悪役令嬢の策略と誤算

冬野月子

文字の大きさ
11 / 11

11(オニキス視点)

しおりを挟む
愛妾を持つ気はないが、持たなければ周囲が煩いし何よりサファイアが必要のない心の負担を負ってしまう。
どうしたものかと思っていた時にその女は現れた。

母上と同じ、紅い瞳の元平民の女。
紅い瞳を持つ者は珍しく、おやと思ったのをサファイアは勘違いしたようだった。
私があの女に興味があると。
おそらくサファイアの中であの女が愛妾候補に上がったのだろう、やたらと彼女の事を意識させるような話題を振る。
その事が腹立たしいが、まあいい。
とりあえず一人でも愛妾候補がいればサファイアの気も済むだろう。
———それにあの紅い瞳はちょうどいい。


いつからか、紅い色に妙な感情を持つようになった。
その感情は、得られなかった、母からの愛情を求める心が元にある事は幼心にも分かったが。

あれはサファイアと二人、庭を散策していた時の事。
サファイアが不用意に手を伸ばした薔薇のトゲを指に刺してしまった。
白く柔らかな指先に浮かぶ、紅い血の玉。
それを見た瞬間、激しい衝動にかられてその血を舐め取ってしまったのだ。

背徳的で甘美な———あの味は危険だ。
それこそサファイアを閉じ込め貪りたくなるほどの。
本当に、サファイアの瞳が青で良かった。
彼女の瞳を見ると愛しさが込み上げると共に冷静にもなれる。

大切にしたい気持ちと、滅茶苦茶になるほど貪りたい衝動。
その矛盾する己の欲を制するのも一苦労だ。

だから、あの女はちょうどいい。
———母上と同じ、紅い瞳のあの女が。


あの女の血の味はサファイアには劣るが、まあ悪い味ではない。
それよりも私があの女を傷つけるたびに紅い瞳に浮かぶ恐怖、怯え、驚き…それらが混ざり合って何ともいえない色となる。
あの瞳を見る度に、私の歪んだ衝動や欲望が昇華されていくのを感じる。

ああ、確かに愛妾は必要だったのかもしれない。
サファイアを守るために。






「オニキス様」
ふわりと鼻をくすぐる花の香り。
視線をやると私を見つめる青い瞳が目の前にあった。

「考え事ですか」
「…ああ。やっとこの日が迎えられたと」


「大変でしたものね、引き継ぎや準備などで」
「君も大変だったろう」
「いいえ私など…オニキス様に比べれば」
花のような笑顔が広がる。
「晴れて良かったですわ。多くの国民の方々が既に集まっているのでしょう」

戴冠の儀の後は新しい国王のお披露目として国民の前に姿を見せる。
平民にとって国王夫妻を直接見るのは貴重な機会であり、大勢が集まるのだと聞いたサファイアは、当日の天気の事をとても心配していた。
『せっかく来てもらうのに雨が降って見られなかったり風邪を引いたら大変だわ』と。
更に『そんなに大勢集まるなんて、事故や警備の対策は大丈夫なのですか』と民衆の心配をしていた。

サファイアは本当に清らかで優しい。
身分を問わず、平民であろうと気にかけ心配をする。
———彼女に私の醜い欲望を見せないで良かった。



扉が開くと、儀式の始まりを告げる声が聞こえた。

「行こうか」
「はい」
差し出した手に、小さな手が重なる。
しばらくその手を見つめていると、彼女が首を傾げる気配を感じた。

「愛しているよ、サファイア」
視線を手から顔へと移してそう言うと、嬉しそうに青い瞳が輝いた。

「私も愛しています…オニキス様」
その言葉を受け取るように、そっと触れるだけの口づけを交わすと、私は最愛の手を強く握りしめた。



おわり



最後までお読みいただきありがとうございました。

主人公が策略を練る話を書いていたのに、気が付いたらオニキスが持っていっていました…むう。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

別れ話をしましょうか。

ふまさ
恋愛
 大好きな婚約者であるアールとのデート。けれど、デージーは楽しめない。そんな心の余裕などない。今日、アールから別れを告げられることを、知っていたから。  お芝居を見て、昼食もすませた。でも、アールはまだ別れ話を口にしない。  ──あなたは優しい。だからきっと、言えないのですね。わたしを哀しませてしまうから。わたしがあなたを愛していることを、知っているから。  でも。その優しさが、いまは辛い。  だからいっそ、わたしから告げてしまおう。 「お別れしましょう、アール様」  デージーの声は、少しだけ、震えていた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...