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第6章 秘密の特技
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「脱走するまでの経緯は分かったが。それで、どうやって抜け出してきたのだ?」
私の話が終わるとアドリアン殿下が口を開いた。
「部屋には外から鍵がかけられていたのだろう」
「部屋から出るのは扉だけではありませんわ」
「――まさか窓から出てきたのですか?」
「それだと警備の者に見つかってしまいますでしょう」
セベリノさんの言葉に私は首を横に振った。
外では寒いだろうと、セベリノさんは私をアドリアン殿下の部屋に入れてくれた。
そうして二人にどうしてここへ来たのか経緯を説明したのだ。
セベリノさんが淹れてくれた薬草茶は、少し苦いけれどはちみつの甘みが絶妙で美味しい。
……カミーユに取られたお茶も美味しかったのだろうか。
思い出してちょっとムッとしてしまった。
私、食べ物の恨みは根に持つタイプなのよね。
「ではどうやって?」
「王侯貴族の部屋には大抵隠し通路があるものでしょう。それを使ったのですわ」
何かあった時に避難するために、基本寝室には隠し通路へ繋がる扉が設置されている。
そこから出てきたのだ。
「ああ……ですが、マリアンヌ様はそれをご存知なのですか?」
「私、そういうのを探すのが得意なんです」
それは私の数少ない特技の一つといっていい。
部屋をよく観察していくと、違和感を感じる場所がある。
大抵そこに秘密の扉が隠されているのだ。
「だが扉を出たところで、その先の道はどうやって知るのだ?」
「それは事前に、地図を見て大体の通路を把握しておきます」
「地図? 隠し通路が載っている地図などあるのか」
「普通の地図の違和感を感じる場所をよく見ていくと、隠し通路の位置が予測できるのですわ」
実家には王宮の地図がある。
子供の頃、それを眺めてはどこに隠し通路があるか想像していたのだ。
それがまさか、ここで生かされるとは思わなかったけれど。
「……それはまた、すごい能力ですね」
感心したようにセベリノさんがため息をついた。
「魔術に匹敵する力です」
「まあ、そうですの?」
「ええ。本当に、マリアンヌ様……いえリリアン様は魅力的な方ですね」
セベリノさんは目を細めた。
「まあ。セベリノさんは褒め上手ですね」
勝手に城の隠し通路を探り当ててそこから脱走するなんて、淑女としてあるまじきことだ。
昔家から脱走した時も父や兄にそう言われてひどく叱られた。
それを『魅力』と言ってくれるセベリノさんは、やっぱりいい人だ。
「いえ、本当に。ますます気に入ってしまいました」
セベリノさんは立ち上がると私の側へと歩み寄った。
「リリアン様は、フレデリク殿下のことは……」
伸ばされた手が私の手に触れたその瞬間。
バチッという衝撃が走った。
「……これは」
驚いて見開かれた黒い瞳がすぐに鋭い光を放った。
「リリアン様。最近誰かと接触しませんでしたか」
「え?」
「私以外の者の術がかけられた形跡があります」
「何だと」
セベリノさんの言葉にアドリアン殿下が立ち上がった。
「術……」
今のバチっときた、静電気のような衝撃。
冬休み前にもあった――
「あの時の?」
「心当たりがあるのですか?」
私は二人に図書館での出来事を話した。
「司書のカイン・バシュレ……」
アドリアン殿下が呟いた。
「貴族なのか?」
「伯爵家です。外交の仕事をしていて社交界にはあまり出てきませんが」
「夫人もか?」
「確か……最初の奥様は社交的な方でしたが、病気で早くに亡くなられて。再婚されたあと……再婚相手の方は社交の場には出てきませんでしたわね」
昔を思い出しながら私は答えた。
「その再婚したというのはいつだ?」
「ええと、二十……五年ほど前? 今は最初の奥様との間の長男が伯爵位を継いでいるはずですわ」
あのカインは見た目の年齢的に、おそらく再婚相手との間の子なのだろう。
アドリアン殿下とセベリノさんは顔を見合わせた。
「――時期は一致するな」
「確か伯母様の駆け落ち相手は外交官でしたね」
「そのカイン・バシュレが伯母上の息子で黒魔術師の可能性があるな」
「まあ。あの人が?」
――って……お助けキャラで隠れキャラが黒魔術師?
そんな設定あったの?!
「あ、そういえば……セベリノさんに似ていましたわ」
誰かに似ているように思ったのだけれど、本人を前にして思い出した。
「……あれ、でも探しておられるのはアドリアン殿下の伯母様で……」
「私の伯母でもあるんですよ、殿下の母君は父の妹なんです」
「まあ、そうでしたの」
ということは、この二人は従兄弟なのね!
全然似ていないけれど……というか、改めて見るとセベリノさんとカインは肌や目の色が違うから分かりにくいけれど、よく似ているわ。
「しかし、何度か図書館へは行ったがその者には気づかなかったな」
「おそらく我々に見つからないようにしていたのでしょう。認識阻害の術をかけていたのかもしれません」
まあ、そんな魔術があるの。
認識阻害って……相手に自分を知られないようにするってことよね。
それってつまり、その術があればもっと楽にここから脱走できるのよね。
私にも出来るのかしら?
