Over the Forty ー夢を見れないお年頃ー

真田 真幸

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恋人編 初恋を追っていた頃

友達という名の敵意 side 一哉

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 外は強い日差しによって、見える世界の半分以上が白く反射していて眩しかった。

一日で一番気温が高い時間に外に出てきたことを後悔しつつも、俺は太一との決着を着けるため歩みを止めなかった。

途中でスポーツドリンクを自販機で2本買い、1本を太一に投げて渡すと複雑そうに顔歪め太一はそれを受け取った。

 体育館の裏手にある、大きな広葉樹の影に入ると不意に前触れなく太一は、頭を下げて俺に謝った。

「…お前にも…美乃にも…悪いことをしたと思ってる。」

「…」

声が出なかった。

太一が謝ってくるというのは、俺にとっては予想外の行動だった。

「あの時の俺は…お前が…こんなHappy Endを抱えて俺の前に立つなんて絶対に信じない!って意固地になっていたんだ。今となってはガキが全て知った気になって何言ってたんだかって思う。…ゴメンな…カズ。」





 あの頃の太一を思い出す。

太一とは中学からの付き合いで、部活をサッカーからハンドボールに鞍替えしたのは、サッカーブームが原因で、あまりに部員が多かったのもあるが、太一の存在が大きかった。

『カズの手の大きさは、ハンドボール向きだと思うんだ!手や足が大きいってことは、身長もこれから伸びるって、婆ちゃんが言ってた!』

その頃、学年で一番チビだった俺は、そんな太一の言葉に触発されてハンドボール部に入部した。

他愛ないことで笑い、部活帰りにラーメン食べに行ったり、一緒に馬鹿をやることもあったけど、極々普通の学校生活を俺たちは過ごしていた。

太一の言う通り、俺の身長は高校に入る頃には170㎝を越え、試合でも有利な恵まれた体型へ成長していた。

周りが…特に女子が騒ぐようになったものの、俺は相変わらずたまに部活を休んで、こっそりと理彩の会社の前に訪れ、遠くから理彩を見つめる生活を送っていた。

 それが一変したのは高校2の夏だった。

元々、太一の両親は互いに浮気を繰り返していて、決して親子関係は良好ではなかった。

そんな両親が両方とも太一を捨てて離婚した。

結婚し太一がいるのにも関わらず、取っ替え引っ替え次々と違う相手と浮気を繰り返す両親を見て育った太一は、人生でもっとも不確かなものだと男女の情愛を完全に否定していた。

 俺は太一のそれを否定も肯定もせずにいた。

それぞれの主観に過ぎないし、何より理彩に恋していた俺には関係のない話だと思っていたのだ。

 そんな太一に理彩の存在を知られ、不意に見てしまった光景に不安を煽られ、揺らいだ心に付け込まれて自暴自棄になったことが、好きでもない美乃と付き合う発端だった。

美乃は太一の幼馴染みで、中学の頃から好意を示してくれていることは分かっていた。

美乃は“癒し”を与えてくれたが、俺には理彩を諦めて、その苦しみもがくことから逃れる為の“惰性”の思いでしかなかった。

“年相応” “釣り合い” “所詮は叶わぬ恋”…

もっともらしい言葉は、弱りきった俺の気持ちを惑わせ、自暴自棄へと加速させた。

そして、太一は愛情のない肉体関係を俺と美乃に結ばせようとした。

『美乃を抱いてさっさと吹っ切っちまえよ。美乃も好きなお前と初めてヤれるし、お前もさっさと童貞卒業できるし問題ないだろう?』

理彩を諦める苦しい思いから解放されたくて俺は太一の提案に乗った。

しかし、俺には出来なかった。

美乃の裸を見ても、俺は反応しなかったのだ。

美乃との行為は只々苦しいだけで、抱きつかれて柔い肢体から温もりを感じるほどに、俺の心がどんどん冷えていくだけだった…。

美乃の唇から『好き』と言われる度に、諦めた筈の理彩への想いばかりが、酷く自分を責めていてた。

最初はカラカイ半分で美乃と関係を持てなかった俺を太一は受け入れた。

しかしそれが何度も続くと、そんな俺をおかしい奴呼ばわりして、太一は思い通りに動かない俺に苛々と当たり散らした。

太一の言いなりになって、色々試みて美乃と関係を結ぼうとしたが、やはり俺の身体はピクリとも欲情しなかった。
 
『無理だ…俺には…』

何度目かの気まずさを抱えて、美乃とホテルの前で別れた後、太一と待ち合わせたバーガーショップで、俺はもう止めたいと本心を告げた。

呆れた太一は、鋭い棘を含んだ口調で俺を責めた。

『手を伸ばせば簡単にホイホイ転がり込んでくる女が側にいるのに、手に入らない大人の女を想い続けるなんて、フツー出来る訳ないじゃん!お前だって見ただろう?所詮は歳の差から見ても、社会的地位から見ても、お前にあの人は分不相応なんだよ!お前が社会人になって正攻法であの人を手に入れる前に、お前の愛しいあの人は他人のものになるだろうよ。それでも想い続けるってお前はバカなのか!?』

