初恋カフェラテ

真田 真幸

文字の大きさ
10 / 20
本編

再会

しおりを挟む
 12月に入り、年末に向けて慌ただしい時期に入った。

プレゼンの結果、今までにない大口の契約を取ることが出来たことを期に、更に任される仕事も増えたこともある。

キャリアとしての自信がついた私は仕事に没頭し、帰宅が深夜になることが多くなった。

 仕事を終えて最寄り駅に着いた頃には、カフェはCloseしている。

カフェに寄る暇すらない、会社と自宅を往復するだけの日々…。

でもそれは、私にとっては有り難いことだった。

仕事に没頭しているときは、彼のことを考えなくてもいい。

 あの後、定期ランチミーティングで高峰先輩に言われたことはちゃんと考えてみた。

自分が傷付くことを恐れるあまり、彼の気持ちを聞かずに別れを切り出したことは後悔している…。

だけど今更、気持ちを伝えて彼に受け入れて貰える自信が、私にはなかった。

ちなみに、高峰先輩はあれから何も言わなくなった。

ただ一言

『煽った責任は取るつもりはない。まぁ…素直にならなかったお前が悪いんだし、後は自分で何とかしろ!』

と言われた…。

なんのことやらサッパリ分からなかったけど、その後の私の仕事への没頭ぶりを見て、憐れな目で見られることが多くなった気がする。

気が付けば、もう最後に彼と別れた日から2週間が経とうとしていた。

見た目も人柄も良い彼のことだ…。

以前から女の子からのアプローチは沢山あったし、もしかしたら…もう好きな人が出来ているかも知れない。

元々、“お試し恋愛”の相手でしかない私が、今も彼の心に存在しているとは思えない。

だから…ひたすら彼を忘れるように忙しく働くしかなかった。





全国各地で大寒波が襲い、この時期としては例年よりも寒さが厳しい金曜日の夜。

閉店30分前だったけど、久しぶりにカフェに立ち寄った。

今日、彼はシフトに入っていないことは、カフェの外からも確認済み。

疲れきった身体と心は、久しく遠ざかっていた香しい珈琲とほんのり甘いmilkの癒しを求めていた。

熊くんが淹れてくれたマグカップに入ったカフェラテを手に、いつもの指定席のソファーに身を沈めた。

両手で包み込む様にマグカップを持ち、寒さでかじかんだ手を温めながら、少しずつカフェラテを口に含んで身体も温める。

漸く身体が温まり血の巡りが良くなったせいもあり、頬の火照りを感じながらマグカップをテーブルの上に置いた。

頬の火照りからボーッとしている私は、ソファーに凭れて暫く傍らにあるクリスマスツリーを見つめていた。

赤いリボンに、ゴールドの丸いオーナメント、クリスタルの星…。

規則的に瞬く電飾の光がクリスタルのオーナメントに反射して、七色の光を放っていた。

ふと、私の視野の片隅に人影が映り込んだ。

 誰かが、私の座っている席の斜め左に立っていた。

「つぐみ…」

その声に引き寄せられるようにゆっくりとそちらに目線を向ければ、黒のタートルネックのニットにカーキ色のダッフルコートを着込み、少し息の上がった様子の彼が立っていた。

私は目を瞠って、驚きのあまり何も言えないまま彼を見つめた。

(嘘…なんで今…彼がここに居るの…?)

いつもなら家庭教師のアルバイトで、彼はここに来られないハズ…。

彼に会うことがないと思っていたから、私はカフェに寄ったのだ。

真っ直ぐ瞳は酷く疲れた様子で、彼の頬に目線を移せば少し痩せた様に見える。

「つぐみ…会いたかった…」

そう彼の唇から震えるように発せられた私の名前には、切ない音色が混ざっていた。

咄嗟に席を立ちカフェを出ようとしたけど、彼に通路を塞がれてそれは叶わない。

彼は少し骨ばった大きな手で、華奢な私の手をそっと握った。

彼の手から逃れようとしたけど、私の行動を制し余計にギュッと握り込まれてしまった。

混乱したまま、彼の顔を見上げると辛そうに顔を歪めて彼は私を見つめていた。

「今…少しだけでいい…俺に君と話す時間をくれないか?」

「話すことなんて…もう…」

「お願いだ…つぐみ…。」

振り絞るように彼の口から発せらるた懇願の言葉を聞き、少し潤みの帯びた彼の瞳に見てしまえば、もう観念するしかなかった。

私が無言で頷くと、彼は熊くんに私が飲んでいたマグカップを渡し、私の手を引いてカフェから出た。







イルミネーションに彩られた駅前広場を、彼に手を引かれたまま歩く。

「…何処に…行くの?」

少し不安になり、彼に問いかけた。

「つぐみと二人っきりで話したい…俺の部屋でいい?」

「…」

その言葉に私はビクッと身体を震わせた。

何時も手を握る以外は何もしてこなかった彼を、今更疑う。

「…つぐみを傷付けるような事は、絶対しないから安心して?」

少し悲しそうに笑う彼を見て、疑ったことを後悔した。

何時だって彼は私を大切にしてくれていたというのに…。

 2週間ぶりに訪れた彼の部屋は、ひんやりとしていた。

部屋の明かりをつけて、彼はエアコンのスイッチを入れた。

「もう少しで暖かくなると思うから、そこに座ってて?」

いつも私が座っていた場所を指差して、彼はキッチンへ消えた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...