シスコン姉君、進軍す

蕾々虎々

文字の大きさ
8 / 13
七難八苦の記念日

後は任せても良いでしょうか -ファナ-

しおりを挟む
 本日はリーネリーシェ様にリディーシアお嬢様のことをお任せし致しましたので、珍しくお世話をする相手が御座いません。なので、他の侍女達のお手伝いで荷物運びをしていました。

 それが一段落着いたので次は何をしようかと渡り廊下を歩いていると、空から何かが降ってくるのが目に入りました。
 逆光で良く判別することが出来ませんでしたが、目線の高さまで降りてきたところでようやく正体が分かりました。それは、紙で出来た鳥でした。

 空中をまるで滑るように降りてきた重さの無い鳥を手に取り、折り畳まれていたそれを開いていきます。これは、遠くの人に意思を伝える魔法の一つです。この方法を採るのは、恐らくキニャですかね。
 折り目が付いていて綺麗な四角に戻しきれなかった真っ白な紙。そこに書かれている内容に目を通し、事の顛末てんまつを把握しました。着替えや身嗜みだしなみ用品を手早く纏め、すぐさまリディーシア様の元へ向かいます。

 「いらっしゃいませ~!」

 そして辿り着いた先に待ち受けていたのが、これ。
 案内された病室の扉をノックした所能天気な声と共にその扉が開き、見慣れた顔が飛び出してきてつい顔が引きるのが分かります。

 その存在を何も無かったことにして中に入ると、ベッドに腰かけるリディーシアお嬢様の元へ一直線に向かいます。事前の手紙にも書いてありましたが、微かに傷が見受けられるものの大事無いようで改めてホッとしました。最低限整えられているものの、お召し物に汚れとしわは付いてしまっていますが。

 「遅くなり申し訳御座いません」
 「いいえ、来てくれてありがとう、ファナ」

 一見落ち着いているようですが、その実お元気がありません。あれだけ気合を入れていらっしゃいましたから。

 それから傷を目立たなくする為のメイクを施したりお着替えを手伝っている間も空返事が目立っていました。これはかなり気落ちしているようですね……。
 どうして元気付けたものが。そう思案していると、それまで黙ったままだった元気娘が突然口を開きました。

 「リディーシアお嬢様」
 「キニャ……。どうしたの?」
 「も~~~、そんなショボくれた顔をしてたらダメですよぅ。せっかくのおめでたい日なんですから~」
 「ショボくれてなんて……。それに、こんなことになった後でめでたいなんて……無理よ……」

 キニャの軽口も通じず、しまいには涙目になってしまうリディーシアお嬢様。どうにかフォローしようと動きかけた所で、キニャが私に任せてとばかりにチラリと目配めくばせを送ってきました。
 ……ここは任せてみましょう。

 「そうですか、無理ですか~。で・す・が、その無理をどうにかしちゃう魔法を使えちゃうんです私!お嬢様、ちょっと目をつむっていただけますか?」
 「え、ええ」

 まぶたをゆっくりと閉ざしたリディーシアお嬢様。その左手側を通り、靴を脱いでベッドに上がるキニャ。丁度二人が同じ方向を向くように真後ろに陣取ると、その小さな手を目線の高さまで持ち上げました。

 「ちょっとだけ失礼しますね」

 そう言って素早い手付きでその鮮やかな髪に変化を付けていたライトグレーのリボンをほどき、セットされていた髪を一旦崩してから再度仕立て直し始めました。

 「く~る~く~る~くるるるる~♪」

 上機嫌に自作であろう歌を口ずさむキニャ。その悠長なテンポとは裏腹に、その手は恐ろしく手際良く動き見る見る内に形が整っていきます。……その手際の良さに若干の嫉妬を抱いてしまう程に。

 「ね~じ~ね~じ~ねじねじね~♪まとめてまとめてくるりんぱっぱっ♪」

 そう言っている内にも作業は進み、すぐにその完成形が姿を現しました。そして整え終わった髪から手を離し、何かを取り出したようです。

 「そっしてさいごにかっざりつけ~♪と、出来ましたよ~!」

 恐る恐る目を開けるリディーシアお嬢様。靴を履き直し、その手を引いて姿見の前へエスコートするキニャ。私も、お嬢様の後ろで鏡を広げてそのお手伝いをしましょう。
 綺麗に仕立て直された髪型は、首元で三つ編みとロープ編みが絡み合ったボリューム感のあるポニーテール。だが、大事なのはそこではありませんでした。

 「これ……」

 そう言って、後頭部に伸ばしたリディーシアお嬢様の指先がそれを捉えます。編まれた髪と髪の交差点。そこに飾られた、墨色のリボン。あれは……。

 「お分かりになりますか?」
 「うん……」
 「如何ですか?キニャちゃん作、リーネリーシェお嬢様ヘアは」

 そうだ。あれは以前見た、リーネリーシェ様の髪型にそっくりでした。それも、確か……。

 「今回はサービスで、あの時使っていたリボンをお付けしておりま~す」
 「これ……あの時の……」
 「そうですよ~。リーネリーシェお嬢様が高等部の進学式ので身に付けていたものをそのままお持ちしました~!髪色が違いますので少し埋もれてしまうかもしれないですけど」
 「これでいい……ううん、これがいい」

 両拳をきゅっと握り合わせるリディーシアお嬢様。その瞳には先程まで浮かんでいたような諦観ていかんの念はどこにも無く、ただただ活力だけが溢れていました。
 魔法の効き目は抜群だったようです。この時ばかりは、素直にキニャに感謝しました。私では、そのお気持ちを払拭ふっしょく差し上げることなど出来なかったと思うので。

 「さ、では余裕も然程ある訳ではありませんから、そろそろ会場に向かいますか!念の為私も着いていきますけど、お足は大丈夫ですか?まだ痛いようでしたらさっきみたいに私が抱っこして……」
 「大丈夫!大丈夫だから心配しないで!」
 「あらら~、振られちゃいました。さっきは子猫みたいに大人しくて思わず自室に連れ帰りそうになる程お可愛かったのに……」
 「キニャ!」

 すっかり元気が戻ったリディーシアお嬢様のご様子に、胸をそっと撫で下ろします。残念ですが、後はキニャに任せるとしましょうか。

 「一度だけ!もう一度でいいから抱っこさせてくれませんか!」
 「お こ と わ り し ま す !」

 留まることを知らないキニャに後は任せても良いでしょうか、という意を込めてそっと目配せをします。その返事は、力強いサムシング。……あのドヤ顔だけはどうにかならないでしょうか。

 「リディーシアお嬢様。この後のことは全てキニャに託しますので、私はここで失礼させて頂きます」
 「うん、分かった。わざわざありがとう」
 「勿体ないお言葉です」

 そうしてその場を後にしました。成り行きとはいえキニャをお借りしてしまいましたので、今日の所はリーネリーシェ様のお供を務めることにしましょうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...