『…それでも、俺は理彩さんを好きでいたいんだ。苦しくても良いんだ。美乃と付き合っている方が苦しい。やっぱり、俺は理彩さんじゃないと意味がない。』

『…そんなに言うなら好きにすれば?まぁ…俺は男女の情愛なんてそんな不確かなものに、真剣になるとか信じないけどな。フフフ…それとも、他人のものになったあの人に不倫でもして貰えるようお願いするか?』

 太一の吐いた理彩を侮辱する言葉に、俺の中の何かが壊れる音がした。

もう…俺は限界だった。

(太一の言いなりにならない。)

どんなに辛くても理彩への恋を貫くと決めた俺は、美乃に不誠実な理由で付き合ったことを詫びて離れ、太一とは“親友”としては絶縁した。

絶縁の言葉を吐いた別れ際、太一は失笑気味に俺に告げた。

『25歳までにあの人を捕まえられたら、お前の前から綺麗サッパリ消えてやるよ。まぁ…絶望して俺のところに転がり落ちてくると思うけどな。』

そう…太一と俺は簡単に全ての縁を切ることが出来なかった。

というのも6年前の俺たちは、太一が部長、俺が副部長としてハンドボール部の仲間を率いていた。

当時12年ぶりに全国大会のシード権を獲たことから、学校は勿論、地域の応援も盛り上がり、高校ハンドボール界で最強と言われた結束力と仲間を俺たちの絶縁のせいで失うことは出来なかった。

大切な仲間を全国優勝へ導くことは、太一と俺の一致した目標だったし、黄金コンビと言われていた俺たちが絶縁したことを告げることが出来なかった。

だから、同じスポーツをする仲間としての繋がりを表面上でも今日まで保った。

 今日、理彩のことを報告したら、俺は仕事が忙しいことを理由に仲間から離れるつもりでいた。

太一からの連絡を受け取ったとき、正直迷ったが俺の試合を見せたくて今日が最期と決めて、理彩を連れてきたのだ。






「とっくに分かってたんだ…。お前が俺の両親とは違って、何処までも理彩さんへの恋心に誠実な奴だってことは…。分かっていたけど…俺は自分が歪んでおかしいんだって思いたくなくて、お前を傷付けたのに謝れなかった。お前が俺と同じになればいいと浅はかにも思っちまってたんだ。結局、無二の親友だったお前に絶縁されてちまったんだけどな…。」

「…」

「美乃の初恋をメチャクチャにしたのも俺だ…。アイツが何しに来たのか分からないけど、ちゃんと俺が責任は取る。だから…虫の良い話だと思うけど…もう少しだけ…今日だけでいい。俺の仲間で居てくれないか?そのあとお前が気が済むまで俺を殴ってくれても構わない。理彩さんにも…俺が話す。お前に許されるとは思ってないけど…罪滅ぼしをさせてくれ。」

「…理彩には昨日少し話した。」

「えっ…?」

「理彩には何一つ嘘は付きたくなかったんだ。黙っていようとも思ったけど…年上だし理彩は聡いから…隠したって直ぐにバレるんだ。それに俺が迷って未遂とはいえ、過ちを犯しそうになったことも、ちゃんと知ってから俺を受け入れて欲しかった。」

「そっか…」

「まぁ…拗ねられて、こじれそうになったけどな。」

「そっか…とうとう彼女と無事に童貞を卒業したんだなぁ…」

「…皆まで言うな!」

「本当のことだろう?」

「ウッセーよ!」

太一は安心したように深く息を吐いた。
 
「…良かったな…カズ…」

「ああ…」

顔を見合わせて、ぎこちないではあったけど久しぶりに俺たちはクツクツと笑った。

太一の謝罪を全て受け入れられた訳じゃない。

まだ、太一への不信感は払拭できなかったけど、真っ直ぐに謝ってきた誠意だけを信じることにした。

「そろそろ戻ろうぜ!もうウォーミングアップが始まってる筈だ。」

「あっ!俺、理彩のところに靴をおいたまんまだ。」

「何やってんだよ!」

「取りに行ってから向かうわ。」

「いいよ、俺も付き合う。お前の未来の嫁さんに不安そうな顔させちまったからな。」

「…試合が終わったら…殴るぞ…太一。」

「ああ…」

俺たちは体育館に戻って行った。





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