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第4章

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「ここにあるのは全て皇女のティアラよ」
ルチアーナに連れられて、ローズは宝物庫に来ていた。
目の前には十点ほどのティアラが並んでいる。
どれもプラチナの台座に宝石をふんだんにあしらった、繊細なものだ。

「好きなものを使っていいわ。気に入ったものはある?」
「…どれも素敵…」
ほう、とローズはため息をついた。
「選べないわ…」
「そうねえ。ローズだったらやっぱり薔薇をデザインしたものがいいと思うのだけれど」
ルチアーナは一つのティアラを手に取るとローズの頭へと載せた。
八重の薔薇と葉をあしらい、細かなダイヤモンドを全体に散りばめたそのティアラはとても優雅で上品なものだった。

「まあ…!」
アメリアが感嘆の声を上げた。
「どうしよう、食べちゃいたいくらい可愛い!」
食べる…?
異様に瞳をキラキラさせて自分を見つめるアメリアに少し身の危険を感じてローズは思わず半歩下がった。
この帝国に来てから多くの人に可愛がってもらっているが…アメリアのそれは少し変わっていると思う。

「アメリア…ローズが怯えているから」
ルチアーナはそっとアメリアを窘めた。
「ティアラはこれでいいかしら?ローズ」
「ええ。素敵だわ」
手渡された手鏡を見つめてローズは頷いた。
「イヤリングはお揃いのにして。頸飾はこれね。ローブは赤地に白い毛皮。ドレスの色は好きなものでいいの。何色がいいかしら」
「成人の儀も兼ねているのですよね。それなら濃い色で重厚感を出した方がよいかと…」
「そうね。紺色か臙脂…ああ、緑にしましょう」
「緑?」
「赤と白と緑で薔薇になるわ」
「ローズが薔薇の花束に?!素敵すぎるわ!」
「ねえローズ、どうかしら」

「…いいと思います」
良いアイデアを思いついたと満足そうなルチアーナと、うっとりして瞳を輝かせるアメリアからの圧に、首肯するしかない。
自分が薔薇になる…というのは恥ずかしいけれど、特にドレスにこだわりがある訳でもない。


「せっかく出したのだから、結婚式で使いたいティアラがあれば言って?」
「結婚式…は…」
ローズはテーブルに並べられたティアラを見渡した。
「…この赤い石が入っているのがいいです」
「赤い石の?」
「…お母様の形見のルビーのネックレスを付けたいって、ルイスに言ったので…」
ほんのりと頬を染めてローズは言った。

「…まあ、もうそんな話をしていたの」
「少しだけ…」
「———じゃあ一つはこれね」
ローズの様子をじっと見つめながらルチアーナは言った。
「一つ?」
「あなたとルイスの婚礼なのよ。一日では終わらないわ」
「え…」
皇位継承権を持つルイスと、皇女であるローズの婚礼なのだ。きっと皇族と同等扱いで行われるだろう。

「私達の時は四日かかったの。ドレスも何枚も必要になるでしょうし。楽しみだわ」
目を見開いたローズにルチアーナは満面の笑みを向けた。
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