って頷いてくれたリコ。この前までの不安げな、悲しい顔じゃない。私の言ったことをちゃんと信じてくれている。

「それと。リコに付いて来て欲しい理由として、ここに残していくことが不安なんだ。もしかしたら、私とリコの仲を裂こうとリコに手を出してくる奴がいるかもしれない」

「それは…考えすぎなのでは?」

 ふるふると首を振り、リコの手を握る。

「私とリコが恋人だと、この町では知れ渡っている。そしてリコの事を邪魔だと思う人間は、きっとリコに手を掛けるだろう。戦う術のないリコは最悪命を落とす危険がある。
 これは大袈裟なんかじゃなく、あの皇女以外にも私を取り込もうとしている人間なら、平気でそういう事が出来るんだ」

 びくりとリコの体が震えた。私といることで、命を狙われるなんて思いもしなかっただろう。ごめんリコ。それでも私は君を放すことは出来ない。私が側にいれば、そんな奴に手を出させることはしないが、私がいなければ悪意ある者の手によって、あっという間にリコは儚くなってしまうだろう。

「私の側にいれば、そんな事は絶対にさせないし守ることが出来る。だから一緒に付いて来てほしい。ついでに私の家族も紹介するよ。命の恩人であるリコに会いたいと言っていたしね」

「ひえっ! 辺境のただの薬師が、ゼフィ様のご家族に会う!? ダ、ダメですよ! 俺、マナーとかそんなの全然わかりませんし!」

「くすくす。そんなもの別にどうでもいいよ。そんなことで咎める様な人たちじゃないから、リコはリコらしくそのままでいてくれればいい」

 「そんな事言われても…」とふにゃりと眉を下げたリコが可愛すぎる。我慢出来なくて、ちゅっちゅっと軽く口づけた。

「だから一緒に来てくれる? あの皇女は本当に話が通じなくて面倒な相手なんだ。だけど私はリコが居てくれれば何でも出来る。だから側で見守っていて欲しい」

「…わかりました。ゼフィ様の側にいる方が安全ですし、何も出来ないですけど寄り添う事は出来るので。連れて行ってください」

「ありがとう、リコ。愛してる」

 私がそう言ってリコを抱きしめれば、リコも抱きしめ返してくれる。

『何も出来ないですけど寄り添う事は出来るので』

 リコにそうされることが一番勇気が出て、安心出来て、力が湧いて来る。何も出来ないじゃない。それはリコにしか出来ない凄い事だ。リコが側に居てくれれば、それだけで何でも出来るんだよ私は。

 私たちはお互いの温もりを感じるように、強く抱きしめ合った。

「あ、そうだ。ゼフィ様、聞いて欲しい話があるんです」

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