「リリアン様、認識阻害の術は強い魔力を持つ者だけが使える術ですよ」
考えが顔に出ていたのか、セベリノさんが苦笑しながらそう言った。
私の話が終わるとアドリアン殿下が口を開いた。
「部屋には外から鍵がかけられていたのだろう」
「部屋から出るのは扉だけではありませんわ」
「――まさか窓から出てきたのですか?」
「それだと警備の者に見つかってしまいますでしょう」
セベリノさんの言葉に私は首を横に振った。
外では寒いだろうと、セベリノさんは私をアドリアン殿下の部屋に入れてくれた。
そうして二人にどうしてここへ来たのか経緯を説明したのだ。
セベリノさんが淹れてくれた薬草茶は、少し苦いけれどはちみつの甘みが絶妙で美味しい。
……カミーユに取られたお茶も美味しかったのだろうか。
思い出してちょっとムッとしてしまった。
私、食べ物の恨みは根に持つタイプなのよね。
「ではどうやって?」
「王侯貴族の部屋には大抵隠し通路があるものでしょう。それを使ったのですわ」
何かあった時に避難するために、基本寝室には隠し通路へ繋がる扉が設置されている。
そこから出てきたのだ。
「ああ……ですが、マリアンヌ様はそれをご存知なのですか?」
「私、そういうのを探すのが得意なんです」
それは私の数少ない特技の一つといっていい。
部屋をよく観察していくと、違和感を感じる場所がある。
大抵そこに秘密の扉が隠されているのだ。
「だが扉を出たところで、その先の道はどうやって知るのだ?」
「それは事前に、地図を見て大体の通路を把握しておきます」
「地図? 隠し通路が載っている地図などあるのか」
「普通の地図の違和感を感じる場所をよく見ていくと、隠し通路の位置が予測できるのですわ」
実家には王宮の地図がある。
子供の頃、それを眺めてはどこに隠し通路があるか想像していたのだ。
それがまさか、ここで生かされるとは思わなかったけれど。
「……それはまた、すごい能力ですね」
感心したようにセベリノさんがため息をついた。
「魔術に匹敵する力です」
「まあ、そうですの?」
「ええ。本当に、マリアンヌ様……いえリリアン様は魅力的な方ですね」
セベリノさんは目を細めた。
「まあ。セベリノさんは褒め上手ですね」
勝手に城の隠し通路を探り当ててそこから脱走するなんて、淑女としてあるまじきことだ。
昔家から脱走した時も父や兄にそう言われてひどく叱られた。
それを『魅力』と言ってくれるセベリノさんは、やっぱりいい人だ。
「いえ、本当に。ますます気に入ってしまいました」
セベリノさんは立ち上がると私の側へと歩み寄った。
「リリアン様は、フレデリク殿下のことは……」
伸ばされた手が私の手に触れたその瞬間。
バチッという衝撃が走った。
「……これは」
驚いて見開かれた黒い瞳がすぐに鋭い光を放った。
「リリアン様。最近誰かと接触しませんでしたか」
「え?」
「私以外の者の術がかけられた形跡があります」
「何だと」
セベリノさんの言葉にアドリアン殿下が立ち上がった。
「術……」
今のバチっときた、静電気のような衝撃。
冬休み前にもあった――
「あの時の?」
「心当たりがあるのですか?」
私は二人に図書館での出来事を話した。
「司書のカイン・バシュレ……」
アドリアン殿下が呟いた。
「貴族なのか?」
「伯爵家です。外交の仕事をしていて社交界にはあまり出てきませんが」
「夫人もか?」
「確か……最初の奥様は社交的な方でしたが、病気で早くに亡くなられて。再婚されたあと……再婚相手の方は社交の場には出てきませんでしたわね」
昔を思い出しながら私は答えた。
「その再婚したというのはいつだ?」
「ええと、二十……五年ほど前? 今は最初の奥様との間の長男が伯爵位を継いでいるはずですわ」
あのカインは見た目の年齢的に、おそらく再婚相手との間の子なのだろう。
アドリアン殿下とセベリノさんは顔を見合わせた。
「――時期は一致するな」
「確か伯母様の駆け落ち相手は外交官でしたね」
「そのカイン・バシュレが伯母上の息子で黒魔術師の可能性があるな」
「まあ。あの人が?」
――って……お助けキャラで隠れキャラが黒魔術師?
そんな設定あったの?!
「あ、そういえば……セベリノさんに似ていましたわ」
誰かに似ているように思ったのだけれど、本人を前にして思い出した。
「……あれ、でも探しておられるのはアドリアン殿下の伯母様で……」
「私の伯母でもあるんですよ、殿下の母君は父の妹なんです」
「まあ、そうでしたの」
ということは、この二人は従兄弟なのね!
全然似ていないけれど……というか、改めて見るとセベリノさんとカインは肌や目の色が違うから分かりにくいけれど、よく似ているわ。
「しかし、何度か図書館へは行ったがその者には気づかなかったな」
「おそらく我々に見つからないようにしていたのでしょう。認識阻害の術をかけていたのかもしれません」
まあ、そんな魔術があるの。
認識阻害って……相手に自分を知られないようにするってことよね。
それってつまり、その術があればもっと楽にここから脱走できるのよね。
私にも出来るのかしら?
「リリアン様、認識阻害の術は強い魔力を持つ者だけが使える術ですよ」
考えが顔に出ていたのか、セベリノさんが苦笑しながらそう言った。
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