2 / 34
逃亡編
交渉条件
しおりを挟む
大通りまで引き摺られるように出ると、彼は早々にタクシーを捕まえて私はそのタクシーに押し込まれた。
目的地を麻布と告げた彼の横顔を見ながら、正直、私はどうすれば良いのか分からなくなっていた。
「あのさぁ…本当に有り得ないんだけど。」
「何がです?」
「君は私に…ひ、一目惚れとか言ったけど、ただ単に帰りたいだけのネタに…」
「してません。」
ずっと逃げないように彼の綺麗な手にフォールドされた自分の左手を救出すべく、私は何度も脱出を試みていた。
端から見たら若いイケメンに熱あげてるオバサンにしか見えないだろうと思うと、早く彼から離れたかったのだ。
が、その度にギュッと握られて、ますます逃げられなくなっていた。
「はぁ…とにかく、今日は帰らせてくれるかな?仕事がこのところ立て込んでいて、最近忙しかったから本来なら今日は帰って寝てたハズなのよ。」
「…交渉条件次第ですね。」
「交渉…条件???」
「まずは俺にプライベートの連絡先を教えてくれること。今日から2週間以内の週末に俺とデートに出掛けてくれること。そして…」
「そして…?」
「年齢度外視で俺を男として見て、交際を視野にちゃんと考えてくれること。」
(で、デート!?こ、ここここここ、交際!?)
あまりに突拍子のない彼の出した条件に、口をパクパク動かすしか出来ない。
「…拒否したら?」
私はやっとの思いで、言葉を口にした。
「今から理彩さんを持ち帰りさせて頂きます。」
「はっ???」
「心から分かって貰えないなら、俺がどれだけ本気か身体から分かって貰うしかありません。身体を重ねればわかる真心ってあるでしょ?不本意ながらセフレ関係から彼氏への昇格を目指します。」
「ぶっっっっ飛び過ぎるだろう!?君はバカなの?大体からしていつ私はセフレを欲しがった!?君みたいなイケメン、引く手数多だろうに女を卒業するまでのカウントダウンが始まってる私ごときに、下僕の様に媚びへつらう気か!?」
私の大声とあられもない内容の話に、タクシーの運転手さんが思わずビクッと肩を揺らす。
「それなら尚更です。理彩さんが女である残りの時間を全て独り占め出来るなら下僕でも本望。」
キリッと真剣な顔して良くもそんな台詞を…。
「昔なら“お褥滑り”って言って、女としてお役目御免を言い渡されてる歳の女とセックスする方がどうかと思うぞ…。」
「…やっぱり理彩さんには嘘がないですね。思った通りの人だ。見た目や香水の甘い匂いで誤魔化さない。潔くて、凛々しくて、優しい…。」
彼はこちらを向いて空いている手でスッと私の髪の撫でて、ひと房髪の毛を手に取り、そこにキスを落とした。
「本当は俺、理彩さんの下僕よりも男でいたい。今、誘惑に負けて理彩さんの唇にキスをしてしまったら下僕スタート決定だ。だから…交渉条件を受け入れてくれませんか?」
真っ直ぐで苦しそうな瞳には、懇願が浮かんでいた。
ぶっちゃけ、私には彼を誘惑した覚えは、全然、全く、更々ない。
更々ないのだが…そんな欲情を孕んだ目で見られたら、交渉条件を飲むしかない…。
こんなにまともに40女の私を女として扱ってくれる彼に、今だけでも対価は払うべきだとも思った。
本当は一瞬、このままホテルで崩れかけの40女の身体を見れば萎えるんじゃないかと思ったけど、男として勝負したいと言っている彼に対して、それはあまりに不誠実だ。
(なんかコイツ…誠実で、捨て身過ぎて、狡い…。)
「わ、私は筆無精だし、プライベートでメールをあまり返したりしない。あと…で、デートは来週は予定があるから今週しか時間がない。一応、男として君を見る努力はしてみるけど、交際の確証は出来ない。それに…君は妹分の片想いの人だ。彼女は私にとっても大切な妹分だ。易々と交際出来るようになるとは思わないで欲しい。それでも…良いのなら…。」
「交渉成立ですね。何処まで送れば良いですか?」
「そこを曲がったところにある、地下鉄の入り口前でいい。」
「…脚下。」
「え!?」
「最寄り駅まで送らせて下さい。」
「…それ私に聞いた意味ないだろう…。」
「俺がまだ理彩さんと一緒にいたいだけです。」
「何を恥ずかしげもなく…。」
「理彩さんだけです。普段の俺はこんなにがっついたりしないですから。」
メアドと電話番号の交換をして、念のためと彼は名刺も渡してきた。
最寄り駅でタクシーを降りて、駅に向かおうとしたとき、彼は私を引き留めた。
「デート、楽しみにしてますから逃げないで下さいね。」
「…分かった。」
やっと彼に解放され、彼の乗ったタクシーを見送った後、私は駅前の地面に膝から崩れ落ちへたりこんだ。
そして何がなんでも彼、“上原一哉”から逃げると心に誓った。
目的地を麻布と告げた彼の横顔を見ながら、正直、私はどうすれば良いのか分からなくなっていた。
「あのさぁ…本当に有り得ないんだけど。」
「何がです?」
「君は私に…ひ、一目惚れとか言ったけど、ただ単に帰りたいだけのネタに…」
「してません。」
ずっと逃げないように彼の綺麗な手にフォールドされた自分の左手を救出すべく、私は何度も脱出を試みていた。
端から見たら若いイケメンに熱あげてるオバサンにしか見えないだろうと思うと、早く彼から離れたかったのだ。
が、その度にギュッと握られて、ますます逃げられなくなっていた。
「はぁ…とにかく、今日は帰らせてくれるかな?仕事がこのところ立て込んでいて、最近忙しかったから本来なら今日は帰って寝てたハズなのよ。」
「…交渉条件次第ですね。」
「交渉…条件???」
「まずは俺にプライベートの連絡先を教えてくれること。今日から2週間以内の週末に俺とデートに出掛けてくれること。そして…」
「そして…?」
「年齢度外視で俺を男として見て、交際を視野にちゃんと考えてくれること。」
(で、デート!?こ、ここここここ、交際!?)
