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第6章
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晴天の下。
訓練場はいつもとは異なる空気に包まれていた。
皇族と将軍、それに近衛騎士や各騎士団の幹部クラス、更に普段訓練場には姿を見せないような宰相といった文官たちも集まっていた。
彼らの視線の先———訓練場の中央には二人の人物が立っていた。
一人はこの国に訪問中のストラーニ国王。
シンプルなシャツにパンツ姿で、簡単な防具を身にまとい、手にはレイピアと小ぶりの盾を持っている。
対峙するのは似たような格好で、盾の代わりにダガーを持った少女———最近帝国内で噂される〝薔薇の姫〟だ。
他国に預けていた、皇女でありエインズワース家の次期当主の婚約者。
先日皇宮内で開かれたガーデンパーティでの事件でその存在は知られていたが、まだ正式にお披露目はされておらず、彼女の人となりを知るものはほとんどいなかった。
「…ルイス」
スチュアートは隣に立つルイスを見た。
「ローズは…どれくらい強いんだ?」
「———俺でも勝てない時もある」
前を見つめたままルイスは答えた。
「…は?」
ルイスの言葉にスチュアートは息を飲んだ。
その隣ではルチアーナが目を見開いている。
帝国一の腕前と言われるルイスに勝てるという事は、つまり帝国でもトップクラスの腕前という事ではないのか。
「剣技では負けないが、ローズには彼女にしかない強みがあるからな」
「…ローズにしかない強み…とは?」
「それは見てのお楽しみだ。……本当は他の奴には見せたくなかったがな」
鼻を鳴らしてルイスは言った。
「準備はよいな」
二人の間に立った公爵が、互いを確認するとその場から離れた。
「はじめっ!」
最初に動いたのはローズだった。
瞬時に足を踏み出すと、相手の懐へと剣を突き出した。
盾で防がれるとすかさず更に突き込んでいく。
「速い…」
見物の中から声が漏れた。
騎士にも劣らない…いや、騎士よりも速くローズは剣を繰り出し続けた。
「…あの国王も相当だな」
ローズの剣を全て防ぎ続けるカルロにルイスが呟いた。
これは…
ローズの剣を受けながらカルロは戸惑っていた。
代々の将軍家であるエインズワースの血を引き、自ら決闘を申し込んでくるほどだ。
相当な腕なのだろうと予想はしていた。
そして軽い身体を活かし、速さで攻める作戦なのだろうと。
そこまでは予想通りだ。
だが———女性の腕なのだから、力は強くないはず。
そう踏んでいたのだが。
確かに基本ローズの剣は重くない。
だが時折、ひどく重い一振りが混ざってくるのだ。
油断をすると剣を落とされそうなほどの衝撃が伝わる。
この細い腕でどうやってこれだけの力を込められるのか。
このままではいけない…それにそろそろこちらも反撃しないと。
わざと乱暴に剣を払うとカルロはローズへと剣を突き込んだ。
力ならばカルロには自信がある。
力ずくでローズの剣を飛ばしてしまえばすぐに決着はつくはずだ。
だがローズはカルロの剣を受け止めることはしなかった。
素早い身のこなしで受け流すとすかさず剣を振るってくる。
それを受け払い、剣を突き込むがやはりローズにかわされてしまう。
…まるでひらひらと舞う花びらのようだ。
軽やかなローズの動きにそんな事を思ってしまう。
———それにしても、彼女の身のこなしは…
「美しいな…」
誰かの声とそれに同意するようなため息が聞こえ、ルイスは眉をひそめた。
ローズの剣は優雅だ。
そう振る舞うように公爵もルイスも教えた訳ではないのだが、いつのまにかその所作を身につけていた。
獲物を狙う、銀に光る瞳は宝石のようで。
舞うように軽々と剣を振るうその華奢な身体は幻想的ですらある。
ローズは戦っている時が一番美しい。
