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1章:安藤日和(クラスの友達を一人作れ)
彼女の存在
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自分の教室まで向かっていく途中、廊下には妙な騒めきがあった。
授業後なのだから当たり前。そう思えないのは、話している彼らの視線の先が同じだからだろう。
「すみません、お待たせしました」
僕は息を整えながら自分の教室近くで待っていた日和先輩に声をかけた。流石に寝起きすぐの全力ダッシュは体力への負荷が凄まじい。
「うんうん。こっちこそごめんね。体調悪いのに、変な気を遣わせちゃって」
日和先輩はそう言って両手を合わせた。
約束を破ったのはこちら側なのに。彼女の懐の深さに感心する。それとも、二度も浮気疑惑を持たれたため、こんなことでは怒れなくなってしまったのだろうか。
「あいつが彼氏か?」「釣り合わねー」「羨ましいな」
二人で話していると、近くで男子生徒の小声が聞こえてくる。彼らの視線の先は相変わらず日和先輩だった。
仕方がない。今日の日和先輩はいつもと違うのだ。
おさげがみをストレートにしているのは先週と変わらない。それにプラスして赤縁の眼鏡を外している。
校則によって禁止されているため、メイクは施されていないが、それ以外は休日の時に見せてくれた彼女の姿だった。溢れんばかりの素材の良質さが、多くの一年生男子を魅了させている。
「ひとまず移動しましょうか?」
「そうだね」
日和先輩は僕の提案に了承すると、不意に手を繋いできた。
戸惑う僕をよそにひとり歩き始める。引っ張られた僕はされるがままに彼女についていった。
男子の嫉妬の視線、女子の好奇の視線が背中に突き刺さる。なんだかレーザーを当てられたような恐怖心を抱かせた。
階段を降り、今にやってきたところで彼女は手を離した。互いに下駄箱の場所は異なるので、靴を履き替えてから再び落ち合う。それからバス停まで歩いていく。
「どうして急に手なんか繋いだんですか?」
「体調悪いって聞いたから、身体を貸してあげたほうがいいかなと思って」
「寝て治ったので大丈夫ですよ」
「もしかして嫌だった?」
「嫌ではないのですが……ちょっと恥ずかしかったです……」
「そ、そうだよね。ごめん」
「いえ別に。嬉しくはあったので」
流石に彼女の顔を直視して言うことはできなかった。
視線を外したところで「そっか。良かった」と日和先輩が声を漏らす。彼女の声を聞いた瞬間、僕は無意識に再び彼女の手を握りしめていた。
「えっと……いいの?」
「平気です。もっと辱めてもらいたくなりました」
「その言い方は流石にどうかと思うけど」
僕が心を開いたことを好機と捉えたのか、日和先輩は今一度ぎゅっと握りしめる。微弱な握力。そこに愛おしさを感じる。手にかかった力は軽いが、胸にかかった力は重かった。
「さっき教室で声をかけたら、文也くんのこと『誰それ?』って言われちゃった」
「嫌な報告をしないでくださいよ」
「ごめんごめん。言ったとおりクラスには馴染めてないみたいだね」
「それでよく保健室って分かりましたね?」
「廊下側にいた可愛い女の子が『亡霊くんなら保健室にいますよ』って教えてくれたんだ。どうして亡霊くんって呼ばれてるの? それに、あんな可愛い子にだけニックネームで呼ばれているのも気になる」
「色々事情がありまして……」
「ふーん、クラスの子にも手を出してたりしないよね?」
「それはありませんので安心してください。あと、天音さんにも姉さんにも手は出してませんから」
「冗談冗談。じゃあ、なんで亡霊くんって呼ばれているか当てていい? 正解したらアイス奢りね」
「不正解だったら?」
「何もなし。難題だからね」
だよな。何もしてないのに、アイスを奢ってもらうのも気が引けるし。
他愛もない心地のいい会話をしていると、バス停にバスがやって来る。日和さんは座りながら窓を向いて考えに耽っていた。
「あ、もしかしてクラスに馴染めなさすぎて幽霊のように思われているとか?」
「だいぶ嫌味ですね」
「だよね。そんな由来だったら怒っちゃうところだよ。『文也くんになんてあだ名をつけるんだ!』ってね」
「日和先輩は怒っても可愛いで終わってしまいそうですね」
「えー、そんなことないと思うけどな」
僕の返しを不満に思ったのか頬を膨らます。どうやら、本当に怒っているみたいだった。
「それで、今日行く場所はどうします?」
慌てて話題を変える。
日和先輩はふっくらした頬を解き、笑みを浮かべた。
「今日行く場所ならもう決まってるんだ」
そのタイミングでバスが駅に到着し、僕らは下車する。
「どこですか?」
「この前、文也くんのお家に行ったから、今日は私のお家に行こう!」
「日和先輩の家……ですか……」
まさかの行き先に緊張が走る。
親にあったらどのように挨拶すればいいだろうか。日和先輩の部屋はどんな感じなのだろうか。部屋でどんな事をすればいいのか。
「嫌かな?」
「いえ。むしろ有難いくらいです」
不安が募るとともに楽しさもまた募っていたのは事実だ。
そういえば、日和先輩の趣味とかあまり把握していないな。部屋というのはその人自身を表す。この機会に彼女の好きなものを知っておくのも悪くない。
とりあえず、ホラーな空間ではないことだけは祈っておこう。
