Over the Forty ー夢を見れないお年頃ー

真田 真幸

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恋人編 初恋を追っていた頃

昼下がりの着信

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 午後になって何とか自分一人でも動けるようになったものの、一哉の甘やかしは続いていた。

「もう大丈夫だから…」

「いや…でも心配だし…」

私が少し動けば、一哉も後ろに付いてくる。

まるでゲームのRPGのキャラの様に…

長身の身体を少し縮こまらせながら、ソワソワと不安そうに私が転ばないか心配する一哉のことは、嬉しいし、好きだし、可愛い。

しかし、男に甘え慣れてない私には、この過保護過ぎる態度が、正直言って…半分くらいは鬱陶しい…。

一哉が目に見えて凹むのは分かってるから、絶対に口にしては言わないけど…。

「頼むから一人で行かせて…。」

「でも…でも…俺やっぱり…理彩を一人になんか出来ないよ。」

私の言葉にオロオロした声を出す一哉に、そろそろイラッと来ていた私は、後ろを振り向いて一哉の両頬をむぎゅっとつまみ上げた。

「いいから一人で行かせてくれ!トイレぐらい!」

「…ふぁい」

こんなアホみたいな会話が、毎度私が行動しようとする度に繰り広げられる…。

…なんて平和な日曜日なんだろう(棒読み)。

 外に出るにはまだ腰が心許ない為、オンライン・レンタルで映画を観よういう話になり、どれにしようかと話していた時、一哉のスマートフォンに着信が来た。

チラッと一哉が画面を見て眉間に皺を寄せたかと思うと、マナーモードに切り替えてテーブルの上に戻してしまい出ようとしない。

「出ないの?」

「うん。」

「なんで?」

「後で折り返すし。」

「今、出れば良いじゃん!」

いっこうに切れない着信と私を交互に見て、観念した一哉は嫌そうに通話ボタンに触れた。

「…なんだよ、太一たいち。」

『カズ、今暇?2時から試合やるんだけど、久しぶりに身体動かしに来ないか?』

スピーカーにしていないのに、会話が聞こえてしまうほど、太一という人の声は大きくて良く響く声だ。

「今、忙しい。つーか、嫌だ。どうせまた変な賭けして助っ人頼みたいだけだろう?」

『そんなこと言うなよ~。勝ったら可愛い女の子と飲みに行ける約束なんだ!助けてくれよ~!』

「俺には関係ない!」

『まだ初恋の彼女を引き摺ってるのかよ~。いい加減に諦めろよ。可愛い女の子紹介してやるからさぁ~。』

一哉は更に眉間に深い皺を刻んで顔をしかめて、隣にいる私の肩を抱く。

「必要ない。もう俺、彼女いるし!いい加減、自力でなんとかしろ!」

『え!?嘘だろう!?まさか…初恋の彼女なのか!?』

「そのまさかだ。今一緒にいる。これ以上俺と彼女の大切な時間をお前の下らない賭けに費やしたくないから切るぞ!」

『ちょっ、ちょっと待て!おい!大変だ!カズがとうとう初恋の彼女を落としたらしいぞ!』

えらい騒ぎになっている電話の向こうの様子に、耳が痛いと一哉はスマートフォンを遠ざけた。

『カズ、彼女連れて来いよ!俺たちにも会わせろ!』

「嫌だ、断る!煩悩まみれのお前たちに会わせると彼女が穢れる。」

『俺たちは魑魅魍魎ちみもうりょうかよ!』

「お前たちの煩悩はそれに近いだろう?やっと二人でゆっくり過ごせてるんだ。邪魔をするな。」

『いいじゃん、今日ぐらい!それに彼女にカズのカッコイイところを見せたくないのか?』

太一さんとやらの言葉に、ハッと一哉は私を見る。

どうやら、昨夜からのやらかしの事が過っているようで、かなり葛藤している様だ。

「…彼女が良いって言うなら行く。」

『分かった!待ってるぞ!』

通話の途切れたスマートフォンを見ながら溜め息をつき、一哉は私を抱きしめた。

「高校時代のハンドボール部の仲間なんだけど…どうやら今日は試合で助っ人に来て欲しいらしい。正直、俺はこのまま理彩と二人で過ごしたいんだけど…。理彩に試合に出る俺を見て欲しいと言えば欲しいし…。」

一哉は迷っていた。

 私としては、知らない彼を見てみたいし、どんな高校時代を過ごしていたのか気になる。

でも…本当に私が行っても良いのだろうか?

「…私のことを彼らは何処まで知ってるの?」

「かなり年上の美人のお姉さんってぐらいかな。」

「び、美人!?」

なんか赤面ワードをサラッと言ってくれてちゃってますが…しかも本人の前で。

「で、太一は…行き掛かり上、理彩のことを大体知ってる…。」

「行き掛かり上?」

「俺が高校時代に、部活休んでこそこそ理彩の様子を見に会社の近くまで来てたのを尾行されたことがあって…白状させられたから…。」

「そんなことがあったの?」

「うん。」

頷いた一哉の表情が、一瞬暗くなった気がした。

顔を上げると笑顔が戻っていたけど…なんだろうか気のせい?

何か引っ掛かる…。

「私が行っても、一哉は困ったりしない?」

「高校・大学時代の俺は女に興味がない変わり者で通ってたし、今更だよ。それに、アイツらが理彩のこと何か言ったら許さないから大丈夫。全員の弱味はキッチリ握ってるしね。」

爽やかな笑顔で後半に何か恐ろしいことを言ってるんだけど、大丈夫なんだろうか?

とりあえず、年増であることは十分に自覚してるし、名実共に一哉の彼女になった今、大抵のことではへこたれない自信はある。

それに、私の知らない一哉を知りたいという好奇心が私を後押ししていた。

「行っていいなら、一哉の試合を見てみたい。ハンドボールって、TVでチラッとしか見たことないし、興味あるし!」

「じゃあ、一旦俺、家に帰って車と練習着を取りに行ってくる。」

「車?」

「まだ長時間歩くのは無理でしょ?」

悪戯っぽく言いながら、一哉は私の身体を引き寄せて、腰をそっと撫でた。

「バカ…誰のせいだと…」

赤面してキッと睨む私に、一哉はねだる。

「試合に勝ったら、理彩からご褒美が欲しいなぁ~。」

「ご、ご褒美!?」

「大丈夫、今夜は理彩に無理させたりしないから…」

“その代わり、いっぱい甘えていい?”

強烈な色気を放つ一哉の囁きに、私は目眩と第六感的な何かによるゾワッと寒気を感じていた。



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