———それはルイスだけが知っていれば良かったのに。
訓練場はいつもとは異なる空気に包まれていた。
皇族と将軍、それに近衛騎士や各騎士団の幹部クラス、更に普段訓練場には姿を見せないような宰相といった文官たちも集まっていた。
彼らの視線の先———訓練場の中央には二人の人物が立っていた。
一人はこの国に訪問中のストラーニ国王。
シンプルなシャツにパンツ姿で、簡単な防具を身にまとい、手にはレイピアと小ぶりの盾を持っている。
対峙するのは似たような格好で、盾の代わりにダガーを持った少女———最近帝国内で噂される〝薔薇の姫〟だ。
他国に預けていた、皇女でありエインズワース家の次期当主の婚約者。
先日皇宮内で開かれたガーデンパーティでの事件でその存在は知られていたが、まだ正式にお披露目はされておらず、彼女の人となりを知るものはほとんどいなかった。
「…ルイス」
スチュアートは隣に立つルイスを見た。
「ローズは…どれくらい強いんだ?」
「———俺でも勝てない時もある」
前を見つめたままルイスは答えた。
「…は?」
ルイスの言葉にスチュアートは息を飲んだ。
その隣ではルチアーナが目を見開いている。
帝国一の腕前と言われるルイスに勝てるという事は、つまり帝国でもトップクラスの腕前という事ではないのか。
「剣技では負けないが、ローズには彼女にしかない強みがあるからな」
「…ローズにしかない強み…とは?」
「それは見てのお楽しみだ。……本当は他の奴には見せたくなかったがな」
鼻を鳴らしてルイスは言った。
「準備はよいな」
二人の間に立った公爵が、互いを確認するとその場から離れた。
「はじめっ!」
最初に動いたのはローズだった。
瞬時に足を踏み出すと、相手の懐へと剣を突き出した。
盾で防がれるとすかさず更に突き込んでいく。
「速い…」
見物の中から声が漏れた。
騎士にも劣らない…いや、騎士よりも速くローズは剣を繰り出し続けた。
「…あの国王も相当だな」
ローズの剣を全て防ぎ続けるカルロにルイスが呟いた。
これは…
ローズの剣を受けながらカルロは戸惑っていた。
代々の将軍家であるエインズワースの血を引き、自ら決闘を申し込んでくるほどだ。
相当な腕なのだろうと予想はしていた。
そして軽い身体を活かし、速さで攻める作戦なのだろうと。
そこまでは予想通りだ。
だが———女性の腕なのだから、力は強くないはず。
そう踏んでいたのだが。
確かに基本ローズの剣は重くない。
だが時折、ひどく重い一振りが混ざってくるのだ。
油断をすると剣を落とされそうなほどの衝撃が伝わる。
この細い腕でどうやってこれだけの力を込められるのか。
このままではいけない…それにそろそろこちらも反撃しないと。
わざと乱暴に剣を払うとカルロはローズへと剣を突き込んだ。
力ならばカルロには自信がある。
力ずくでローズの剣を飛ばしてしまえばすぐに決着はつくはずだ。
だがローズはカルロの剣を受け止めることはしなかった。
素早い身のこなしで受け流すとすかさず剣を振るってくる。
それを受け払い、剣を突き込むがやはりローズにかわされてしまう。
…まるでひらひらと舞う花びらのようだ。
軽やかなローズの動きにそんな事を思ってしまう。
———それにしても、彼女の身のこなしは…
「美しいな…」
誰かの声とそれに同意するようなため息が聞こえ、ルイスは眉をひそめた。
ローズの剣は優雅だ。
そう振る舞うように公爵もルイスも教えた訳ではないのだが、いつのまにかその所作を身につけていた。
獲物を狙う、銀に光る瞳は宝石のようで。
舞うように軽々と剣を振るうその華奢な身体は幻想的ですらある。
ローズは戦っている時が一番美しい。
———それはルイスだけが知っていれば良かったのに。
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