「有難いって大袈裟だな。でも、それなら良かった。楽しみだなー」
日和先輩は僕の顔を見てはにかむ。
彼女の感情を表すように、ホームから電車が来るのを知らせる陽気な音楽が流れた。
授業後なのだから当たり前。そう思えないのは、話している彼らの視線の先が同じだからだろう。
「すみません、お待たせしました」
僕は息を整えながら自分の教室近くで待っていた日和先輩に声をかけた。流石に寝起きすぐの全力ダッシュは体力への負荷が凄まじい。
「うんうん。こっちこそごめんね。体調悪いのに、変な気を遣わせちゃって」
日和先輩はそう言って両手を合わせた。
約束を破ったのはこちら側なのに。彼女の懐の深さに感心する。それとも、二度も浮気疑惑を持たれたため、こんなことでは怒れなくなってしまったのだろうか。
「あいつが彼氏か?」「釣り合わねー」「羨ましいな」
二人で話していると、近くで男子生徒の小声が聞こえてくる。彼らの視線の先は相変わらず日和先輩だった。
仕方がない。今日の日和先輩はいつもと違うのだ。
おさげがみをストレートにしているのは先週と変わらない。それにプラスして赤縁の眼鏡を外している。
校則によって禁止されているため、メイクは施されていないが、それ以外は休日の時に見せてくれた彼女の姿だった。溢れんばかりの素材の良質さが、多くの一年生男子を魅了させている。
「ひとまず移動しましょうか?」
「そうだね」
日和先輩は僕の提案に了承すると、不意に手を繋いできた。
戸惑う僕をよそにひとり歩き始める。引っ張られた僕はされるがままに彼女についていった。
男子の嫉妬の視線、女子の好奇の視線が背中に突き刺さる。なんだかレーザーを当てられたような恐怖心を抱かせた。
階段を降り、今にやってきたところで彼女は手を離した。互いに下駄箱の場所は異なるので、靴を履き替えてから再び落ち合う。それからバス停まで歩いていく。
「どうして急に手なんか繋いだんですか?」
「体調悪いって聞いたから、身体を貸してあげたほうがいいかなと思って」
「寝て治ったので大丈夫ですよ」
「もしかして嫌だった?」
「嫌ではないのですが……ちょっと恥ずかしかったです……」
「そ、そうだよね。ごめん」
「いえ別に。嬉しくはあったので」
流石に彼女の顔を直視して言うことはできなかった。
視線を外したところで「そっか。良かった」と日和先輩が声を漏らす。彼女の声を聞いた瞬間、僕は無意識に再び彼女の手を握りしめていた。
「えっと……いいの?」
「平気です。もっと辱めてもらいたくなりました」
「その言い方は流石にどうかと思うけど」
僕が心を開いたことを好機と捉えたのか、日和先輩は今一度ぎゅっと握りしめる。微弱な握力。そこに愛おしさを感じる。手にかかった力は軽いが、胸にかかった力は重かった。
「さっき教室で声をかけたら、文也くんのこと『誰それ?』って言われちゃった」
「嫌な報告をしないでくださいよ」
「ごめんごめん。言ったとおりクラスには馴染めてないみたいだね」
「それでよく保健室って分かりましたね?」
「廊下側にいた可愛い女の子が『亡霊くんなら保健室にいますよ』って教えてくれたんだ。どうして亡霊くんって呼ばれてるの? それに、あんな可愛い子にだけニックネームで呼ばれているのも気になる」
「色々事情がありまして……」
「ふーん、クラスの子にも手を出してたりしないよね?」
「それはありませんので安心してください。あと、天音さんにも姉さんにも手は出してませんから」
「冗談冗談。じゃあ、なんで亡霊くんって呼ばれているか当てていい? 正解したらアイス奢りね」
「不正解だったら?」
「何もなし。難題だからね」
だよな。何もしてないのに、アイスを奢ってもらうのも気が引けるし。
他愛もない心地のいい会話をしていると、バス停にバスがやって来る。日和さんは座りながら窓を向いて考えに耽っていた。
「あ、もしかしてクラスに馴染めなさすぎて幽霊のように思われているとか?」
「だいぶ嫌味ですね」
「だよね。そんな由来だったら怒っちゃうところだよ。『文也くんになんてあだ名をつけるんだ!』ってね」
「日和先輩は怒っても可愛いで終わってしまいそうですね」
「えー、そんなことないと思うけどな」
僕の返しを不満に思ったのか頬を膨らます。どうやら、本当に怒っているみたいだった。
「それで、今日行く場所はどうします?」
慌てて話題を変える。
日和先輩はふっくらした頬を解き、笑みを浮かべた。
「今日行く場所ならもう決まってるんだ」
そのタイミングでバスが駅に到着し、僕らは下車する。
「どこですか?」
「この前、文也くんのお家に行ったから、今日は私のお家に行こう!」
「日和先輩の家……ですか……」
まさかの行き先に緊張が走る。
親にあったらどのように挨拶すればいいだろうか。日和先輩の部屋はどんな感じなのだろうか。部屋でどんな事をすればいいのか。
「嫌かな?」
「いえ。むしろ有難いくらいです」
不安が募るとともに楽しさもまた募っていたのは事実だ。
そういえば、日和先輩の趣味とかあまり把握していないな。部屋というのはその人自身を表す。この機会に彼女の好きなものを知っておくのも悪くない。
とりあえず、ホラーな空間ではないことだけは祈っておこう。
「有難いって大袈裟だな。でも、それなら良かった。楽しみだなー」
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