30cmはキミとの遠いキョリ

真田 真幸

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side 朝美

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 稀に見る大寒波日本列島を襲った寒い寒い十二月。

高校2年の冬休みがやって来た。

冬休みが明けるまで会えなくなるクラスメイトと名残惜しさから沢山話した後、さっき先生から渡されたプリントや持って帰るものをチェックしながら鞄に詰めていく。

 期末テストの結果もまぁまぁ、成績表も得意な体育以外はまぁまぁ…。

いつも通りの中の中ぐらいの平凡な成績。

母さんからは変わり栄えしない成績について、多少のお小言は言われるかも知れないけど、成績を落としてカミナリを食らうよりもずっとイイ。

 それにウチの学校は部活の朝練はジャージ登校を許可されているけれど、補習を受けるとなると制服での登校になる。

部活用のジャージと練習着の入ったスポーツバック以外に、教科書入りの学生鞄を持って登校しなくてはいけない。

そんな煩わしい思い満載の補習を回避したのだから、それでヨシ!

なんて思っていたら、廊下が騒がしくなっているのに気が付く…。

最近、アイツが登場する前はこんな風に騒がしい。

少しして、校内で一番の身長たっぱの持ち主で、つい最近三年生の引退によりバスケ部の主将に就任した幼馴染みのアイツが、窮屈そうに身体を屈めて教室の入口に立った。

「朝美、そろそろ帰ろうぜ~?」

「ちょっと待って!」

ダッフルコートを羽織って、昨日の帰りに一目惚れでして買ったラズベリーピンクのリップを乾燥しがちな唇に塗り込む。

クラスメイトに“良いお年を!”なんて軽く挨拶を交わしながら、教室の入口に向かった。

「航希、お待たせ!」

「荷物、それだけか?」

「うん、だいたい昨日のうちに持ち帰っちゃったから。あとは玄関で上履きを回収するだけだよ。」

「ん、じゃあ行くか。」

航希は何時ものように私の鞄を持って肩に引っ提げて歩き出し、私も航希に習って歩き出した。

 しっかり者の航希は、幼い頃から私のお目付け役。

女の子と間違えられるほど可愛かった姿とは裏腹に、昔から性格は男らしいくも優しい奴だった。

家も隣だし、親同士も幼馴染みだし、私たちが一緒に行動するのも自然の流れ。

だからかなぁ…?

“幼馴染み”なんて世間から言ったら、オイシイ!って言われるシチュエーションの間柄だけど、良く読む漫画や恋愛小説の様な甘い展開には、今までなった事がない。

世の中の“幼馴染み”からカップルになった人って、どうやって相手を“恋愛対象”として見るようになるのかなぁ~?

決して仲が悪い訳じゃないし、航希を“性別・男の子”として認識もしているけど、私にはその辺が不思議だったりする。

まぁ…航希を相手に恋愛しようとも特に思ってはいないから、不思議は不思議のままでも構わない。

そんな呑気な私を焚き付けたいらしいクラスメイトの紗智さちが『航希はしっかり者のバスケの主将で学校一の身長の持ち主だし、それなりに容姿もイイから狙ってる女子は少なくないよ!』って、さっき話していたっけ…。

『へぇ…航希はモテるのか…』と、一言の感想で終わった私を紗智は可哀想な者を見る目で見ていた。

(そもそも恋愛とか良く分からないし、そんな目で見られてもなぁ…。)

周りから見ればそれなりに羨ましいシチュエーションなんだと思うけど、どんなに羨ましがられようが、どんなにやっかまれようが私と航希は変わらないと思う。

「おい、朝美!上履き!」

そんな考え事をしていたせいで、上履きを靴箱に入れようとして航希に止められた。

しょうがない奴だと航希に言われて、笑って誤魔化しながら上履きをビニール袋に入れた。

(そう言えば…航希には好きな人っているんだろうか?)

考えてみれば、ほぼ毎日のように航希と一緒に帰っている。

航希にもしもカノジョが出来たら、一緒に帰ることも無くなるんだろうか?

(航希にカノジョかぁ…出来たら出来たで、ちょっと寂しいかも…)

「ブフゥ!?」

校庭を歩いていたら急に航希が立ち止まり、航希の大きな背中に私の顔は埋まった。

「…さっきからどうした?今日はなんかボーっとしてるけど?」

仏頂面で振り向いて航希は私を見下ろす。

高校に入ってから急に身長が伸びた航希との身長差は約30cm。

今日はなんだか…その身長差が遠く思える。

何でだ??