あまりに突拍子のない彼の出した条件に、口をパクパク動かすしか出来ない。
「…拒否したら?」
私はやっとの思いで、言葉を口にした。
「今から理彩さんを持ち帰りさせて頂きます。」
「はっ???」
「心から分かって貰えないなら、俺がどれだけ本気か身体から分かって貰うしかありません。身体を重ねればわかる真心ってあるでしょ?不本意ながらセフレ関係から彼氏への昇格を目指します。」
「ぶっっっっ飛び過ぎるだろう!?君はバカなの?大体からしていつ私はセフレを欲しがった!?君みたいなイケメン、引く手数多だろうに女を卒業するまでのカウントダウンが始まってる私ごときに、下僕の様に媚びへつらう気か!?」
私の大声とあられもない内容の話に、タクシーの運転手さんが思わずビクッと肩を揺らす。
「それなら尚更です。理彩さんが女である残りの時間を全て独り占め出来るなら下僕でも本望。」
キリッと真剣な顔して良くもそんな台詞を…。
「昔なら“お褥滑り”って言って、女としてお役目御免を言い渡されてる歳の女とセックスする方がどうかと思うぞ…。」
「…やっぱり理彩さんには嘘がないですね。思った通りの人だ。見た目や香水の甘い匂いで誤魔化さない。潔くて、凛々しくて、優しい…。」
彼はこちらを向いて空いている手でスッと私の髪の撫でて、ひと房髪の毛を手に取り、そこにキスを落とした。
「本当は俺、理彩さんの下僕よりも男でいたい。今、誘惑に負けて理彩さんの唇にキスをしてしまったら下僕スタート決定だ。だから…交渉条件を受け入れてくれませんか?」
真っ直ぐで苦しそうな瞳には、懇願が浮かんでいた。
ぶっちゃけ、私には彼を誘惑した覚えは、全然、全く、更々ない。
更々ないのだが…そんな欲情を孕んだ目で見られたら、交渉条件を飲むしかない…。
こんなにまともに40女の私を女として扱ってくれる彼に、今だけでも対価は払うべきだとも思った。
本当は一瞬、このままホテルで崩れかけの40女の身体を見れば萎えるんじゃないかと思ったけど、男として勝負したいと言っている彼に対して、それはあまりに不誠実だ。
(なんかコイツ…誠実で、捨て身過ぎて、狡い…。)
「わ、私は筆無精だし、プライベートでメールをあまり返したりしない。あと…で、デートは来週は予定があるから今週しか時間がない。一応、男として君を見る努力はしてみるけど、交際の確証は出来ない。それに…君は妹分の片想いの人だ。彼女は私にとっても大切な妹分だ。易々と交際出来るようになるとは思わないで欲しい。それでも…良いのなら…。」
「交渉成立ですね。何処まで送れば良いですか?」
「そこを曲がったところにある、地下鉄の入り口前でいい。」
「…脚下。」
「え!?」
「最寄り駅まで送らせて下さい。」
「…それ私に聞いた意味ないだろう…。」
「俺がまだ理彩さんと一緒にいたいだけです。」
「何を恥ずかしげもなく…。」
「理彩さんだけです。普段の俺はこんなにがっついたりしないですから。」
メアドと電話番号の交換をして、念のためと彼は名刺も渡してきた。
最寄り駅でタクシーを降りて、駅に向かおうとしたとき、彼は私を引き留めた。
「デート、楽しみにしてますから逃げないで下さいね。」
「…分かった。」
やっと彼に解放され、彼の乗ったタクシーを見送った後、私は駅前の地面に膝から崩れ落ちへたりこんだ。
そして何がなんでも彼、“上原一哉”から逃げると心に誓った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる