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本編
再会
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12月に入り、年末に向けて慌ただしい時期に入った。
プレゼンの結果、今までにない大口の契約を取ることが出来たことを期に、更に任される仕事も増えたこともある。
キャリアとしての自信がついた私は仕事に没頭し、帰宅が深夜になることが多くなった。
仕事を終えて最寄り駅に着いた頃には、カフェはCloseしている。
カフェに寄る暇すらない、会社と自宅を往復するだけの日々…。
でもそれは、私にとっては有り難いことだった。
仕事に没頭しているときは、彼のことを考えなくてもいい。
あの後、定期ランチミーティングで高峰先輩に言われたことはちゃんと考えてみた。
自分が傷付くことを恐れるあまり、彼の気持ちを聞かずに別れを切り出したことは後悔している…。
だけど今更、気持ちを伝えて彼に受け入れて貰える自信が、私にはなかった。
ちなみに、高峰先輩はあれから何も言わなくなった。
ただ一言
『煽った責任は取るつもりはない。まぁ…素直にならなかったお前が悪いんだし、後は自分で何とかしろ!』
と言われた…。
なんのことやらサッパリ分からなかったけど、その後の私の仕事への没頭ぶりを見て、憐れな目で見られることが多くなった気がする。
気が付けば、もう最後に彼と別れた日から2週間が経とうとしていた。
見た目も人柄も良い彼のことだ…。
以前から女の子からのアプローチは沢山あったし、もしかしたら…もう好きな人が出来ているかも知れない。
元々、“お試し恋愛”の相手でしかない私が、今も彼の心に存在しているとは思えない。
だから…ひたすら彼を忘れるように忙しく働くしかなかった。
全国各地で大寒波が襲い、この時期としては例年よりも寒さが厳しい金曜日の夜。
閉店30分前だったけど、久しぶりにカフェに立ち寄った。
今日、彼はシフトに入っていないことは、カフェの外からも確認済み。
疲れきった身体と心は、久しく遠ざかっていた香しい珈琲とほんのり甘いmilkの癒しを求めていた。
熊くんが淹れてくれたマグカップに入ったカフェラテを手に、いつもの指定席のソファーに身を沈めた。
両手で包み込む様にマグカップを持ち、寒さで悴んだ手を温めながら、少しずつカフェラテを口に含んで身体も温める。
漸く身体が温まり血の巡りが良くなったせいもあり、頬の火照りを感じながらマグカップをテーブルの上に置いた。
頬の火照りからボーッとしている私は、ソファーに凭れて暫く傍らにあるクリスマスツリーを見つめていた。
赤いリボンに、ゴールドの丸いオーナメント、クリスタルの星…。
規則的に瞬く電飾の光がクリスタルのオーナメントに反射して、七色の光を放っていた。
ふと、私の視野の片隅に人影が映り込んだ。
誰かが、私の座っている席の斜め左に立っていた。
「つぐみ…」
その声に引き寄せられるようにゆっくりとそちらに目線を向ければ、黒のタートルネックのニットにカーキ色のダッフルコートを着込み、少し息の上がった様子の彼が立っていた。
私は目を瞠って、驚きのあまり何も言えないまま彼を見つめた。
(嘘…なんで今…彼がここに居るの…?)
いつもなら家庭教師のアルバイトで、彼はここに来られないハズ…。
彼に会うことがないと思っていたから、私はカフェに寄ったのだ。
真っ直ぐ瞳は酷く疲れた様子で、彼の頬に目線を移せば少し痩せた様に見える。
「つぐみ…会いたかった…」
そう彼の唇から震えるように発せられた私の名前には、切ない音色が混ざっていた。
咄嗟に席を立ちカフェを出ようとしたけど、彼に通路を塞がれてそれは叶わない。
彼は少し骨ばった大きな手で、華奢な私の手をそっと握った。
彼の手から逃れようとしたけど、私の行動を制し余計にギュッと握り込まれてしまった。
混乱したまま、彼の顔を見上げると辛そうに顔を歪めて彼は私を見つめていた。
「今…少しだけでいい…俺に君と話す時間をくれないか?」
「話すことなんて…もう…」
「お願いだ…つぐみ…。」
振り絞るように彼の口から発せらるた懇願の言葉を聞き、少し潤みの帯びた彼の瞳に見てしまえば、もう観念するしかなかった。
私が無言で頷くと、彼は熊くんに私が飲んでいたマグカップを渡し、私の手を引いてカフェから出た。
イルミネーションに彩られた駅前広場を、彼に手を引かれたまま歩く。
「…何処に…行くの?」
少し不安になり、彼に問いかけた。
「つぐみと二人っきりで話したい…俺の部屋でいい?」
「…」
その言葉に私はビクッと身体を震わせた。
何時も手を握る以外は何もしてこなかった彼を、今更疑う。
「…つぐみを傷付けるような事は、絶対しないから安心して?」
少し悲しそうに笑う彼を見て、疑ったことを後悔した。
何時だって彼は私を大切にしてくれていたというのに…。
2週間ぶりに訪れた彼の部屋は、ひんやりとしていた。
部屋の明かりをつけて、彼はエアコンのスイッチを入れた。
「もう少しで暖かくなると思うから、そこに座ってて?」