「あ…まぁ…ちょっと考え事をね…」

ニャハハと笑って誤魔化すと、怪訝そうに首を傾げてから航希は歩き出した。 





 校門をくぐり、航希と二人でふざけ合いながら、太平洋を望む長い下り坂を降りていく。

何だかんだとクラスメイトと話し込んでいたせいもあって、時刻はスッカリお昼を過ぎていた。

「お腹すいたぁ~、なんか買って海で食べる?」

「そうだな…寒いし肉まんとか…」

「あっ、アタシ、おでんがいい!うどんも追加しちゃおうかなぁ~♪」

「リッチだなぁ~、お前。」

「へっへっへっ!昨日、短期バイトの給料日だったからね!あ、航希には奢らないよ!!」

「ちぇっ!肉まんぐらい良いじゃん!」

「女の子に肉まん奢らせるなんて、イイ男になれないぞ!」

「あれ?お前って女だっけ??」

そう意地悪くからかうように言って、ニッと笑った航希は駆け出した。

いつもなら反論して航希を追いかけるところだけど、なんだか今日のアタシは立ち止まってしまった。

(…だよね、航希にとってはアタシは女の子じゃないんだ。)

ちょっと胸がチクンっと痛む。

まぁ…仕方ない。

女の子らしいところなんて、航希には見せたことないし。

「朝美?」

呼ばれてハッと目線を上げると、少し離れたところで航希が立ち止まって心配そうに眉を歪めていた。

「…何でもない!」

私が歩き出したのを見て、航希は再び走り出した。

「コンビニまで競争しよう!俺が勝ったら肉まん奢れ!」

航希はいつもズルして先に走り出す。

「クッ!現役スプリンターを舐めんなよ!!」

少し遅れて走り出した私をチラッと振り替えりニッと笑うと、アイツは全速力で駈けていく。

勝敗なんていつも決まっている。

身体がデカイからなのか?

二人分の荷物のハンデはあるものの、足のコンパスの差もあるし、体力差からしてアイツの方が有利なハズなのに、私の方が足は早い。

どうやら航希は、中距離走以上の競走には向いてないらしい。

坂を下って右に曲がって行く大きな背中を追いかける。

防波堤に沿って伸びる二車線しかない細い道路を駈け抜け、T字の交差点をちょっと越えた頃、いつも航希はバテ始める。

最初は勢いの良かった航希の足運びが、急に緩慢になった。

アタシはそんな航希を尻目に、一気に抜き去りコンビニの看板を支える支柱にタッチした。

「ふっふっふっ!アタシの勝ち!」

「チックショー!今回は勝てると思ったのに!!」

「この前、自己新更新したばかりだもんね!日々進化してんのよ、ア・タ・シ!」

悔しそうに両手を膝につき、頭を足らして息を整える航希の頭をワシワシと撫でて、アタシはコンビニに入った。

アイツは肉まんとコーラを買い、私は宣言通りおでんを買った。

コンビニ前の防波堤の上に座って、温かいおでんに舌鼓を打つ。

お出汁が染み染みの大根とぷりぷりの卵、そして今日は奮発して軟骨入りのつくねも入れて貰った。

「本当に憎たらしいほど旨そうに食うよなぁ…お前。」

隣に座っている大柄な育ち盛りが、恨めしそうにジト目で言う。

絶賛成長期真っ只中の航希が、肉まん一つで、空腹を満たすことなんて無理だ。

串に刺さったつくねにかぶりつき、これ見よがしにアタシは笑って見せる。

「仕方ないなぁ~、幼馴染みのよしみでつくね一つ上げるよ。」

串に一つ残ったつくねをアイツに横向きに差し出した。

串を受け取るのを待っていると、航希はそのままつくねにかぶりついた。

「ちょっ!自分で食べなさいよ!」

(これじゃアタシが航希に食べさせて上げてるみたいじゃん!!)

