死神と呼ばれた公爵は転生した元巫女を溺愛する

冬野月子

文字の大きさ
29 / 37
第三章

02

しおりを挟む
「遅かったわね」
ティーサロンへ着くと、エレンとブレイクが待っていた。

「ごめんなさい、ちょっとトラブルが」
「トラブル?」
「アーベラインの娘がサラに魔法薬を使おうとした」

「何ですって?!」
ガタン、と音を立ててエレンが立ち上がった。
「魔法薬って……何の?」
「これだ」
オリバーはテーブルの上に小瓶を置いた。
「……嫌な魔力ね。これって……もしかして媚薬?」
「ああ」
「媚薬って……発情するとか、そういうやつ?」
そういうものがあるのは知っていたけれど、実物は初めて見たわ。
「ああ、これは自身だけでなく周囲にも影響を与えるものだ」
「何でそんなものを……?」

「そうね……貴族令嬢にとって貞節は大事だから。お兄様と結婚できなくしようとしたんじゃないかしら」
小瓶を見つめながらエレンが言った。
そういえばこの世界は婚前交渉とかダメなんだっけ。
「……でも、そんなことしてもイザベラ嬢が義兄上と結婚できるわけじゃないだろう」
ブレイクが言った。
「激怒した義兄上に一族もろとも殺されるんじゃないかな」
「そうね。そこまで考えていないか、それでもサラを汚したいと恨んでいるか……どちらにしても浅はかよね」
ふう、とため息をついてエレンはオリバーを見た。

「それで、イザベラはどこに?」
「一緒にいた男と共に捕えて送ってある」
「送った?」
「私が住んでいた塔の地下牢だ。あらゆる魔法も効かず、どんな強い魔獣も逃げられない」
「そんな所に入れたの?!」
イザベラ嬢は普通の令嬢なのに?!

「一緒にいた男が魔術師だったからな。どれほどの力を持っているか分からない。念のためだ」
「魔術師……?」
「あれはこの国の人間じゃない。媚薬から感じる魔力の質が違う」
「――サザーランド?」
「その可能性は高いな」

「……アーベライン侯爵もサザーランド王国と繋がっていたってことなのね」
エレンは深くため息をついた。
「まだ断定はできない。娘だけの可能性もある。そのあたりはこれから尋問して分かるだろう」
「じゃあイザベラと魔術師をここへ……」
「いや、この尋問は私が行う。二人を捕えていることは極秘にしておいた方がいい」
オリバーはそう言って小瓶を手に取った。
「この媚薬の効果を二人で試してみるのも面白いな」
「……それはやめてあげて」
さすがにそれは可哀想だわ。

「お前を陥れようとしたやつを庇うのか?」
「そういうわけではないけど……気分が悪いもの」
イザベラはずっと、自分がフィンと結婚するのだと――自身で望んだのか父親から言われたのかは分からないけれど、そう思っていたのだろう。
それを、突然現れた貴族でもない私に横取りされたのだ。恨みたくなる気持ちも分からなくはない。
「それに、こういうことでしか私に対抗できる手段がない人なんだと思うと可哀想だなって」
――だからといって、人を陥れるのはダメだけれど。

「でも何も罰を与えないわけにはいかないわ」
エレンが眉をひそめて言った。
「それは分かっているわ。でも詳細を調べてからよ、それまでは手を出さないで」
私はオリバーを見た。
この人は平気で人間を実験台にするから心配だ。
「……お前がそう言うなら」
不服そうな顔でオリバーは答えた。



「何だと」
お茶会に合流したフィンにイザベラの件を伝えると、その顔に怒りの色を滲ませた。
「それで、二人は」
「今オリバーが尋問しているわ」
お茶どころではないと、さっさと――笑みを浮かべていたけれどその目は笑っていない、明らかに怒った状態で行ってしまった。
手加減してくれるかとても不安だ。

「警告だけでなく侮辱罪で捕えておけば良かったな」
舌打ちとともにフィンは言った。
「そこまでしなくても……未遂だったのだし」
「未遂じゃなかったらどうする。オリバー殿がいたから防げただけだ」
「それは……そうだけど」
「私も離れなければ良かったな」
フィンはため息をついた。

「そういえばお兄様はどこに行っていたの」
「アーキン男爵を捕らえたと知らせが入った」
「男爵を?」
「パレードを混乱させるために魔術師と接触したことは認めたが、暗殺計画までは知らなかったと言っている。真っ青になって震えていた様子を見ても本当に知らなかったのだろう」
国王の暗殺に関与していたとなれば、本人の処刑はもちろん爵位剥奪や一族への処分も免れないだろう。

「それで、侯爵の関わりは?」
「それは今尋問中だ」
「正直に話すかしら」
「真実を洗いざらい話せば罪を軽くすると伝えた。商人として損得勘定で動く男だ、どちらがましか考えるまでもないだろう」
ふっとその口元に小さく笑みを浮かべてフィンは言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...