死神と呼ばれた公爵は転生した元巫女を溺愛する

冬野月子

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第二章

02

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建国祭は社交シーズンの始まりを告げる行事でもある。
国王主催の夜会を皮切りに、七日間に渡り儀式や宮中晩餐会など幾つもの行事が続く。
この期間は市井もお祭り状態で、四日目に開かれる教会での儀式のあとはパレードなどが行われとても賑やからしい。
ちなみに巫女だった時の私の建国祭での役目は、三日目に王族のみで行われる女神への感謝をささげる儀式を司ることだ。
各領地から王都へやってきた貴族たちは、建国祭が終わった後もしばらく王都に滞在し、毎日のように夜会やお茶会を開き、情報交換や子息の婚約者探しなど社交に勤しむのだ。


私とフィンが夜会会場であるホールに入ると大きなどよめきが聞こえた。

「本当に公爵が現れたぞ」
「まあ、じゃあ隣の方が婚約者……?」
「お綺麗な方ね……」
「お似合いだわ」
ざわめきの間から聞こえる声を気にすることもなくフィンはホールの奥へと歩いていく。
今日のフィンは黒のテイルコートに勲章を飾り付けた、王太子の頃を思い出させる正装だ。
首に巻いたタイを留めているのはアメジストのブローチで、これは私の瞳の色に合わせたのだという。私のネックレスとイヤリングもアメジストだ。
フィンの瞳に合わせたブルーサファイアも用意してあるが、これは別の時に付ける予定だ。

「あんなドレス、見たことがありませんわ」
「素敵ねえ」
「……もしかしてコルセットを付けていないのかしら」
「まあ、本当だわ。それなのにあんなに腰が細いなんて……羨ましいわ」
こちらへ向けられているであろう声が聞こえる。
やはりマーメイドラインの、しかも流行だというフリルやリボンを使っていないドレスは珍しいというか、初めて見るものなのだろう。
今日の着替えを手伝ってくれた、王宮のメイドたちも驚いていた。

「婚約者の方は貴族ではないけれど、王太子時代に既に結婚のお約束をされていたと聞きましたわ」
「何でも戦争の時に行方不明になられたとか……」
「まあ。運命の再会ですわね」
(やっぱり、そういうことになっているのね)
私とフィンは元々恋人同士だったのが、戦争のせいで今まで生き別れになっていたという噂がすっかり定着しているようだった。
これまで頑なに婚約者や結婚を拒み続けたフィンの態度も一因だが、あえてその噂を否定していないのだという。
「そういうロマンスがあった方が貴族ではないサラ様との結婚を受け入れやすいですからね」とアーネストが言っていた。

(でも恋人って言われると……気恥ずかしいのよね)
ふと視線を感じて隣のフィンを見上げた。
「どうしたの?」
「これだけ大勢に見られているのに平気なのだな」
私と視線を合わせてフィンは言った。
「え? ああ……仕事の時よりは緊張しないもの」
「そういえば人に見られるのが仕事だったな」
「何千人もの前で歩いたこともあるわ」
普通ファッションショーといえば、観客は関係者など限定された人数だが、コンサートを開くような広いホールで一般の観客を入れてのコレクションに出たことがある。
ネットの中継を加えれば観客は数十万人になるだろう。会場でも数えきれないほどの視線を浴びながらランウェイを歩くのに比べれば、今日の夜会は大したことはない。

「数千か、それは凄いな」
「閣下!」
フィンに掛けられたらしき声に振り返ると、騎士の正装に身を包んだ五名ほどの男性が立っていた。その中には以前領地を訪れたブルーノ・オールディスもいる。
「お久しぶりです!」
「お元気そうですね」
「ああ。皆も変わっていないようだな」
そう答えてフィンは私を見た。
「以前の部下たちだ」
「初めまして、サラです」
私は騎士たちに向かって会釈した。

「いやー、めっちゃ美人ですね」
「ブルーノから聞いていたよりずっと綺麗じゃないですか!」
「……ありがとうございます」
(圧が……)
大勢の前に出ても緊張はしないけれど、背が高く体格の良い騎士五人に囲まれるのは正直圧迫感がある。
「サラ様、お久しぶりです」
ブルーノが一歩前へ出ると頭を下げた。
「お久しぶりですブルーノ様」
「王都の観光はされましたか」
「いえ、まだなんです」

ブルーノは領地で会って以来で他の四名は初対面。を装っているが、実は二日前に既に会っている。
彼らには王都滞在中、私たちの護衛をして貰うのだ。

女王に反対する勢力がフィンを王に担ごうとしているという情報は、エレンたちの元にも入っているのだという。
けれどそれらには証拠がなく、また実際にフィンと接触した訳ではない。
その反勢力は、おそらくこの建国祭の時にフィンに接触してくる可能性が高いという。
そこでフィン、そしてフィンと婚姻関係を結びたい者にとって邪魔な存在となる私に、王宮が密かに護衛をつけることとなった。
今が初対面を装っているのも、私たちの会話に聞き耳を立てているであろう周囲の貴族たちにそれを悟らせないためだ。
この五人は王太子時代、フィンの直属の部下であり今でも忠誠心が高く信頼できるのだという。

一昨日の顔合わせにはエレンたちも同席した。
エレンの望みとしては、反勢力を暴くのではなく、フィンを諦め自身を王として認めてもらいたいのだという。
だからこちらの戦略は、フィンは決して王にはならず、私と結婚することを貴族たち全員に納得させるようにするのだそうだ。
(全員に納得なんて、無理だろうけれど……)
「大司祭、来ていたのですか」
騎士たちに囲まれているとフィンの声が聞こえて私は振り返った。

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