いつも私が座っていた場所を指差して、彼はキッチンへ消えた。
プレゼンの結果、今までにない大口の契約を取ることが出来たことを期に、更に任される仕事も増えたこともある。
キャリアとしての自信がついた私は仕事に没頭し、帰宅が深夜になることが多くなった。
仕事を終えて最寄り駅に着いた頃には、カフェはCloseしている。
カフェに寄る暇すらない、会社と自宅を往復するだけの日々…。
でもそれは、私にとっては有り難いことだった。
仕事に没頭しているときは、彼のことを考えなくてもいい。
あの後、定期ランチミーティングで高峰先輩に言われたことはちゃんと考えてみた。
自分が傷付くことを恐れるあまり、彼の気持ちを聞かずに別れを切り出したことは後悔している…。
だけど今更、気持ちを伝えて彼に受け入れて貰える自信が、私にはなかった。
ちなみに、高峰先輩はあれから何も言わなくなった。
ただ一言
『煽った責任は取るつもりはない。まぁ…素直にならなかったお前が悪いんだし、後は自分で何とかしろ!』
と言われた…。
なんのことやらサッパリ分からなかったけど、その後の私の仕事への没頭ぶりを見て、憐れな目で見られることが多くなった気がする。
気が付けば、もう最後に彼と別れた日から2週間が経とうとしていた。
見た目も人柄も良い彼のことだ…。
以前から女の子からのアプローチは沢山あったし、もしかしたら…もう好きな人が出来ているかも知れない。
元々、“お試し恋愛”の相手でしかない私が、今も彼の心に存在しているとは思えない。
だから…ひたすら彼を忘れるように忙しく働くしかなかった。
全国各地で大寒波が襲い、この時期としては例年よりも寒さが厳しい金曜日の夜。
閉店30分前だったけど、久しぶりにカフェに立ち寄った。
今日、彼はシフトに入っていないことは、カフェの外からも確認済み。
疲れきった身体と心は、久しく遠ざかっていた香しい珈琲とほんのり甘いmilkの癒しを求めていた。
熊くんが淹れてくれたマグカップに入ったカフェラテを手に、いつもの指定席のソファーに身を沈めた。
両手で包み込む様にマグカップを持ち、寒さで悴んだ手を温めながら、少しずつカフェラテを口に含んで身体も温める。
漸く身体が温まり血の巡りが良くなったせいもあり、頬の火照りを感じながらマグカップをテーブルの上に置いた。
頬の火照りからボーッとしている私は、ソファーに凭れて暫く傍らにあるクリスマスツリーを見つめていた。
赤いリボンに、ゴールドの丸いオーナメント、クリスタルの星…。
規則的に瞬く電飾の光がクリスタルのオーナメントに反射して、七色の光を放っていた。
ふと、私の視野の片隅に人影が映り込んだ。
誰かが、私の座っている席の斜め左に立っていた。
「つぐみ…」
その声に引き寄せられるようにゆっくりとそちらに目線を向ければ、黒のタートルネックのニットにカーキ色のダッフルコートを着込み、少し息の上がった様子の彼が立っていた。
私は目を瞠って、驚きのあまり何も言えないまま彼を見つめた。
(嘘…なんで今…彼がここに居るの…?)
いつもなら家庭教師のアルバイトで、彼はここに来られないハズ…。
彼に会うことがないと思っていたから、私はカフェに寄ったのだ。
真っ直ぐ瞳は酷く疲れた様子で、彼の頬に目線を移せば少し痩せた様に見える。
「つぐみ…会いたかった…」
そう彼の唇から震えるように発せられた私の名前には、切ない音色が混ざっていた。
咄嗟に席を立ちカフェを出ようとしたけど、彼に通路を塞がれてそれは叶わない。
彼は少し骨ばった大きな手で、華奢な私の手をそっと握った。
彼の手から逃れようとしたけど、私の行動を制し余計にギュッと握り込まれてしまった。
混乱したまま、彼の顔を見上げると辛そうに顔を歪めて彼は私を見つめていた。
「今…少しだけでいい…俺に君と話す時間をくれないか?」
「話すことなんて…もう…」
「お願いだ…つぐみ…。」
振り絞るように彼の口から発せらるた懇願の言葉を聞き、少し潤みの帯びた彼の瞳に見てしまえば、もう観念するしかなかった。
私が無言で頷くと、彼は熊くんに私が飲んでいたマグカップを渡し、私の手を引いてカフェから出た。
イルミネーションに彩られた駅前広場を、彼に手を引かれたまま歩く。
「…何処に…行くの?」
少し不安になり、彼に問いかけた。
「つぐみと二人っきりで話したい…俺の部屋でいい?」
「…」
その言葉に私はビクッと身体を震わせた。
何時も手を握る以外は何もしてこなかった彼を、今更疑う。
「…つぐみを傷付けるような事は、絶対しないから安心して?」
少し悲しそうに笑う彼を見て、疑ったことを後悔した。
何時だって彼は私を大切にしてくれていたというのに…。
2週間ぶりに訪れた彼の部屋は、ひんやりとしていた。
部屋の明かりをつけて、彼はエアコンのスイッチを入れた。
「もう少しで暖かくなると思うから、そこに座ってて?」
いつも私が座っていた場所を指差して、彼はキッチンへ消えた。
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