串を持つ手が航希の冷たい頬に触れて、ドクンッと心臓が跳ね上がる。

とっさにつくねから串を引き抜いて、アタシは串をビニール袋に捨てた。

航希の頬に触れた指先が、なんだか熱くて居心地が悪い。

私は少し俯いて、チラリと横目で航希を見た。

しかし、そこにいたのはつくねに噛みついたまま、アタシを見ている間抜けな顔。

ブッと吹いて笑いが止まらなくなった。

「そうしてるとウチのゴンにソックリ!ボールかじって散歩ねだるとこと一緒!」

「失礼なこと言うな!俺はゴンよりはイイ男だぞ!」

「はいはい、そうですねぇ~!」

おでんの汁を飲み干して、コンビニのゴミ箱に捨てた後、窓に写る自分の顔を見つつリップを塗り直して、待っててくれた航希とのんびりと家へと歩き出した。

「冬休みを満喫出来る最後の冬休みだなぁ…」

「そうだね、来年は受験だし。キミとバカやってられるのもあと1年ちょっとなんだよね…。」

航希が不意に立ち止まって、驚いた顔で目を瞠ってあたしを見た。

自分の発した音色が思いの外、しんみりしたものでアタシ自身も驚いた。

「なぁ…俺がココから離れたら…朝美は…寂しいか?」

何時にない真剣な航希の問いかけに、アタシはいつもみたいに笑って誤魔化すこともせず素直に答えた。

「多分…寂しいかも…ずっと…一緒だったし…」

「そっか…」

航希はそう言って、着信が来たのか?スマフォを取り出し視線を落とした。

航希の返信が終わるまで、少し暖色が滲み始めた海と空を眺める。

(この海と空を…航希と一緒に、あと何回見ることが出来るんだろう…?)

さっきチクンと感じた胸の痛みは何故か今、ズキンと重みのある痛みに変わっていた。

返信が終わったらしい航希が、スマフォをポケットに入れて、アタシと同じ海と空を見ながら話し掛けてきた。

「…なぁ、家まで競争しようか?」

「えっ!?」

同時に私のポケットに入っているスマフォがSNSの着信を告げる。

ちょっと待っててと航希に告げて、画面を確認する。

送信主は…航希!?

良く分からない行動に戸惑いつつ、メッセージを見る。

「…」

そこに綴られた10文字のメッセージに、私は目を瞠った。

「…先に行くぞ!」

驚きのあまりポカーンと口をあけているアタシに、航希は少し上擦った声で告げる。

少し離れたところに立つ航希を見れば、ニッと笑う顔。

だけど、いつもの意地悪さは無くて、目許を赤くしたハニカミ仕様だった。

走り出した背中をボーッと見送ってしまい、アタシは完全に出遅れた。

(…ズルい)

さっき見たSNSの文字が頭の中を巡る。

見馴れた道なのに、道順を間違いそうになる。

(今までで…一番…ズルい!!)

走って上がる鼓動に、それとは違うドキドキが心臓に纏わりついている様でなんだか息苦しい。

(でも…分かった気がする。)

そう…今日初めて感じた胸の痛みの意味を…。

やっとの思いで家の前に辿り着くと、アイツはちょっと緊張した様子で立っていた。

「へっへっへっ!俺の勝ち!」

いつもの私の台詞を真似た航希が赤い顔で言う。

「ふ、ふざけんな!あんな…あんな…め、メッセージ送って来てから勝負だなんて…航希、ズルい!」

「何がなんでも勝ちたかったんだ…男が負けて吐く台詞じゃないだろう?」

確かにそうだけど…ズルして勝って吐くのとあまり変わらない気がするのは、アタシだけだろうか?

っていうか、勝ち負けも決まらないうちに言ってるし…。

「…朝美…返事は?」

黙ってしまったアタシの前に立った航希は、約30cmの身長差を身体を屈め、その差を±0にして目線を合わせる。

久しぶりに間近で合わせた航希の顔は、知ってるようで知らない顔をしていた。

まつ毛が長いのは昔のままだけど、丸みのないシャープな顔つきは、アタシの知らない顔だ。

(昔は女の子みたいだったのに…いつの間に…)

マジマジと航希の顔を見ている自分に気が付いて、急に恥ずかしくなって俯く。

「朝美?」

不安そうに切羽詰まった様な声で、目の前にいるその人は私を呼ぶ。

「その前に…ちゃんと聞かせて?」

「え?」

「…キミの…声で聞かせて欲しい…」

ガシガシ自分の頭を掻きながら、航希は大きく息を吐いた後、SNSに綴られたあの言葉を、彼の音色で告げてくれた。




Fin
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